2021-10-26

マタニティウェディング専門の式場探しサービス「ママ婚」をM&A:街コン専門情報サイトを手掛ける上場会社の狙い

買い手(法人):(株)リンクバル

<上場企業の多角化を目指したM&A・買収事例>

 

株式会社リンクバルは、街コン専門情報サイト「machicon JAPAN」をはじめ、デーティングアプリやカップル専用アプリなど、恋愛や出会いに関わる事業を広く展開する上場企業です。そのリンクバルが約2,500万円で購入したのが、マタニティウェディング専門の式場を探せるオンラインサービス「ママ婚」

恋愛と結婚、何かシナジーが生まれそうなこのM&Aは、どんな意図で行われたのでしょうか? リンクバル取締役で、新規事業企画室室長を務める鳴澤淳さんにお話を伺いました。

【狙いは、街コンの次の柱をつくること】

- まず最初に、リンクバルでは元々どのような事業に取り組まれているのかを聞かせてください。
元々は街コンのイベントを自分たちで企画・運営するのが創業事業でした。当時は東日本大震災直後の自粛ムードで飲食店が困っていたことを受け、どうにか外食を促して応援したいと考え、人々が集まり・出会いの場を提供する街コンというサービスを提供しました。

- そこから街コン情報サイトの「machicon JAPAN」を運営されるようになったんですね。
はい。最初は、自社運営のイベントへの集客のために作ったサイトでした。そこから、他社さんが主催されるイベントも掲載するようになり、現在のチケット販売のプラットフォームの形になりました。

- 街コンの主催はもう行われていないのですか?
いいえ、今もやっています。ただ、ビジネスモデルとしてはチケット販売の手数料としていただく分が利益の中心です。イベントは原価もかかるので、利益率を考えると自社で運営するのは大変で。

- M&Aを考えられた経緯は?
トップライン(売上)を上げるためです。「machicon JAPAN」は、チケットプラットフォームになることで利益率は大幅に良くなりましたが、売上は頭打ちの状態でした。会社として継続的に成長するために、全く違う軸で売上をつくることが必要でした。 私自身も、新規事業を立ち上げてくれと誘われて、会社に参加した人間です。ゼロからの立ち上げも進めているのですが、スピード感を求めるなら、すでにあるものを買って伸ばすほうが早い。そのためM&Aも並行して検討していたところ、「ママ婚」を見つけたという経緯です。



(買収した「ママ婚」サイト①)

【ニッチな市場で勝つ、「ママ婚」サービスの魅力】

- 「ママ婚」はどんなサービスですか?
マタニティウェディング、妊娠中の挙式に特化した結婚式場を探せるオンラインサービスです。地域や式場タイプ、予算などの条件で式場候補を絞り込め、見学予約や相談の申込みができます。

ビジネスモデルとしては、「ママ婚」経由で挙式に至った場合に式場さんから手数料をいただいています。

- ウェディングのなかでもマタニティに絞っているんですね。ニッチな領域に思えます。
はい、そこに可能性を感じました

- なぜですか?
ターゲットのボリュームとしては小さいかもしれませんが、叶えたいという強いニーズが確実にあります。加えて、妊娠中に挙式を希望する方は、突発的な要因ゆえ準備期間が少なく短期間で意思決定を行う必要が出てきます。

- ニッチだけれど、需要は確実にあったわけですね。
ええ。加えて、マタニティに特化したウェディング専門式場サービスは、現状「ママ婚」の他にありません。大手メディアが片隅に掲載しているくらいで、本腰を入れているライバルは今のところいません。SEO対策を施し、ターゲットとなる方々が我々のサイトに流れる導線をつくれば必ず勝てます

- 需要があるのに、ライバルは少ないと。それはこのビジネスにどのように影響しますか?
仕入れ値と売り値の差額が利益になるのはどんなビジネスでも同じです。こういったマッチングプラットフォームの場合、仕入れ値はユーザーを集める費用、主に広告費ですね。売り値は式場からいただく手数料です。

ニッチ領域では、同じキーワードで広告を出そうとするライバルがいないので、広告費が小さく済む傾向にあります。一方で、式場は自分たちでユーザーを集めることができないので、送客できるウェディング関連サイトに頼る仕組みになっています。「ママ婚」に訪れるユーザーは、他に代替サイトがないので成約確度は高くなります。双方のニーズが高いので、売り値は一定の高い水準を保てるという仕組みです。

- なるほど、ニッチだからこそ仕入れ値と売り値の差が大きくなる。そこに可能性を感じたわけですね。
「ママ婚」は、マタニティウェディングが可能な式場とすでにネットワークが構築されていることがもっとも大きな価値です。ある程度市場のターゲットを独占する仕組みが構築できればあとは営業力が強くなくても、自然と新しい式場がお客様として利用してくれるようになります。

加えて、大手が参入して来ないであろう、絶妙な市場規模だというのもポイントです。式場マッチング市場には、当社よりも大きなプレイヤーがいて、本気で資本投下されるとかないっこありませんから。



(買収した「ママ婚」サイト②)

【シナジーよりも、案件単体の価値で判断する】

- リンクバルが長らく取り組まれてきた恋活市場と、結婚式市場は親和性があるように感じます。M&Aにあたっては事業間シナジーも考慮されたのでしょうか?
当社の事業を出発点とし、街コンやデーティングアプリで出会ったカップルが「ママ婚」で結婚式を挙げるといった綺麗なストーリーもできるかなと最初に描いていたことはあります。ただ、出会ってすぐ結婚に至ることって実はなかなかなく、意外に遠いですよね。正直なところ、M&Aをするかどうかの判断はシンプルに「ママ婚」単体でどういう価値が生み出せるかを考えました。

- シナジーについては後付けのようなものだったと。
まさに。これまで様々な事業の運営に関わってきましたが、シナジーという言葉に引き摺られすぎると裏目に出てしまいがちです。目線が社内を活かすことに向き過ぎてしまい、誰のためにあるのかよく分からない中途半端なサービスになってしまったり、そもそも買うべきかどうかの議論で停滞してしまったりと。

それぞれが単体で価値のあるサービスを目指して、そのうえで協力できるところは協力し合うというのが一番うまくいくように思います。

- 案件探しの条件についても聞かせてください。さきほど挙げられた、ニッチ領域という視点以外に、案件探しの条件はありましたか?
基本的にデジタルサービスしか見ませんでした。そもそもリンクバルがデジタルサービスの会社なので社内にはエンジニアやデザイナー、ディレクターがいます。運用や改善のノウハウも溜まっていたので、それを活かすことは当然考えましたね。

また、私自身が根本的に労働集約型のビジネスモデルが好きではないというのも理由の1つです。人手をかけずともビジネスモデルやシステムの設計で勝手に伸びるようなビジネスが理想なのですが、デジタル以外でそうした特徴を持つ事業はそうないので。

- 売り手企業様と交渉する中で、苦労されたことはありますか?
譲渡金額の提示を受けた際に、論理的根拠がなく、感覚的な価格設定をされていた点は交渉する上で苦労しました。私自身が引き継いだ後の事業計画をお見せし、そのうえで売り上げや利益を踏まえ、改めて金額を提示しました。正当な評価を踏まえると、譲渡金額はもう少し低い方が妥当であると判断していたのですが、下手に時間がかかって交渉が崩れるよりは、相手にとって円満に思える金額で着地することにしました。

私自身はM&Aの経験が何度かありますが、もしお互い未経験な状態での交渉の場合はやはり専門家が間に入ってくれる方がスムーズだと思いますね。

- よくお相手との相性がM&Aが成立する上で重要と聞きますが、そのあたりはいかがでしたか?
お相手の方はとても誠実な方です。スピーディーなレスポンスであったり、他の買い手との交渉状況を包み隠さず教えていただいたりという点から、とても好印象を抱いていました。ブレイクする際によくあるのは途中で交渉金額を釣り上げてくるパターンですが、こういったこともなかったです。

自分たちは買い手の中では最後発で交渉に臨みましたが、現地の沖縄まで何度か足を運んでお話を聞かせていただいたのが私たちだけだったという点に高評価をいただいたというのをあとで聞きました。



(マタニティ専用のドレスも紹介)

【M&Aはすべての人が幸せになる】

- 上場企業のリンクバルに運営が移ることで、「ママ婚」はどのように変わっていくのでしょうか?
すべてのステークホルダーを、より幸せにできるのではないかと思っています。ユーザーも、クライアントである式場も、事業運営に関わるメンバーも。

- 1つずつ聞かせてください。ユーザーにはどんなメリットがありますか?
開発体制が潤沢になることで、より便利なサイトを提供できます。先程も話したとおり、経験豊富なエンジニアやデザイナーが関わることで、より早く、より便利な機能改善を進められます。

- クライアントにとってはどうでしょう?
サイトが便利になればユーザーが増えるので、挙式の成約数を増やせるのではと思っています。

また、運営体制が整うことで、よりきめ細やかなサポートができるはずです。一部の式場とは正式な契約書が交わせておらず、口頭での約束のみになってしまっているようですが、そうした管理面の不備も整えていけるかと。

- 最後に、運営メンバーはいかがでしょう?
実は売り手企業さんのときは、担当者1名ですべてを回していらしたんです。その方にはリンクバルに移籍するかたちでそのまま残ってもらいました

待遇面で以前よりベースアップさせていただいたのに加えて、サービス運営の経験が豊富なリンクバルの同僚と働くことで成長の機会も増えるのではないかと思っています。彼女が一番事業への想いが強いはずなので、存分に活躍してもらえるように必要なサポートはどんどんしていきたいと考えています。

***リンクバルが買収した事業はこちら***
「ママ婚」
https://mamakon.net/

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  • 田中 ヤスヒロ(typo)
  • ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)

    コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。

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