店舗売却の進め方|居抜きとM&Aどっちが得?相場や税金、高く売るコツ
店舗を売る方法は居抜き売却・買取業者・M&Aの3つ。居抜きの相場は東京都で100万〜500万円、M&Aなら唐揚げ屋500万円・甘酒カフェ300万円などの実例があります。違いと相場、手数料・税金、高く売るコツ、解約予告の注意点までわかりやすく解説します。
店舗を手放したいものの、そもそも売れるのか、いくらになるのかが分からず動けずにいませんか。閉店するしかないと思い込み、原状回復の見積もりだけ取って落胆してしまう経営者も少なくありません。
店舗には、居抜き売却・買取専門業者への売却・M&Aという3つの出口があります。本記事では3つの違いを整理したうえで、居抜き売却とM&Aのどちらが得になるのかを2つの基準で判断できる形にまとめました。売却価格の概算方法、かかる費用と税金、貸主への連絡や解約予告といった実務上の落とし穴まで、順を追って確認できます。
店舗の売却を考えはじめた方、閉店と売却のどちらにするか迷っている方に向けた内容です。読み終えたときには、自分の店舗がどちらの方法に向いているのか、いくらを目安に交渉すればよいのかの見通しが立つはずです。
店舗を売る3つの方法|居抜き売却・買取専門業者・M&Aの違い
店舗の売却方法は、大きく3つに分かれます。どれを選ぶかによって「何を売ることになるのか」がまるで違います。まずは全体像から整理します。
| 方法 | 売る対象 | スピード | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 居抜き売却 | 造作・設備 (内装、厨房機器など) |
中 (買い主探しに数か月) |
立地に次の借主の需要がある/原状回復費を避けたい |
| 買取専門業者 | 造作・設備 | 早い (判断が数日〜数週間) |
とにかく早く手放したい |
| M&Aによる売却 | 事業そのもの (設備+顧客+従業員+屋号) |
中〜長 (交渉に数か月) |
事業として続けられる状態にある/従業員や屋号を残したい |
表のとおり、居抜き売却と買取専門業者は「モノを売る」方法、M&Aは「事業を売る」方法です。この違いが、後述する価格差の正体になります。
居抜き売却|造作・設備を残したまま譲渡する
テナントの賃貸借契約には、退去時に入居前の状態へ戻す原状回復義務が定められていることが一般的です。内装や設備をすべて撤去して建物の構造体だけにする工事はスケルトン工事と呼ばれ、規模によっては数百万円の費用がかかります。
居抜き売却は、この造作や設備を撤去せず、次の借主にそのまま引き継いでもらう方法です。原状回復の費用が不要になるうえ、造作の対価として売却代金を受け取れる可能性もあります。撤去工事をしない分、直前まで営業を続けられることも利点です。
買い手にとっても、内装や厨房機器がそろっているため開業費用を抑えられます。手続きは居抜き物件を扱う不動産会社や専門の仲介サービスを通すことが一般的で、経験のない不動産会社では断られることもあります。
買取専門業者への売却|早いが金額は下がりやすい
買取専門業者は、造作や設備を自社で買い取ります。買い主を探す期間が不要なため、判断から現金化までが早いことが最大の利点です。店舗を急いで手放したい事情がある場合などは有力な選択肢になります。
一方で、業者は仕入れとして買い取るため、提示額は他の方法より低くなるケースが多く見受けられます。時間をかけてでも高く売りたい場合には向きません。「スピードを金額で買う」方法だと捉えられます。
M&Aによる売却|事業ごと引き継いでもらう
M&Aによる売却では、設備だけでなく事業そのものを引き継いでもらいます。顧客やレシピ、従業員、店名、取引先との関係といった帳簿に載らない価値もまとめて評価されるため、居抜き売却より高い金額がつく可能性があります。
買い手から見ても、すでに売上が立っている状態から事業を始められることは大きな魅力です。ゼロから開業するのに比べ、集客やメニュー開発にかかる時間を大幅に短縮できます。
やむを得ない事情でお店を手放す場合でも、従業員の雇用が続き、屋号やメニューも残ることは、居抜き売却にはない価値です。自分が育てたお店がその後どう伸びていくのかを見守れる点を、決断の支えにする経営者もいます。
居抜き売却とM&A、どっちが得?分かれ目は2つ
「結局どちらが得なのか」は、多くの方が最初に知りたい点でしょう。結論から言えば、判断の分かれ目は2つだけです。金額そのものは店舗の状況で大きく変わるため、まず「何が値段になるのか」の違いから見ていきます。
何が「値段」になるのかが根本的に違う
同じ店舗を手放す取引でも、居抜き売却とM&Aでは買い手の顔ぶれが異なります。居抜きの買い手はこれからその場所で商売を始める人、M&Aの買い手は現状の事業を引き継いで運営することが前提の人です。見ているものが違うので、評価される対象も変わります。
| 比較項目 | 居抜き売却 | M&Aによる売却 |
|---|---|---|
| 買い手 | これからその場所で開業する人 | いまの事業を引き継いで続ける人 |
| 買い手の判断軸 | 立地で検討するかを決め、設備で金額を決める | 利益の水準と、それが続くかどうか |
| 売れるもの | 造作・設備 | 事業そのもの(設備+顧客+従業員+屋号) |
| 金額を上下させる要素 | 設備の年式・汎用性・リース残債 | 利益の水準と安定性、引き継ぎやすさ |
| 原状回復費 | 回避できる | 回避できる |
| 従業員 | 引き継がれない(解雇や転籍が必要) | 引き継げる |
| 屋号・メニュー | 残らないことが多い | 残せる |
| 許認可 | 買い手が取り直す | スキームによる(事業譲渡であれば取り直し) |
| 売却後の関与 | 引き渡しで終わる | 引き継ぎ期間の協力を求められることが多い |
注目すべきは、居抜きとM&Aで買い手の判断軸がまるで異なるという点です。居抜きの買い手は、まず「その場所で商売が成り立つか」を確かめ、そのうえで「設備がどれだけそのまま使えるか」で金額を決めます。スケルトン工事から内装や厨房を作れば数百万円規模の投資が必要になるため、造作が充実していること自体が大きな金額になります。同じ業態を続ける買い手であれば、その効果はさらに大きくなります。
一方M&Aでは、利益を生んでいる実績が評価の中心です。設備が古い場合などでも利益が安定していれば値段はつきますし、逆に設備が新しくても赤字が続く場合などは買い手は慎重になります。なお許認可は引き継ぎの扱いが業種ごとに異なるため、業種別の資格・許認可一覧で自店の扱いを確認しておくと安心です。
分かれ目①|立地が評価されるか
1つ目の基準は、その場所で誰かが商売をやりたいと思うかです。居抜きの買い手は次にそこで店を出す人なので、多くの場合、立地の評価が検討に入るかどうかの入口になります。ここを通らなければ、設備がどれだけ充実していても候補に残りにくくなります。造作がきれいで高価な設備がそろっていても、前の店の売り上げが伸びなかったと分かれば、買い手が慎重になることはあります。ただし常にそう判断されるわけではありません。赤字の理由を説明できれば評価は変わるため、次の項目であらためて扱います。
また、立地の評価は業態によって変わります。夜型の飲食に向く場所と昼型に向く場所は異なり、席数の多い業態には向かないが小商圏の物販には合う、というケースもあります。いまの業態で苦戦していても、別の業態であれば成立する余地は残っています。
立地の評価が低いと見込まれる場合は、金額よりも原状回復費の回避を優先することが現実的です。造作を設備単体で買い取ってもらう、あるいは無償で譲渡する形でも、数十万円から数百万円の工事費を負わずに退去できれば実質的な利益になります。TRANBIにも居抜案件で、内装や造作一式を無償で譲渡するという条件で掲載されている案件があります。
分かれ目②|利益が出ていない理由はどこにあるか
2つ目の基準は、利益が出ていないとして、その原因がどこにあるかです。同じ「赤字」でも、原因によって受け取られ方が変わります。原因は大きく6つに分けられます。
| 赤字の主な原因 | 居抜き売却での見られ方 | M&Aでの見られ方 |
|---|---|---|
| 家賃が相場より重い | 立地そのものの評価は下がらない。ただし買い手も新たに賃貸借契約を結ぶため、その賃料で成り立つ業態かが問われる | 買い手が同じ契約を引き継ぐため、賃料の見直し余地や更新条件が交渉の論点になる |
| 人件費・シフト構成 | 造作の評価には影響しない | 体制の作り直しで改善できる余地と受け取られやすい |
| 集客・認知の不足 | 造作の評価には影響しない | 販促や運営の工夫で伸ばせる余地と見られやすい |
| メニュー構成・値付け | 造作の評価には影響しない | 改善の効果が読みやすく、伸ばしどころとして評価されることもある |
| 経営者側の事情 (本業多忙・体力・後継者不在) |
造作の評価には影響しない | 事業そのものは健全と評価され、最も有力な選択肢になる |
| 立地・商圏の縮小 | 同じ場所での需要が読みにくく、別業態の買い手を探すことになる | 構造的な問題として慎重に見られる |
表を縦に見ると居抜き売却では赤字の理由そのものは、造作の評価に直接影響を及ぼしづらいことがわかります。居抜きは造作に値を付ける取引であるためです。逆にM&Aでは、同じ赤字でも「買い手が直せる余地」と見られるか「構造的な問題」と見られるかで評価が大きく分かれます。
見落とされやすい項目が家賃です。賃料が相場より重く赤字になっている場合、立地そのものは悪くないことが少なくありません。むしろ立地が良いからこそ賃料が高い、という順序です。この場合、その賃料でも成り立つ業態の買い手であれば手を挙げます。ただし居抜きの買い手も新たに賃貸借契約を結ぶため、賃料の水準は必ず検討材料になります。
人件費・集客・値付けといった運営面の課題は、買い手から見れば「自分なら直せる」余地でもあります。とくにメニュー構成や価格設定は改善の効果が読みやすいため、伸ばしどころが明確な店舗として、むしろプラスに評価されることもあります。数字の推移とあわせて課題を説明できると、印象は大きく変わります。
一方で、商圏人口の減少や大型店の進出といった立地・商圏の縮小が原因の場合は、構造的な問題として慎重に見られます。この場合は、同じ場所でも設備条件が合う別業態であれば成立すると考える買い手を居抜きで探すほうが現実的です。
実際にTRANBIで成約した事例を見ると、売却理由が「経営者側の事情」であるケースが目立ちます。後述するサンドイッチ専門店は本業が忙しくなったため、甘酒カフェは他店の経営に専念するためでした。どちらも立地や商品に問題があったわけではありません。
だからこそ、「なぜ売るのか」を説明できること自体が金額を守ります。事業に将来性がないから手放すのではないと伝われば、買い手は安心して値を付けられます。逆に理由が曖昧だと、見えないリスクを織り込んで低く見積もられます。
ここまでの2つを組み合わせると、進め方は次のように整理できます。
- 立地が評価される × 事業は健全(黒字、または経営者側の事情):M&Aを軸に。居抜きの査定も取って金額を並べて比較する
- 立地が評価される × 立地以外の理由で赤字:居抜きを軸に。別業態の買い手を探すと値がつきやすい
- 立地の評価は低い × 事業は健全:M&Aで顧客・ノウハウ・従業員を評価してもらう。移転を前提に引き継ぐ買い手もいる
- 立地の評価は低い × 赤字:どちらも金額は期待しにくい。原状回復費の回避を優先し、無償譲渡も選択肢に入れる
いずれの場合も、先に金額を知ってから決められるという点は押さえておきたいところです。M&Aプラットフォームに匿名で掲載して反応を見る、居抜きの査定を取る、という順序で進めれば、両方の数字を並べたうえで判断できます。決める前に比較する余地は十分にあります。スキームの選び方をより詳しく知りたい場合は、M&Aのスキームの選び方の記事も参考になります。
店舗の売却価格はどう決まる?概算方法と成約実績
「いくらで売れるのか」は、売却を検討するうえで最も気になる点でしょう。ただし店舗の売却価格は、業種・立地・設備の状態・利益水準によって大きく変わります。ここでは一律の相場を示すのではなく、自分の店舗で概算する方法と、実際の成約金額を紹介します。
M&Aの価格は年買法で概算できる
M&Aの価格を簡易に見積もる方法として、実務でよく使われる手段が年買法です。計算式は次のとおりです。
【年買法の計算式】
売却価格 = 純資産 + 営業利益 × 3〜5年分
純資産は資産から負債を引いた金額、営業利益に掛ける年数は「のれん」として評価される部分です。事業の安定性や成長性が高いと判断されれば年数は長くなり、逆に不安要素があれば3年より短くなることもあります。
ここで重要なことが、小規模店舗では年数が1年以下に圧縮されることも珍しくないという点です。現経営者が抜けると顧客が離れたりスタッフが辞めたりするリスクがあり、買い手は「今の売上が続く保証はない」と見るためです。年買法の数字はあくまで出発点と考えるのが実際的です。
TRANBIの成約実績で相場感をつかむ
計算式よりも実感がつかみやすい方法は、実際にいくらで取引されたかの確認です。TRANBIで成約した小規模店舗の例を挙げます。
| 業種・状況 | 金額 | 売却の背景 |
|---|---|---|
| 唐揚げ屋(黒字継続) | 500万円 | テイクアウト・デリバリー需要で業績が堅調だった |
| 甘酒カフェ(開業直後) | 300万円 | 設備の多くが新品・未使用。本業に専念するため売却 |
| 焼き菓子カフェ+オンラインショップ | 280万円 | 売却希望価格で成約 |
| サンドイッチ専門店(廃業寸前) | 200万円 | 本業多忙で継続困難。20件超の申し込みが集まった |
小規模な店舗では、数十万円から500万円前後で成約するケースが多く見られ、なかには無償で譲渡が成立した案件もあります。廃業寸前の店舗でも200万円で売れている点は、閉店を検討している方には意外に映るかもしれません。逆に、数千万円規模になるのは複数店舗を展開している場合や、利益が大きく安定している場合です。
なお、居抜き売却の金額は譲渡する造作の内容によって差が非常に大きく、一律の相場を示すのは困難です。厨房機器の点数や年式、空調の状態、リース残債の有無で評価が変わるため、複数の業者に査定を取って比較するのが確実です。
価格を左右する要素
どちらの方法でも、価格に影響する要素はおおむね共通しています。
- 立地と交通の便:駅からの距離、通行量、周辺の競合状況
- 店舗の広さ:転用しやすい規模ほど買い手の候補が広がる
- 設備の状態:年式、清潔さ、他業態への転用のしやすさ
- リース残債:残っている設備は譲渡対象外となり、評価から差し引かれる
- 利益水準と安定性:M&Aでは最も大きな要素
- 従業員の定着:引き継ぎ後も残ってくれる体制は高く評価される
このうち自分で改善できるのは、設備の清潔さとリース残債の整理、そして引き継ぎ体制の準備です。立地や広さは変えられないため、手を入れられる部分に絞って準備するのが効率的です。
居抜き売却とM&Aの進め方|手順と相談先を並べて確認
手続きの流れは方法によって異なります。M&A全般の進み方はM&Aの流れで詳しく解説していますが、店舗売却の場合は次のようになります。並べて確認すると、どちらに進むとしても準備の見通しが立てやすくなります。
居抜き売却の相談先と査定の準備
居抜き売却は、どこに相談するかで結果が変わります。相談先は大きく3タイプあり、それぞれ得意な領域が異なります。
- 居抜き専門の仲介サービス:造作譲渡の取引に慣れており、買い主の母数も多い。貸主との調整や造作譲渡契約の実務にも通じている
- 一般の不動産会社:物件の紹介力はあるが、居抜きの経験がない場合は断られることもある。すでに管理を任せている物件であれば貸主との調整は進めやすい
- 買取専門業者:自社で買い取るため判断が早い。金額は下がりやすいが、買い主を探す期間が不要になる
金額を確かめたい段階であれば、複数に査定を依頼して比較する相見積もりが基本です。造作の評価は業者ごとに差が出やすく、1社の提示額だけでは相場感がつかめません。
査定の精度は、渡せる情報の量で変わります。次のものがそろっていると、実際の金額に近い提示を受けやすくなります。
- 設備の一覧:品目・メーカー・型番・購入年。写真もあると精度が上がる
- リース契約の内容:残債と契約終了日。リース分は譲渡対象外になる
- 賃貸借契約書:賃料、解約予告期間、造作譲渡や借主変更に関する条項
- 原状回復の範囲:どこまで元に戻す義務があるかの取り決め
- 直近の光熱費:買い手が運営コストを見積もる材料になる
居抜き売却の流れと造作譲渡契約の確認点
相談先が決まったら、次のような手順で進みます。
- 契約書の確認:賃貸借契約で居抜き(造作の譲渡)が認められているかを確認する
- 貸主への相談:承諾を得る。無断で進めると契約違反になるおそれがある
- 業者への相談・査定:現地調査を経て査定額が提示される
- 買い主の募集:業者がネット広告などで募集をかける
- 条件交渉:譲渡対象の設備と金額を詰める
- 造作譲渡契約の締結:譲渡する設備の一覧と金額を明記する
- 賃貸借契約の切り替え:貸主と買い主が新たに契約を結び、売り手は解約する
- 引き渡し:設備の状態を確認して完了
ポイントは2と7です。貸主の承諾がなければ居抜き売却は成立せず、賃貸借契約の切り替えができなければ引き渡しも完了しません。物件のオーナーを味方につけておくことが、実務上の最大の関門になります。
そして金額が合意できても、契約内容の詰めが甘いと引き渡し後に揉めます。造作譲渡契約では、次の3点を書面で明確にしておくことが望ましいでしょう。
- 譲渡する設備の一覧とリース分の切り分け:一覧にない設備を「あるはず」と思われるとトラブルになる
- 原状回復義務がどこまで免除されるか:貸主・売り手・買い主の三者で認識をそろえる
- 引き渡し後の不具合の責任範囲:厨房機器の故障などをいつまで売り手が負うのか。現状有姿での引き渡しであることを明記するのが一般的
とくに原状回復義務については見落とされやすい点です。居抜きで残したつもりでも、貸主との合意が書面になっていなければ、原状回復費の請求が売り手に戻る可能性が残ります。
M&Aによる売却の流れ
M&Aで売却する場合は、買い手探しから引き継ぎまで次のように進みます。
- スキームと譲渡条件の検討:株式譲渡か事業譲渡か、譲れる条件を整理する
- 買い手探し:M&Aプラットフォームなどに匿名で情報を掲載する
- 秘密保持契約の締結:有力な候補に詳細情報を開示する
- トップ面談・条件交渉:早い段階で顔を合わせるのが一般的
- 基本合意書の締結:基本条件とスケジュールを固める
- デューデリジェンス:買い手が財務や契約関係を調査する
- 最終契約の締結:調査結果をふまえて条件を確定する
- クロージング:対価の受け取りと引き渡しを行う
- 引き継ぎ:一定期間、経営や実務の引き継ぎに協力する
居抜き売却との最大の違いは、6のデューデリジェンスと9の引き継ぎがあることです。帳簿や契約書の整理が必要になり、引き渡し後もしばらく関わることになります。手間は増えますが、その手間が事業の価値として金額に反映されるのがM&Aの仕組みです。
なお、事業譲渡の手法を用いる場合は飲食店営業許可などの許認可が引き継がれず、買い手が取り直すことになります。従業員との雇用契約も個別に結び直す必要があるため、この点は早めに買い手と確認しておくのが安全です。
店舗売却にかかる費用と税金
売却代金がそのまま手元に残るわけではありません。仲介手数料と税金を織り込んでおかないと、想定より手取りが少なくなります。
仲介手数料
依頼先ごとの費用の考え方を整理すると、次のようになります。手数料の相場や計算方法はM&A手数料・成功報酬の相場で詳しく扱っています。
| 依頼先 | 費用の考え方 | 負担者 |
|---|---|---|
| 居抜きの仲介会社・不動産会社 | 法律上の上限規定がなく、業者ごとの独自基準(定額制または取引価格に対する一定割合) | 主に売り手 |
| M&A仲介会社 | 取引金額に応じた成功報酬。別途着手金が必要な場合もある | 売り手・買い手 |
| M&Aプラットフォーム(TRANBI) | 売り手は掲載・交渉・成約のいずれも無料 | 売り手:負担なし 買い手:月額プラン料金 |
居抜き売却では、不動産会社や専門の仲介サービスを通した場合に手数料が発生します。通常の不動産取引と違って法律上の上限規定がないため、業者ごとに独自の基準で定められているのが実情です。目安としては定額制か取引価格に対する一定割合が用いられ、一般的に売り手が負担します。買い手の手数料を無料にすることで買い手が集まりやすくなるためです。
M&A仲介会社を利用する場合は、成功報酬として取引金額に応じた割合を支払うことが一般的で、別途着手金が必要なケースもあります。小規模な店舗売却では、手数料が売却代金に対して重い比率になりやすい点には注意が必要です。
その点、オンラインで案件掲載から交渉までを行えるM&Aプラットフォームであれば、費用を大きく抑えられます。TRANBIは売り手の利用が無料で、案件の掲載、買い手との交渉、成約時のいずれにも手数料がかかりません。手取りを重視する場合などは、有力な選択肢になります。
税金
税金は、売り手が個人か法人かで枠組みが変わります。
| 売り手 | 主な税金 | 税率の目安 |
|---|---|---|
| 個人(事業主) | 所得税・復興特別所得税・住民税 | 資産の区分により異なる(下記参照) |
| 法人 | 法人税・法人住民税・法人事業税 | 実効税率はおおむね30〜34% |
| 個人株主が株式譲渡を行う | 所得税・復興特別所得税・住民税 | 20.315%の申告分離課税 |
個人が事業や造作を譲渡した場合、所得の区分ごとに計算方法が変わります。在庫や機械などは他の所得と合算する総合課税、土地や建物は単独で計算する分離課税です。分離課税では所有期間によって税率が分かれます。
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
- 短期譲渡所得(所有期間5年以内):39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
また、事業譲渡の形で売却する場合は消費税も発生します。納税するのは売り手ですが、買い手から預かって納める形になるため、実質的な負担者は買い手です。課税対象になるのは土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、のれん(営業権)で、これらの合計額に税率を掛けて計算します。契約書や領収書にかかる印紙税も見込んでおく必要があります。
詳しい計算方法や税率は国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」で確認できます。
税金の全体像はM&Aの税金、承継先ごとの費用は事業承継にかかる費用でも解説しています。金額が大きくなる場合は、税理士に相談するのが確実です。
貸主への連絡と解約予告|見落とすと損をする落とし穴
金額の話に集中していると見落としがちですが、賃貸物件の店舗売却では貸主との関係と解約のタイミングが結果を大きく左右します。ここを外すと、売却そのものが不成立になることもあります。
貸主の承諾は必須|先に相談しておく
賃貸物件の店舗を売却する場合、まず物件の貸主への連絡が必要になります。賃貸契約の内容によっては、貸主の許可を得なければ店舗を売却できないケースもあります。造作の譲渡や借主の変更を禁じる条項が入っていることは珍しくありません。
また、原状回復が原則である以上、居抜きで残す理由を貸主に説明する必要があります。次の借主が決まっている、設備が新しく次のテナントにも有用である、といった事情を伝えれば理解を得やすくなります。
貸主が気にするのは、新しい借主が信頼できる相手かどうかです。貸主は借主を信頼して物件を貸している側面があるため、新しい借主の情報も含めて早めに相談しておくことで、売却後のトラブルを予防できます。売却が決まってから初めて連絡すると、話がこじれて時間を失いかねません。
解約予告は買い主が見つかった後に
解約予告とは、物件を返す意思を借主から貸主へ伝えることです。賃貸借契約には解約予告期間が定められており、多くの場合はその期間中も賃料が発生します。
ここで気をつけたいのが順序です。貸主への解約通知が早すぎると、買い主が現れないまま期限が迫り、妥協して安値で手放す結果になりかねません。期限に追われた売り手は、交渉で不利な立場に置かれます。
交渉次第で予告期間を短縮できる貸主もいますが、解約を早めることそのものがリスクになります。十分な売却期間を確保するために、解約予告は買い主が見つかってから行うのが原則です。
逆に言えば、退去を決めていない段階から情報収集や査定を始めておけば、余裕をもって比較できます。売却の検討と解約の通知は、切り離して進めるのが安全です。
店舗を高く売るためのポイント
同じ店舗でも、準備の仕方で評価は変わります。居抜きとM&Aで効くポイントが異なるため、選ぶ方法に合わせた準備が有効です。
居抜きで高く売るには|見た目と説明で差がつく
居抜き売却では、買い手候補が内見に来た時点でほぼ評価が決まります。買い手は「このまま自分の店として使えるか」を見ているため、清潔さと状態の分かりやすさが直接金額に響きます。
- 入り口付近と看板をきれいにする(第一印象で印象が固まる)
- エアコン、トイレ、換気扇など汚れが目立つ場所を優先して清掃する
- 床・壁・窓ガラス・テーブルを拭き、余計な物を置かない
- 調理台や棚を整理し、収納の使いやすさが伝わる状態にする
- 内見時は照明をすべて点けて明るい状態で見せる
- 設備ごとに譲渡対象かリース物件かを一覧で説明できるようにする
「設備の一覧」が、実は金額差を生みやすいポイントです。どれが譲渡対象でどれがリースなのかが曖昧だと、買い手は不確実な部分を差し引いて考えます。型番と年式まで整理した一覧を用意しておけば、買い手は安心して値付けできます。
M&Aで高く売るには|引き継げる状態をつくる
M&Aでは、買い手が最も不安に思う点は「経営者が抜けても今の売上が続くのか」です。ここへの答えを用意できるかどうかが金額を左右します。
- 業務を属人化させない:レシピ、仕入先、オペレーションを文書化しておく
- 従業員に残ってもらえる体制をつくる:主要スタッフの定着は大きな加点要素
- 一定期間の引き継ぎに応じる姿勢を示す:不安が減れば年数の評価が伸びる
- 数字を整える:直近数年の売上と利益を説明できる資料をそろえる
- 私的な経費を整理する:実質的な利益が見えやすくなる
年買法で営業利益に掛ける年数が1年以下に圧縮されるケースでは、多くの場合「続くかどうか」への不安が理由です。逆に言えば、引き継ぎやすい状態を用意できれば、掛ける年数が伸びて金額はそのまま上がります。そのまま渡すのではなく、渡しやすく整えてから渡すという発想が要になります。
業種別に評価されやすいポイント
業種によって、買い手が重視する要素は変わります。代表的な2業種を取り上げます。
飲食店では、中華料理・焼肉・焼鳥・お好み焼き・ステーキなどの重飲食が高値になりやすい傾向があります。電気・ガス・給排気の設備投資額が大きく、そのまま使える価値が高いためです。詳しくは飲食店のM&Aの記事で解説しています。
美容室では、スタッフのスキルと顧客基盤が評価の中心です。多くの顧客を抱えるスタイリストが残るかどうかで金額が変わります。設備面では給排水の状態が見られ、配管工事が必要と判断されると評価が下がります。詳しくは美容室のM&Aの記事をご覧ください。
店舗売却の成功事例
実際にどのような経緯で売却が決まったのか、TRANBIを通じて成約した2つの事例を紹介します。
甘酒カフェ|開業直後でも300万円で成約
1つ目は、甘酒カフェが300万円で売却された事例です。売り主は他にレストランを経営しており、甘酒カフェは開業にこぎつけたもののレストラン経営に専念する方針となり、開業から間もなく売りに出されました。
買い主が決断した理由は、設備の多くが新品または未使用だったこと、そして売却理由にネガティブな要素がなかったことです。立地と甘酒という商材の将来性も評価されました。
「甘酒を流行らせてほしい」という売り手の思いも引き継がれ、新しいオーナーのもとで販路の開拓が進んでいます。売却理由が明確でネガティブでないことは、それ自体が価値になるという好例です。
サンドイッチ専門店|廃業寸前から200万円で成約
2つ目は、廃業寸前だったサンドイッチ専門店が200万円で売れた事例です。オープン時の費用が200万円程度だったため「初期費用だけでも回収できれば」と売りに出したところ、20件以上の申し込みが集まりました。
売却の理由は、病院や老人福祉施設向けの配食という本業が忙しくなり、品質の維持やスタッフ確保の面で継続が難しくなったことでした。本業の都合で、案件掲載から2か月での成立を目指していました。
ここで注目したいのが、この店舗の売上そのものは順調だったという点です。廃業寸前という言葉から業績不振を想像しがちですが、実際は経営者側の事情で続けられなくなっただけでした。買い手候補が20件以上集まったのは、事業として健全だったからです。
早く売りたいのであれば、儲けを追わないことがかえって有効に働きます。手頃な金額で出したことで買い手候補が一気に集まり、交渉もスピーディーに進みました。閉店を検討している段階でも、まず売却を試す価値は十分にあります。
店舗売却に関するよくある質問
店舗の売却について、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 赤字の店舗でも売れますか?
A. 売れます。
まず確かめたいのは、赤字の原因がどこにあるかです。本業が忙しい、体力的に続けられないといった経営者側の事情であれば、事業そのものは健全と評価されるためM&Aが成立します。実際に廃業を検討していた店舗が200万円で成約した例もあり、このケースは売上自体は順調でした。
一方、立地や商圏に構造的な問題があって赤字なのであれば、M&Aでは買い手が慎重になります。その場合は、別業態でなら成立すると見る買い手を居抜きで探すほうが現実的です。いずれにしても、赤字の原因を切り分けることが出発点になります。
Q. 従業員がいる場合はどうなりますか?
A. 居抜き売却では雇用は引き継がれず、M&Aなら引き継げます。
居抜きは造作を売る取引であるため、従業員の雇用は売り手側で整理することになります。一方M&Aでは事業ごと引き継ぐため、雇用を維持できます。ただし事業譲渡の形をとる場合は雇用契約を個別に結び直す必要があり、従業員一人ひとりの同意が前提になります。
Q. 店舗を売るのにどれくらい期間がかかりますか?
A. 買取専門業者なら数週間、居抜き売却とM&Aは数か月が目安です。
買い主を探す期間が必要なため、居抜きもM&Aも数か月を見込んでおくと安心です。前述のサンドイッチ専門店のように2か月で成立した例もありますが、条件次第で長引くこともあります。解約予告のタイミングを誤らないよう、期間には余裕を持たせるのが安全です。
Q. 貸主に反対されたら売却できませんか?
A. 造作の譲渡や借主の変更に貸主の承諾が必要な契約であれば、反対されると進められません。
だからこそ、早い段階で相談し、次の借主の情報も含めて説明することが重要になります。貸主が懸念するのは新しい借主の信頼性なので、そこに答えられれば理解を得られるケースは少なくありません。
Q. 個人事業主でも店舗を売却できますか?
A. できます。
個人事業主の場合は事業譲渡の形になり、造作や設備、のれんなどを個別に譲渡します。税金は資産の区分ごとに計算され、在庫や機械などは総合課税、土地や建物は分離課税です。株式が存在しないため株式譲渡は選べませんが、事業として売却する道は開かれています。
Q. 原状回復費はいくらぐらいかかりますか?
A. 店舗の広さや設備の量によりますが、スケルトン工事は数十万円から数百万円規模になります。
重飲食のように設備が多い店舗ほど高額になりやすく、この費用を回避できることが居抜き売却の大きな利点です。売却代金がつかなかったとしても、原状回復費を負担せずに退去できるだけで実質的な利益になります。
まとめ|店舗売却は「立地」と「売る理由」で判断する
店舗を売る方法は、居抜き売却・買取専門業者への売却・M&Aの3つです。居抜きと買取業者は造作や設備を売る取引、M&Aは事業そのものを売る取引で、評価される対象がまったく違います。この違いを理解しておけば、自分の店舗にどちらが向いているかは絞り込めます。
判断の分かれ目は2つでした。1つ目は立地が評価されるかどうか。居抜きの買い手は次にそこで店を出す人なので、まず「この場所で商売が成り立つか」を確かめ、そのうえで設備の充実度で金額を決めます。2つ目は、利益が出ていないとしてその原因が立地にあるのか、それとも経営者側の事情なのか。事業そのものが健全であればM&Aで評価され、立地に構造的な問題があるなら別業態の買い手を居抜きで探すほうが現実的です。
そして忘れてはいけないのが、貸主への相談と解約予告のタイミングです。ここを外すと、金額の交渉以前に売却そのものが成立しなくなります。退去を決める前から情報収集を始めておくことが、結果的に手取りを守ることにつながります。
- 居抜きでは設備や立地が重視される傾向がある、M&Aでは利益だけでなく顧客・従業員・屋号など事業全体が評価対象
- 小規模店舗のM&Aは数十万〜500万円前後で成約する例が多く、廃業寸前でもTRANBI上で売れた実績がある
- 解約予告は買い主が見つかってから。先に通知すると安値で手放す原因になる
自分の店舗にいくらの値がつくのかは、実際の案件を見るのが一番の近道です。飲食店のM&A案件一覧やM&A案件一覧では、業種や地域、譲渡価額などの条件で絞り込みながら、どのような店舗がいくらで取引されているかを無料で確認できます。自店と近い規模の案件を眺めるところから始めてみてください。
国内最大級のM&A・事業承継マッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」なら、売り手は無料で案件を掲載し、買い手と直接交渉を進められます。匿名で掲載できるため、従業員や取引先に知られないまま反応を確かめることも可能です。まずは情報収集から始めてみるのもひとつの選択肢です。
