2020-11-04

M&Aは「止めてくれる人」を探してから〜老舗清掃会社の3代目が大口顧客をつかむM&Aを実現〜

買:(株)リンカン油脂

<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>

 

愛知県で清掃会社の3代目後継者である水野貴統さんが、業務エリアの拡大を目指し、静岡県にあるモータースポーツ施設の清掃請負会社を買収したのは2020年4月。一度は交渉が頓挫したものの、4か月で成約までこぎつけました。M&Aの実現により、水野さんがどうしても得たかったものは何か、そしてコロナ禍での船出について伺ってきました。

【地域のリーディングカンパニーである発注元とネットワークを築ける!】

- そもそもM&Aに関心を持たれたのは、なぜでしょうか?
もともと私は証券会社に勤務していましたが、家業の清掃業を継ぐために2年前に実家に戻ってきました。会社を辞める前から、事業拡大は考えており、TRANBIをはじめとしたM&Aのマッチングサイトに出ている情報は、ずっとチェックしていたんです。

特に注目していたのは、やはりシナジー効果が望める清掃業でした。全く違う業種よりは、もともとやっている業種で拠点を広げたり、そのまま取引先を買収できたりしたほうが効率的。そういったところが近場にあればと思いながら探していましたね。

- 今回買収した会社に決めた理由は?
まず清掃業であり、比較的近い静岡であったこと。そして最悪、失敗しても問題ないと思える金額だった。「同業種」「エリア」「手ごろな値段」の3つが購入の決め手となりましたね。

ただ一番の魅力は、この会社に清掃を発注しているモータースポーツ施設の運営会社、いわゆる発注元とのつながりでした。この会社で顧問を務めていた方は幅広い人脈を持っており、様々な企業に顔が利く方でした。さらに名古屋で清掃業をしていく上では絶対的に外せない有力企業にも影響力があり、実績をつくるにはもってこいだと思いました。案件の内容からある程度予想はできましたが、実際に売り手さんと面談してから確信できました。



(※写真はイメージです)

【金額で折り合わず、M&A交渉を一度は断念】

- M&Aの交渉はどのように進みましたか?
まず売り手さんからは、役員貸付の金額や株価の評価といった数字を踏まえて、売却金額の提示がありました。こちらも財務ラインを見ながら、精査していったわけですが、前職で証券会社に勤めていた時の経験からいっても、債務超過で赤字の会社であることを考えると、提示された金額は割高な数字だと判断しました。私としてはゼロ円の評価をしていて、高い金額を提示されたのでは……と。そこで、こちらから債務超過の要因となっていた役員貸付を負担する代わりに、提示金額からの値引きを求めることにしました。

しかし、なかなか金額の折り合いがつかず、M&Aの交渉はいったんストップしました。事業の買収は無理かとあきらめかけていたところ、「一度、施設を見に来ませんか?」とお誘いをいただきました。施設見学を機に改めてM&Aの交渉を再開し、最終的に当初よりも少し値引きした金額で成約しました。2020年1月に交渉をスタートし、成約したのが2020年4月でしたから、交渉期間は4か月間ですね。

- M&Aの交渉過程で金額以外に戸惑うことはありませんでしたか?
私は前職の証券会社勤務時にもともとM&Aに携わる経験していたこともあり、想定外だと思えることは特段ありませんでした。ただ、契約書などで細かい内容を詰めるときは、弁護士に依頼することにしました。先方からの条件は「仕事に穴をあけないでほしい」ということぐらい。こちらも先方のやり方を踏襲するつもりでいましたから、交渉自体にわだかまりが残るものではありませんでした。

私に決めてくださった理由を先方に聞くと「人柄」と言ってくださったので、そういうことにしておきます(笑)。

【コロナ禍で5か月間売上ゼロ。9月からようやくスタート】

- コロナ禍での買収となりましたが、経営に影響はありませんでしたか?
すごくありましたよ(笑)。成約したのは、コロナで影響が出る前でしたから、「こんなことになるとは…」というのが正直なところです。成約後、4~8月の5か月間は売上ゼロ。そもそもモータースポーツ施設が閉まっているわけですから、当然清掃の依頼もありません。

引き継ぎについては、成約後に簡単な挨拶まわりをしましたが、実際に営業をスタートしたのは9月からになります。そこで本格的に引き継ぎができればよかったのですが、まだコロナの影響がおさまらない時期だったので、不明点があれば、その都度メールと電話で聞くという形でした。

ただ、予想外の事態として、買収した会社は一次請けで、業務自体は複数ある別の清掃会社に委託していますが、委託をしていた一部の業者からお願いした業務に対する見積もり金額がコロナ前と比べて高くなっており、発注が難航する厳しいスタートとなっています。経営者が代わったことで、少し足元を見られている感がありましたので、今後の契約をどうしようかという点では若干アタマを悩ませています。

- もともとのご本業であった会社とは、どのようなシナジー効果が望めますか?
当社の清掃業務は、トイレを拭いたり、洗面台を磨いたりといった「日常清掃」とビルのガラスを拭いたり、フロアタイルを洗ったりといった「定期清掃」の2種類があります。新会社は、このどちらにもあたる部分がありますから、当社から新会社に人材を派遣して教育することもできますし、人手が足りなければ人材自体を派遣することもできます

そうして当社と新会社の2本柱で、売り上げを立てるのが理想ですね。うまくいけば今後は、2社を統合することも考えています。新たなポストも増やし、従業員のモチベーションアップにもつなげていきたいです。

そして、今後の展開として考えているのは清掃作業の自動化・ロボットの活用です。広い施設を掃除するのに、何台かロボットを活用すれば、管理する人間は1人ですみます。どちらがコスト的に有利なのか、そのあたりも踏まえながら、徐々に移行していきたいと思っています。



(※写真はイメージです)

【M&Aは「止めてくれる人」を探してから始めても遅くない!】

- 今後、M&Aを考えている人にアドバイスを!
ズバリ「止めてくれる人」を探すことです。実は私自身、交渉をいったんストップさせた背景には、元銀行員で私と同じように親族承継をした友人の存在がありました。この友人にはM&Aの交渉開始時から相談していましたが、私が買いたい、買いたい、と前のめりになっているところに、彼が歯止めをかけてくれたのです。

友人が懸念していたのは、次の3点でした。
取引先が一社しかない
② 買収を検討している会社の株価評価の高さ
③ 静岡県という、自社からの場所の遠さ

プラス、その会社の取引先は安全なのか、ということをしきりに言ってくれました。そういった友人の意見は「それは確認したほうがいいな」「一回止まって考えよう」といった私自身の気づきとなり、冷静な状態で交渉することができていたのだと思います。結果的には値引きにもつながりましたし、その友人には本当に感謝しています。

ですから、これからM&Aをしようという人は、こうした「止めてくれる」存在を探してから始めてもいいんじゃないかと思います。買うほうは絶対に儲かると思ってやっていますから(笑)、それを「ちょっとどうなの?」と言ってくれる存在は絶対に必要ですよ。

また交渉の中で、自分のわからないことは専門家に頼むことも大切です。私の場合、前職の証券会社勤務の経験から、M&Aの流れはだいたい把握していましたが、先程お伝えしたように契約のところは弁護士さんに依頼しました。交渉自体がわからないときはデューデリジェンスの専門家に頼んだほうがよいでしょうね。とにかく、わからないときは自分で判断せずに、外に出した方がいい。とはいえ会社を買おうと思うなら、財務諸表は読めるようにしておくべきでしょうね。

私の夢は子どものやりたい会社にすること。今、子どもは1才ですが、20年後に子どもがやりたいと思えるように、今後も会社を大きくしていきたいと思っています。

- ありがとうございました!


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  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。