2022-05-31

現職の市議が見出したM&A!選挙活動を支える備品レンタル事業に勝機あり、売上はコロナ禍以前の7分の1も買収を決断

買い手(法人):株式会社ネクスト・アクシス

<中小企業の新規事業立ち上げを目指したM&A・買収事例>

 

不動産仲介業や公的施設の運営管理を行う株式会社ネクスト・アクシス。代表の大川裕之さんは現職の市議会議員でもあり、選挙活動における悩みや関連需要がわかっていたことから、選挙活動を支援する事業に興味を持っていました。

ポスター制作を請け負うなど少しずつ準備を進めながら定期的にTRANBIを見ていたところ、選挙やイベント用の物品レンタルを行う企業の売り案件に出会います。数年後のM&Aを検討していた大川さんですが、既存事業とシナジーを生めるあまりにぴったりの案件に惹かれて、M&Aを決意しました。

選挙は通年あるものではなく、売上の柱であったイベント需要はコロナ禍で激減。経営状況が良くない会社ではあったもののM&Aを決断した、大川さんの事業に懸ける思いやビジョンと交渉過程のエピソードを伺いました。



(市議として活躍される大川様)

【選挙活動って面倒!ワンストップで必要なものを提供したい】

- まずは、ネクスト・アクシス様の事業について教えてください。
不動産仲介業とコンサルティング業を展開しています。今のメイン事業は、行政から委託を受けた公的施設の指定管理事業で、5年間の期限付きで奈良県の平城宮跡歴史公園と、なら歴史芸術文化村の運営・管理を担っています。

指定管理事業については、提案書の提出とプレゼンを経て選んでいただきました。大手広告代理店などがライバルでしたが、今の会社を立ち上げるまで東京都の職員をしており、かつ現職の宝塚市議会議員であるため、行政の仕組みには詳しく、提案の勘所がわかっていたことが勝因だったと思っています。

指定管理事業については、信頼できる維持管理業者さんなどとタッグを組んだり、県と調整をして観光案内の仕組み化を進めたりしながら行っています。

- 会社経営と市議会議員の二足のわらじだけでもお忙しいそうですが、どうして今回のM&Aに挑戦したのですか。
会社を立ち上げた当初から、選挙関係の事業を立ち上げたいと思っていました。選挙の準備って、すごく煩雑かつ面倒なのです。初めて出馬される候補者の方はノウハウやネットワークがないので、選挙カーやポスターの手配の仕方がわからず戸惑われます。

選挙の半年ほど前から1人で準備を始めて、選挙が迫ってくると候補者としての活動が忙しくなるので周りの支援者にいろいろな作業を任せることが多くなります。ただ、引き継ぎがなかなかうまくできず、結局「これはどうすればいいんですか?」と質問攻めにあって、本来の有権者と接する選挙活動に集中できない現状があるんですね。

だからこそ、選挙に必要なものをワンストップで提供できる事業にチャンスがあると思っていました。

- M&Aという手法には、どうして興味を持ちましたか。
選挙関係の事業をしたくても、専任担当者を新たに雇ってゼロから立ち上げるのは大変そうだなと思っていて。すでに顧客を抱えていて、ノウハウを持っている企業をM&Aする方がスピーディーに事業を拡大していけると思い、興味を持っていました。

実は、M&Aを見据えてデザイナーさんとのネットワークを築き、ポスターの制作管理はすでに4件ほど請け負っていました。だからこそ、足りない部分のノウハウやリソースを買えたらなと。

かつては「M&A」=「ハゲタカ」のイメージでしたが、近年では後継者がいない会社がM&Aで事業を承継する例もたくさん見聞きしていたので好印象を抱いていました。事業承継・引継ぎ支援センターや日本政策金融公庫で公開されている案件リストを見ていると、手が出せそうな少額の案件も多いと知り、その流れでTRANBIのようなプラットフォームにも出会ったのです。

TRANBIは、案件の情報が整理されていて、検索するとそれぞれの案件の概要や規模感や地域や収益が一覧できるので、使いやすくて定期的に見ていました。

- どのような軸で案件を選定していましたか。
もともとは、選挙と親和性のあるデザイン会社や印刷会社を中心に検討していたんです。ただ、今回買った案件概要に「選挙や各種イベントで使用する幅広い物品のレンタルと販売の事業」と書いてあって。「選挙」の文字に惹かれて、勢いで申し込みました

当社で行っていたポスター制作の事業はいわばソフト面をサポートしているので、ハード面を提供している事業と組み合わせたら、シナジーが生まれてワンストップで選挙をサポートできると思ったからです。

実は、今の主軸である指定管理事業が5年間の期限付きであり、かつ今回のM&Aに申し込んだタイミングでは2つのうち1つはまだ決定してなくて。資金面で安心できる状況とは言えなかったため、「M&Aはもう少し後でもいいかな」と思っていたんです。

けれど、売り手様から送っていただいた会社概要や財務諸表を見るうちに、「これは買う価値のある案件だ」と本気度が高まりました。



(管理されている平城宮跡)

【トップ面談では、購入後のビジョンを語って「自社が買う意義」をアピール】

- 改めて、今回購入された事業について教えてください。
選挙やイベントの用途で、音響・映像機器、模擬店用品、行事用品、冷暖房機器、レジャー用品などを幅広くレンタルしています。レンタカー会社と連携しているので選挙カーの提供もできますし、選挙カー用のスピーカーや選挙事務所に必要なパーテーションやテーブル・椅子のレンタルも可能です。

印刷会社が事業範囲を広げて選挙カーの手配まで担っているケースは聞いたことがありますが、事務所に必要な物品のレンタルまでワンストップで請け負っているケースは耳にしたことがないので、強みにできそうだと思いました。

データでやり取りできるポスター制作の事業と違って、ハードは商圏が限られてしまうという特性もあります。そういった意味では、拠点が地方ではなく関東にあったことも安心材料でした。

- 交渉はどのように進みましたか。
最初に私から申し込みをした後、NDA(秘密保持契約)を締結するまでは売り手様の代理として日本政策金融公庫が間に入って調整をしてくれました。NDA後は、仲介業者とやりとりを進めました。

お会いする前に聞いたのは、「どの選挙の際に、何件の発注があったか」の実績についてだけでした。件数さえわかれば、ポテンシャルが測れると思ったからです。

売り手様と直接お会いしたトップ面談では、主に購入後のビジョンをお伝えしました。選挙をワンストップでサポートできる事業を展開したいという思いや、互いの実績や強みを生かしてどんなシナジーが生み出せるかについて話したところ、売り手様から「それ(選挙を包括的に支援する事業)をやりたかったんです!」と言っていただいて、意気投合したんです。

売り手様も、事業を展開する中で選挙候補者と関わる機会が増えて、選挙に対しての熱意が増していったようで。トップ面談後、仲介業者の担当者からも「反応よかったですよ」と売り手様の様子を教えていただきました。

借り入れがなくて貸借対照表がとてもシンプルかつ綺麗だったため、財務の細かな確認はデューデリジェンスを行えばいいと思い、トップ面談では特に話しませんでした。

- デューデリジェンスはどのように行いましたか。
税務と財務がメインですが、社員さんが1人いたので少し労務デューデリジェンスも行っています。借り入れをしているメインバンクに事業承継部門ができたため、そこの方に紹介いただいた専門家にデューデリジェンス業務を依頼しました。



(管理されている、なら歴史芸術文化村)

【コロナ禍で逆境、ただ「今の売上が続いても5年は耐えられる」から購入を決断】

- 購入にあたって不安に思うことはありましたか。
唯一の不安は、コロナ禍の影響でしょうか。コロナ禍以前は、学校の入学式や運動会、入社式や地域のお祭りなどのリピーター需要によって売上を支えられていたようでした。

これまでの最高売上は年間7,000万円でしたが、コロナ禍以降は1,000~2,000万円まで下がってしまっていて、営業利益もマイナスでした。このように大きく影響を受けている分、イベントの自粛ムードがいつまで続くのかということは気掛かりだったんです。

ただ、純資産は豊富であり、債務超過にはなっていないことを知って、「もし今の売上が続いたとしても、親会社から支援すれば、5年ほどは耐えられる」とわかったため、最終的にはそれほどの懸念事項にならず、購入を決意できました。

- 譲渡金額はどのように決まりましたか。
売り手様の当初の譲渡希望金額の内訳は純資産にレンタル用の備品の消耗品費を加味してのものでした。最終的には、こちらでデューデリジェンスを行った結果を元に提示をして微調整を行い、値下げしていただいた金額で決定しました。

今回、売り手様が売却を決意されたのは「高齢で、若い経営者に譲りたい」ためですが、コロナ禍で売上が大きく落ちていたこともあって、売却金額に強いこだわりはなかったようです。選挙に熱意を持つ当社の提案が、ご自身のやりたいことと重なって、非常に魅力的に映ったことも大きかったのだと思います。

- 交渉過程で想定外なことはありましたか。
最初に買い申し込みをしてから成約までに1年と、時間が掛かりすぎてしまったことです。

背景には、売り手様が高齢だったこともあり、メールでのやりとりやWeb面談に慣れていらっしゃらなかったこともあります。仲介業者が間にいたことでなんとか進みましたが、それでも1つひとつの手続きにかなり時間が掛かってしまって。

トップ面談は直接お会いしてということだったので、コロナの感染拡大が落ち着くタイミングを待っていたのですが、数か月掛かってしまったことも影響しています。

銀行の借り入れへの影響や補助金申請の期限もあったため、こちらからかなり促して交渉を進めねばなりませんでした。



(※写真はイメージです)

【売り手様が顧問に!心強いからこそ、当面は顧問が気持ちよく働ける環境を優先】

- 2021年12月から事業を継承されましたが、現状はいかがですか。
12月が決算月だったこともあり、2月末くらいまではさまざまな引き継ぎでバタバタしてしまって。3月頃から体制が整って事業をスタートしています。売り手様は、現在顧問のポジションに就いて経営をサポートしてくれています。また、もともといらっしゃった勤続20年以上の社員の方1名に加えて、新たに取締役を1名入れて任せています。

現段階では、まだ以前ほどの売上はあがっていません。ただ、参議院選挙に向けて顧問が精力的に活動をしてくれるなど、種まきの活動はしています。

売上について、当初は今年がピーク時の66%、来年がピーク時の80%、再来年にはピーク時と同等まで回復すると予想していましたが、数年後まで80%の状態が続くかもしれません。そこは、まだ読み切れないです。

- そんな中で、事業のテコ入れのために考えていることはありますか。
補助金を取得して、Web上で発注や打ち合わせができるシステムを構築しようと考えています。構築にはある程度時間も要するため、事業が完全に軌道に乗るまでには5年くらい掛かるだろうと予想しています。

今年も営業利益がマイナスになることは覚悟しているので、親会社の資金も入れてプラスマイナスゼロで落ち着かせようとしています。購入を決断する時には、苦しい時期が当面続いた時に自力でこの事業を支え続けられるかという軸でも検討したため、想定通りではあります。

- 売り手様が顧問として事業に携わり続けてくれているそうですが、関係性はいかがですか。
関係性は良好です。顧問は、いい意味でとてもおせっかいな人で(笑)、お客様が困っていたら居ても立っても居られない性格です。そのため、これまでもレンタル事業の枠を超えて、お客様の問題解決に奔走してきました。こうした姿勢で人に向き合っていると、自ずと信頼を得られますよね。

TRANBIに案件が掲載されていた時、案件概要に「社長が長年かけて構築した顧客ネットワーク(企業、団体、学校)が強み」と書かれていたのですが、想像以上にお客様との信頼関係が厚く、ネットワークが豊富である点に驚きました。

今後はもう少し人を増やして事業を拡大していきたいですが、1年半くらいは顧問に気持ちよく仕事をしてもらい、活躍していただきたいと思っています。

- M&Aを検討している方に向けてアドバイスをいただけますか。
M&Aプラットフォームを利用して、どんな事業や会社がどんな理由で売りに出ているのか、他社の財務や組織状況はどうなっているのかを知る機会があることは、とても貴重だと思っています。今すぐM&Aをするかどうかは一旦置いておいて、まずは案件に目を通してみるだけでも、勉強になることがたくさんあると思います。

私も、今後2~3件のM&Aを検討していて。タイミング的にはもう少し後になると思いますが、M&Aはご縁であり、いつどのタイミングでぴったりの案件が出てくるかわからないので、逃さないように毎日情報をチェックしています。

**今回株式会社ネクスト・アクシス様が買収した案件はこちら**

「【黒字・無借金経営】総合物品レンタルとネット経由での特殊音響機器販売事業」

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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