2023-08-29
売却/買収の両経験者が明かすM&A成功の秘訣とは?FC脱毛サロン譲渡で見えた新マーケットの可能性
売り手(法人):ごはん株式会社

<中小企業のM&A・売却事例>
- ➤ Webメディア事業から飲食事業、多数の事業売却を経験
- ➤ 無人運営と市場性に魅力を感じて、脱毛サロンに挑戦
- ➤ 事業の「出口」は閉鎖・売却・IPOの3つしかない
- ➤ フランチャイズの事業承継には隠れた市場が広がっている
東京都・渋谷区内の好立地にあるセルフ脱毛サロン。このサロンを譲渡することになったのは、都内を拠点とするごはん株式会社です。
同社は飲食事業を中心に展開してきましたが、コロナ禍をきっかけに、無人で運営できる脱毛サロン事業に参入しました。 未経験の分野ながら、フランチャイズ加盟店ということで、本部よりノウハウを享受しながら店舗運営に挑んできたといいます。
今回は本業と親和性の高い新規事業に注力するため、TRANBIを通じてスピード売却に成功しました。
代表の関谷勝司さん(50代)は、同社の設立前にも幅広い事業に挑戦し、これまで数多くのM&Aを経験してきた一人です。今回の譲渡の詳細を含め、買い手・売り手両方の立場から見たM&Aのポイント=“急所”を教えていただきました。
【Webメディア事業から飲食事業、多数の事業売却を経験】
- まずは、関谷さんのこれまでの経歴について教えてください。
20代の頃はずっと、食品小売業を中心とした仕事に携わってきました。スーパーのバイヤーや食品小売業のコンサルティング会社など、色々と経験してきています。
会社員の頃には、4年ほどWeb周りの仕事にも関わりました。ガラケーのモバイルコンテンツが急成長した時代だったので、Web関連の広告代理業が中心でしたね。
独立したのは今から20年前です。当時、 私はコールセンターの会社の雇われ社長だったので、その会社を買い取る形(MBO)で独立しました。社会人になってからゆくゆくは独立を考えていましたし、法人を作って副業をしていた時期もあったので、「思い切って独立!」という感覚ではありませんでしたね。
- もともと独立志向があり、そのタイミングが来たということですね。
はい、それが30代半ばのことです。ただ、その会社は比較的早い時期に売却しました。正直、それほど思い入れの強い事業ではなかったことと、インターネットメディアを作る新規事業に注力したかったからです。
この頃は、サイトM&Aのマッチングサービスを介して売買を繰り返していました。基本的に小さいものばかりですが、大きいもので2000万円程度。全部で5、6サイトを扱いました。
買ったサイトは完全にリノベーションをして、ある程度の規模に育ててから譲渡していました。メディアはやはりスケールさせないと意味がないですし、シナジーを生み出せる適任者に運営を任せた方がいいと思ったからです。
特にSNS周りをよく手掛けていて、何らかの分野に特化したSNSを多く作っていましたね。例えば、手掛けたラーメン特化型のSNSコミュニティもすごく盛り上がっていました。
インターネットメディアを必要とする事業主がいることは間違いありません。でも、広告出稿と違って、自社メディアをもつことはハードルが高いと思われるケースも多いんです。
そのため、私が間をつなぐような仕事をしていました。サイトを作って育てるのは好きでしたし、始める前の戦略立案にもやりがいを感じていましたから。
- そこから、ごはん株式会社の設立につながっていくのでしょうか?
はい。そこから10年後に立ち上げたのが、ごはん株式会社です。独立後しばらくはWebメディア事業を中心に展開してきましたが、 飲食事業を始めるにあたって当社を設立しました。
まったく違う業種ですが、20代の頃はずっと食品業界にいたので、食関連の分野に関しては比較的知見があったからです。
具体的には、五反田と銀座に2店舗、お店を出していました。日本酒専門のバーと、日本酒とお肉のコース料理を出す会員制の肉バルです。
最終的には両店舗とも、お付き合いのあった同業の社長さんに話をもっていき、コロナ前に売却しました。ですので、現在では直接運営している店舗はありません。
ただ、飲食事業をマネジメントしてほしいというニーズはあるため、そういう形で引き続きこの業界に関わっています。

(ごはんさんが運営していた飲食店)
【無人運営と市場性に魅力を感じて、脱毛サロンに挑戦】
- 飲食事業へシフトした後、脱毛サロンを始めたのはいつ頃だったのでしょうか?
今回の脱毛サロンは2年前に始めました。飲食事業からシフトしたのは、コロナ禍の影響です。やはり、あの状況下で新しく飲食店を出すことはリスキーでしたから。とはいえ、何か事業を始めなくてはという思いもありました。
色々と調べていくなかで、無人で運営できる店舗という点で魅力を感じたのが、この脱毛サロンです。フランチャイズに加盟してという形ではありましたが、 市場性も含めて面白いんじゃないかと思い参入しました。
- その後、売却に至った理由はどんなところにありましたか?
なかなか黒字化が進まなかった、というのが正直なところです。加えて、 ここ数か月連続で黒字がずっと続いてきたタイミングでもありました。売却するなら、見え方としても今が最適だろうと判断したわけです。
- 買い手の方に求める条件とはどういうものだったのでしょう?
本件に関していえば、お客様がいらっしゃる事業であり、その方々に対して真摯にサポートできることが前提でした。
店舗運営では当たり前のことですが、そこをちゃんと考えられる人か否かはとても重要です。 いわゆる投資案件として利回りばかりを気にする人には難しいだろう、と最初から考えていました。
といっても、実際にはたくさんの人と面談したわけではありません。今回お会いしたのは1人だけ。幸いなことに、最初にお会いした方の印象がよく、交渉もスムーズに進みそうな感触があったので譲渡を決めました。
具体的なスケジュールも先方から提案していただいたので、すぐに話が進み、掲載後24日で契約締結となりました。 スピード感的にもすごくよかったなと感じています。
- 交渉時に、意識して伝えたことがあれば教えてください。
初めにはっきりと伝えたのは「利益ベースで算出した希望売却額ではない」という点でした。そして、 金額の根拠についてもきちんと示しています。それにご納得いただける方が、次のステップに進んでいただきたいなと。情報の後出しでは、余計な時間がかかってしまいますからね。
- 引き継ぎで苦労されたことはありましたか?
いえ、まったく問題ありません。先方もよく動いてくださったので、非常にスムーズに完了しました。譲渡先に対してはFC本部側のサポートもあったので、そのあたりもうまくいった要因かなと思います。
【事業の「出口」は閉鎖・売却・IPOの3つしかない】
- 今回の脱毛サロンを含め、関谷さんはこれまで何度もM&Aを経験されていますね。
そうですね。一つひとつの単価は大きくないものの、経験してきた数は多いと思います。だからこそ、M&Aのコツというか“急所”みたいなものはわかってきましたし、 今回のM&Aでも過去の経験が生きたなと感じました。
私は、事業を始めた後の「出口」は、閉鎖か、売却か、IPOの3つしかないと考えています。特に店舗ビジネスの場合は、せっかくのお客様をゼロにするのはもったいない。従業員が引き継ぐのはもちろん、うまく承継してくれる方がいるならM&Aも有効な方法の一つだと思います。
- 売買の際には、どんなところに気を付けていらっしゃいますか?
一番はやはり嘘がないことですね。交渉の際には、基本的に全てを開示しなくてはいけません。具体的な話になった時、隠さず本当のことを伝える姿勢が大切です。
そして仮に同じ事実だとしても、ポジティブな形で伝えるか否かで、相手の捉え方や受け取り方もまったく変わってきます。 伝え方や交渉力も大きな要因だと思いますよ。
- 交渉相手として「こんな方は困る」という特徴はありますか?
それはもう、人柄じゃないでしょうか。やっぱり面倒くさい人は嫌ですから(笑) これは売り手でも買い手でも一緒だと思います。
例えば、メッセージの伝え方次第で相手に与える印象は変わりますし、「この人は多分嘘をついているな」と信用を失う恐れもあります。結局、相手のことを考えた誠実なコミュニケーションがとても大事です。
- ちなみに、過去に売却できなかった事業もあるものでしょうか?
もちろんあります。その場合は、事業をやめるしかないですね。値段を下げるのも一つの手段かもしれませんが、金額がどうあれ、多分売れないものは売れないと思っています。その理由は案件によって異なりますし、要因が「これ」とは特定できません。
あとは、属人的な事業は売りにくいともよく言われます。なかには完全に私が前面に立ってやっていた事業もあり、やはり売却が難しい感触でした。もちろん、実際に出してみないとわからない部分もありますが。
- これまでのM&Aの経験を通して、何か思うところはありますか?
TRANBIのようなマッチングサービスを見ていても、売り手と買い手では、買い手の方がたくさんいるじゃないですか。私は経験があるので、売り手の立場や求めていることもわかりますし、交渉時にはその情報をうまく出していくことが可能です。
しかし、そうした経験のない売り手さんには、交渉がかなり難しいのではと感じています。そこで 今後は折衝代行のような、売り手の方に寄り添うサポートができたら、と考えているところです。
【フランチャイズの事業承継には隠れた市場が広がっている】
- 今後の事業の展開については、どのように考えていますか?
売り手に寄り添うということを進めるにしても、私のなかではFC案件が結構大きなテーマになると思っています。
フランチャイズ本部からすれば、加盟店を新規に拡大していきたいのと同時に、既存店の閉店をどうにか防ぎたいという考えが当然あります。単純に閉店してしまうのが一番よくないですし、本部が引き取った場合はロイヤリティが入ってきません。
そこで、オーナーチェンジという方法が一つの有効な手だと考えています。 今回のM&Aはみんながハッピーになる話でしたし、このような承継をもっと手助けしたい。「やめたくてもどうしたらいいかわからない」と悩んでいる加盟店は、本当にたくさんありますから。
とはいえ、ネガティブな情報が表面化するのを嫌がる本部も多いものです。だからこそ動く人が必要になるので、そのあたりのニーズをよく考えて動いていきたいですね。
フランチャイズの経験は今回が初めてでしたが、知り合いがFC本部に特化したベンチャーキャピタルにいるので、その関係でつながりも開拓できそうです。大きなM&A仲介会社が手を出さないゾーンに特化して、売り手に寄り添う支援ができたらと考えています。
- これから事業譲渡に挑戦される方へ向けて、何かアドバイスがあればお聞かせください。
やはり、ちゃんとストーリー立てをすることではないでしょうか。そもそもどんな事業なのか、実際の売り上げがどのように推移しているのか、黒字なのか赤字なのか、今回どうして売却に至ったのか。自分自身がまずは理解していなくてはいけません。
M&Aサイトに掲載する際には、ある程度ひな形がありますよね。そのひな形に沿って、きちんとアンサーしているかどうかは重要です。特別なことではありませんが、結局買い手が聞きたいのはそういう話だと思います。そして、 掲載する内容もやり取りするメッセージも、一言一句で差が出ることも忘れないようにしたいですね。
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