2020-12-22
コロナ禍でも二代目社長は3件目の買収で関東進出へ
買い手(法人):株式会社セイワ工業
<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>
- ➤ 利益率を取るためには優良な顧客との口座開拓が必須
- ➤ 売り手から評価された“M&A経験の豊富さ”
- ➤ コロナに影響されない理由:あらかじめ長期の回収期間を設定する
- ➤ “世界一働きやすい町工場”は収益構造を整えた先にある
町工場の働き方を変えようとする若手経営者として、各種メディアから注目が集まっている、溶接加工を主とする株式会社セイワ工業(三重県)の二代目社長・野見山勇大さん。TRANBIのユーザーでもあり、過去にも1度、成約インタビューにご協力いただきました(記事はこちら:「ものづくり」のM&Aで町工場のイメージを「カッコいい製造業」にしたい)。
そんな野見山さんが、3件目のM&Aに成功。過去2件のM&Aがすべて東海エリア内だったのに対し、今回買収したのは関東の企業。エリアを広げてのM&Aには、どんな意図があったのでしょうか? お話を伺ってきました。
【利益率を取るためには優良な顧客との口座開拓が必須】
- 3件目のM&A成立、おめでとうございます。今回はどんな企業でしょうか?
光誠産業株式会社という、千葉県の企業です。三つ大きな事業を持っていて、一つは鋼構造物(道路や橋梁に使用する製品)の設計・製造・管理をしている鋼構造物グループ、もう一つがクレーンやテント倉庫などを取り扱っている建材グループ。
そして三つ目が東京の自社工場で行っている製造グループです。このグループでは、金属部品の加工をメインに、油圧・空気圧シリンダー部品をはじめ、医療機器部品・食品機械部品など、幅広いカテゴリーの部品を製造しています。
- この企業に目をつけられたポイントは?
弊社では年間100件くらい案件を検討させていただくのですが、今回の案件は弊社ととても多くのシナジーがあるように感じられました。
ただ、そのうえで仮にシナジーが発揮できなかったとしても、上記三つのセグメントで利益が継続的に出ると考えたことが大きな着目点でした。バリュエーションとシナジーは分けて考えようというのが弊社の経営方針です。シナジーは結局のところ皮算用でしかないので、最後に甘くつけるか辛くつけるかの参考にする程度に留めています。
もう1つ、重要なことが優良顧客との接点を持っていたことです。
- 優良顧客との接点とはどういうことでしょうか?
製造業は受発注のレイヤーがガッチリと固まっていて、そこを打破するのは簡単ではありません。また、優良な会社と新規で取引を開始することは非常にハードルが高いのです。そんななかで、光誠産業はすでに多くの優良な顧客口座を持っていたので、そこにグループ全体で提案をしていくことで、グループ全体でより利益が出せそうだと考えました。
- エリアが違うと、輸送費などが余分にかかったりはしませんか?
かかりますが、光誠産業が請け負う案件は2,000~3,000万円以上くらいの規模が中心なので、多少輸送費がかかってもあまり問題になりません。先日、東京の浜松町の現場の仕事を請け負ったときも、東海地方で作った部品を運んで使いましたが、その輸送費は全体予算の数%程度でした。他社に外注することを考えたら、グループ企業に回して輸送費を積んだほうがずっといいですね。
逆に、エリアが違うからこそ営業エリアが広がったと考えることもできます。今までの東海地方だけではなく、関東地方でも営業網が確立できたことになりますから。
(今回の買収先となった光誠産業で働く従業員の様子)
【売り手から評価された“M&A経験の豊富さ”】
- 光誠産業が黒字を出せている要因、武器はなんですか?
営業力ですね。社員がみんなベテランで、自分で売上をつくる力があるんです。でもこれには悪い面もあって、自走できる反面、個人商店的と言うか。それぞれが独自のやり方で仕事を進めてしまっている感が否めません。協調性やナレッジマネジメント的な発想が少ないのは改善課題ですね。
- 譲渡先として選ばれるために、どんな交渉をされましたか?
自分たちの強みを3つの観点から伝えるようにしています。
1つ目は“ヒト”。私と役員陣のバックグラウンドを説明して、人柄やスキルに対して安心感を持ってもらいます。
2つ目は“モノ”です。既存のグループのネットワークの持つ設備や技術を使えることのメリットを紹介します。
最後3つ目は“カネ”ですね。経営基盤が安定していることをアピールします。その際、事業ポートフォリオを組むことでリスク分散できることもお伝えするので、M&Aを行う意図も理解していただきやすいのではないかと考えています。
- 今回の案件では、“ヒト”・“モノ”・“カネ”のどこが特に相手方の売り手さんに響いて成約に至ったと考えていらっしゃいますか?
自分で言うのもなんですが、“ヒト”の部分を評価いただいたのではないかと受け取っています。譲渡の条件として「今よりも会社を伸ばすことができるか?」という点を重要視されていたので、製造業界歴の長さ、M&Aを複数回実施している経験、そしてグループでの協力体制をポジティブに評価してくださったのではないかと思います。
【コロナに影響されない理由:あらかじめ長期の回収期間を設定する】
- 3度目のM&Aですが、回数をこなすことで案件を選ぶときの軸に変化はありましたか?
軸という意味ではそんなに変わっていませんね。基本的に製造業で、弊社グループに入っていただくことでお互いが成長できる会社を検討させていただいております。唯一、条件として増えたのが規模感ですね。グループが順調に成長してくれているので。
組織のサイズが小さいとどうしても、追加の採用をしないと事業としての継続リスクが高いのです。弊社は採用を強みにしてはいますが、管理人材の採用コストと天秤にかける必要があるので、その点は強く意識するようになってきました。ただ、案件の大きさだけではなくその会社自体の独自性や弊社との協力体制によっての成長などは変わらず見るようにしております。
- 精査方法も変わりませんか?
基本的には変わりませんね。まずインフォメーション・メモランダムやその他の客観的な指標からバリュエーションを割り出し、シナジーの検討をして、最後にオーナーさんとの対話でお互いの感情面を確認する。その流れは以前と同じです。
ただ、グループが大きくなっていくことで、描けるシナジーも広がっていくことを感じています。連携先の選択肢が増えるほど、事業を承継した後の選択肢も増えるなと。
- コロナ禍の影響はありましたか? 世間的には、今は大人しくしておこうと考える方と、逆にこんな状況だからこそチャンスだと考える方、経営姿勢が2極化しているように思いますが……。
僕はそのどちらでもないですね。コロナ禍の影響はもちろん受けます。今回の光誠産業にしても、公共事業系の事業はほとんどダメージがなかったものの、それ以外の売上は昨対比で2割くらい減っています。ただ、それを意思決定の理由にしようとは考えていません。
確かにコロナ禍もリスクだと考えられますが、そもそも経済はサイクルごとに上がったり下がったりするものだと考えております。だからこそ、金融機関から長期のご融資を頂き、世の中の浮き沈みに振りまわされないように意識しております。
(今回の買収先となった光誠産業で働く従業員の様子)
【“世界一働きやすい町工場”は収益構造を整えた先にある】
- 今後もM&Aには積極的に取り組まれますか?
いい案件があればぜひ検討させていただきたいです。
- プレスリリースで拝見したのですが、コロナ禍の期間にグループ内出向で技術交流を図ったそうですね。これもスキル面でのサポートと言えそうですね。
まさしく、その通りです。グループ内の一部の企業で仕事が少し減ったタイミングがあったので、せっかくならスキルを高める時間に使ってもらおうと思って実施しました。大手企業であればジョブローテションで幅広いスキルを身に付ける機会がありますが、従来の町工場だとそういうチャンスがなくて。
特定の技術を極めるのはプロフェッショナルとしてもちろん大事なことですが、専門領域から一歩出ると何も知らないというのは、その人のキャリアにとって大きなリスクですよね。多能工、僕らのグループではT字型職人と呼んでいますが、技術幅の広い人材になってもらいたいと考えています。そういう人材が増えることは、会社にとってもプラスですしね。
- 長い目線で考えるグループシナジー、M&Aに関心を持っている人たちにとって、大きな参考になると思います。今回も貴重なお話ありがとうございました!
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ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)
コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。