2020-11-10

M&Aから2か月で赤字解消!コロナ禍で卵問屋を買収した食品卸企業の経営手腕

買い手(法人):(株)ニーズ&フーズ

<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>

 

商社で食材輸入の経験を経て独立、野菜や魚の卸売業を始めて今年で7年目になる株式会社ニーズ&フーズ代表の野崎誠さん。かねてから野菜や魚だけでなく、いろいろな食材を取り扱いたいと願っていた野崎さんの目にとまったものが、主に卵を扱う老舗卸問屋の売却案件。初めてのM&A経験ということですが、数千万円での購入に成功しました。コロナ禍で赤字会社にもかかわらず、なぜ積極的に買収を進めたのでしょうか。さらに買収後たった2か月で赤字解消までこぎつけた経営手腕についても伺いました。

【食品卸にとって卵は不可欠、最高のシナジー】

- まずコロナ禍で赤字会社の買収しようと思ったきっかけと経緯を教えてください。
われわれの会社は野菜と魚を主力として食品卸をやってきましたが、今後はさまざまな食品を取り扱っていきたい、そう思っていました。

この会社を買収し、子会社化することで、この会社から卵を買う、こちらからも食材を売る、などお互いに利益共有できる。まずこうしたシナジー効果が大きいと考えました。そうすることで、供給元に対しては大量に仕入れることができるので卵の購入単価も下がりますし、顧客に対しては野菜からでなく、卵を軸とした営業もできる。卵事業を買収すれば、新たな営業の強みになります。

買収した会社の魅力は、とにかく取り扱う卵の種類が豊富なこと。液体になっている卵を冷凍するといった特殊卵も扱っています。今取り扱っている商品ラインナップを大幅に拡大できると感じたんですね。卵って100年たっても食材からなくならない、食卓に欠かせない食材だと思うんです。

コロナ禍で赤字企業を買収することに、怖さは全くなかったです。むしろ今だと思いました。というのは、コロナ禍である程度金額を交渉できるということもありましたし、シナジー効果のある会社であれば、コロナ後、一年、二年たったときの価値は計りしれないだろうと。こういうご時世だから、それを逆手にとったというか、この金額で買収できたのも今だからと思っています。



(※写真はイメージです)

【赤字とコロナで厳しく評価】

- 金額交渉は、どのように進みましたか?
3年分の財務諸表を取り寄せ、直近の決算書や会社のキャッシュフローなど、資料を見ながら進めましたが、交渉は案外スムーズに進みました。赤字でしたから、当初、先方から提示された金額ほどの価値はないと正直に申し上げました。それは先方も納得してくださって、こちらの提示した金額で落ち着きました。8人の従業員を残すという先方の条件を、こちらが受け入れたこと、また事務所は先方の持ち物でしたから、そこを我々が借りて家賃を払うといったことも大きかったと思います。

ちなみに私が評価の際に重きをおいたのは、次の3点です。

① 取引先
取引先を400店舗程度かかえていたのですが、コロナ禍にあることを踏まえ、ある程度減ることを見込み評価を下しました。ただし蓋をあけてみると、大きな影響を受けやすい居酒屋などの飲食店が少なかったため、想定以上にお客様との取引を継続することができました。

② 財務状況
会社のキャッシュフローを見て資産状況と経費の支払いを確認し、何が原因で赤字になっているのか、そのあたりは重点的にチェックしました。

③ 従業員
従業員の履歴書や経験を見て、このスタッフであれば立て直せると判断しました。長く働いている人がけっこう多く、会社への強い思いを持っていると感じました。

結果的に買収して2か月で、赤字がほぼ解消するところまできています。



(※写真はイメージです)

【従業員個人とのコミュニケーションが功を奏す】

- たった2か月で、どうやって赤字を解消されたのでしょうか。
従業員の潜在能力が高かった、それに尽きます。

買収後にまず私がしたことは、従業員とコミュニケーションをとることでした。聞くと、これまでは全く社内のコミュニケーションが行われていなかった。買収当初、事務員のこわばった表情からも、社内が緊張感のある雰囲気であることがわかりました。

そこで私は新しい代表者として一人ひとりと話をし、この会社の現状や私の夢や目標などを伝えました。全体会議では、会社の数字をすべて見せて、年間800~1000万円の赤字があること、その赤字がどんどん膨らんでいること、併せて損益分岐点も伝えて、みんなの給料を上げるための目標に向かって、一緒に頑張ろうと話しました。

実は買収後に人件費削減のために、従業員の給料をカットしたんです。それで「やめます」と言った人もいましたが、私が直接電話し、思いとどまるように説得しました。今の会社には夢がないかもしれないけれど、これから夢をつくっていこう、私のそばにいて面白さを味わってみないかと。結局、その人は残り、今は率先して仕事に取り組んでくれています。

人件費以外にも削減できる経費は、すべてカット。役職はすべて取り払い、上も下もないフラットな関係にしました。みんなでチームとしてやろうと。私もなるべくチームの一員として、自分から動くように心掛けました。事務所にもこまめに足を運び、営業から帰ってきた従業員には「お疲れさま」と声をかけて、積極的にコミュニケーションをとるように努めました。

そうこうするうちに、従業員一人ひとりから「黒字にするんだ」という意気込みが見えるようになってきました。社内一丸へと雰囲気が明らかに変わり、笑いもしなかった事務員が笑顔で仕事をするようになりました。それと呼応するように、粗利が約20%にアップし、赤字が減っていきました。黒字は、もう目の前です。目標はもう1%アップ。君なら1%上げられる、と相変わらず私はみんなを鼓舞し続けています。

- そこまで従業員のやる気を引き出せた要因は何だと思いますか?
私が常々言っているのは、「みんなで会社をでかくしよう」ということ。買収当時は夢が描けていない会社だったかもしれませんが、これから一緒に夢を作っていこうと言い続けてきました。「社員になろう」ではなく「仲間になろう」と言ってきました。ここの会社はチームだって。一つのチームだから、売り上げの上がっている人が、足りない人を補う、それで助け合おうということです。

給料カットなど厳しいこともしましたが、それでも残ってくれるのは、従業員が私にかけてくれた。この社長だったら何かやってくれるんじゃないかという期待感があったんだと思います。そこは私もプレッシャーですけど……(笑)。



(現場で活躍する野崎社長)

【夢は東京プロマーケットに上場】

- 今後の夢や目標をお聞かせください。
従業員にも語ってきましたが、私の夢は東京プロマーケット(東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの市場)に上場し、私の経営手腕を見ていただきたいということ。今回の買収も、この夢をかなえるためのプロセスです。

実際に買収し、営業利益を高めていこうとやってきましたが、その通りできるようになりました。これで完全に黒字化すれば、さらに人材への投資もできて、この会社はどんどんよくなっていく。だから私はこの会社に先行投資しているわけです。それで失敗したら、私が間違っていたと評価される。

始めたからには結果を出さないといけないというプレッシャーもありますが、そういった夢や目標に目を向ければ、ワクワク感しかありませんね。

- ありがとうございました!



(素材をしっかりチェックする野崎社長)




▶ 飲料・食品卸の案件をご覧になりたい方はコチラ

▶ 中小企業の事業拡大M&A・買収事例の記事を読みたい方はコチラ:
M&Aは「止めてくれる人」を探してから〜老舗清掃会社の3代目が大口顧客をつかむM&Aを実現〜
  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。

無料会員登録