マルチプル法とは?EV/EBITDA・PERの見方と企業価値評価の考え方をわかりやすく解説
マルチプル法とは何かをわかりやすく解説。EV/EBITDAやPERの見方を中心に、企業価値評価の基本や計算方法、類似会社比較法(CCA)やM&Aでの使い方まで実務目線で整理します。
企業の価値は、どのようにして決まるのでしょうか。
M&Aや投資の場面では、企業がどれくらいの価格で評価されるのかを判断する必要がありますが、その際に広く用いられているのが「マルチプル法(類似会社比較法)」です。
マルチプル法は、類似企業の評価指標を基に企業価値を相対的に算出する手法であり、EV/EBITDAやPERといった指標を用いることで、市場の評価水準を踏まえた現実的な企業価値を把握することができます。
マルチプル法は、シンプルで実務に適した評価手法であり、M&Aや投資判断において最も広く使われている手法のひとつです。
一方で、「EV/EBITDAやPERはどう見ればいいのか」「企業価値はどのように計算されるのか」「DCF法との違いは何か」といった点が分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
また、実務ではCCA(Comparable Company Analysis)や類似取引比較法といった手法も併用されるため、それぞれの違いや使い分けを理解することが重要になります。
この記事では、マルチプル法の基本から、EV/EBITDAやPERの見方、企業価値評価の考え方、さらにはM&Aにおける実務での使い方までを体系的に解説します。
企業価値評価の全体像を押さえたい方から、実務に活かしたい方まで、理解しやすくまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
マルチプル法(類似会社比較法)とは
マルチプル法(類似会社比較法)とは、市場で評価されている類似企業の指標を基に、対象企業の価値を相対的に評価する手法です。
企業価値評価のアプローチには大きく分けて「インカムアプローチ(DCF法)」と「マーケットアプローチ」がありますが、マルチプル法はこのうちマーケットアプローチに分類されます。
マーケットアプローチでは、実際の市場データをもとに評価を行うため、理論的な前提に依存しすぎず、現実に近い企業価値を把握できるという特徴があります。
マルチプル法の基本概念
マルチプル法は「相対評価」の考え方に基づいています。これは、企業単体を独立して評価するのではなく、類似する企業と比較して価値を判断するという方法です。
例えば、同じ業界・同じ規模の企業がEV/EBITDA倍率で5倍で評価されている場合、対象企業も同様の倍率を用いて価値を算出することができます。
このように、マルチプル法は「市場がどの程度の評価をしているか」を基準に企業価値を導き出します。
- 企業価値は相対的に決まるという考え方
- 市場の評価を基準にする
- 類似企業との比較が前提となる
なぜマルチプル法が使われるのか
マルチプル法が広く使われている理由は、その客観性と簡便性にあります。市場データをもとに評価するため、一定の客観性を担保しやすく、計算も比較的シンプルです。
DCF法のように将来予測に大きく依存する手法と比べて、前提条件によるブレが少ない点も特徴です。
- 市場データを使うため客観性が高い
- 計算が比較的シンプルで扱いやすい
- 短時間で評価が可能
企業価値評価との関係
マルチプル法は、企業価値評価の中でも実務で最も頻繁に用いられる手法のひとつです。特にM&Aの初期検討やスクリーニングの段階では、迅速に概算の企業価値を把握するために活用されます。
また、EV(Enterprise Value)をベースにした評価と、株式価値ベースの評価の両方に対応できる点も特徴です。
EVベースのマルチプルでは事業価値を、PERなどの指標では株式価値を評価することになります。
- EVベース:事業価値の評価
- PER・PBR:株式価値の評価
- M&Aや投資判断の初期評価に活用される
企業価値を把握するうえで、マルチプル法は最も実務で使われている評価手法のひとつです。市場の評価を基準に企業価値を算出できるため、M&Aや投資判断において広く活用されています。
代表的な評価指標(マルチプル)
マルチプル法では、企業の価値を評価するためにさまざまな指標(倍率)が用いられます。これらの指標は、企業の収益力や成長性、資産価値など、どの側面を重視するかによって使い分けられます。
評価指標ごとに「何を基準に企業価値を測るのか」が異なるため、目的に応じた選択が重要です。
EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率は、マルチプル法の中でも最も代表的な指標であり、企業の収益力に対する事業価値の水準を示します。
EV(Enterprise Value)をEBITDAで割ることで算出され、企業の営業キャッシュフローに近い収益力に対して、どの程度の価値が付けられているかを把握できます。
例えば、EV/EBITDAが5倍であれば、「EBITDAの5年分で企業を回収できる水準」として理解されます。
この倍率は、投資家にとっての利回りや投資回収期間の目安としても活用され、数値が低いほど相対的に割安と判断される傾向があります。
- 事業価値(EV)ベースの指標
- 収益力との関係を把握できる
- M&Aや投資判断で広く使われる
PER(株価収益率)
PER(Price Earnings Ratio)は、株価が1株当たり利益(EPS)の何倍で評価されているかを示す指標です。株式価値ベースのマルチプルとして広く利用されています。
投資家にとっては、利益に対してどれだけの価格が支払われているかを示すため、株式投資における代表的な評価指標といえます。
ただし、財務構造の違いや一時的な利益の影響を受けやすいため、企業比較の際には注意が必要です。
- 株式価値ベースの指標
- 利益に対する市場評価を示す
- 投資判断で広く使われる
PBR(株価純資産倍率)
PBR(Price Book-value Ratio)は、株価が純資産(自己資本)の何倍で評価されているかを示す指標です。
企業の資産価値に対する評価を把握するために用いられ、特に金融業や資産重視の企業の分析で活用されます。
一般的にPBRが1倍を下回る場合は、純資産に対して割安と判断されることがあります。
- 純資産に対する評価を示す
- 資産価値ベースの指標
- 割安株の判断に用いられる
売上高倍率
売上高倍率は、売上高に対して企業価値(EV)や株式価値がどの程度の倍率で評価されているかを示す指標です。
利益が安定していない成長企業やスタートアップの評価において有効であり、将来の成長性を前提に企業価値を測る際に用いられます。
特に、赤字企業や投資フェーズにある企業では、利益指標よりも売上高が重視されることがあります。
- 成長企業の評価に適している
- 利益が出ていない企業でも使える
- 将来性を重視した評価が可能
KPIベースのマルチプル
近年では、特定のKPI(重要業績指標)を基にしたマルチプルも用いられるようになっています。特にSaaSやプラットフォームビジネスでは、売上や利益以外の指標が重視されるケースがあります。
例えば、ARR(年間経常収益)やユーザー数、LTV(顧客生涯価値)などを基準とした評価が行われることがあります。
こうした指標は、ビジネスモデルの特性を反映した評価が可能である一方で、標準化が難しいという課題もあります。
- 業界特有の指標を用いた評価
- 成長性や将来性を重視できる
- 比較の難しさがある
このように、マルチプル法では複数の指標を使い分けながら企業価値を評価します。単一の指標に依存するのではなく、企業の特性に応じて適切な指標を選択することが重要です。
マルチプル法の計算方法と実務フロー
マルチプル法はシンプルな評価手法として知られていますが、実務においては単に倍率を当てはめるだけではなく、いくつかの重要なステップを踏む必要があります。適切な比較対象の選定や指標の扱いによって、評価結果が大きく変わるためです。
マルチプル法は「誰と比べるか」と「どの数値を使うか」で結果が決まるといっても過言ではありません。
ピアグループの設定
最初のステップは、比較対象となるピアグループ(類似企業)の選定です。これはマルチプル法の中でも最も重要なプロセスであり、評価の精度を大きく左右します。
業種やビジネスモデル、規模、成長性、収益性などを総合的に考慮し、できるだけ条件の近い企業を選ぶことが求められます。
例えば、同じIT企業であっても、SaaS企業と受託開発企業では収益構造が大きく異なるため、単純に比較することは適切ではありません。
このように、ピアグループの設定は「見た目の類似性」ではなく「本質的なビジネスの類似性」を基準に行うことが重要です。
倍率の算出(中央値・平均値)
次に、選定したピアグループのマルチプル(倍率)を算出します。一般的には、EV/EBITDAやPERなどの指標を用い、それぞれの企業の倍率を計算します。
この際、単純な平均値だけでなく中央値を用いることも重要です。極端に高い値や低い値(外れ値)が含まれる場合、平均値は実態とかけ離れる可能性があるためです。
そのため、実務では中央値をベースにしつつ、必要に応じて平均値やレンジ(範囲)を併用して判断することが一般的です。
倍率の選定においては、単一の数値に依存するのではなく、複数の視点からバランスよく評価することが求められます。
企業価値(EV)の算出
ピアグループから導き出した倍率を用いて、対象企業の企業価値(EV)を算出します。例えば、EV/EBITDA倍率を用いる場合は、対象企業のEBITDAに倍率を掛けることでEVを求めることができます。
この段階では、対象企業の財務データの正確性や、一時的な要因の影響がないかを確認することが重要です。例えば、一時的な利益増減がある場合には、調整後のEBITDAを用いることがあります。
また、将来の成長性やリスクの違いによって、ピアグループの倍率をそのまま適用するのではなく、一定の調整を加えることもあります。
株式価値への変換
算出されたEVはあくまで事業価値であるため、最終的な株式価値(Equity Value)を求めるためにはネットデットを考慮する必要があります。
株式価値は「EV − ネットデット」で算出されます。
このプロセスにより、実際に投資家や買い手が支払うべき価格を把握することができます。
なお、ネットデットの定義や範囲によって評価額が変わるため、ここでも慎重な検討が必要です。
実務におけるポイント
マルチプル法はシンプルな手法である一方で、前提条件や判断の積み重ねによって結果が大きく変わります。そのため、単なる計算作業として扱うのではなく、各ステップの妥当性を検証しながら進めることが重要です。
- ピアグループの選定が最も重要な要素となる
- 中央値やレンジを活用して外れ値の影響を抑える
- 対象企業の数値は適切に調整する
- EVから株式価値への変換を正確に行う
このように、マルチプル法は一見シンプルでありながら、実務では高度な判断が求められる評価手法といえます。各ステップの意味を理解しながら活用することが、精度の高い企業価値評価につながります。
CCA(Comparable Company Analysis)とは
CCA(Comparable Company Analysis)とは、上場している類似企業の評価指標を用いて対象企業の価値を算出する手法であり、マルチプル法の代表的な実務アプローチのひとつです。
CCAは、実際の市場で評価されている企業データを基に企業価値を推定するため、現実的な評価を行える点が特徴です。
CCAの基本的な考え方
CCAでは、まず対象企業と類似する上場企業をピアグループとして選定し、それらの企業のEV/EBITDAやPERといったマルチプルを基に評価を行います。
上場企業は株価や財務情報が公開されているため、比較に必要なデータを取得しやすく、透明性の高い評価が可能です。
このように、CCAは「市場で実際に成立している評価水準」をベースに企業価値を算出する点に特徴があります。
CCAのメリット
CCAの大きなメリットは、実際の市場データを用いることで、一定の客観性を担保しやすい点にあります。DCF法のように将来予測に大きく依存しないため、前提条件によるブレを抑えることができます。
また、評価プロセスが比較的シンプルであるため、短期間で概算の企業価値を把握できる点も実務上の利点です。
- 市場データに基づくため客観性が高い
- 比較的短時間で評価が可能
- 初期検討やスクリーニングに適している
CCAの限界と注意点
一方で、CCAにはいくつかの限界も存在します。最も大きな課題は、完全に類似した企業を見つけることが難しい点です。業種が同じであっても、ビジネスモデルや成長性、収益構造が異なる場合、単純な比較は適切ではありません。
また、市場環境の影響を受けやすい点にも注意が必要です。株式市場が過熱している場合には評価が高くなり、逆に低迷している場合には過小評価につながる可能性があります。
- 完全に一致する比較対象が存在しない
- 市場環境に評価が左右される
- 個別企業の特性を反映しにくい
このように、CCAは非常に有用な手法である一方で、単独で使用するのではなく、DCF法や他の評価手法と組み合わせて活用することが重要です。複数の視点から企業価値を検証することで、より精度の高い評価が可能になります。
類似取引比較法(Precedent Transactions)
類似取引比較法(Precedent Transactions)とは、過去に実際に行われたM&Aの取引事例を基に、対象企業の価値を評価する手法です。マルチプル法の一種であり、実際の取引価格を反映した現実的な評価が可能です。
市場で成立した「実際の買収価格」を基準に評価する点が、類似取引比較法の大きな特徴です。
類似取引比較法の基本的な考え方
この手法では、対象企業と類似する業種・規模・ビジネスモデルの企業における過去のM&A取引を抽出し、その際に用いられたEV/EBITDAなどのマルチプルを参考に企業価値を算出します。
過去の取引事例には、買収プレミアムや交渉の結果が反映されているため、単なる市場価格とは異なる「実務的な価格水準」を把握することができます。
このように、類似取引比較法は「実際にいくらで売買されたか」という事実を基にした評価手法です。
CCAとの違い
類似取引比較法とCCA(Comparable Company Analysis)はどちらもマルチプル法に分類されますが、評価の基準となるデータが異なります。
CCAは現在の株式市場の評価を基にするのに対し、類似取引比較法は過去のM&A取引価格を基に評価を行います。
この違いにより、類似取引比較法ではコントロールプレミアム(支配権の価値)が含まれる点が大きな特徴です。
- CCA:市場価格ベースの評価
- 類似取引比較法:実際の取引価格ベースの評価
- 類似取引比較法はプレミアムを含む
コントロールプレミアムの影響
M&Aでは、企業の経営権を取得することに価値があるため、市場価格に対して一定のプレミアムが上乗せされることが一般的です。これをコントロールプレミアムといいます。
類似取引比較法では、このプレミアムが含まれた取引価格を基に評価するため、CCAよりも高い評価になる傾向があります。
そのため、単純に両者を比較するのではなく、それぞれの前提を理解したうえで使い分けることが重要です。
非流動性ディスカウントとの関係
一方で、未上場企業の評価においては、株式の流動性が低いことから非流動性ディスカウントが考慮されることがあります。
上場企業と比較して売買が難しいという点が評価に影響するため、類似取引比較法の結果をそのまま適用するのではなく、一定の調整が必要になる場合があります。
このように、プレミアムとディスカウントの両面を理解することで、より現実に即した企業価値を把握することができます。
マルチプル法のメリット・デメリット
マルチプル法は、企業価値評価において広く用いられる手法ですが、その特性上、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが重要です。評価のスピードや客観性に優れる一方で、前提条件によって結果が左右される側面もあります。
マルチプル法は実務で使いやすい反面、使い方を誤ると精度が下がる手法です。
マルチプル法のメリット
マルチプル法の最大のメリットは、評価の簡便性と客観性にあります。市場データを基に評価を行うため、一定の根拠を持った価格水準を短時間で把握することが可能です。
特に、M&Aの初期検討や複数案件の比較検討においては、迅速に企業価値を算出できる点が大きな強みとなります。
- 計算がシンプルで短時間で評価できる
- 市場データに基づくため客観性が高い
- 複数企業の比較がしやすい
- 初期検討やスクリーニングに適している
マルチプル法のデメリット
一方で、マルチプル法は比較対象の選び方や市場環境に大きく依存するため、評価結果にばらつきが生じる可能性があります。特に、適切なピアグループを設定できない場合には、実態とかけ離れた評価になるリスクがあります。
また、市場が過熱している局面では企業価値が過大評価されやすく、逆に低迷している局面では過小評価につながる可能性もあります。
- ピアグループの選定に依存する
- 市場環境の影響を受けやすい
- 個別企業の特性を反映しにくい
- 短期的な市場動向に左右される
メリット・デメリットを踏まえた使い方
マルチプル法を適切に活用するためには、メリットとデメリットの両方を踏まえたうえで、他の評価手法と組み合わせることが重要です。
例えば、DCF法による理論的な評価とマルチプル法による市場ベースの評価を併用することで、よりバランスの取れた企業価値を導き出すことができます。
また、単一の指標に依存するのではなく、EV/EBITDAやPERなど複数のマルチプルを比較することで、評価の精度を高めることが可能です。
- DCF法と併用して評価の精度を高める
- 複数のマルチプルを使い分ける
- 前提条件や市場環境を考慮する
このように、マルチプル法は非常に有用な手法である一方で、適切な使い方が求められる評価手法です。特性を理解したうえで活用することが、精度の高い企業価値評価につながります。
M&Aにおけるマルチプル法の使い方
前章で紹介した類似取引比較法などの考え方を踏まえ、ここでは実際のM&Aにおいてマルチプル法がどのように使われるのかを解説します。
M&Aにおいてマルチプル法は、企業価値を迅速に把握し、価格の妥当性を判断するための重要な手法です。特に初期検討や交渉の場面では、シンプルかつ実務的な判断材料として広く活用されています。
M&Aでは、マルチプル法を用いて企業価値の目安を把握し、その上で最終的な取引価格を決定していきます。
EVベースでの評価
M&Aでは、企業全体の価値を評価する必要があるため、EV(Enterprise Value)をベースとしたマルチプルが中心的に用いられます。中でもEV/EBITDA倍率は、収益力に対する企業価値を測る指標として広く活用されています。
EVベースの評価を行うことで、企業の財務構造の違いを考慮しながら、より公平な比較が可能になります。
この評価により、「対象企業が市場水準と比較して割安か割高か」を判断することができます。
コントロールプレミアムの考慮
M&Aでは、単なる株式の取得ではなく経営権の取得が伴うため、市場価格に対して一定のプレミアムが上乗せされることが一般的です。これをコントロールプレミアムといいます。
マルチプル法で算出した企業価値はあくまで市場ベースの評価であるため、最終的な取引価格を検討する際には、このプレミアムを考慮する必要があります。
特に、成長性が高い企業や競争力のある事業を持つ企業では、プレミアムが大きくなる傾向があります。
非流動性ディスカウントの適用
未上場企業のM&Aでは、株式の流動性が低いことから、非流動性ディスカウントが適用されることがあります。これは、自由に売買できないことによる価値の低下を反映するものです。
上場企業のマルチプルをそのまま適用すると過大評価となる可能性があるため、一定の調整を行うことが重要です。
このように、プレミアムとディスカウントの両面を適切に考慮することで、より現実に即した評価が可能になります。
事業外資産の調整
M&Aにおいては、事業価値と資産価値を明確に分けて評価することが重要です。特に、遊休不動産や投資有価証券などの事業外資産は、本業の収益力とは切り離して考える必要があります。
マルチプル法によって算出されたEVは基本的に事業価値を示すため、事業外資産は別途加算または調整されることが一般的です。
この調整により、より正確な株式価値を算出することができます。
実務における活用のポイント
マルチプル法は、M&Aのさまざまな局面で活用されますが、単独で使用するのではなく、他の評価手法と組み合わせることが重要です。特に、DCF法による理論的な評価と併用することで、より精度の高い意思決定が可能になります。
また、複数のマルチプルを比較しながら評価を行うことで、価格の妥当性を多角的に検証することができます。
- 初期検討ではマルチプル法で概算を把握する
- DCF法と併用して精度を高める
- 複数の指標を使ってバランスよく判断する
このように、マルチプル法はM&Aにおける価格判断の基盤となる手法であり、実務では欠かせない存在です。適切に活用することで、より合理的な意思決定につなげることができます。
実務では、CCAや類似取引比較法で算出した複数のマルチプルを比較しながら、最終的な価格レンジを設定することが一般的です。
注意点と失敗しないためのポイント
マルチプル法はシンプルで実務でも使いやすい評価手法ですが、その分、前提条件や使い方によって評価結果が大きく変わる可能性があります。正しく活用するためには、いくつかの重要なポイントを理解しておく必要があります。
マルチプル法は「便利な手法」である一方、「前提に依存する手法」であることを意識することが重要です。
ピアグループの選定を誤らない
マルチプル法において最も重要なのが、ピアグループの選定です。比較対象となる企業が適切でなければ、どれだけ正確に計算しても評価結果は意味を持ちません。
業種が同じであっても、ビジネスモデルや収益構造、成長性が異なる場合は単純な比較が適切でないケースもあります。
そのため、見た目の類似性ではなく、収益の源泉やビジネスの構造まで踏まえて選定することが重要です。
単一のマルチプルに依存しない
EV/EBITDAやPERなど、特定の指標だけに依存して企業価値を判断すると、偏った評価につながる可能性があります。企業の特性によって適切な指標は異なるため、複数のマルチプルを併用することが望ましいです。
例えば、成長企業では売上高倍率が有効である一方、成熟企業ではEV/EBITDAの方が適している場合があります。
このように、評価対象に応じて指標を使い分ける視点が重要です。
市場環境の影響を考慮する
マルチプル法は市場データを基にするため、景気や株式市場の状況に大きく影響を受けます。市場が過熱している場合には企業価値が過大評価されやすく、逆に低迷している場合には過小評価につながることがあります。
そのため、現在の市場環境がどのような状態にあるのかを踏まえて評価を行うことが重要です。
単純な数値の比較ではなく、「その倍率が妥当かどうか」を判断する視点が求められます。
一時的な要因を排除する
企業の業績には、一時的な利益や損失が含まれることがあります。これらをそのまま評価に用いると、実態とは異なる企業価値が算出される可能性があります。
例えば、一時的な売却益や特殊要因による利益増減は、本来の収益力を反映していないため、調整した数値を用いることが望ましいです。
継続的な収益力に基づいて評価を行うことが、精度の高い企業価値算出につながります。
他の評価手法と併用する
マルチプル法は単独でも有用な手法ですが、DCF法などの他の評価手法と併用することで、よりバランスの取れた評価が可能になります。
市場ベースの評価と理論ベースの評価を組み合わせることで、過大評価や過小評価のリスクを抑えることができます。
- ピアグループの選定が評価の精度を左右する
- 複数のマルチプルを併用することが重要
- 市場環境の影響を考慮する必要がある
- 一時的な要因を除外して評価する
- DCF法などと併用して精度を高める
このように、マルチプル法は非常に実務的で有用な手法ですが、その前提や限界を理解したうえで活用することが重要です。適切に使いこなすことで、より精度の高い企業価値評価が可能になります。
マルチプル法に関するよくある質問(FAQ)
マルチプル法についてよくある疑問を整理します。
マルチプル法とは何ですか?
マルチプル法とは、類似企業の評価指標(EV/EBITDAやPERなど)を基に、対象企業の価値を相対的に評価する手法です。マーケットアプローチに分類され、実務でも広く利用されています。
- 類似企業との比較で価値を評価する
- マーケットアプローチの代表的手法
DCF法との違いは何ですか?
DCF法は将来のキャッシュフローを基に企業価値を算出する手法であるのに対し、マルチプル法は市場の評価を基に相対的に企業価値を判断します。
- DCF法:将来予測ベースの評価
- マルチプル法:市場比較による評価
EV/EBITDA倍率とは何ですか?
EV/EBITDA倍率とは、企業の事業価値(EV)が収益力(EBITDA)の何倍で評価されているかを示す指標です。投資回収期間や利回りの目安としても活用されます。
- 企業価値と収益力の関係を示す
- M&Aや投資判断で広く使われる
PERやPBRとの違いは何ですか?
EV/EBITDAは事業価値ベースの指標であるのに対し、PERやPBRは株式価値ベースの指標です。評価対象が異なるため、目的に応じて使い分ける必要があります。
- EV/EBITDA:事業価値ベース
- PER・PBR:株式価値ベース
マルチプル法はどのような場面で使われますか?
マルチプル法は、M&Aの初期検討や企業価値評価、投資判断などで使われます。特に、複数の企業を比較する場面で有効です。
- M&Aの価格算定
- 企業価値評価
- 投資判断
マルチプル法の弱点は何ですか?
マルチプル法は比較対象や市場環境に依存するため、評価結果が変動しやすいという弱点があります。そのため、DCF法など他の手法と併用することが重要です。
- ピアグループの選定に依存する
- 市場環境の影響を受ける
まとめ|マルチプル法を理解して企業価値評価に活かそう
マルチプル法(類似会社比較法)は、類似企業の評価指標を基に企業価値を相対的に評価する手法であり、マーケットアプローチの代表的な考え方です。EV/EBITDAやPERなどの指標を用いることで、実際の取引水準を反映した現実的な企業価値を把握することができます。
また、CCAや類似取引比較法といった手法を通じて、上場企業の評価水準や実際のM&A取引価格を参考にすることで、より実務に即した判断が可能になります。一方で、ピアグループの選定や市場環境の影響など、前提条件によって評価が変わる点には注意が必要です。
本記事のポイントは以下の通りです。
- マルチプル法は「相対評価」によって企業価値を算出する手法
- EV/EBITDAやPERなどの指標を使い分けることが重要
- CCAや類似取引比較法によって実務的な評価が可能になる
- コントロールプレミアムや非流動性ディスカウントを考慮する必要がある
- DCF法など他の手法と組み合わせて検証することで評価の精度が高まる
マルチプル法はシンプルで実務に適した手法である一方で、前提条件や使い方によって結果が大きく変わる評価手法でもあります。正しく理解し、他の評価手法と組み合わせながら活用することで、より精度の高い企業価値評価につなげることができます。
TRANBIでは、さまざまなM&A案件を掲載しており、実際の企業価値や取引水準を参考にしながら比較・検討することが可能です。実務に近い形で企業価値評価を理解したい方は、ぜひ活用してみてください。