PER・PBR・ROE・ROAとは?関係・違い・計算式をわかりやすく解説
PER・PBR・ROE・ROAの違いと関係を、M&Aや企業価値評価の実務目線でわかりやすく解説します。「PBR=PER×ROE」の関係式や4指標の使い分け、計算式・目安を一覧表で整理。赤字企業でも評価される理由など、スモールM&Aに役立つ考え方も紹介します。
- 01 M&A・企業価値評価で使われる主要な財務指標とは
- PBR(株価純資産倍率)とは
- BPS(1株当たり純資産)とは
- EPS(1株当たり純利益)とは
- PER(株価収益率)とは
- ROE(自己資本利益率)とは
- ROA(総資産利益率)とは
- ROIC(投下資本利益率)とは
- 02 指標は「単体」ではなく「組み合わせ」で見る
- PER・PBR・ROEの関係|「PBR=PER×ROE」で覚える
- PER・PBR・ROE・ROAの違い一覧表
- ① PBR・BPSは「解散価値」ではなく「下限ライン」として見る
- ② ROEは「経営者依存度」を疑う指標
- ③ ROAは「設備・在庫・運転資本の重さ」を測る
- ④ EPS・PERは「将来の回収期間」に置き換える
- ⑤ ROICは「買収後の伸び代」を測る指標
- 指標は「減点法」ではなく「仮説検証の入口」
M&Aや事業承継、企業分析の場面では、「この会社は本当に価値があるのか」「収益性は十分か」といった判断が欠かせません。その際に使われるのが、PBRやROE、PERといった財務指標です。
これらは株式投資の指標として知られていますが、非上場企業やスモールM&Aの評価でも考え方は非常に有効です。本記事では、代表的な指標を一つずつわかりやすく解説します。
M&A・企業価値評価で使われる主要な財務指標とは
PBR(株価純資産倍率)とは
PBR(Price Book-value Ratio)は、企業の株価が純資産の何倍で評価されているかを示す指標です。
※PBRが1倍を下回る場合、「純資産よりも低い評価」で取引されていることを意味します。M&Aの文脈では、帳簿上の資産価値に対して、事業価値がどの程度評価されているかを見る目安になります。
なお、PBRの目安は何倍が適正か、PBR1倍割れの意味や東証の改善要請まで、PBR単体の見方を詳しく知りたい方は、「PBRの目安は何倍?1倍割れの意味・適正水準をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
BPS(1株当たり純資産)とは
BPS(Book-value Per Share)は、企業の純資産を発行済株式数で割ったものです。
※BPSは「会社を解散した場合に、理論上1株あたりいくら残るか」を示す数値であり、PBRの計算に欠かせません。
スモールM&Aでは、過度に低いBPS=財務体質に課題がある可能性としてチェックされます。
EPS(1株当たり純利益)とは
EPS(Earnings Per Share)は、企業が1株あたりどれだけの利益を生み出しているかを示す指標です。
※EPSが成長している企業は、事業が拡大し、収益力が高まっていると評価されます。M&Aでは、将来の利益創出力を測る基礎指標として活用されます。
なお、EPSの目安やマイナスの意味、PERとの関係まで詳しくは、「EPSとは?計算式・目安・マイナスの意味・PERとの関係をわかりやすく解説」で解説しています。
PER(株価収益率)とは
PER(Price Earnings Ratio)は、株価が利益の何年分に相当するかを示します。
※PERが高い場合は「将来の成長期待が高い」、低い場合は「割安」または「成長性に懸念がある」と判断されます。
非上場企業でも、「利益の何年分で買収するか」という考え方は、譲渡価格交渉の目安としてよく使われます。
なお、PERの目安は何倍が妥当か、適正水準の考え方について詳しくは、「PERの目安は何倍?15倍は妥当?適正PERの考え方を解説」で解説しています。
ROE(自己資本利益率)とは
ROE(Return on Equity)は、自己資本を使ってどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標です。
※ROEが高い企業は、少ない自己資本で高い利益を出していると評価されます。買い手側から見ると、経営効率の良さや経営者の力量を測る重要な指標となります。
ROA(総資産利益率)とは
ROA(Return on Assets)は、企業が保有するすべての資産を使って、どれだけ利益を生み出しているかを示します。
※ROEが「株主目線」の指標であるのに対し、ROAは「会社全体の資産効率」を見る指標です。
設備投資型の事業や在庫を多く持つ業種では、ROAの低下が経営課題として現れやすくなります。
ROIC(投下資本利益率)とは
ROIC(Return on Invested Capital)は、事業に投下した資本に対して、どれだけ効率的に利益を生んでいるかを見る指標です。
※ROICは、事業単位での収益性を測れる点が特徴で、近年はM&A評価において特に重視されています。
買収後のシナジーや資本効率改善を検討する際の重要な判断材料となります。
なお、ROE・ROA・ROICを軸にした資本効率経営の実践ポイントについては、「ROE・ROA・ROICで読み解くM&A戦略|資本効率経営の実践ポイント」で詳しく解説しています。
指標は「単体」ではなく「組み合わせ」で見る
これらの指標は、ひとつだけで企業価値を判断するものではありません。
PBR×ROE、PER×EPS、ROIC×成長率など、複数の指標を組み合わせることで、より立体的に企業の実力が見えてきます。
スモールM&Aや事業承継においても、「数字が苦手だから」と避けるのではなく、基本的な意味を理解しておくことが、納得のいく取引につながります。
財務指標は便利なものですが、M&Aの現場、特にスモールM&Aではそのまま鵜呑みにしないことが重要です。特に買い手は指標を「答え」ではなく、「仮説を立てるための材料」として読み替えています。
PER・PBR・ROEの関係|「PBR=PER×ROE」で覚える
PER・PBR・ROEは、別々の指標に見えて、実は1つの式できれいにつながっています。複数の指標を組み合わせて見るうえで、まず押さえておきたいのがこの関係式です。
株価純資産倍率
株価収益率
自己資本利益率
なぜこの式が成り立つのか、1株あたりの数値で分解するとよくわかります。
共通するEPS(1株当たり純利益)が約分され、「株価÷BPS」、つまりPBRになります。この関係から、次のような見方ができます。
- ROE(効率)が高い企業は、同じPER(割安度)でもPBRが高くなる=市場から高く評価されやすい
- 逆にPBRが1倍を割れている企業は、「PER×ROEが低い」状態。利益効率(ROE)か成長期待(PER)のどちらか、あるいは両方に課題があると読める
東証が近年求めている「PBR1倍割れの改善」も、突き詰めればROE(資本効率)の向上がカギになります。3つの指標を単体で眺めるのではなく、この関係式でつなげて見ることで、企業価値の構造が立体的に見えてきます。
PER・PBR・ROE・ROAの違い一覧表
M&Aや企業価値評価でよく一緒に使われる4指標を、「何を見る指標か」で整理すると、それぞれの役割の違いがはっきりします。
| 指標 | 計算式 | 何を見るか | 目安の一例 |
|---|---|---|---|
| PER 株価収益率 |
株価 ÷ EPS | 利益に対する割安・割高(何年分の利益で元が取れるか) | 15倍前後 |
| PBR 株価純資産倍率 |
株価 ÷ BPS | 純資産に対する割安・割高(1倍が下限ラインの目安) | 1倍以上 |
| ROE 自己資本利益率 |
当期純利益 ÷ 自己資本 | 株主が出した資本をどれだけ効率的に使えているか(株主目線) | 8〜10%以上 |
| ROA 総資産利益率 |
当期純利益 ÷ 総資産 | 借入も含めた会社全体の資産をどれだけ効率的に使えているか(会社全体) | 5%前後 |
ざっくり整理すると、PER・PBRは「株価が割安か・割高か(バリュエーション)」を、ROE・ROAは「会社が資本・資産を効率よく使えているか(収益性)」を見る指標です。さらにROEとROAの間には、ROE = ROA × 財務レバレッジ(総資産÷自己資本)という関係があり、ROEが高くてもROAが低い場合は「借入を効かせて効率を高めている」状態と読み解けます。
※目安はあくまで一般的な一例で、適正水準は業種や成長段階によって大きく異なります。PBR・PERそれぞれの目安の詳しい考え方は、PBRの目安の記事・PERの目安の記事もあわせてご覧ください。
① PBR・BPSは「解散価値」ではなく「下限ライン」として見る
PBRやBPSは、「この会社を解散したらいくら残るか」という視点で語られがちですが、買い手は買収判断の下限ラインとして見ることが多いです。
- BPSが極端に低い
- PBRが1倍を大きく下回っている
こうした場合、「事業そのものに問題があるのではないか」「資産の実在性は大丈夫か」といったリスクチェックの起点になります。一方で、PBRが低い=即お得、とは判断しません。
② ROEは「経営者依存度」を疑う指標
ROEが高い企業は一見魅力的ですが、買い手は必ずこう考えます。
「このROEは、誰が生み出しているのか?」
オーナー社長の営業力や人脈に強く依存している場合、買収後にROEが維持できない可能性があります。
そのため、ROEは「経営効率」ではなく、属人性の有無を見抜くための指標として読み替えられます。
③ ROAは「設備・在庫・運転資本の重さ」を測る
ROAが低い場合、買い手は「利益が出ていない」のではなく、
- 設備が重すぎないか
- 在庫や売掛金が膨らんでいないか
- キャッシュフローを圧迫していないか
といった資産構造の歪みを疑います。
特にスモールM&Aでは、「黒字だが現金が回らない会社」は敬遠されがちです。
④ EPS・PERは「将来の回収期間」に置き換える
非上場企業のM&Aでは、PERは次のように読み替えられます。
「この利益水準が続くとして、何年で投資回収できるか」
PERが低くても、利益が一過性であれば意味がありません。
買い手はEPSの安定性・再現性・伸びしろを重視し、「将来も続く利益かどうか」を慎重に見ています。
⑤ ROICは「買収後の伸び代」を測る指標
ROICは、買い手にとって非常に実務的な指標です。
- 自社のノウハウを入れたら改善できそうか
- コスト構造を変えれば伸ばせるか
- 他事業とのシナジーが出せるか
つまりROICは、「今の評価」ではなく、買収後に価値を高められる余地があるかを測る指標として使われます。
指標は「減点法」ではなく「仮説検証の入口」
実務において買い手は、「数字が悪いからNG」ではなく、以下のような仮説検証の入口として指標を使います。
- なぜこの数字なのか
- 改善余地はどこか
- 自分が引き継いだらどう変わるか
だからこそ、売り手にとっても「完璧な数字」より、「説明できる数字」を用意することが重要なのです。
赤字でも買われる会社の数字の特徴
M&Aの現場では、「黒字=売れる、赤字=売れない」という単純な図式は成り立ちません。
特にスモールM&Aでは、赤字でも積極的に買われる会社が一定数存在します。そこには、買い手が重視する“数字の特徴”があります。
① 営業利益は赤字でも「粗利構造」が健全
まず見られるのが、粗利(売上総利益)の水準と構造です。
人件費や販促費の影響で営業利益が赤字になっていても、
- 売上総利益率が安定している
- 原価構造が明確で、改善余地がある
場合、買い手は「経営のやり方次第で黒字化できる」と判断します。
このときROAやROICは低く見えても、事業モデル自体が成立しているかが重視されます。
② キャッシュフローが極端に悪くない
赤字企業でも、キャッシュフローが致命的に悪化していない場合は評価されます。
- 売掛金・在庫が過剰でない
- 運転資本が比較的軽い
- 借入返済が過度でない
こうした企業は、ROAやROICが低くても、「資金繰りを改善すれば持ち直せる」と見られます。
逆に、黒字でもキャッシュが回らない会社は敬遠されがちです。
③ 一時的要因による赤字であることが説明できる
買い手はEPSやPERを“過去の結果”としては見ません。
重要なのは、「赤字の理由が一時的か」「その要因が解消されつつあるか」です。
たとえば、先行投資・人材採用・設備更新などが原因であれば、将来の利益回復を前提に評価されます。
④ 固定費を下げれば利益が出る構造になっている
赤字でも買われる会社は、多くの場合、「固定費を下げれば、すぐに利益が出る構造」を持っています。
これはROEやROICを改善できる余地が大きいことを意味します。
買い手は「今の数字」ではなく、「自分が経営した後の数字」を想像しています。
⑤ 属人性が低く、引き継ぎやすい
最後に重要なのが、数字に表れにくいが実務で重視される点です。
- 特定の個人に依存していない
- 業務が仕組み化されている
- 引き継ぎ後も数字が再現できそう
この場合、たとえROEやEPSが低くても、「買収後に改善できる」と判断されやすくなります。
赤字=不利ではない。説明できる数字が価値になる
赤字企業が買われるかどうかは、「黒字か赤字か」ではなく、以下を数字で説明できるかどうかにかかっています。
- なぜこの数字なのか
- どう変えられるのか
- 買収後にどこが伸びるのか
買い手は、数字の裏にある“伸び代”を探しているのです。
まとめ──財務指標は「評価」ではなく「対話の入り口」
PBR、ROE、ROA、PER、EPS、ROIC、BPSといった財務指標は、M&Aにおいて非常に重要な判断材料です。しかし実務の現場では、これらの指標は「良い・悪い」を決めるための絶対的な基準ではありません。
買い手が見ているのは、「なぜこの数字になっているのか」、「どこに課題があり、どこに伸び代があるのか」、そして「買収後にどのように変えられるのか」という点です。
そのため、たとえ赤字であっても、
- 粗利構造が健全である
- キャッシュフローが致命的に悪くない
- 一時的な要因で説明できる赤字である
- 固定費を見直せば利益が出る構造になっている
といった特徴を持つ会社は、十分に「買われる対象」になります。
一方で、黒字であっても、属人性が強すぎる、資産構造が歪んでいる、将来の再現性が見えないといった場合には、評価が伸び悩むことも少なくありません。
財務指標とは、会社の価値を一方的に決めるものではなく、買い手と売り手が将来像をすり合わせるための共通言語です。
数字を「整える」ことよりも、「説明できる状態」にしておくことこそが、M&Aを前向きに進める最大のポイントと言えるでしょう。