2026-03-04
安定した高収入のキャリアがあった35歳の若者が、なぜあえて市場の仲卸業を選んだのか?
買い手(個人):中原健太さん

<個人による市場仲卸業M&A事例>
- ➤ 安定した高収入を手放し、衰退業界への挑戦を決意。社長業への憧れが出発点
- ➤ 個人・異業種・未経験。半年間無給で現場に入り、覚悟を証明した交渉プロセス
- ➤ 高齢化が進む仲卸業はブルーオーシャン。35歳の若さを武器に事業成長を目指す
- ➤ 躊躇を乗り越える方法は「先ずは会社員を辞めること」挑戦者へのメッセージ
大手関連企業に勤務し、安定した収入と生活を手にしていた中原さん(仮名)。これらを手放し、衰退する業界に、事業負債も引き継いで新たな挑戦へ踏み切られました。
個人かつ未経験ながら、どのように前社長から事業が託されるに至ったのか。半年間無給で現場に入り覚悟を示し、個人保証の付け替えという大きな壁も乗り越えて、35歳という若さで市場の仲卸業の代表となりました。
中央卸売市場の事業者数が急激に減少する中、高齢化が進む業界だからこそブルーオーシャンだと捉え、加工による付加価値化や労働環境の改善など、新たな視点で事業成長を目指しています。
安定を手放してまで挑戦に踏み切った理由、そして業界での今後の展望についてお伺いしました。
【安定した高収入を手放し、衰退業界への挑戦を決意。社長業への憧れが出発点】
- まず、中原さんについて教えてください。
はい、私は現在35歳になりまして、これまで2社ほど経験しております。直近は大手関連企業のサラリーマンとしてデスクワーク中心の仕事をやっておりました。
実際給与水準も平均より高い所だったと思います。ただ、ここ数年で自分で事業をやることをずっと考えてきていて。
そこでゼロから事業を立ち上げる(スタートアップ)よりも、歴史ある企業を引き継ぎ、そこから大きく成長させる(1から100にする)ことに自身の適性があると考えていました。
やはり、長く続いてきた企業や事業が、後継者不足という理由だけでなくなってしまうのは大きな社会的損失だと考え、もしM&Aをするなら、そうした企業の事業承継をしたいと思っていました。
【個人・異業種・未経験。半年間無給で現場に入り、覚悟を証明した交渉プロセス】
- 全く経験のない業種への挑戦ですが、どのように交渉を進めていったのでしょうか?
当初は「社長業にチャレンジしたい」という思いが出発点でした。そうした中、TRANBIなどプラットフォームを使って案件を探し始めたんです。
飲食関連の事業で独立したいという思いもあったので、思い切って交渉を入れてみたのです。2024年の12月頃に初めて小倉社長にお会いしたことを今でも鮮明に覚えています。
そもそも私は中央卸売市場は知っていましたが実際どんなところか、立ち入ったことはありませんでした。しかし、色々現状を知る中で、市場の課題を知って解決していきたいと言う思いが日に日に強くなっていきました。
小倉さん(当時社長)から、「技術や知識は二の次で、この仕事をやり抜く覚悟と体力があるかが重要」と質問されました。私はそこで「覚悟だけはあります」と即答しました。
そもそも私は事業主ではなく、そこそこの給与をもらっていたサラリーマンです。大変な環境の中で戦ってきた小倉さんからしたら本当にやれるのか?と不安になるのは当然です。
その覚悟を証明するため、2025年3月には会社を退職し、5月中旬からクロージングの11月までの約半年間、給与の発生しない「無給」の状態で現場に入りました。
深夜2時、3時から始まる今までと全く違う労働環境に身を置き、実際に業界の雰囲気や人間関係を肌で感じたことで、迷いが確信に変わっていきました。
さらには、私の妻を交えた食事会を開いていただきました。夫婦での意思確認の意図もあったと思うのですが、そこでも私の意思をしっかり伝え承継を強く希望し、後継者として認めてもらうことができました。
- ディールや交渉を進める中で苦労されたことや躓いたことはありますか?
実際個人保証の付け替えなどは大きな課題となりました。今回承継にあたり、小倉さんには寛大な対応をいただきましたが、会社の借入金に付随する個人保証の付け替えは承継する上で重要なポイントとなっておりました。
一定規模の売上のある事業会社の借入金を個人でありかつ未経験の私に付け替えることができるのか。不安を抱きながらも、小倉さんと一緒に金融機関に相談に行きました。
時間はかかりましたが無事に手続きできそうだという回答をいただくことができました。
他にも、既存社員さんをしっかり引き継ぐ上で、小倉さんから従業員の方とうまくやっていけるのかと言う点を実習期間中に確認したいと言うこともありました。
そこはもはや相性と言うところもあろうかと思いましたが、みなさん良い方ばかりで私を受け入れてくださり、みなさんと足並みを揃えて事業を進められると感じることができました。
- 事業を始めるときにやはりご家族のご意見も重要となります。パートナーの方からはどのような反応がありましたか?
妻がおりますが、反対することもなく背中を押してくれました。妻の実家が事業を営んでいたというところもあって理解してもらえました。
市場の仕事は朝が早く普通の人とは生活時間がずれますので、そこは正直気になりました。
結果的に顔を合わせる時間帯こそ変わりましたが、時間でいうとそこまで変わらないですかね。
いつも応援してくれているのでとても心強いですし、何より大変感謝しています。
【高齢化が進む仲卸業はブルーオーシャン。35歳の若さを武器に事業成長を目指す】
- 急激に事業者数も減っている中央卸売市場です。業界全体の課題も多いと思いますが、この事業の今後の展望やお考えについてぜひ教えてください。
元々魚介類は大好きなのですが、この市場で仕入れて食べると本当に美味しいんです。
一般的に魚離れということも言われますが、消費者が魚を敬遠する最大の理由は「味」ではなく「調理の手間(めんどくさい)」にあると分析しています。
特に共働き世帯が増え、飲食店も人手不足で仕込みができない中、「食べられる寸前まで加工して提供すること」が最大の付加価値になると確信しています。
また小倉商店にはすでに加工場や職人というリソース(固定費)があります。これを単なるコストと捉えるのではなく、丸魚をさばいて付加価値をつけるための武器として活用することで、利益率を高めていく方針です。
労働環境も改善できるポイントの一つだと思っています。
市場で働くなら朝早いのが当たり前。という認識が強く、私もそう思っていました。ただ、必ずしも朝早く出てこないとできない仕事ばかりではありません。魚の加工などは、日中に十分できる仕事です。
業界の外から入ってきた私が、素直に思い、感じた事を反映させていきたいです。もちろん、急に変革を起こすというつもりもありません。徐々に周囲とのコミュニケーションを深め時間はかかってしまうかもしれませんが推進していくつもりです。
小倉さんが業界の常識にとらわれず挑戦されたことは聞きまして、私も似ているところがあると感じてます。なので、そういった小倉さんのスピリットも受け継いでいきます。
最後は私自身のことになりますが、海外旅行が趣味の一つです。そこで感じるのは、日本の水産物は間違いなく世界一である。ということです。
多くの水産関係者が高齢化している中で、35歳の私はまだたくさんの時間があります。市場で長く事業を継続することで歴史を紡ぎ、日本の誇る魚食文化の素晴らしさを、国内のみならず世界中に広げていきたいです。
事業を何十年も継続された歴史があり、部門ごとに任せられる人材もいて、さらには自分の大好きな魚に関する事業を受け継ぐことができ嬉しく思っています。
もちろん課題も多いので不安がないわけではないですが、今はとてもワクワクしています。
【躊躇を乗り越える方法は「先ずは会社員を辞めること」挑戦者へのメッセージ】
- 最後に、現在会社員をされつつ、M&Aや事業承継への挑戦を躊躇されている方にアドバイスをお願いします!
少し極端な例になってしまうかもしれませんが、私が行ったことは、「先ずは会社員を辞めることから始めた。」です。
そもそも、今の地位を手放さないと新たなことができません。毎日忙しくて、余白が無いならなおさらです。
安定した現在から、挑戦をするのですから躊躇して当然と思います。私も躊躇しました。
この「躊躇」を言い換えると「踏ん切りがつかない。」「きっかけが無い。」だと思います。待っていても何も起きないので、先ず辞めてみるのはいかがでしょうか?
***************
中原さんが事業承継した「小倉商店」HP
https://www.setouchi-ogura.com/
***************