2023-10-10

潰れかけのマツエクサロン買収から年商10億円規模へ大成長!敏腕美容コンサルタントが語る経営の秘訣

買い手&売り手(法人):株式会社nicott

<中小企業のM&A・買収事例>

 

今回お話を伺うのは、大阪市北区にある株式会社nicott代表取締役の田村雅也さん。美容業界に特化した経営コンサルティングを主軸に、新規事業としてこれまでM&Aの買い手・売り手の両方を経験しています。

買収した事業は大阪・梅田のマツエク(まつげエクステ)サロン。 美容サロンのM&Aコンサルを展開するために、勉強として自ら買収し、現在ではフランチャイズを含めて計20店舗にまで成長しています。

一方、TRANBIで売却したのはFCの塾事業。 FCのノウハウを学ぶため異業種参入しましたが、軌道に乗らなかったため売却を決断しました。

買い手と売り手、そしてFCの加盟店側と本部側、どちらの立場も経験したからこそ得られたものは大きいといいます。今回のインタビューでは、田村さんにそれぞれの詳細と、経営成功の秘訣やM&Aの考え方について語っていただきました。

【美容業界のM&Aコンサルを学ぶため、自らサロンを買収】

- まずは田村さんのキャリアと、株式会社nicottについて教えてください。
僕はもともと新卒で株式会社F&Mに入社し、その後船井総合研究所で美容室専門のコンサルティングを行っていました。2017年に独立し、設立したのが株式会社のぞみコンサルティングです。

弊社では、美容サロンの経営者向けにコンサルを提供しています。それとは別の新規事業として、マツエクサロンとFC塾の運営を展開する中で、2件のM&Aを経験しました。1つはマツエクサロンの買収、もう1つはFC塾の売却です。

- M&Aに挑戦したきっかけや理由は何でしたか?
独立当時から「今後は絶対にスモールM&Aの時代が来るだろう」と思っていました。美容業界は人材不足でしたし、経営難のサロンは大手に買収され、小規模サロン同士で結び付く動きが出てくるはずだと。そこで、僕もM&Aを主軸としたコンサルを展開しようと考えたのです。

M&Aを手掛けるなら、買う側・売る側の気持ちを理解しなくてはいけません。そこで、 まずは勉強代としてマツエクサロンを買収し、株式会社nicottを立ち上げました。その時は、 売上を伸ばしてから売却するつもりでしたが、思いのほか事業が成長したため現在も経営を続けています。

- 当時はどのような方法でサロンを買収したのでしょう?
美容サロンのM&Aを調べる中で、個人運営のような小規模なM&Aサイトを見つけたんです。スモールM&Aの案件を色々と扱っていたので、直接問い合わせて買いました。

決め手となったのは梅田というエリアです。 経営を再建して売却する予定だったため、集客が見込めて立て直せる可能性がある地域にあることが重要でした。そこで、大阪の梅田、天王寺、難波といった繁華街に絞って探していたのです。

業績面は一切気にしていません。コンサルを提供している僕が立て直せなかったらダメでしょうし、高値掴みと知りつつも購入しました。購入額は600万円。オープン1年半でやっと黒字に転じたばかりで、トータルでは利益もマイナス、スタッフは1人のみで、実際の評価額はそこまでなかったと思います。

-  高いと知りながら購入に踏み切った理由を教えてください。
僕は経営をしたことがありませんがマーケティングもマネジメントもできる根拠のない自信みたいなものはありました(笑)。ただ、知らなかったのは美容サロンの細かい部分なんです。

例えば、カウンセリングシートのようなツール類や、どんな商材を使っているのか、どうやって保管しているのかなど。すべて1から調べてサロンを作るより、ある程度高くても購入した方がスピード感が出ると判断しました。

ただ、当時はM&Aの知識が乏しく、流されるままに買ったところもあります。 もし同じ案件が出ていたとしても、今の僕なら100%買いませんから(笑)



(田村さんが運営するまつエクサロン①)

【積極的なオプション販売と、見える化&仕組み化で再建へ】

- 購入した後、引き継ぎはスムーズに完了しましたか?
いえ、購入前も不安はありましたが、実際に買った後は色々なトラブルがありました

まず、交渉時の書面では「人材採用のサポートを行う」という条文を入れていたんです。しかし、 実際にはそういったサポートはなく、M&Aを仲介した会社からも法律論で強制力はないと収められてしまって。仕方なく減額請求をして約20万円下げてもらうなど、その部分ではとても苦労しました。

- 他にはどんなトラブルがありましたか?
スタッフは3人いると聞いていたのに、フタを開けてみたら事実上1人でした。他の2人も籍だけはありましたが、過去に1〜2回出勤したぐらい。引き継いだ後は1回も来ることなく、結局会ったことがありません。残っていた1人からも「辞めたい」と言われ、かなりストレスを感じましたが、同時に気合いも入りました。

また、集客面でも想定外のトラブルがありました。 当時は集客の90%以上をホットペッパーに頼っていたものの、お客様からアレルギー関連の口コミが入ったことで半年間の掲載停止に。該当の施術は買収前の話でしたが、買収して1か月後にその口コミが入ってきたため、スタートしていきなりペナルティを受けた形でした。

買ったはいいけど、スタッフはいない、広告は出せない――最初はそんなトラブルからの始まりでしたね。

- 大変な状況からのスタート、その後どのように動いていったのでしょう?
半年間は集客の9割を失うため、赤字は確定ですし、もう割り切るしかありません。 次につながる行動をしようと、他の集客方法を試したり、来店されたお客様へのアプローチを徹底的に考えたりしました。ノウハウはこの時期にほぼ出来上がったようなものです。

例えば、お客様に対して積極的にオプションメニュー提案すると決めました。 同時に、その金額の10%をスタッフに還元するというルールを作ったんです。

当時はグルーポンという媒体にも掲載していて、事前に格安のチケットを購入したお客様は来店時に1円も支払う必要がありません。だからこそ少しでも上乗せしたいと。より良い毛質のエクステに変更したり、トリートメントをつけたり、そういったオプションをどんどん提案するようにしていました。

- 積極的なオプション販売を始めて、実際に変化はありましたか?
最初は売上が全然伸びませんでしたが、徐々に改善され、どんどん単価も上がっていきました。すると、最終的に思わぬ効果をもたらしたんです。

サロンのスタッフって、実は「低単価で施術をしたくない」「高単価のサービスを提供したい」というプライドがあるものなんですね。

店舗の単価が高くなることで、スタッフも「うちは高単価のサロン」という認識になり、やりがいを感じてもらえるようになりました。これが今の会社の文化にもなっています。

うちのサロンは、美容業界の中では給与も高い方だと思います。例えば、月収70万円に達した26歳の女性スタッフもいますね。好待遇を実現できるのは、やはりオプションの販売によって売上が上がってきたからです。

- サロンの仕組みづくりで工夫した部分を教えてください。
美容業界は、給与の計算方法や評価制度がブラックボックスになっていることが多い。 僕はそこを一般企業レベルに改善するため、すべてバックヤードに貼り出したんです。

すると、スタッフは自分の給与が計算できますし、自然と頑張るようになりました。つまり「見える化を徹底した」という、ごく単純な仕組みです。

売上が悪くなったら給与を下げたいからと、数字を見せない経営者はたくさんいます。僕はそれを誠実にオープンにしただけなんです。といっても、利益などを慎重に計算し、経営的にリスクを負えるボーダーラインはしっかり考えました。

給与制度は何段階かに分かれていて、オプション販売分の還元もあれば、全体売上の還元もあります。さらに、1人7人以上のお客様に入るだけでも還元しています。

普通のサロンは、売上の40%、50%を還元するような「パーセントバック」が多いんです。 僕はそうではなく、入客したくなる仕組み、オプション提案したくなる仕組みに注力しました。

そこさえ構築できれば売上は必ず上がるし、二重三重にプロセスを評価したかったんです。そうして、売上を上げる文化を1年足らずで根付かせました。



(田村さんが運営するまつエクサロン②)

【売上100倍へ!勝因は集中出店・未経験採用・8割経営】

- マツエクサロンの現在の経営状況はいかがですか?
現在展開しているサロンの数は、直営店の15店舗とFCの6店舗、計21店舗になりました。 マツエク事業だけの売上を見ると、当初1000万円ほどでしたが、今期はおよそ計8億円にまで成長しています。

来期はおそらく10億円を超える見込みで、閉店寸前の1店舗からやっとここまで来た、という感じですね。

- そこまで成長できた秘訣は、どんなところにあったのでしょう?
まずは、同一エリアに店舗を増やしたことです。普通は商圏が被ることを懸念して、同じエリアに店舗を増やす人はほとんどいませんよね。

でも、例えばホットペッパーで梅田エリアに掲載しているサロンが200店舗あるとしたら、そのうち半分は利益が出ているだろうと。それなら、100店舗分のマーケット自体は存在するはずというのが僕の考え方なんです。

同じエリアに複数店舗があれば、スタッフの異動もしやすくなります。近くの店舗なら異動も許してもらえますから。また、辞める原因の大半は人間関係ですが、近隣店へ配置転換することで、スタッフ間のトラブルや関係悪化にもすぐ対応できます。

そのため、出店エリアはいまだに梅田、天王寺、難波、あとは京橋のみ。しかも、別店名で同じビルにも出しているんです。ここまで近いと管理がすごく楽ですね。

- 小さな店舗を複数作るより、大きな店舗を作ろうとは考えていませんか?
大きな店舗は作りません。固定費が大きくリスクが増えるからです。固定費の比率でいえば小さな店舗の方が高くなりますが、あくまでリスクヘッジを優先しています。

小さければ閉店もしやすいですし、大きく儲けるよりも負けない方法を選ぶという考え方です。

それに、店舗の規模が大きければスタッフの人数も増え、トラブルが起こる可能性も高くなります。僕の経験上、女性同士の揉め事が起きない人数は最大で4〜5人までなのかなと。

- スタッフの採用については、どのように考えていますか?
僕はあえて未経験者を積極的に採用しています。スキルは一切問いません。なぜなら、未経験からでもしっかり売上を上げられる仕組みを構築しているからです。独立志向の強い経験者よりも、一緒に成長して、うちで長く活躍してくれる人に来てほしいですね。

ちなみに直営の15店舗については、スタッフ募集も面接もすべて僕がやっています。 サロン運営は何より人が重要なので、その部分を誰かに任せることは当面なさそうです

- 店舗マネジメントの面で意識されていることを教えてください。
本部で蓄積したノウハウを“ルールブック”として共有しているので、仮にトラブルが起きた場合でも「こういう時はこうする」と適切に対処できています。

入客の仕方についても、スタッフ同士で揉めないようにルールを決めています。実は店長がいない店舗もありますが、仕組みさえできていれば自動的に回っていくものです。

結局、どんなルールでもいいんですよ。1番問題なのは決まっていないこと。「うちはこう」という方針さえ打ち出せば、不要な揉め事は避けられます。このあたりはすごく意識しているポイントですね。

毎月のミーティングで決定した内容はすべて書面で共有しているので、公平性も保てています。

それから、スタッフは全員女性なので、マネジメントや接し方には気を付けています。変化を嫌う人も多いため、急激な変化や負担を感じさせないやり方を徹底的に追求しています。

- サロン経営に関して、その他心がけていることはありますか?
僕が掲げているのは「8割経営」です。スタッフは頑張りすぎず、8割やってくれれば十分。100%、120%頑張り続けると絶対に疲れますから。スタッフや店舗同士の競争もさせません。

最近実は、売上を上げられる仕組みの「弊害」が出ているんですよね。 スタッフの給与意識が高くなったことで、つい頑張りすぎちゃうんですよ。今はそのあたりのコントロールを意識しています。

長く働いてもらうには、モチベーションが上がりすぎてもいけません。 うちはもともと土日に2日休みを取れますが、来年は3日休めるようにしようかと提案しているところです。

- 今後の展開はどのように考えていますか?
これからも店舗数はどんどん増やしていく予定です。直営かFCかは迷うところですが、直営の方が利益は大きいですね。実は、来月も再来月も直営店を出すことが決まっています。年内には23〜24店舗になり、来年はさらに増やすつもりです。

店舗開発は、私が空いた時間に進めています。とはいえ仕組み化されているので、物件さえ決まれば内装業者と打ち合わせを進めて、メールのやり取りだけでオープンした店舗もあるくらいです。仕組み化に関しては、F&M時代に学んだことが活かされています。

ちなみに本部の人員は僕だけ。店舗開発も、採用も、経理業務も、自分でやっているので本部コストはかかりません。ただ、給与計算は面倒なので、唯一そこは外注しています。

もともと売却するつもりで始めたマツエクサロンですが、まだ今のところ売る予定はありません。IPO基準になった時に、IPOするかM&Aするかを考えようと思っています。営業利益は好調ですし、まだまだ拡大フェーズとして展開していきたいですね。



(田村さんが運営するまつエクサロン③)

【M&Aで生死をかけた勝負をしない。常にリスクヘッジを】

- 田村さんはM&Aでもう1件、FC塾の売却を経験されていますね。
はい。もともと塾事業に参入したのは、マツエクサロンのフランチャイズを展開しようと決めた時に、 伸びているFCのノウハウを取り入れるためでした。実際に自分が加盟して、ノウハウを直に吸収できればと。そのFCは当時YouTubeでも注目されていたので、加盟するなら今だと思って踏み切りました。

しかしその後2年近く経営しましたが、ずっと低迷状態でした。売上が上がるイメージは見えてきましたが、回収できる見込みがまったくなかったんです。

最初に1000万円ほどかけて、累計の赤字は2年で約1700〜1800万円。売却時に300万円は回収しましたが、勉強代だと割り切って手放しました。

- 手応えがなかったのは、どんな部分に原因があったのでしょう?
美容サロンと学習塾では、ビジネスモデルが全然違うんです。 美容サロンはお客様が増えていく「積み上げ型」ですが、塾の場合は、時期が来れば生徒は必ず卒業してしまいます

3月・4月で一度に生徒が増え、安定した売上が立った後、1月・2月の卒業でまたゼロに戻るというサイクル。これが僕には合いませんでした。

僕自身、塾に強い関心があったわけではなく、FCのノウハウや仕組みさえ学べればという気持ちが正直大きかったんです。売上拡大に対する興味を失ってしまった結果、一番の肝である集客がまったくできませんでした。

また、FC本部を信用しすぎたところもあります。事前に集客のシミュレーションをしましたが、その通りにはいきませんでした。前提として僕の力不足もありますが、加盟件数が増えすぎて店舗あたりの集客数はすでに減っていたのです。

ただ、僕も本気でやっていたかと問われると、そうではありません。だからこそ、教育業が本当に好きで、熱意をもって取り組める人にバトンタッチすべきだと感じていました。

- 交渉時に、売り手側として気を付けたことはありますか?
僕は買い手側も経験しているので、やっぱり相手が不幸になることだけは絶対に避けたいと。 「聞いていた話と違う」にならないよう、こちらの情報はしっかり誠実に伝えました

赤字の状態も、塾に興味がわかず集客しきれなかったことも、正直に伝えています。そのうえで「黒字にできる自信があるなら買ってもいいと思います」と言いました。1から作るよりは安いけれど、ネガティブな情報もふまえて最終的に自己判断してほしいと。

- FC事業に挑戦して得られたものを教えてください。
FCに加盟して良かったのは、加盟店側と本部側の気持ちがわかったことです。

加盟店側からすると、経営不振の時は気にかけてほしいし、本部主導のサポートやアドバイスが欲しいんですよね。一方本部側は、オーナー同士のコミュニティを用意しているので、そこでお互いに学んでくださいというスタンスでした。

売上が上がらない責任は加盟店にあるし、主体的に経営してほしいのが本音でしょう。

そうした両方の立場を理解したので、 自分が本部として展開する時はしっかりコミュニケーションを取り、思いが行き違わないよう伝え続けなくてはと感じました。

- 買い手と売り手の両方を経験してみて、今はM&Aについてどう考えていますか?
今後のスモールM&Aは、高齢の経営者による事業承継がメインになってくるのではと思います。タダでもいいから事業を引き継いでくれる相手を探しつつ、債務は解決したいと。

M&Aを実際に経験して思うのは、成功体験を積んだ人でないと2回目は難しいだろうということです。僕自身はM&Aをきっかけにマツエク事業をここまで大きくできたので、少なくとも買いの案件はずっと調べています。

事業拡大にあたって、M&Aを上手に活用すれば大きな武器になります。ただ、どちらかといえば“劇薬”にも近いので、飲まれる人も多いかもしれません。

生きるか死ぬかの勝負をM&Aでやっては絶対にダメ。M&Aは大きなコストがかかるため、想定外の費用も考慮して、ある程度の余剰資金で挑まなければ危険です。個人の場合は、何らかの別事業を持っているか、収入の範囲内でまかなえる案件でなければ、手を出すべきではないでしょう。

資金面でストレスがかかってくると、大抵はコストカットに力を入れ始めるため、事業はうまくいきません。注力すべきはコストカットよりも売上拡大。そうでなければ、買った会社の従業員との関係も悪くなります。

一番のストレスは、契約の瞬間よりも買った後ですからね。僕の場合は、スタッフが全員辞めるのではという懸念でした。ただ、もし赤字になってもコンサル事業の売上でカバーできる範囲を考えていましたし、リスクヘッジ思考は常に重要だと考えています。



(田村さんが運営するまつエクサロン④)

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■株式会社nicott HP

http://www.nicott-lash.com/

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