経営者保証ガイドラインとは?3要件・外し方・外せない場合のリスクを解説
経営者保証とは、経営者個人が会社の融資の連帯保証人になることです。経営者保証に関するガイドラインの3要件、保証の外し方、外せなかった場合のリスク、保証債務を履行する場合の保護、M&Aによる解消法まで、中小企業庁の情報をもとにわかりやすく解説します。
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となる「経営者保証」。資金調達を円滑にする一方で、思い切った事業展開や円滑な事業承継を妨げる要因になっているとも指摘されてきました。
この課題を解決するために策定されたのが「経営者保証に関するガイドライン」です。一定の条件を満たせば、経営者保証なしで融資を受けたり、すでに提供している保証を見直したりできる可能性があります。
本記事では、経営者保証の基本的な意味から、ガイドラインの内容と保証を外すための3要件、具体的な外し方、外せなかった場合のリスク、そして万一保証債務を履行することになった場合の保護まで、わかりやすく解説します。事業の将来やM&Aによる承継を考えている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
経営者保証とは?
まず、経営者保証がどのような仕組みで、なぜ今その見直しが求められているのかを整理します。
経営者が会社の連帯保証人になる仕組み
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となること(保証債務を負うこと)をいいます。会社が融資を返済できなくなった場合、経営者個人が会社に代わって返済を求められる(保証債務の履行を求められる)仕組みです。
日本では、中小企業への融資にあたって経営者保証を求める慣行が長く続いてきました。会社と経営者が一体となって事業を営む中小企業では、経営者保証によって貸し手である金融機関が安心して融資できるという側面があったためです。
経営者保証のメリット・デメリット
経営者保証には、プラスとマイナスの両面があります。中小企業庁も、経営者保証には「経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する」面がある一方、「経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる」面があると指摘しています。
【経営者保証のメリット(主に金融機関・規律面)】
- 金融機関が安心して融資でき、資金調達がしやすくなる
- 経営者に返済責任が生じることで、経営への規律が働く
【経営者保証のデメリット(主に経営者側)】
- 会社が倒産すると経営者個人も多額の債務を負い、私財を失うおそれがある
- 失敗を恐れて思い切った投資・事業展開に踏み出しにくい
- 後継者が保証を引き継ぐことを嫌い、事業承継の障害になる
なぜ今、経営者保証の見直しが求められるのか
経営者保証の見直しが急がれる背景には、中小企業経営者の高齢化と後継者不在の問題があります。多くの経営者が引退時期を迎えるなか、「個人保証まで引き継ぐのは重すぎる」という理由で後継者が承継をためらい、廃業に至るケースが少なくありません。
本来であれば後継者不足はM&Aで解決できる可能性があるにもかかわらず、経営者保証がその妨げになっているのです。こうした課題を解消するために、次に述べるガイドラインの活用が重要になります。
経営者保証に関するガイドラインとは
経営者保証をめぐる課題の解決策として策定されたのが「経営者保証に関するガイドライン」です。その位置づけと種類、関連する国の取り組みを見ていきましょう。
全国銀行協会・日本商工会議所が策定した自主的ルール
経営者保証に関するガイドラインは、全国銀行協会と日本商工会議所が策定した、中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルールです(平成25年12月公表、平成26年2月適用開始)。
ここで押さえておきたいのは、ガイドラインには法的な拘束力がないという点です。あくまで関係者が自発的に尊重・遵守することが期待されているもので、経営者保証を解除するかどうかの最終的な判断は金融機関にゆだねられます。とはいえ、政府が後押しする全国共通のルールであり、交渉の拠りどころとして大きな意味を持ちます。ガイドラインの本文は、一般社団法人全国銀行協会のホームページで確認できます。
ガイドラインの3つの種類
「経営者保証に関するガイドライン」には、場面に応じて次の3種類があります。
【経営者保証に関するガイドラインの種類】
- 経営者保証に関するガイドライン(本体):借入時や既存保証の見直し時の基本ルール
- 事業承継時に焦点を当てた特則:事業承継の際、前経営者・後継者の二重徴求の原則禁止などを定める
- 廃業時における基本的考え方:廃業・清算の場面で保証人の生活再建に配慮する考え方
廃業時の取り扱いについては、全国銀行協会の公表資料もあわせてご確認ください。本記事では、主に借入時・事業承継時の取り扱いを中心に解説します。
経営者保証改革プログラム(令和4年〜)
さらに国は、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させるため、金融庁・財務省と連携して「経営者保証改革プログラム」を策定しました(令和4年12月公表)。①スタートアップ・創業、②民間金融機関による融資、③信用保証付融資、④中小企業のガバナンスの4分野に重点的に取り組むものです。
このプログラムにより、創業時に個人保証を不要とする「スタートアップ創出促進保証」や、事業承継時の保証解除を後押しする「事業承継特別保証制度」など、具体的な制度の整備が進んでいます。経営者保証を外しやすい環境が、年々整いつつあるといえます。
経営者保証を外すための3要件
ガイドラインでは、経営者保証なしで融資を受けたり、既存の保証を見直したりするための目安として、3つの要件を示しています。これらの全部または一部を満たすことで、金融機関が保証を求めない可能性が出てきます。
①法人と経営者の資産・経理が分離されている
1つ目は、資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されていることです。会社の資金を経営者個人が私的に使ったり、会社と経営者の間で曖昧な貸し借りがあったりすると、要件を満たせません。役員報酬を適正な範囲に設定し、会社と個人のお金をはっきり分けることが求められます。
②財務基盤が強化されている
2つ目は、財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で借入返済が可能であることです。経営者個人の保証に頼らなくても、会社自体の力で返済できる状態であることが重視されます。安定した利益を出し、自己資本を充実させていくことが基本です。
③適時適切な情報開示ができている
3つ目は、金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されていることです。決算書だけでなく、試算表や資金繰り表などを定期的に提供し、経営の透明性を高めることが求められます。金融機関との信頼関係を築くうえでも欠かせない要件です。
これら3要件を整理すると、次のとおりです。
| 要件 | 内容 | 具体的な取り組み例 |
|---|---|---|
| ①法人と個人の分離 | 資産・経理が明確に区分されている | 役員報酬の適正化会社資金の私的利用をなくす |
| ②財務基盤の強化 | 法人の資産・収益力で返済が可能 | 安定した利益の確保自己資本の充実 |
| ③情報開示の適切性 | 財務情報を適時適切に開示している | 試算表・資金繰り表の定期的な提出 |
なお、3要件をすべて完璧に満たさなければ保証を外せない、というわけではありません。充足の度合いに応じて、金融機関が保証を求めないことや、保証機能を代替する手法(停止条件付保証契約など)の活用を検討することになります。
経営者保証の外し方・解除する方法
では、実際に経営者保証を外すには、どのように進めればよいのでしょうか。基本となる進め方と、活用できる制度を紹介します。
金融機関への相談とガバナンス体制の整備
経営者保証を外す第一歩は、取引金融機関への相談です。前述の3要件を意識しながら、保証を外したい旨を金融機関に伝え、何が足りないのかを確認します。要件をすぐに満たせない場合でも、改善に向けた取り組みを示すことが交渉の出発点になります。
自社だけで対応が難しい場合は、中小企業活性化協議会や認定経営革新等支援機関によるガバナンス体制の整備支援を活用する方法もあります。収益力改善支援などを通じて企業の信用度を高めることで、保証の解除や取引条件の改善につながる可能性があります。
事業承継特別保証制度・専門家による支援
事業承継の場面では、経営者保証の解除を後押しする制度が用意されています。代表的なのが事業承継特別保証制度で、一定の要件を満たせば、経営者保証を不要とする信用保証付融資を利用できます。さらに、事業承継時の保証解除に向けて専門家(中小企業診断士・弁護士など)が支援する仕組みも整備されています。
こうした制度を活用するには、融資や資金調達の全体像を把握しておくことが大切です。承継に必要な資金の調達方法については、「事業承継の融資はどう借りる?」の記事もあわせてご覧ください。
停止条件付保証契約などの代替手法
金融機関は、3要件の充足度合いに応じて、保証そのものを求めない代わりに保証機能を代替する手法を検討することがあります。そのひとつが停止条件付保証契約です。これは、中小企業が特約条項(定期的な財務情報の提出義務、他の金融機関への担保提供の制限など)に違反しない限り、保証債務の効力が発生しない契約をいいます。
つまり、約束を守って健全な経営を続けている間は保証が発動しない仕組みです。こうした手法を含め、金融機関がどのような役割を果たすのかは「M&Aにおける銀行の役割」の記事でも整理しています。
経営者保証を外せなかった場合のリスク
3要件を満たせず、経営者保証を外せないまま事業を続ける場合には、いくつかのリスクが伴います。経営判断の前に把握しておきましょう。
事業承継・M&Aの障害になる
最も大きいリスクは、事業承継やM&Aの障害になることです。親族や従業員に承継しようとしても、後継者が「個人保証まで引き継ぐのは荷が重い」と尻込みし、承継が進まないケースは少なくありません。経営者保証の存在が、結果として廃業を招いてしまうこともあります。
こうした場合でも、第三者へのM&Aという選択肢があります。承継方法ごとの違いは事業承継M&Aの種類・選び方で比較できます。
思い切った事業展開・事業再生の足かせになる
経営者保証を抱えていると、失敗したときに私財を失う不安から、思い切った投資や事業展開に踏み出しにくくなります。また、業績が悪化して早期に事業再生に取り組むべき場面でも、「保証があるため自己破産を恐れて決断が遅れる」といった事態を招きかねません。結果として、再生のタイミングを逃してしまうこともあります。
倒産・廃業時に個人資産を失うおそれがある
万一会社が倒産・廃業した場合、経営者は連帯保証人として会社の債務を個人で背負うことになります。自宅や預貯金といった個人資産を失い、生活の再建が難しくなるおそれがあります。これこそが、経営者保証の最も重いリスクといえるでしょう。ただし、次に述べるように、ガイドラインに沿って整理すれば一定の保護を受けられます。
保証債務を履行することになった場合の保護
事業がうまくいかず、保証債務を履行する(返済する)ことになった場合でも、ガイドラインに基づいて整理すれば、経営者個人の生活再建に配慮した取り扱いが受けられます。
手元に残る資産(自由財産・生活費・自宅)
ガイドラインに沿って保証債務を整理する場合、経営者の手元には次のような資産を残すことが検討されます。
【保証履行後も手元に残りうる資産】
- 自由財産(99万円):破産時の自由財産は、原則として経営者の手元に残る
- 一定期間の生活費:早期の事業再生着手などで回収見込額が増えた場合、年齢等に応じて約100万円〜360万円を残すことを検討
- 華美でない自宅:収入に見合った分割弁済などにより、自宅に住み続けられるよう検討
このように、早期に相談・着手するほど、経営者の手元に残せる資産は多くなる傾向があります。問題を先送りせず、早めに動くことが重要です。
残債は原則免除・信用情報にも登録されない
さらに、ガイドラインに基づいて整理した場合、保証債務履行時点の資産で返済し切れなかった残額は、原則として免除されます。返しきれない債務をいつまでも背負い続ける必要はありません。
加えて、債務整理を行った事実やそれに関連する情報は、信用情報登録機関に報告・登録されません。いわゆる「ブラックリスト」に載らないため、生活や再起業への影響を抑えられます。なお、廃業を伴う場合の考え方については「廃業時における基本的考え方」が示されており、債権者である金融機関の対応とあわせて、「M&Aにおける銀行の役割」の記事も参考になります。
事業承継・M&Aと経営者保証
経営者保証は、事業承継のかたちによって扱いが変わります。とくにM&A(第三者承継)は、経営者保証の問題を解消する有力な選択肢です。
M&A(第三者承継)で経営者保証を解消できる
第三者へのM&Aによって会社や事業を譲渡する場合、多くのケースで売り手経営者の個人保証は解除される方向で交渉されます。買い手が新たに融資を受け直したり、買い手の信用力で保証を引き受けたりすることで、売り手は経営者保証から解放されるのです。
後継者がいない、個人保証を引き継げる親族がいないといった場合でも、M&Aであれば保証問題を整理しながら事業を未来へ引き継げます。M&Aが売り手にもたらすメリットは、「売り手にとってM&Aとは?」の記事でも詳しく解説しています。
TRANBIで後継者(買い手)を探すという選択肢
「経営者保証が重い」「後継者がいない」とお悩みであれば、M&Aで会社を引き継いでくれる相手を探す方法があります。国内最大級の事業承継・M&Aマッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」なら、登録されている多数の買い手のなかから、自社に合った後継者候補を見つけることが可能です。
なお、M&A全体の進め方はM&Aの流れでご確認いただけます。
経営者保証に関するよくある質問
経営者保証について、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 融資の際に経営者保証は必ず付けないといけませんか?
A. いいえ、必須ではありません。
ガイドラインの3要件(法人と個人の分離・財務基盤の強化・適時適切な情報開示)を満たせば、経営者保証なしで融資を受けられる可能性があります。近年は経営者保証に依存しない融資慣行の確立が国の方針として進められており、保証を付けない選択肢は広がっています。
Q. ガイドラインに強制力はありますか?
A. 法的な拘束力はありません。
経営者保証に関するガイドラインは、中小企業・経営者・金融機関共通の「自主的なルール」であり、関係者が自発的に尊重・遵守することが期待されているものです。保証を解除するかどうかの最終的な判断は金融機関にゆだねられますが、政府が後押しする全国共通の指針として、交渉の拠りどころになります。
Q. すでに付けている経営者保証も外せますか?
A. 見直せる可能性があります。
新規借入時だけでなく、既存の借入についても、3要件の充足状況に応じて保証の見直しを金融機関に相談できます。まずは取引金融機関に相談し、必要に応じてガバナンス体制の整備支援などを活用しながら、要件を満たす状態を目指すとよいでしょう。
Q. M&Aをすると経営者保証はどうなりますか?
A. 多くの場合、売り手経営者の個人保証は解除される方向で交渉されます。
買い手が融資を受け直したり、買い手の信用力で保証を引き継いだりすることで、売り手は経営者保証から解放されるのが一般的です。後継者不在や個人保証の負担を理由に承継をためらっている場合、M&Aは有力な解決策となります。
Q. 経営者保証を外せなければ廃業するしかないのですか?
A. 廃業だけが選択肢ではありません。
保証を外せない場合でも、第三者へのM&Aによって事業を引き継ぎ、保証問題を整理できる可能性があります。また、やむを得ず廃業する場合でも、ガイドラインに基づいて整理すれば、自由財産や一定の生活費が手元に残り、残債は原則免除され、信用情報にも登録されません。早めに専門家や金融機関へ相談することが大切です。
まとめ|経営者保証はガイドラインの活用で見直せる
経営者保証は、中小企業の資金調達を支える一方で、思い切った経営や円滑な事業承継を妨げる要因にもなってきました。しかし、「経営者保証に関するガイドライン」を活用すれば、保証を外したり見直したりできる可能性があります。
本記事のポイントを整理します。
- 経営者保証とは、経営者個人が会社の融資の連帯保証人になること
- ガイドラインは全銀協・日商の自主的ルール(法的拘束力はないが交渉の拠りどころ)
- 3要件(法人と個人の分離・財務基盤の強化・情報開示)を満たせば保証を外せる可能性
- 外せない場合、事業承継の障害や私財喪失のリスクがある
- 万一履行する場合も、ガイドラインに沿えば生活再建に配慮した整理が可能
- M&A(第三者承継)は、経営者保証を解消しながら事業を引き継ぐ有力な選択肢
経営者保証にお悩みの方や、後継者不在で事業の将来に不安を抱える方は、M&Aによる承継も選択肢のひとつです。国内最大級のM&A・事業承継マッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」で、事業を未来へつなぐ相手を探してみてはいかがでしょうか。
