2022-09-13

妻の夢を叶えるためにカフェをM&A!本業での大型M&A経験を生かした慎重な交渉術とは

買い手(個人):福島伸之さん(50代)

<個人の第二の人生を見据えた起業M&A・買収事例>

 

京都市内に住む会社員の福島伸之さんは、奥様の長年の夢だったカフェ開業のために、M&A交渉を引き受けます

かつて本業でも、数十億円規模の大型M&Aの窓口担当として、M&Aにまつわる全プロセスを経験したことのある福島さん。M&Aに抵抗もなく、進め方もわかっていたため、慎重に情報を集めながら丁寧に交渉を進めていきます。

最終的に、京都市内のカフェのM&Aに成功しますが、大型M&Aとは規模も違うため想定通りに進むことばかりではなかったといいます。案件を検討する過程や交渉の姿勢、気を付けるべきポイントなどを伺いました。



(今回買収したカフェ①)

【飲食業の素人でもM&Aならカフェが経営できるかも!?】

- まずは福島さんのキャリアについて教えてください。
これまで3社ほどを渡り歩いていますが、一般企業に勤めていて、上場企業での管理職経験もあります。今も仕事は続けていて、今回M&Aを行ったカフェは妻がメインで運営しています。私は主にM&Aの交渉部分と事務的業務を引き受けました。

- M&Aに至ったのは、どんなきっかけからでしたか。
子どもが2人いますが、上が大学3年生で下が高校3年生と、もうほぼ手が離れている状況です。人生100年時代と言われますが、妻も私も第二の人生やライフワークを考え始める時期でした。

妻はこれまで専業主婦でしたが、料理好きで、昔からカフェをやりたいという夢を抱いていて、私もその気持ちを応援したいと思っていました。定年を迎えて退職した時に、一緒にカフェを運営してもいいなと。

また、もし1軒目のカフェが成功していたら、多店舗展開も考えられますよね。私はこれまでのキャリアの中で経理や財務や人事などを幅広く経験してきたので、その経験を生かしてカフェの経営者となり、事業拡大を目指す道も開けるのではないかと思いました。

- M&Aという手段に興味を持ったのはなぜですか。
飲食店の運営は経験がなく、必要な厨房機器や席数の設け方などのノウハウも一切持っていない状況です。その点、M&Aなら売り手様からノウハウも一緒に提供いただけるところが魅力的でした。

実は以前、本業で数十億円規模のM&Aの窓口となり、デューデリジェンスなども含めて一気通貫で対応した経験があります。M&Aには、売り手と買い手の両方がハッピーになれるポジティブな選択肢というイメージを持っていたのです。

ある時、日経新聞で「高齢化」「大廃業時代」をテーマとした記事が載っていて、そこで事業承継という選択肢とともにM&AプラットフォームとしてTRANBIが紹介されていたのを思い出して、一度登録して案件を探してみようと思いました。

M&Aに挑戦する登録者数10万人以上、常時M&A案件数は2,600件以上を掲載中
「事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】」

 

- どんな条件で案件を探していましたか。
飲食業はまったくの素人なので、大きすぎるリスクは取れません。イニシャルコストも抑えたいので、予算は1000万円以下で探していました。

エリアは京都市内に限定しました。妻も私も京都生まれ京都育ちなので、京都なら土地勘があるからです。また、自宅から1時間掛かる場所だと通勤だけで大変ですし、これから年齢を重ねていく中で長く続けることが難しいと思ったので、なるべく近場で探していて。結果的に、他のM&Aプラットフォームも併用する形で、条件に該当する合計10件ほどの案件に申し込みました。

しかし、中には財務的に不透明な案件や、こちらが深く知りたいと思ったことを質問しても濁されてしまった案件もありました。不誠実な姿勢を感じた案件は交渉をストップしました。また、席数の割に賃料が高かったり、ハコが大きすぎたり、大きな負債を抱えている案件も見送りました。

京都市内の地代や家賃の相場はなんとなく肌感覚でわかるのですが、案件情報を見て「なぜ、あのエリアのカフェがこんなに安いの?」と不思議に思うほどお手頃な案件は、交渉過程で安さの理由が頷けるネガティブな要因が見えてきたこともありました。

- 今回購入した案件は、どこに魅力を感じましたか。
予算範囲内であったことと、自宅から3駅のエリアにお店があることが大きかったです。さらに譲渡契約が完了するまでの期間、妻がお店で働かせていただいて、売り手様からノウハウを伝授いただけるところも大きな魅力でした。

イチから自分でやると、自分の判断がいいのか悪いのかの判断が付きませんが、先にお手本から学べることで「これは真似よう」「ここは変えよう」といった判断ができ、新たな発想も生まれるからです。


(今回買収したカフェ②)

【情報は足で稼ぐ!平日と休日それぞれ、同業近隣店舗に滞在して客層を観察】

- 興味を持った案件の売り手様にメッセージで交渉を申し込まれる際には、どんなことに気を付けましたか。
最初は文面のみで人柄を判断されるため、とにかく非礼のないよう、不安を与えないようにということを意識しました。

やり取りに慣れてくると多少言葉遣いが砕けることはあったものの、ファーストコンタクトでは堅めで要点のまとまったビジネスメールのような文章を綴るようにしました。

こちらとしては、購入を検討する上で売上や客数を知りたいですし、PLやBSなども見せていただきたいですよね。相手が積極的に答えたくないかもしれない事項を質問する際には、常に枕詞に「不躾な」や「差し支えなければ」といったフレーズを付けて尋ねるようにしました。経営の根幹に関わるデリケートな質問は、特に慎重に行いました。

- 購入された案件は営業利益が0円でしたが、気にならなかったですか。
売り手様はコロナ禍の真っ只中で開業されて1年ほどお店を運営されてきたので、仕方ないと思っていました。仕入れや原価率のデータを見ると、オーガニック食材にこだわりがあるからこそ、かなり原価率が高くて、営業利益があがらないのも頷けました。

また、建物の2階スペースでは売り手様の奥様がエステサロンを開かれていました。予約がある時には二階が客席として利用できず、予約が入っていなくてもベッドにスペースを取られるため、デッドスペースが多かったんです。仕入れやスペースの使い方を見直せば、業績を改善できる見込みもあると感じました。

- 数字情報をクリアしたら、次はどのように交渉を進めましたか。
基本的には、ディスカウントができるかを聞いていて。たとえば1100万円が先方の譲渡希望金額だった場合、800万円くらいまで下げることは可能かどうかを探りました。

ただ、今回購入した案件では価格交渉はしていません。同じく交渉中だったライバルがいて、早くからディスカウントを匂わせてしまうと他に取られてしまうと思ったからです。

また、お店の現地視察をさせていただいたのですが、この時には行き付けの飲食店の店主に譲渡厨房機器明細票を見てもらい、プロの料理人の目で厨房機器などを見てもらいました。「スチームコンベクションだけで80万円ほどしますよ」などと教えてもらったことで、売り手様の譲渡希望金額は良心的な価格設定だとわかったのです。

- 現地視察では、どんなポイントを確認したり、売り手様に尋ねたりしましたか。
まずは立地です。本当に駅から数分で行けるのかというアクセスも含めてですね。周りに競合となり得るカフェや喫茶店がどの程度あるのかも、周辺を散策して確認しました。もちろん、外観や設備も見ました。

あとは、お客様の年齢層、地元の方と観光客の割合など、売り手様が経営をする中で感じている肌感覚を伺ったり、価格設定の理由を尋ねたりました。

一度視察をして終わりではなく、平日と土日で時間帯を変えて視察に行き、人通りがどれほどかを調査しました。また、同業近隣店舗で滞在して、実際にどんなお客様が来られているのかも観察するなど、実体を把握すべく情報を足で稼ぎましたね。

売り手様は、メールでのやりとりからも誠実な方だと伝わってきましたし、お話をしてもその印象を受けたので、話していただく情報は信用していましたが、現地調査を行っても売り手様からお話いただいた通りでした。



(今回買収したカフェ③)

【厳しい契約で縛りすぎるのも禁物!?売り手様への配慮を優先】

- 交渉はスムーズに進みましたか。
いえ、実は一度は「別の買い手様に決めます」とお断りの連絡をいただいていました。その買い手様は法人だったようなので、「やはり世間一般的には、個人より法人へ売却する方が安心だから仕方ないか」と思っていたんです。

しかし話がうまくまとまらなかったようで、1~2週間後に買い手様から「恥ずかしい話ですが、もしまだご希望いただけるのであれば、ぜひともお願いしたいです。失礼なことをしたため、値段をいくらかディスカウントさせていただきます」と連絡があって。

こうしたお話をいただけるということは、私たち夫婦がこのお店をやるべきだと天から言われているような気もして。ご縁を感じて、よりモチベーションが上がった状態で引き受けさせていただきました。

- 別の買い手様が断ったと聞いて、「この案件は大丈夫だろうか」と気にされる方もいますが、不安はなかったですか。
どうやら、もともとの買い手様の社内の役員会で反対が出て、頓挫してしまったようで。おそらく、コロナ禍で飲食店を買収することをリスクと思われる方がいたのでしょう。

しかし私は、コロナはいずれ収束するだろうし、外国人の入国制限が緩和されればインバウンド需要も回復するだろうという読みがあったので、買おうと。当初の予算に比べてだいぶ安価でしたし、失敗してもなんとかリカバリーできる金額だと思ったので。

法人ではなく個人だからこそ、柔軟かつスピーディーに動けたのかなと思っています。

- 交渉を進める上で、難しかったことはありますか。
契約書の内容をどうするかということですね。

M&Aを得意としている知り合いの弁護士事務所にお願いして契約書作成をお任せするなど、しっかりとした体制を築いて臨みました。売り手様が最初に用意してくださった契約書の雛形も、弁護士のリーガルチェックのもといろいろと書き換える形になりました。

ただ、法人間のM&Aではないので、リスクヘッジのためにあまりに難しい表現や条件を厳しすぎる表現にしてしまうと売り手様が委縮されるでしょう。

弁護士の先生と研修中の司法修習生と3人でZoom会議をしながら、「これは省きましょう」「この表現はキツいので、緩めましょう」と相談しつつ進めました。かなり緩い内容に落ち着きました。たとえば瑕疵担保責任に関する条項も、最終的には民法の規定よりも期間を緩めて、やさしい条件に設定しました。

売り手様は、これまでのキャリアでビジネスの法規に関わる機会がなかったように感じました。「契約書に印紙が必要ですよ」といったことも、こちらからお伝えしたんですね。そうした方に、ガチガチに固めた内容の契約書を見せてしまうと、おそらく警戒されたり、不安に思われたりしますよね。

売り手様にストレスやプレッシャーを与えたり、交渉が破談になったりすることは避けたかったので、抑えるところは抑えつつもマイルドで控えめな内容にしました。もし相手が法人だったり、M&A経験に長けている人であれば、もっと要望をガンガン伝えていたと思います。この辺りは、相手の経歴やキャラクターを見ながら調整した方がいいのかなと。

ただ、将来的にはリスクが残りますし、私自身はかつて大規模のM&Aでガチガチに固めた契約内容、タフな交渉を行ってきた経験があるため、もう少し固めたかったというのが本音です。

【不確定要素が多いからこそ、身の丈に合わせたチャレンジを】

- 引き継いで1ヵ月ほどですが、いかがですか。
客数には苦戦していて、「感染者数過去最多」の報道が出る度に人通りが少なくなっています。ただ、その中でも足を運んでくださるお客様がいて。私も長期休暇を取って手伝いに入っていますが、普段接点のないお客様とお話できるのは楽しいですし、「おいしい」と言っていただけるのが何よりの喜びです。

レシピなどは売り手様から引き継ぎつつ、新たなメニューも考案しています。また、今は仕入れ先の選定中です。以前からの仕入先でいったん引き続き契約していますが、さまざまな業者さんが「うちを使ってください」と営業に来られるので、相見積もりを取っている最中です。クオリティと価格のバランスが一番良い業者様と、お付き合いできればと思っています。

- 念願のカフェを開業できた奥様も、いきいきと働かれていますか。
毎日充実しているようですよ。これまで専業主婦だったので、お客様や近隣の方と新たに知り合えるのもうれしいみたいです。おしゃべり上手でコミュニケーション能力が高いので、周りの方とすぐに打ち解けています。

日々メニューを考案したり、お客様に喜んでもらうために何ができるかを考えたりすることが、とても楽しいみたいです。

- お店を手伝われた感想はいかがですか。
新たな挑戦ばかりですし、毎日変化があっていいですね。

妻は仕込みのために朝早くからカフェに行っていますが、私は時間に余裕を持って出勤しているので、たとえばジムで軽くトレーニングをしてからお店に行く日もあります。それに、「天気が悪くて、今日はもうお客様が来ないだろう」と判断して、早めに店じまいすることもできます。

時間が自由で、融通も利きますが、その代わり経営の責任はすべて自分で背負うところが自営業ならではであり、サラリーマンとは全然違う働き方だと感じます。

- お店の運営や経営面で悩んだ時に、相談できる人はいますか。
馴染みの飲食店がいくつもあって、店主さんが気軽に何でも教えてくれています。客層の問題や仕入れ先のことから、価格設定の考え方(哲学)や飲食店の経営の実情など、「こんなこと聞いていいんですか?」と思うことまで赤裸々に話してくださって

皆さん10年以上飲食店を切り盛りされているので、経験が蓄積されています。しかもコンサルタントではないので、現場に根差した情報を無料で教えていただけるんです。とても恵まれていますし、いつどこでお世話になるかもわからないからこそ、人付き合いは大事だと今更ながら実感しています。

- 今後、挑戦してみたいことはありますか。
先ずはテイクアウト商品の充実、更にUber Eatsには、一度挑戦してみようと思っています。私たちのカフェがある商店街で、同じように飲食店を経営している方にお話を聞いたところ、「手数料は高いけれど、自分の都合で店のオープンやクローズを決められるし、●食限定のような売り出し方もできて、食品ロスを減らせるメリットもあるよ」と教えていただいて。

経験しておいて損はないと思いますし、Uber Eatsという媒体を介して当店の味を知ってもらえる機会を増やせるのなら、アリかなと。手数料を広告宣伝費と捉えて、チャレンジしてみようと思います。

- これからM&Aに挑戦される方へアドバイスをお願いします。
背伸びをしないことですね。身の丈に合った事業計画でやっていくのが大事だと思います。

先ずは味、接客(接遇)態度が重要なのは言うまでもありません。しかし、飲食店は不確実性の塊だと私は思っていて。たとえば、芸能人の発信をきっかけに翌日から行列ができる店になることもあるほど、不確定要素や運頼みの部分も多いじゃないですか。

それに、まだまだコロナ禍にも振り回されていますよね。私も、契約時にはコロナが収束しつつあって、観光客数が復調しそうな予兆があったのですが、実際はまた次の波が来てしまって。行動制限はないものの、以前の夏休みやお盆時期と比べると大幅に観光客が減っている状況です。

自分たちの頑張りだけではどうしようもない不確定要素がたくさんあるからこそ、やはりイニシャルコストは極力抑えるなど、リスクを低減する考えを持ってM&Aを進めた方がいいと思うのです。もし1店舗目で成功したら、2店舗目で大きな投資をして第2ステップを踏み出せばいいのではないでしょうか。

もちろん、事業に対してパッションは必要ですが、一方で事業計画は冷静に考えておくべきです。現実的な売上目標を立てるのはもちろんのこと、「このラインに差し掛かったら譲渡・売却する」といった、事業の退路も常に常に考えておくべきだと思います。

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■今回福島さまが買収した案件はこちら

「オーガニック素材の焼き菓子カフェ&オンラインショップ」

■福島さまが運営するカフェはこちら

「Hi! café」(食べログ)

「Hi! café(@hicafekyoto)」(インスタグラム)

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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