2021-06-29

靴磨き店のM&Aに成功!コロナ禍を逆手に店舗にとらわれない逆転の発想で勝負

買い手(法人):パスティブ合同会社

<中小企業の多角化を目指したM&A・買収事例>

 

コンサルティングファームに所属していた、起業志望のメンバー3人で設立したパスティブ合同会社。これまで「既存事業のリソースを活用して、新規事業の立ち上げをサポートする」コンサルティングを手掛けてきた経験から、新規事業の創出を検討する中でM&Aという手法に目を付けます。

そして買収したのは、東京・有楽町駅からすぐの商業施設内にある靴磨き専門店。昨年オープンしたものの、コロナ禍の影響を受け営業実績が少ない店舗でしたが、ビジネスとしてスケールの可能性を感じて買収を決断。コロナ禍を逆手にとった戦略・ビジョンや、初めてのM&Aを振り返っての感想を、代表の加藤駿さんに伺いました。

【M&Aなら、既存のリソースを活かした新規事業創出が可能】

- まずは、加藤様のご経歴と貴社の事業について教えていただけますか?
新卒で大手メーカーに入社し、エンジニアとして5年ほど働きました。「いつか起業したい」と思っていたため、メーカー退職後はコンサルティングファームに転職し、新規事業の立ち上げ支援を行っていました。

コンサルティングファームの同僚には、私と同じように起業や事業の立ち上げに興味を持っている同志がいて。「コロナ禍の今だからこそ、チャレンジしよう」という思いで、3人で立ち上げたのがパスティブ合同会社です。

事業内容としては、これまでの経験を生かしたコンサルティング業務を主軸としています。ただ、小さくても自分たちで事業を育てていきたいという思いから、新規事業を立ち上げたいと思って。その中でM&Aという選択肢を検討するようになりました。

- 以前からM&Aには興味があったのですか?
『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』などを筆頭に、2018年頃からM&A関連の書籍を見かける機会が増えたと感じます。読んでみて、「誰もがM&Aに挑戦できる時代になってきたんだ」と感じて興味を持ち、オンラインサロンに参加するなど、M&Aの進め方については少し勉強をしていました。

また、これまでコンサルティングに携わってきた中で最初から事業を作り上げるよりも、「既存事業のリソースを有効活用して、同業態の新規事業を立ち上げる」プロセスを経験してきました。そのため、売りに出されている案件の概要を見て「どうすれば、すでにあるリソースを最大限に活用して、事業を拡大できるか」というアイデアは考えやすかったんです。

ゼロから事業を立ち上げる場合に比べてコストも抑えられますし、すでに成功例があるので潤沢な資金を持っていない私たちでも、アイデア次第でさらに再現性や広がりのあるビジネスモデルに発展させられそうだと思いました。

- どのような条件で売却案件を探していましたか?
条件は2つです。1つはエリアで、横浜に住んでいるため、「売り手様と交渉しやすい」「スペースや店舗などを買収する場合、管理がしやすい」という点で首都圏の売却案件を見ていました。

もう1つは金額で、予算は100万円程度で探していました。エリアと金額の条件に合致していれば、業種・業態は気にしていなかったので、都内のコワーキングスペース案件なども検討しました。



(綺麗に手磨きされた靴)

【店舗がダメなら出張と宅配サービスで勝負】

- そして2021年3月に、有楽町にある靴磨き専門店「NICE(ナイス)」のM&Aに成功されました。エリアと金額の条件はクリアした上で、この事業にどのような魅力を感じられたのでしょうか?
売り手のエクシオジャパン様は、保育園の運営や婚活イベント事業など多種多様な事業を展開されている企業様です。以前から準備を進め、2020年に「NICE」をオープンしたものの、新型コロナウイルスの感染拡大と時期が重なってしまい、1か月間継続して店を開けた実績はありませんでした。

確かに、出歩く人も減るコロナ禍において、靴磨き専門店の買収はリスクが大きいようにも思います。ただ、逆の発想をして、「今後は店舗を持ちつつも、こちらから靴磨きに伺う出張サービスに注力していけば可能性があるのではないか」と思い付きました。

もともと出張サービスはあったのですが、今後はさらにBtoBの割合を増やしたいと考えました。また、靴をお客様から送っていただき、ケアを施して返却する「宅配サービス」も伸ばせるのではないかと思いました。

- 売り手様との交渉はどのように進んでいきましたか?
申し込みをしてメッセージをやりとりした段階で、売り手様からは「無償譲渡可能です」とお返事をいただきました。一等地に構えていて、そこそこテナント料がかかる中で1年間満足に営業できない状態だったため、早く譲りたいという気持ちもあったのではないかと思います。

「まずは実店舗を見に来ませんか?」とお声掛けいただき、視察に行きました。場所は、有楽町駅からすぐの商業施設の中。人通りも期待できる、恵まれたエリアでした。近隣には、競合となる老舗の靴磨き店舗もあったため、靴磨きのニーズを持った人がある程度訪れることも予想できました。

その後、売り手様から営業ができたときの1日の売上実績や順調にいった場合に見込める売上金額、賃借料など必要なコストを教えていただき、そちらをもとに事業計画を立てました。

また、引き継ぐスタッフの方は30代前半の靴磨きのプロフェッショナルで、すごく熱意のある方だと聞きました。安心してオペレーションを任せられそうだと思ったこともあり、契約のフェーズに進みました。

当社の他に数社、交渉をしていた企業はあったようですが、「コロナ禍であること」や「賃借料が高いこと」を理由に諦められたようで、最終的に手を挙げたのは当社のみだったようです。

もともと売り手様が、2020年4月から2021年3月末までスタッフと1年契約を結ばれていた関係で、「更新のタイミングを迎えるため、3月上旬には返事が欲しい」とリクエストがあり、即決しました。当社は3人で共同経営しており、「一人でも、その事業に意欲があるなら挑戦してOK」という事業部制を敷いているため、即決できたのです。

- 交渉過程で苦労したことはありますか?
全体的にはスムーズに進んだのですが、強いて挙げるなら、いくつか想定外のコストが掛かったことです。一つは、テナントとして入居している商業施設側と複数回の打ち合わせが必要で、かつ事前に商業施設側へ一時申込金を払わなければならなかったことです。

もう一つは、HPも譲っていただいたのですが、売り手様が自社サーバーで管理していたため、レンタルサーバーへ移行するときに15万円ほどのコストが掛かったこと。このあたりは確認が不足していました。



(今回買収された靴磨き店「NICE」)

【最大の価値は、靴磨きに愛と情熱をもつプロフェッショナルなスタッフ】

- 引き継いだスタッフの方とは、どのようなコミュニケーションを図っていきましたか?
スタッフの方とは、仮契約の段階で初めてお話しさせていただきました。靴磨きのプロフェッショナルで、しかもとても熱意のある方でした。1年間営業してきて感じた改善点や今後挑戦したいことなど、20個位の提案を持ち寄ってくださったんです。

提案の中には、「この備品を買い替えたい」や「夜間帯の集客を増やすために、看板などを買って店舗を目立たせるべき」といったリクエストも含まれていました。彼の熱意に触れて、こちら側も「より頑張らねば」という思いになりましたね。

- 2021年4月1日から運営を引き継がれていますが、2か月ほど経った現時点での手応えはいかがですか?
現在、お客様の内訳は新規3割、リピーター7割ほど。新規のお客様は「店舗の前を偶然通り掛かって」という方が7割ほどで、残りの3割の方はインターネット検索などで見つけて来てくださっています。

緊急事態宣言下で店舗の営業は相変わらず満足にできていません。厳しい状況になることは想定していましたが、売り手様が「これくらいはポテンシャルがあるだろう」と示唆されていた見込みの売上金額のまだ半分にも満たないのが現実です。

ただ、外部環境が厳しい一方で、スタッフの腕の良さは日々実感しています。先日は、数百足の靴磨きを依頼してくださったお客様がいて。そのお客様からは「昨年、一度靴磨きをお願いしたときに、接客面でも技術的でも大満足したため、再オープンを待っていました」という言葉をもらったようです。

また、「コロナ禍で大変だけど大丈夫?」「頑張ってね」など、お客様から温かい言葉を掛けていただくことも多いようです。

- スタッフの方との現在の関係性はいかがですか。
営業後には毎日日報を送ってもらい、一日の振り返りをしたり、今後どうすべきか意見交換をしたりしています。すごく責任感が強い方ですし、「大口のお客様から注文があったときに手一杯になり、リピーター獲得の機会を逃してしまう」といった相談も受けていて。

出張サービスをより強化していくとなると、必然的に店を閉めてしまうことも増えて機会損失になりかねないため、今後は今のスタッフと同じくらい熱意のある2人目のスタッフの採用も考えています。



(左:before、右:after)

【靴磨きと相性のいいニッチな領域、例えば”ホストクラブ”を攻める】

- 今後の展望を教えてください。
法人向けの出張靴磨きサービスを提供している競合はすでにいるため、今後は法人だけでなく、例えばホストクラブなど「靴磨きと相性が良いけれど、まだ他社が取り込めていない顧客層」にアプローチして、「ここの領域では負けない」という優位性を築きたいです。

また、新規事業の立ち上げに携わってきた経験を生かして、靴磨きの事業のビジネスモデルを他の業種・業態に応用した事業も今後立ち上げを予定しています。靴磨き事業単体で利益を出せることがもちろんベストですが、靴磨き事業をベースにさまざまな事業を展開し、トータルで利益を出せるようなしくみをつくりたいです。

- これからM&Aを考えている方へ向けたアドバイスはありますか?
M&Aは「手を早く挙げた者勝ち」の世界です。迷っているなら、勇気を持って、少しでも早く挑戦すると決めましょう。また、交渉過程では売り手様とこまめにコミュニケーションを取り、認識の齟齬が起こらないようにしてください。

- 最後に、せっかくの機会ですのでお店のご紹介をお願いします。
靴磨き専門店「NICE」は有楽町イトシアに店舗を構えています。カウンタースタイルのお店のため、ご来店いただけたらプロの職人が靴を磨く様子を目の前で見ていただくこともできます。

コースは、シャイン(通常靴磨き)・ミドルシャイン・ハイシャイン(鏡面磨き)と分かれています。ただ、靴をこよなく愛するスタッフはプロ意識とこだわりが強いあまりに、シャインで依頼を受けてもハイシャインレベルに仕上げるほどです(笑)

出張サービスはエリアの制限無く対応しています。革靴以外にブーツやスニーカーなどにも対応できるので、「会社や家にいながら、プロのサービスを受けたい」という方や「働くスタッフの靴をまとめてお手入れしたい」という方はお気軽にご相談ください。

***有楽町イトシアにある「NICE」をさらに知りたい方はこちら***
https://www.nice-shoeshiner.com/



(ずらっと並ぶ、磨かれた靴たち)



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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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