2022-10-18
売上帳簿なしでもM&Aを決断!店舗と従業員を引き継げるなら十分価値あり~脱毛サロンを買収した会社員の話~
買い手(個人):Mさん(30代)
<個人の副業を目的にした起業M&A・買収事例>
- ➤ 自らの経営で、身近なところから低賃金や女性の労働問題を解決したい
- ➤ 初めての交渉で成約!脱毛サロンで叶える「従業員の待遇改善」
- ➤ 帳簿がない!不安要素アリも300万円で貴重な経験ができるならと捉えた
- ➤ 美も健康もワンストップで提供できるサブスクモデルへ
福岡県在住で製薬メーカーに勤務するMさん。30代後半になって金銭的な余裕ができ、社会課題の解決に貢献したいという志が芽生えたことから、M&Aを活用して副業でビジネスを始めようと決意します。
購入したのは、博多の中心部にある脱毛サロン。売上帳簿がないなど不安要素はあったものの、すでに運営している事業をそのまま引き継げるというメリットに加え、「自分の目指す夢のためにやりたいことをやって後悔しないようしよう」と買収を決め、現在は従業員とともにお店の改善に打ち込んでいます。
新たな挑戦に一歩を踏み出した、Mさんにお話を伺ってきました。
(※写真はイメージです)
【自らの経営で、身近なところから低賃金や女性の労働問題を解決したい】
- まずはMさんのキャリアについて教えてください。
大学時代は、ちょうど堀江貴文さんらが話題になった頃で、周りも起業ブームでした。私も興味はあったものの、自分で起業することは難しいと感じたのでベンチャーに就職したいなと思い、不動産投資の会社に就職しました。
仕事の中では、断られたお客様に何度も電話をするなど、正直「倫理的にどうか」と思うこともあって、これを一生の仕事にするのは無理だと思い、退職しました。
転職先は住宅設備メーカーで、3年ほど勤めました。働きやすい会社でしたが、かなりの低賃金で生活が苦しかったため、2010年に27歳で製薬メーカーに転職して今に至ります。
職種は12年間ずっと営業です。大学時代に公認会計士のアルバイトをした際に、一日中デスクワークをするよりも、外に出てさまざまな人に会う仕事の方が性に合うと感じたことも背景にはあります。待遇も良いので満足して働いています。
- 副業を始めようと思ったのは、どんな思いからですか。
39歳という年齢になり、今の会社に転職してから貯金もできたことで、「世の中にお返しがしたい」という気持ちが芽生えてきました。何か日本の社会課題の解決に貢献できないかと考えた時に、興味を持ったのが「低所得」「女性の雇用」「保育」といったテーマです。
これまでの仕事の中で、世の中には経営者が自分の儲けしか考えておらず、従業員が我慢を強いられ、重労働かつ低賃金に苦しんでいる方がいるのを数多く見てきました。こうした課題は人に頼っていても解決できません。自分にできる範囲で、従業員にとって良い会社を作ることから挑戦してみたいと思うようになったのです。
- M&Aという手段に興味を持ったのはなぜですか。
経済や経営にまつわる本を読むのがもともと好きですが、さまざまな本を読む中で、会社の立ち上げ期が一番大変だとわかっていたからです。
M&Aのメリットは、お金を払えば、すでにある程度自走している事業を買えること。案件によっては、従業員の方も含めて引き継げますから。
私は上場企業を作ることが目的ではなく、従業員の方がお子さんを安心して大学に進学させられる給料を、継続的に支払えるような会社を作りたい。すでに形がある事業を改善する方が近道になると思ったのです。
(※写真はイメージです)
【初めての交渉で成約!脱毛サロンで叶える「従業員の待遇改善」】
- 初めて交渉に進んだ案件で成約されたそうですが、改めて今回M&Aされた事業の概要を教えてください。
福岡市博多区にある脱毛サロンです。まだオープンして間もないサロンで、最新の機械を導入しています。男性のお客様は脱毛のニーズがほとんどですが、女性のお客様はすでに脱毛を完了して、あわせて提供している顔のたるみ改善やバストアップを目的に来店される方が多いです。
京都に住む売り手様がオーナーとして経営権を持っているものの、店舗周りのことはすべて従業員の女性スタッフが担当しており、福岡在住のオーナーの友人が業務委託の形で集客を手伝っていたようでした。従業員のスキルとコミュニケーション能力が高いこともあり、来客の多くはリピーターの方でした。
- 売り手様とWeb面談を実施した際には、どんなことに気を付けましたか。
「こういったことをするために、あなたの会社を買いたい」という、思いの部分をしっかりと伝えました。
そのひとつが、学生に対して、格安で脱毛や美容にまつわるプランを提供したいというビジョンです。お金がなくて脱毛を諦めたり、節約しながらダイエットをするために少量の炭水化物だけで済ませて栄養が偏ったりしている学生が多いと思っていて。私は製薬メーカー勤務なので、健康面がどうしても気になるんですね。
格安で脱毛の機会を提供したり、正しい栄養知識を教えてあげたりすることができれば、裕福じゃない学生も、理想の美を手に入れたり、憧れの職業に就くためのチャンスを手に入れたりしやすくなると思うんです。
また、いずれは近くに保育園や託児所を作って、従業員やお客様がお子さんを預けられるような環境を整えられたらなと。従業員も、お客様も、幸せになれるような事業を展開したいし、そんな会社を作りたいという思いを、最初のメールでも記載させていただきました。
後々、売り手様から「従業員を引き継いで、従業員の待遇を良くしたいと思ってくれていた点がよかったです」とも言われました。
- 購入を決める前には、現地視察もされたそうですが、どんな印象を受けましたか。
中洲の中心地にあるので立地はいいものの、店舗は居酒屋が複数入っているビルの9階にありました。それでいて、エレベーターは8階までしか止まらないので階段で昇る必要があるのと、一見普通の事務所なので、通りがかりのお客様の目に留まらないのがウィークポイントです。売り手様が、お知り合いのネットワークで安く借りることができたため、この場所にしたそうです。
視察に伺った際は、お店を見つけるのが難しく、初見ではなかなか入りにくそうな印象を受けました。ただ近くに夜のお店も多いので、打ち出し方しだいで、そうしたお店で働く方たちにも多く利用いただけるのではないかと感じました。
(※写真はイメージです)
【帳簿がない!不安要素アリも300万円で貴重な経験ができるならと捉えた】
- 収支の状況はどうでしたか。
オープン初月の2022年3月こそ、知り合いの来店も多く黒字だったそうですが、翌月以降は赤字が続いたようです。ただ、直近の7月は±0で、8月は黒字とのことでした。人件費や家賃、機械のリース代など、掛かる経費などは口頭で伺いました。帳簿は出していただけるように依頼したのですが、残念ながら特に作成されていなかったようです。
お客様の9割がオーナーの友人の経営者繋がりのご紹介だったので成り立っているようだったので、広く集客していけばさらに伸ばせそうな余地はあるなと感じました。
- 帳簿がないと買い手としては不安かと思いますが、それでも購入を思い切れたのはどういう要因からでしょうか。
借金さえ背負うことがなければ大丈夫だろうと、思っていたからです。今回は150万円で買収したものの、同じサロンをイチから作る場合、内装だけで300万円ほどは掛かるはずです。
すでに運営できるハコがあって従業員も居るのだから、手を加えて改善の余地があるのなら十分リーズナブルだなという判断です。ゼロベースからやるよりよっぽど楽です。無駄を省いて営業戦略を見直せば、安定的な売上をあげられるようになると思いました。
- 経営者の経験なしで、事業を買うことに怖さはありませんでしたか。
自信があるわけではないんです。
今回150万円で事業を買いましたが、設備強化や備品の購入を含めると初期費用が200万円ほどになりそうでした。さらに、軌道に乗る前に赤字が出てしまったら、手持ちから100万円ほどはすぐになくなるかもしれないため、約300万円は最低必要だと見積もっています。
けれど、私は普段から株式投資をしていて、1銘柄を300万円で買うこともあるので、その金額感であれば、なくなってもそれほど痛手ではないと感じました。
今回は自分のやりたかったことや夢のために投資をするわけなので、何年続くかわかりませんが、「やれることをやり切った」と思えたなら、後悔はしないはずなんですよね。もちろん、従業員のためにも事業は成功させたいです。
おそらく、挑戦を「怖い」と思ってしまうのは、M&Aに人生を懸けてしまう人ではないでしょうか。全財産や持てる限りのすべての時間を費やすとなると、怖いに決まっていて。けれど、私は本業で会社から貰う給料があり、資産もあるので、どんな結果になっても「いい経験ができた」と思えるはずで、恐怖心はないんです。
【美も健康もワンストップで提供できるサブスクモデルへ】
- 9月からオーナーになって、どんなことに取り掛かりましたか。
まずは備品の購入や見直しです。カード払い用の機械と洗濯機を購入しました。これまでは洗濯機がなかったので、月1万円のプランでタオルをレンタルしていたのですが、従業員から「タオルと洗濯機を購入して、自分たちで洗濯する方が安くなると思います」と言われて。計算したらその通りだったので、洗濯機の購入を決めました。
次に、集客面の改善です。HPを作っていて、チラシのポスティングも行う予定です。また、法人向けのサブスクリプションプランの提供も検討していて。今は、InstagramとTikTokと紹介でしか集客できていないので、工夫次第でいくらでも増やせると思います。いろいろと挑戦しつつ、コストパフォーマンスの高い集客方法を見出したいです。
集客が成功した際のキャパシティですが、これまでは営業が週3日ほどで、かつその中で空き時間もあったので、まだまだ稼働を増やすことは可能です。部屋も余っているので、ゆくゆく人を採用できれば、ベッドを増やすこともできます。
ただ、投資に際限がなくなってしまうので、いったん投資は300万円までと決めていて、利益が出たら順次改善していく予定です。
- 従業員の方とは、どのようにコミュニケーションを取っていますか。
ワンオペでやってもらうのは大変なので、いずれ2人体制にした上で、しっかり休んでもらいつつ給与を上げたいと思っています。こうした理想を従業員には話した上で、現状の売上と、理想の状態を叶えるために必要な目標売上を共有していて、安定した利益が出てきたら店舗を引っ越そうといった話もしています。
従業員と言えど、彼女が店長であり、彼女のスキルやコミュニケーション能力が鍵になるので、対話と信頼関係の構築を大事にしています。人員を増やしつつも、皆の給料を上げられるようなビジネスモデルを構築したいですね。
- サロンとしてのビジョンはいかがですか。
私が製薬メーカーに勤めていることもあり、美だけではなく健康もサポートできるようなサロンにしたいと思っています。脱毛サロンのままだと、脱毛が完了すれば通う目的がなくなるでしょう。だからこそ、美容と健康をワンストップで提供するサブスクリプションプランを提供できるサロンにしたいんです。
初回来店時にカウンセリングをさせていただいて、たとえば男性なら薄毛や頭皮の脂っぽさや青ひげや肥満などの悩みを伺って、どのようにして健康的に美しくなっていくのかをディスカッションして、その人に最適なプランを立てられたらいいなと。
スマートミラーを置いてヨガをしてもらうもよし、週に1回頭皮マッサージに通ってもらうもよしといったイメージです。脱毛して終わりではなくて、脱毛を入口とする“かかりつけ美容サロン”のようなポジションになって、他店との差別化を図りたいと考えています。
- 最後に、M&Aに挑戦しようとしている方へ、アドバイスをお願いします。
借金をして、「これでうまくいかなければ、後がない」という気持ちでM&Aをするのは、個人的にあまり良くないと思います。
必要な資金を用意してくれる方を味方に付けて、「失敗しても、もう一回やればいいじゃない」と支援してもらえる状況にするか、ある程度ご自身でお金を貯めた上で「夢を叶えるために失敗してもいいから挑戦するか」という気概で、余裕を持って挑戦してほしいですね。楽しんでM&Aに取り組めるのが、一番だと思います。
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ライター紹介倉本祐美加
関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。