2021-01-12

引退需要を見据えた物流会社の事業戦略!引継ぎの受け皿となるべく構築したM&Aスキームとは?

買い手(法人):コントラクト株式会社

<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>

 

関東圏で12拠点を構えグループで5社を経営し、幅広く物流事業を展開するコントラクト株式会社が、創業50年以上の老舗運送会社を数千万円で買収。初めてとなるM&Aながら「1回目の面談でほぼ決まりました、何よりも挑む前の準備が大事です」と満足した表情を見せる代表の林 宏賢さん。なぜ、そこまでスムーズに成約まで至ったのでしょうか。林さんが思い描いていたM&A戦略やその準備とはどんなものだったのでしょうか。M&Aの経緯から、引き継ぎの状況、これから挑戦しようと考えている人へのアドバイスまで、お話しいただきました。

【東京2020以降の引退需要を見据えた事業の成長戦略】

- まず今回のM&Aに至る背景を教えてください。
私は、もともと外資のコンサルティング会社に勤めていまして、10年以上前の30代半ばで独立してこの会社を作りました。物流自体の経験は当時なかったのですが、わりと小規模の会社が多く参入障壁が低かったこと、ECなど今後伸びる分野だなと予測していたので、自分でもチャンスがあると思い、はじめました。現在13期目に入り、千葉を中心に12拠点で、倉庫から運送、物流委託、人材派遣まで物流に関する事業をトータルで行っています。

物流業界は高齢の経営者が運営する中小企業が多く、おそらくこれから後継者不足の会社が増えてくるだろうと予測しています。その引退需要を見据えて、私たちとしてはできるだけ引き継ぎ手を求める会社の受け皿となり、M&Aによる事業拡大をしていこうと考えていたのです。そこでTRANBIなどのM&Aのプラットフォームで相場観や市場観をチェックしながら、当社の条件に見合う会社を探していました。

同業の高齢社長に会うと、みんな口をそろえて「東京2020までは頑張る」とおっしゃっており、新型コロナウイルス問題で延期になりましたが、そのタイミング前後から戦略を進めていこうと動いていました。



(コントラクトのオフィスの様子)

【M&Aをするほど自動で利益が出る仕組み】

- 御社の買収の条件とは、どういったものだったのでしょうか。
本業である物流と同業種のM&Aをすることで大きな相乗効果が出せると考えていて、加えてほかに2つほどの条件とあわせて、以下3つの観点で案件を探していました。

物流に関連し、相乗効果が見込める同業種の案件であること
後継ぎがいない事業承継の案件であること
得意先と長期取引をしていること

上記の観点のうちの一つ、②後継ぎがいない事業承継の案件であること、つまり高まる引退需要の受け皿になることです。私たちが思い描いていたのは、たとえば高齢の経営者様と近い年齢のご家族が経理などの間接業務を行っているところ。当社では経理や総務、人事といった間接業務に関して独自のオンラインシステムを構築しており、千葉の本社ですべて完結できる仕組みを作り上げています。

つまり会社の購入により、必然的に経理などの間接業務を本部が引き継ぐことになるので、人件費分をそのまま利益に転換することができます。オンラインシステムはどの会社にも導入できるので、M&Aの数が増えれば増えるほど利益が出る仕組みです。ただエリアだけはコントロールの面から関東圏のみに絞っていました。

さらにもう一つの観点、③得意先と長期取引をしていること、これは物流業界ならではのポイントかもしれません。特に運送会社は、いろいろな会社がありますが、大きく分けると、長期契約で比較的安定した運営を続けている会社と、日々スポット的に業務を受注している会社の2パターンがあります。二つのうち、今回の新型コロナウイルス問題で大きなダメージを受けているのは、後者のスポット型受注の会社のようです。ですから当社は、そちらには一切手を出さず、得意先と長期的に取引している会社を探していました。

すべてぴったり当てはまったのが、今回購入させていただいたS運送会社さんだったのです。高齢で後継ぎを探されていた社長様、そしてご家族が経理をご担当されていたこと、得意先は3社と少ないもののもう40年の付き合いであったこと。私たちにとっては、ベストマッチでした。



(今回の買収先である老舗運送会社)

【売り手は最大の功労者、きちんとした出口を用意】

- 交渉はどのように進みましたか? また交渉時にアピールした点を教えてください。
コロナ禍でなかなかお会いするタイミングが難しいというのもありましたが、面談1回でほぼ決まったという感じでした。面談では、そもそも当社の希望していた条件が、S運送会社さんとドンピシャであること、そして先方が何十年も続けてこられた社名をそのまま引き継ぐことをお伝えしました。

S運送会社さんは創業50年の老舗運送会社ですので、みなさんが築いてこられた歴史はそのまま残しますと約束しました。また、年末の忘年会や周年式典などを企画した際はぜひ参加してほしいですし、絶対に会社をよくするのでいつでも安心して見に来てくださいと伝えています。そういった想いがお相手に響いたのかもしれません。

デューデリジェンスについては、当社の顧問税理士がすべてチェックしていましたので、私のほうからは何かあればご連絡しますという形で、終始和やかなムードでした。交渉から成約まで3か月弱でしたので、スピーディに進んだのかなと思います。

それができたのも、S運送会社さんの財務状況が非常に健全だったからです。社長がちょっとした遊び心でゴルフ会員権を買ったなど、そういった余計なことも一切なく、非常に堅実な経営をされていました。ただ念のため、簿外債務のリスクなども想定し、告知がなかった債務に対する責任は売り手側に負担いただくという契約としています。

- 引き継ぎはどのようにされたのでしょうか? また引き継がれて、どういった点を改善されましたか?
成約の翌月から完全に子会社としてスタートしたわけですが、まず当社からS運送会社さんに1人入り、実務面を調整し始めました。S運送会社の経理や事務の方はすでに引退され、社長様は会長として1年間残っていただき、週に3回出社していただいています。

ほぼほぼ引継ぎも済んでいるので実務面を担っていただいているというわけではないのですが、私としてはやはりこの事業を作り上げられた方というリスペクトがあるのできちんとした出口を用意したいと思っていました。社員にとっても大きな安心感がありますよね。

S運送会社の従業員は20人ほどですが、彼らには順に個別面談をしていきました。運送業だと運送担当者が戻ってくる時間はバラバラであり、なかなか従業員全員で一同に集まる時間を取ることができないからです。

面談で伝えたのは、「社長が会長としてそのまま残ること」、「基本的に何も変わらない」ということ。そして、変えることについてはメリットを強調し、「数十年先も事業として継続していくこと」、「制度も近代化させて働きやすくすること」を強調し、いい方向以外ない、と明言しました。

制度を近代化させるといっても、組織内部に入って大きな改革をするのではなく、基本的に当社と同一の就業規則に変えるだけでしたので、さほど難しいことではありませんでした。それによって、有給休暇がとりやすくなったり、手当がルール化されたりと従業員にとってよい変化が起こっていると思います。

また、デジタル化の導入によっていろいろなことを効率化し、働きやすい職場に改善していっていますが、あえてアナログのまま残したものもあります。それは給与明細を「紙で送る」ということ

もともと当社は給与明細をスマホで見られるクラウド型にしていますが、60歳近い方もいるS運送会社の従業員に全員スマホで確認してくださいというのは、慣れていない方も多く非常にハードルが高い。効率だけを優先して使いにくさを強いることはよくないという判断です。

また、こうした年配のベテランの従業員といっしょに働けることは、当社の従業員にとってもプラスのことでした。もともと私たちが人材を募集すると、若い方の応募はあるのですが、逆になかなかベテランの方は集まりません。でもこういった形で、年配の人がいると、彼らが若手を指導するなど、非常によい効果が生まれるのです。



(老舗運送会社が保有する車両)

【「おかげであと20年できるよ」得意先からも安心の声】

- 得意先の反応はいかがでしたか?
得意先への挨拶まわりは、従業員との面談が終わったあとに行いました。今回のM&Aについて、クライアントさんも「まさか第三者承継というM&Aの手法をとってくるとは思わなかった」と。この社長様の代で事業を閉じると思われていたようですね。「これでさらに20年は取り引きができますね!」と非常に好意的に受け取っていただきました。

そして、これを機に受注オーダーの仕方などを改善することにしました。紙でのやりとりを、すべてクラウド上のオンライン管理システムに変えるなど、アナログだったところをどんどんデジタル化していくことを伝えたら、大変喜んでいただいています

- 今後、M&Aを考えている人へアドバイスをお願いします。
やはり準備が大切。これにつきます。私たちは、あらかじめ自分たちに合う相手先のフレームを想定して、そこに当てはまるところだけを探していきましたから、すべて想定通りでした。条件をしっかりと決めておけば、誤った判断や誘惑、想定外の事態などに流されることもありませんので有効ですよ。

- ありがとうございました!





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  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。