2022-08-23

断られても諦めない!不可能と思われた認可外保育園を譲渡できた女性の強い信念

売り手(個人):久我 直子さん(50代)

<個人の事業売却・スモールM&A事例>

 

東京都世田谷区・明大前にある認可外保育園「はぴはぴ保育園」。保護者の負担軽減を考えた「手ぶら保育」や、子どもたちの自主・自立を目的としたオリジナルカリキュラムなどを導入し、地域のご家庭を手厚く支えてきました。

しかし、2019年9月のオープン直後に新型コロナウイルスが発生。保育園も大きな影響を受けますが、認可外のため国の補助金も下りず、運営は徐々に苦しい状況に。そこで事業譲渡を視野に入れ、TRANBIを利用することになりました。

その結果、幼稚園を運営する学校法人への譲渡がスピーディーに決定。さまざまな条件にぴったり合う、理想的なM&Aを成功させました。「本当に運が良かった」と語る代表の久我さんに、今回の事業譲渡について詳しく伺います。



(今回譲渡した「はぴはぴ保育園」)

【経営不振、過労による緊急搬送……閉園か譲渡の2択に】

- はじめに、久我さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
中学生の頃から子どものお世話をする機会が多く、専門学校に通っている頃はディズニーランドで働いていました。そこで見る子どもたちの笑顔は、本当にキラキラした宝物。「子どもたちを笑顔でいっぱいにしたい」という思いは、その頃からずっと強く持っています。

実は以前、大道芸人もやっていました。ただ、年齢とともに仕事はなくなってきますし、福祉の道に進もうと。介護か保育かで迷った時に、やっぱり私が元気をもらえるのはお子さんからだと思ったんです。保護者の方と一緒に成長も共有できますから。

そこで、いろいろな保育園で保育補助として勤めた後、保育士の資格を取ろうと決意しました。40代の挑戦だったので一発合格しかないと思い、1日10時間くらい働きながら勉強。初めてのピアノも運良く当時の担任の先生が教えてくださって、無事に合格を勝ち取ることができました。

その後、給与の面から大手の保育園で勤めましたが、グループ内の園を転々とすることになりました。やっと子どもたちと信頼関係が築けたのに異動、というのがすごく嫌で。一つの園でずっと卒園までお世話したいと思うようになりました。 それで自ら保育園をつくる起業を決意しました。運よくいい物件が見つかり、タイミング良く融資も下りたので、2019年9月、世田谷区明大前に認可外保育園を立ち上げることになりました。

- 園の特徴や、ビジネスモデルとしての強みはどこにありましたか?
お子様を安心・安全にお預かりすることは当たり前ですよね。ですので、私は保護者の方に対するサービスレベル向上を狙いました。ウリは「手ぶら保育」。何も持ってこなくてOK、おむつやミルクも園で提供しますし、そのままスムーズに仕事に行けますよと。

もう一つはカリキュラムの充実です。世田谷区は教育熱心な保護者の方が多いので、英語のリトミック(音楽教育)をウリにしました。ありがたいことに職員みんな英語を喋れたんですよ、私以外(笑)。

- そうなのですね(笑)、今回、譲渡を決めたきっかけや理由を教えてください。
2019年9月に園を立ち上げて、12月にはコロナの感染拡大が始まりました。だからタイミングがちょっと悪かったのかなと。

認可保育園は国から守られていますが、認可外は補助金も何もなく、運営費は保護者の方からいただく保育料のみ。私自身初めての経営でしたし、特に人件費と家賃の固定費が大きな負担になりました。立地がいい分、家賃はすごく高かったんです。園児に対して保育士の数は決められているので、人も減らせません。

変異株が発生してからはずっと低迷状態だったので、販路拡大としてベビーシッター業も始めましたが、なかなか難しい。でも、職員を守らなければいけない、子どもたちの居場所を残さなくてはいけない。そんな思いに駆られ、事業譲渡を検討し始めました。

- 事業譲渡を決意した一番の理由は何でしたか?
一番は資金の問題です。これ以上は融資できないと言われましたし、助成金を申請してもいつ入ってくるか分からない。毎回事業計画を修正しながら運営していたので、これでは難しいと。2021年8月に資金がショートしそうになり、その時はたまたま入ってきた助成金でつなぎましたが、コロナはまだ当面収束しないだろうと考えていました。

また、私自身の体調不良も背景にあります。過労で倒れ、救急搬送されることが多かったので、もうこれ以上体がもたないかもと。だから、閉園するか譲渡するか、選択肢はこの2つしかなかったわけです。



(「はぴはぴ保育園」で楽しむ子供たち①)

【問い合わせ数は目標の4倍!しかし賃貸店舗オーナーが最大の壁に】

- 具体的にどのように行動し、TRANBIを使い始めましたか?
2021年9月、まずは日本政策金融公庫さんに登録しました。「事業承継マッチング支援」というサービスを提供していて、サイト上に情報を載せてくれます。ただ、今はかなり譲渡希望の事業者が多く、私が急いでいるということもあって、同じ国の支援機関である「東京都事業承継・引継ぎ支援センター」も紹介してもらいました。

センターでの最初の面談では、保育園をM&Aしたい相手は結構いると聞きました。しかし、実際の皆さんの希望は認可保育園。認可保育園なら、園児1名当たり約20万円の補助金が国から出ますし、運営費や改修工事費も補助してもらえるメリットがありますから。当園は認可外+赤字だったので、5件ぐらい興味を持つ買い手がいらっしゃったのですがすべて断られてしまいました。

そして2回目の面談で民間のプラットフォームもいいところがあると、TRANBIを紹介してもらい、即登録。担当の方も信頼性があるとおっしゃっていましたし、実際にこれまで紹介した際の成約率やスピード感を見て、私には合っているのではと。他社サービスも教えていただきましたが、私も当時色々と走り回っていたので、TRANBI一点集中型で利用することにしました。

M&Aに挑戦する登録者数10万人以上、常時M&A案件数は2,500件以上を掲載中
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- その後売却に至るまで、どのように進んでいきましたか?
最初は手探りでしたが、まずは情報を一通り入力しました。こちらの情報をできる限り正直に登録し、買い手さんにどんなイメージなのかをすぐ想像いただけるようにしました。申し込みが入ったら、できる限り翌日までには返信するようにしていました。

最終的なお申し込みは20件ほど。正直、ここまで来るとは思っていませんでした!最初から認可外保育園と書いていましたし、需要はないだろうなと。自分の中では5件程度を目標にしていたので、とても驚きました。

お申し込みがあった方には、資金繰り表や改善計画書などをお見せし、トップ面談で直接お話しさせていただきました。その上で候補に残ったのは、今回引き継いだ学校法人さんともう1社、あとは個人の税理士さん1名です。

- その中で、今回の相手に決めた理由を教えてください。
まずは「お子様のために、保護者様のために」という理念が合致したこと。それからスピード感ですね。12月末までに譲渡先が決まらなければ閉園と職員にも伝えていましたし、もう時間がなかったので。

今回の法人様は北海道を拠点としていますが、理事長が東京にいらっしゃったので、何度も園に直接足を運んでくださいました。「早急に進めましょう、子どもたちのために」とのことで、私もこの人だったらと思いました。

そして何より、不動産のオーナーが“首を縦に振ってくれた”唯一の相手だったことも決め手です。今回のM&Aを通じて、一番ネックになったのはこの点でしたから。

- 最大の壁は園の場所を借りている不動産のオーナーだったということでしょうか?
はい。テナントを借りていたので、オーナーが認めなければ話が進まないわけですが、それまでに紹介しようとした買い手さんは全員NO。挨拶のアポすら取り付けられずに断念しました。当然ですが、すごく慎重に相手を選ぶ方だったんです。

ところが、今回は初めて「会うだけならいいですよ」と。幼稚園を経営している学校法人ですから、同業種の安心感もあったのでしょう。私は挨拶だけのつもりでしたが、その法人様は経営している園のパンフレットを全部用意して、事業について自らアピールしてくださって。結果的に、無事にOKをいただき話が固まりました。



(「はぴはぴ保育園」で楽しむ子供たち②)

【他では何度も断られた認可外保育園が事業譲渡へ!】

- 今回の譲渡金額について、希望では500〜750万円、最終的には273万円で成約されています。こちらはどのように決まったのでしょうか?
税理士さんからは当初難しいと言われましたが、色々な数字の出し方があるとも提案してくれました。一つ目は、これまでの負債を買い取ってもらうパターン。二つ目は、園のハコとしての現状価値を算出するパターン。そして三つ目は、完全にゼロというものです。

事業承継・引継ぎ支援センターの方からは数千万円での提示を勧められましたが、それはさすがに気が引けました。立地は良いので、コロナが収束すればまた軌道に乗ることは分かっていましたが、まだ見通しが立ちませんから。

そこで顧問の税理士さんとも相談し、三つのうち真ん中の金額が妥当だろうと、敷金分と合わせて300万円で打診しました。負債は私が引き取り、その分少しだけ上乗せした形です。そこから事業承継・引継ぎ支援センターから斡旋いただいた弁護士さんの契約関連の対応費用が引かれ、手元に入ってきたのが273万円ということです。

私としてはとても満足いく金額でした。他の買い手さんたちはみんな100万円の提示で、正直それでは現在の人件費が払えないなと。だから私は本当に運が良かったんですよ。同業種で理念や熱意も同じ、スピード感もある、不動産オーナーさんからの印象もいい、金額面でも希望に近いところで決まった、と。本当に理想的な相手に出会えたと思っています。

- 買い手さんとしては、どんなところに魅力を感じたのでしょうか?
あちらは北海道で幼稚園を経営されていますが、東京進出を狙っていたのだそうです。もともとずっと世田谷区にお住まいでしたが、他界されたお母様の跡を継ぐために、一度は北海道にお引っ越しされたと。でも、生まれ育った世田谷区でやりたいという思いがあったこと、また地理にも詳しかったことから、当園の立地の良さを理解していただけました。

- 今回利用したTRANBIの印象や、活用の工夫があれば教えてください。
数字の入力で戸惑った面はありましたが、それ以外はスムーズに利用できました。初心者向けに用意している「売り手様向けM&Aガイド」に掲載されている、返信用のテンプレートが充実していたこともありがたかったです。忙しい中で一から文章を作らずに済みますし、返信が遅れる場合もひとまず連絡できたので、失礼なくやり取りができたと思います。

ヘルプもよく見ていましたね。どうしたら皆さんに見ていただけるか、そうした工夫の参考にしようと。お知らせメールも全部オンにして情報を受け取り、皆さんの成功事例を真似することもありました。どんな人が成約しているかを知るために、まさにこのインタビュー事例もチェックしていましたよ。



(「はぴはぴ保育園」で楽しむ子供たち③)

【常に収支を把握し早めの判断・判断を!】

- これから事業譲渡に挑戦される方へ、アドバイスをお願いします。
まずは、日常的に収支をつけておくこと。簡単でもいいですから、常にお金の状況を把握しておくことが自分のためにも大切です。そうすれば何事にも早めに対処できます。売り手側ならTRANBIに載せるのは無料なので、早めに動くデメリットはありません

これは私自身に言い聞かせている部分もあって、今回の譲渡も本来であればもっと早く、半年前には始めるべきだったなと。事業承継には時間がかかりますから、間に合わなければ負債だけが残り、その後何もできなくなってしまいます。

また、不動産オーナーとの信頼関係は大事ですね。今回はそこが一番のネックになりましたから。私は運良くいい方向に進みましたが、そこで交渉がストップしてしまうと大変です。

- 最後に、今の思いやこれから挑戦したいことを教えてください。
はぴはぴ保育園は最初の保育園でしたし、お子さんもみんな可愛くて、思い入れもありました。現在私は「はぴはぴベビーシッター」としてサイトの作って再出発し、たくさんのご依頼をいただいていますが、保護者の方からは今も「はぴはぴ保育園が良かった」「二番館を作ってください」と言われるんです。本当に嬉しい話ですよね。

だから私は諦めたわけではありません、野望があります!今度は反省を活かして、自宅兼一階に小さな保育園を作ろうと。すでに今、物件を探しているんですよ。経験は全部マイナスじゃありません。野望を持って、次のステップに進むことが大事ですね。

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■久我さまが譲渡した案件はこちら

「駅チカ。認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書交付の世田谷区の認可外保育園」

■久我さまが現在運営している事業はこちら

「はぴはぴベビーシッター」

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