2020-09-15

【失敗事例に学ぶ・後編】個人M&Aでものづくり企業の社長になるも、2年半で1億円以上の負債を抱えて民事再生に至るまで

買い手(個人):匿名

<個人のM&A失敗事例>

   

前回に引き続き、TRANBI外でM&Aを実行し、その後の会社経営に失敗したBさん(仮名)の体験談です。東京のITコンサルティング会社の経営者が、思い入れある地元からの会社買収の提案を受けて、M&Aの実行を決意。ものづくりという未経験業種ながらも自らの経験やノウハウを活かせば付加価値を生み出せるとA社を買収を決断しましたが、結果的に自身の描いた道を歩むことができず、2年半で民事再生の申し立てから廃業へ。その裏側にはどんな事情があったのか。過去に戻れるとすればどこを改善するか。Bさんにとっては辛い経験ですが、これを多くの方に知ってもらい、よい経営・M&Aに繋げてもらいたいというご好意でインタビューが実現し、貴重な経験を赤裸々に語っていただきました。今回は後編のご紹介です(前編はこちら)。



(※写真はイメージです)

 

【負債総額1億5千万円で民事再生を申請へ】

- 民事再生に至る前後の状況について教えてください。
弁護士さんに連絡して1カ月後に、会社と個人の両方について東京地方裁判所に民事再生を申し立てました。

「民事再生」の申し立てをすると、申し立て前の債権がいったん棚上げになり、債権者集会等で決定した計画に沿って、業務は続いていきます。会社を残すという点が、会社を消滅させる「破産」とは違う点です。

申し立て後に同業種の会社さんから非常によいオファーをいただき、会社を売却することにしました。ただ丸ごと売却するのではなく、会社分割を行い、従業員の雇用と会社のブランドだけを引き継がせる形で法人を新設し、その会社株式だけを購入してもらうという形にしました。いわゆる第二会社方式です。

そして負債を抱える会社の清算を進めることに。債権者は金融機関と取引先で、合計約50社でした。債権総額は約1億5000万円。通常だと債権者への配当は数%ほどだそうですが、うちは10%ほどで、少ないことには変わりないのですが、なんとかお返しすることができました。債権者様には本当に申し訳なく思っています。

それに加えて、私の場合は金融機関の借入の際の代表者保証が4000万円ほどありました。こちらは個人の民事再生を適用し、ある程度圧縮してもらった借入金を一括で返す手続きをしました。



(※写真はイメージです)

 

【数字を見る目の甘さが敗因。穴があくほどBSを見るべきだった】

- 民事再生にいたった原因について、どうお考えですか?
一番の敗因は、私の数字を見る力が弱かったということに尽きます。貸借対照表(BS)やキャッシュフロー計算書を見て、資産や負債やお金の流れをしっかりと把握するべきでした。

前述しましたように、受注量が増えたことで仕入れが一時的に増え、毎月の支払い負担額が想像以上に大きくなりました。今まで私がやっていたITコンサル事業とは、仕入れから売上が立つまでの期間やそれまでに必要なキャッシュの感覚が全く異なります。私の数字に対する弱さが露呈してしまう結果となりました。

また、「売り上げを求めて苦しくなる」典型的なパターンを避けるためには、やはり早い段階で前社長に退いてもらい、私がしっかりと現場を管理するべきでした。あるいは原価管理や生産管理を行える、かつ「何かこの数字はおかしいぞ」と、現場と数字の両方がわかる、合理的な判断のできる第三者がいたら違ったでしょうね。

私自身、年配の方に進言するのは苦手で、前社長から「そんなもんだろう」と言われると、何か考えがあってのことだろうと、自分を納得させていたところがありました。でも今思うと、もっとそこは追及して、言うべきことは言うべきでしたね。

M&Aを実行してから、民事再生まで2年半弱。過去に戻ることができるのならば、前社長の代わりになる人を連れて乗り込んで、前社長にすぐさま辞めてもらえばよかったなというのが、今の率直な気持ちです。

【4千万円の代表者保証。個人M&Aの怖さを痛感】

- 民事再生に至る手続きについても教えてください。
民事再生の手続きの段階では、通常の「BS」とは別に清算時点での資産価値を図る「清算BS」をつくります。会計士さんにA社の清算BS含めて数字を見てもらったら、粗利益は10%台でした。しかし粗利益がどれほど低くても仕事がある限り、会社はつぶれません。まさにA社もそうでした。

でも今回の新型コロナウイルス問題のようなことがあれば、ひとたまりもありません。おそらく私が手続きしなくても、つぶれていただろうと思います。

結果的に廃業すべき案件をM&Aで買収したことで、代表者保証を背負うことになり、買った金額に加えて、個人でお金を払わなければいけないことになりました。これが個人でM&Aをおこなう怖さです。



(※写真はイメージです)

 

【廃業すべきか、売却すべきかの判断軸とは?】

- 今回は会社分割して事業売却をするという選択肢を選ばれましたが、会社を廃業すべきかそれとも売却に値するかについて、どのように判断すればよいとお考えでしょうか。
私は都内で事業をしていたとき、いつも駅から通う道すがら小さな製造業を営む会社さんを目にしていたんです。1階が工場で2階に家族が住んでいるというようなイメージです。そこで単管(工事用鉄パイプ)を切るというだけの仕事をしている会社があるんです。たった一つ機械があるだけですが、そこは潰れずに経営がずっと続いています。

それを思い出したときに経営者として能力が問われている気がしました。どんな会社でも続く会社は、何かしら勝負できる、生き残る根拠があるわけです。

この見極めはとても難しいですが、やはりどんな業種でも、そこにお客さんがいて、利益が守れて、雇用があって、そしてそれが未来に続く仕事かどうか、それを判断していくことでしょうね。

日本は零細企業が多く、高度成長期にはずっと需要があったかもしれませんが、その需要は途切れ始めています。しかも、それは業種ごとに濃淡があるので継続的に見ていかなければならない。

ただ、自分だけの判断では難しい部分があります。予想以上に他の方から見ると素敵で価値のあるものとして見出されることもあります。

もし事業をやめたいと思った場合、まずは売り手として一度、みんなが評価する場に出してみてはどうでしょうか。買い手の方であればそれがほんとうに価値あるものかどうか、BSをしっかりと確認することが何よりも大事なのではないでしょうか

- ありがとうございました!

最後に・・・
今回トランビとは関係のない所でのM&Aではありましたが、買収者の方のご好意でインタビューにご協力いただくことができました。ご協力いただき、本当にありがとうございました。



(※写真はイメージです)



▶ 前回の記事を読みたい方はコチラ:
「【失敗事例に学ぶ・前編】個人M&Aでものづくり企業の社長になるも、2年半で1億円以上の負債を抱えて民事再生に至るまで」


▶ 個人のM&A・買収事例の記事を読みたい方はコチラ:
「コロナ禍の個人M&A「リスクも受け入れることが私の覚悟」 ~夢である“衣食住”を融合させた事業をつくる」

 

  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。

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