2020-10-20

東京ドーム100個分の山林を伴う林業の事業承継 〜林業×エネルギー事業で、衰退の一途をたどる林業を再生させる!〜

買:(株)インテグリティエナジー

<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>

   

日本の国土の約3分の2が森林に覆われているにもかかわらず、近年国産木材の需要が減り、従事者の高齢化などで林業は衰退の一途をたどっています。事故率・死亡率が高い上に低賃金で、若者には不人気の産業でもあります。そんな中、バイオマス(再生可能な生物由来の有機性資源)の大きな可能性を見出したのが、株式会社インテグリティエナジー代表取締役の北角強氏。東京ドーム100個分にも相当する森林を持つ、株式会社玉木材をM&Aで事業承継。その購入経緯と新事業のビジョンを伺いました。



(北角さんが運営するプラント)

【日本の林業は衰退の一途、その理由は?】

- 北角さんは、太陽光発電のベンチャー企業に勤めてから、起業されたとお聞きしました。
はい、もともとは企業向けソフトウェア会社のシステムエンジニア出身で、太陽光発電ITベンチャーの技術営業を経て、2011年10月に株式会社インテグリティエナジーを起業。太陽光発電、木質バイオマス発電などの地域密着型再生可能エネルギー事業コンサルタントとして活動してまいりました。

- 再生可能エネルギーの業界にシフトしたのは、なぜでしょうか?
東日本大震災で起こった福島原発事故の経験が大きく影響しています。あれほど大きな事故が起きて、現在も甚大な被害を被っているのに、いまだに日本のエネルギーは原子力発電に依存しています。今後あのような悲惨な事故が起こらないとも限りません。

原発依存から脱却するためにも、バイオマスエネルギーへの転換を目指して、子や孫の世代に負の遺産を残さない、持続可能な資源循環型経済社会(サーキュラーエコノミー)を創り上げる一助となるーー。私がやらないで誰がやるんだ、義を見てせざるは勇無きなり、そんな強い決意で起業しました。

- その結果、さらにバイオマスパワーテクノロジーズ株式会社を2015年に創業して、より一層その思いを強くされたのでしょうか?
そうですね。建築資材にできない、廃棄されるような未利用の森林資源を使って燃料化し、蒸気タービンで発電。地域に供給する発電事業を始めました。ステークホルダーの1つに林業会社があり、最初は発電事業で林業を下支えしたいと思っていたのです。しかし、発電事業によるサポートだけでは、業界の維持と発展に寄与できないと気づきました

- それはなぜでしょう?
林業全体が構造的な悪循環に陥っているからです。一次産業の中でも農業や水産業などと違って、そもそも自分たちの生活に実感することが少なく、世の中から注目されにくい業種です。森林資源が多いのに、国産木材が売れず儲からない。だから新規参入の動きがなくイノベーションも起こらない。労働作業は過酷で、若者にとって魅力的に写らず、どんどん高齢化し継承者がいない、だからまた衰退する……。

その構造的な“負の連鎖”を断ち切るためには、我が社みずからも林業を手掛けようと、2019年度にバイオマステクノロジー社の中に林業イノベーション事業部をつくりました

- そこでは、具体的にどんなことを行なっていたのでしょうか?
コストやマーケットの分析をして、いざ林業に参入した場合、我が社にどんな選択肢があるかをシミュレーション。また、他の森林の管理委託、運営も実際に行ってみて、事業構造と収益構造を十分に把握したうえで、林業とエネルギー事業のシナジーを生み出そうというのが新規事業のコンセプトです。結果的には、玉木材を事業承継するための予行演習を、この事業部でやっていたような感じですね。


(北角さんが運営するプラント)

【インフルエンサーのツイッターでの投稿を見たのが発端】

- 玉木材とはどういう経緯でご縁が繋がったのでしょう?
このたびのコロナ禍が本格的に日本経済に影響を及ぼす前、つまり、4月初旬の緊急事態宣言発出によりマーケットが停止する前に林業に参入しようと思い、まずはTRANBIに登録しました。というのも、ツイッターで私がフォローしているインフルエンサーが「コロナ明けのビジネスチャンスを狙うには、TRANBIにエントリーしておくべき」とツイートしていたのを、たまたまステイホーム期間中に読んだことがきっかけでした。

- エントリーからどのぐらいの期間でこの案件を見つけられたのでしょうか?
奇跡的にもすぐに見つけました。林業会社はM&Aの紹介チャネルにほとんどあがってこないし、ほとんどが口コミに頼らざるを得ない。そもそも林業関係のみなさんは、こういったM&Aマッチングサイトの存在を知らないし、自分の事業が売れるとも思っていないのでしょう。デジタルの時代において、これは悲劇ともいえます。でも、実際には我々のような再生エネルギー事業者には、実はニーズがあるのです。我が社の発電所にも近い近畿圏の会社ですし、「林業」と検索して一発目でヒットしたとき、これは深掘りすべきだ!とカンが働きました。

- 実名交渉が30数件と競合が多かったですよね?
最終的に残ったのは、うちと不動産会社。その不動産会社は、山を切り開いて太陽光発電をやろうという会社のようでした。一方、我が社は林業そのものを再生する、“林業の王道”で勝負する会社。同じエネルギー事業を考えるものであっても思想は全くの正反対。玉木材の先代社長には我々の林業に対する信念、というか執念のようなものが評価されたようです。

【資源管理、財務管理がデータ化されていない……】

- 玉木材の経営の実態はどうだったのでしょう?
うーん。はっきり言って、良くも悪くも何もしていない(苦笑)。全くもってイノベーションが起きていない。ここ5年間は慢性的構造的な赤字状態で、先代社長の自己資金投資でなんとか持ちこたえている。財務も資源管理もデータとしてきちんと整理されていない。高額なヘリコプターで木を集材するなど、コストと利益が見合っていない。売上予測が先代社長の経験とカンに頼っているなど、ツッコミどころが満載の状態でした(苦笑)。

- 会社の体質はある意味“昭和”的?
そうですね。山林の中のどこにどんな木があるのか、それは全部先代社長の頭の中にあるのです。東京ドーム100個分の広さで!(苦笑)。そこで、ITツール、ドローンなどを駆使して、地形の把握と木材資源がどんな風に分布しているのかを全てをデータ化後、ここからここまでを間伐・整備していきましょうと計画を立てているところです。

新規若手労働者が入ってこないから元のやり方に疑問を持つ人がいない、このようなDX(デジタルトランスフォーメーション)が業界全般的に起きにくい構造になっているんですね。

イノベーションを起こし、マーケット構造として、木材の販売以外の新しい分野の収益がないと玉木材に未来はない。赤字から脱却できません。

- 株式譲渡額は数千万ですが、すんなり合意しましたか?
先代社長は相応の自己資金を投じているので、ある程度回収したいという希望はあったでしょう。でも、負債額が数億円もあるので自らの債権を放棄していただくことを前提に、負債も経営者保証も全て私が引き受けることで、合意をいただいた次第です。


(※写真はイメージです)

【山のスペシャリスト達が山の価値を正しく算定】

- 正しい株価算定も難しそうですね。
土地価格や事業状況から数字上の価値を出すことはできても、山が持つ本来の価値を日本で判断できる人はほとんどいないでしょうね。ただ、私の師匠ともいえる、共同経営者の西川幸成さんは、山の資源のスペシャリストです。この木はどの程度の建築資材になるのか、それができないのであればエネルギーの資材にするなど、最終的に「この事業はいける」という西川さんの助言と総合的な読みがあったので、正式に契約締結できました。

しかし、それよりも、契約書そのものの作成が私にとっては大変でした。

- 具体的にはどんなことでしょう?
例えば、M&A独特の「双方の表明保証(契約の当事者の一方が、他方の当事者に対して、契約目的物などの内容に関連して、その事項が真実かつ正確であることを表明して、その内容を保証するもの)」などです。私にとって初めてのM&Aなので、契約の条文を把握する際、ものすごく手こずりました。虚偽の申告があると後でトラブルが起きます。それを防ぐために、きちっとヘッジしておかないといけません。

- その他に想定外だった点は何かありますか?
承継後の引継ぎのなかで、西川氏から「玉木材は、合法性・持続可能性の証明や、木質バイオマスの証明に係る事業者認定を受けているよね?」と当然のようにいわれました。これがないとエネルギー供給用途の搬出事業ができませんが、改めて調べてみると取っていなかったことが判明し、認定を急遽取りにいくことに

私自身も山のことを完璧に把握しているわけではないので、思わぬところで落とし穴があります。繰り返しになりますが、西川氏をはじめとした林業チームメンバーという“山のスペシャリスト達”が周りにいたことで、なんとか承継できたようなものです。

【ロマンと算盤(ソロバン)を弾いた結果、事業承継を決意】

- 収益についてはどうでしょう?
負債も大きいですが、その負債に見合うだけの資源がある。まずは単月の黒字化を目指したイノベーション戦略と新たなオペレーション体制を立て、金融機関にも理解してもらいました。決して平坦な道のりではありませんが、来年の3月決算の状況で次の戦略を考えるといった具合で事業を進めています

「心には強き信念(シンネン)と、瞳には未来へのロマンを!」を私のポリシーとして大事にしていますが、一方で経営者として、シビアに算盤(ソロバン)もはじいています。信念(シンネン)とロマンだけでは経営はできませんから、きちんとリスクも見積もったうえでのM&Aといえます。

- 本当に今回のM&Aは大変でしたね。
私にとっては、10年前のみずからの起業よりもはるかにハードルが高かった。創業90年以上、地元に根付いた老舗企業を継ぐということは、先代社長の人生や会社の歴史を丸ごと背負うのと同じ。私も経営者の端くれですから、腹を決めて交渉を進めました。

人のゆく裏に道あり花の山。人と同じことをやっていても勝てませんし、競争に巻き込まれれば大企業にすぐ負けてしまいます。あえて人がやらない面倒くさいこと、嫌がることで勝負していなくてはならない。山を買おうとする事業者はいるかもしれませんが、赤字の林業会社ごと買ってしまおうと考える人はなかなかいないでしょう。今回のM&Aでそのポジションをとれ、かつ、事業再生することができたならば、先々を考えるとすごく意味のあることになると思います。


(※写真はイメージです)

【例えるのならラーメン屋と製麺所の関係性でウィン - ウィンに】

- 企業風土やDNAが違う2つの会社で、経営統合はスムーズにいきましたか?
玉木材には3人の木こりがいます。経営者が変わるというのは、非常にセンシティブな問題。でも、私たちは占領軍の司令部ではないので(笑)、こちらのDNA を押し付けるつもりはないです。お互いに事業を支え合う関係を説明して、統合をスタートしました。私が思うに林業とエネルギー事業は実はお互いになくてはならない存在で、平たく例えるなら“ラーメン屋と製麺所”の関係に似ています。

- それはどういうことですか?
例えば、自分が美味しい麺を購入したいと思っても、評判の製麺所はいろいろなところから麺がほしいという引き合いがあり、簡単に購入することはできません。麺を買うには、継続して麺を買うと説得する必要があります。自分が美味しいラーメン屋であれば、安定した量の麺を買い続けることができますし、そのおかげでどんどんお客さんも集めることができます。製麺所もさらに儲けることができるという安定的好循環です。この関係こそがウィン - ウィン。我が社とバイオマス発電所、玉木材が目指す関係性です。

- なるほど。さらに、玉木材の従業員のモチベーションアップのためにどういうことをしましたか?
新たなオペレーション体制にアジャストしていただくために、資格取得を奨励し、スキルアップに励んでもらっています。また、収益改善状況を睨みながら、より安全で生産性も高い高性能林業機械の導入などの設備投資や森林データ管理などのICT投資・スタッフ増員をはじめとして、新規エクイティによる資金調達も含めたオープンイノベーションをこれから積極的に仕掛けていきます。

今まで先代社長の頭の中にあった資源や財務管理が、データによって見える化し、みなが課題を共通で認識できるようになってくると、「自分の会社だ」という意識が芽生えてくると思うのです。もしマネジメントをやりたい、自分でも林業を立ち上げたいという社員がいれば、私は手助けしていきたいです。従業員にあれこれ指図するのではなく、彼らのパフォーマンスを最大限に引き出すのが社長の仕事です。

そして、最も重要なことは、林業事業とエネルギー事業を融合させ、地域内で富を循環させる「エネルギーの森構想」を実現し、地域経済の発展と地域社会の活性化に結びつけ、我が国のエネルギーシフトに貢献するプラットフォームを共創する、共に創り上げていくことを目指す、そんな夢を共に抱き、人生を意気に思い、仕事の使命を感じていただくこと、これに勝るモチベーションはないと考えています。

- 確かに起業するより難しそうですが、それを上回るやりがいを感じられそうです。それを支えていったのは、原発依存からの脱却と持続可能な資源循環型経済社会(サーキュラーエコノミー)を構築するという使命感、そして何がありますか?
亡くなった私の父は、戦中生まれの大工職人でした。私が子どもだったころ、木造の建物を見ては「この木は、よく手入れが行き届いとる」「この職人はいい仕事をしているな」と父はよく言っていたもの。だから私には、根本的に、第一次産業、特に林業や職人に対するリスペクトの気持ちが潜在的にあるのでしょうね。

先代社長は父よりも少しお若いのですが、父と接するような気持ちで交渉をしました。亡き父が先代社長と玉木材を、私に引き合わせてくれたような気がします。これは運命かもしれないと。逃したら一生後悔すると思いました。宿命に生まれ 運命に挑み、使命に燃える。是が非でもこの事業を成功させたいと思っています。

- ありがとうございました!



(持続可能な循環型経済社会をつくるべく奔走する北角さん)

今回お話をお聞きした株式会社インテグリティエナジーのHPはこちら
http://integrityenergy.jpn.com/


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  • 東野りか
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    ライター紹介東野りか


    ファッション誌、生活誌の編集者を経て独立。インタビューと旅の取材・執筆がもっとも得意な分野。酒と旅と音楽と映画をこよなく愛する。