事業承継の融資|使える制度・日本政策金融公庫の要件と申請の流れを解説
事業承継の融資について、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金を中心に解説します。対象となる方の区分、設備資金と運転資金の扱い、経営者保証を不要とする特例制度、信用保証協会や資本性ローンといった選択肢、申請の流れまで整理しました。
事業を引き継ぐとき、多くの経営者や後継者が最初にぶつかるのが資金の問題です。株式を買い取る資金、承継後の運転資金、既存の借入金をどうするか。承継そのものは決まっていても、お金の手当てがつかずに話が止まってしまうことがあります。
本記事では、事業承継で使える融資について、どの資金にいくら必要かという考え方から、承継の形ごとに使える制度、日本政策金融公庫の事業承継向け融資、経営者保証を外す方法、申請の流れまでを解説します。
これから承継を控えている経営者の方、後継者として資金を用意する立場の方に向けた内容です。
事業承継で融資が必要になる場面
事業承継といっても、資金が必要になる場面はひとつではありません。まずは、どういうときにお金が要るのかを整理します。
承継の形によって必要な資金は変わる
事業承継には、親族に引き継ぐ形、従業員に引き継ぐ形、第三者に譲渡する形があります。どの形をとるかで、誰がどのような資金を必要とするかが変わります。
親族内承継では、贈与や相続で株式が移る場合もあれば、後継者が資金を用意して株式を買い取る方法が選択されることもあります。従業員承継では、後継者となる従業員に株式を買い取る資金力があるとは限りません。第三者への譲渡では、買い手側が買収資金を用意することになります。
承継の形については「事業承継とは?意味・引き継ぐもの・3つの種類をわかりやすく解説」の記事で整理しています。
資金負担が承継を止めてしまうことがある
後継者の候補はいるが、株式を買い取る資金が用意できない。承継後の運転資金に不安があって踏み切れない。このような理由で話が進まないことがあります。
会社の規模が大きくなるほど株式の評価額も上がり、個人の手持ち資金だけでまかなうことが難しくなります。そこで外部からの資金調達が選択肢になります。
融資は資金調達の選択肢のひとつ
資金負担が課題となる事業承継では、融資制度が有力な資金調達手段になります。ただし融資には返済義務があるため、これだけが答えというわけではありません。
自己資金、贈与や相続、補助金、出資といった手段と組み合わせて考えることになります。財務の状況や承継の形によって、適した組み合わせは変わります。
本記事では融資を中心に扱いますが、M&Aで買い手側が資金を調達する方法全般は「M&Aの資金調達について」の記事で扱っています。
何に使う資金か|資金使途から考える
融資を検討するときに「何に使うお金なのか」を最初に決める必要があります。使途によって、使える制度も、返済の期間も変わります。
株式・事業の買取資金
後継者が現経営者から株式を買い取る、あるいは買い手が会社や事業を取得するための資金です。事業承継の資金といったとき、多くの人が思い浮かべるのがこれにあたります。
必要な買取資金を把握するには、まず株式価値の目安を確認します。実際の売買価格は、株価算定の結果だけでなく、会社の状況や取引条件、当事者間の交渉などを踏まえて決まります。承継にかかる費用の全体像は「事業承継の費用はいくら?」の記事で確認できます。
承継後の運転資金
見落とされやすい点が運転資金です。経営者が交代した際には、取引先との関係を作り直す期間が生じたり、金融機関との取引条件を見直したりすることがあります。その間も、仕入れや人件費の支払いは続きます。
承継の前後は、売上が一時的に落ちても資金が回る状態にしておくことが求められます。買取資金だけを考えて手元資金を使い切ってしまうと、承継後の経営が苦しくなります。
日本政策金融公庫の事業承継向け融資では、設備資金だけでなく運転資金も対象になっています。詳しくは後の章で扱います。
既存の借入金の借換え
会社に借入金が残っている場合、その扱いも論点になります。経営者が交代しても、法人が借りている債務は法人に残ります。ただし、現経営者が個人保証を提供している場合、その保証をどうするかは別に整理が必要です。
承継を機に借入条件を見直したい、複数の借入をまとめたいといった場合、借換えのための資金が必要になることがあります。制度によっては借換資金を対象にするものもあります。
承継後の設備投資・新たな取組み
引き継いだ後に、老朽化した設備を入れ替えたい、新しい分野に踏み出したいという場面もあります。承継を機に事業を見直すケースは少なくありません。
日本政策金融公庫の制度では、承継を契機とした第二創業や新たな取組み、M&A後の統合(PMI)の取組みも資金使途として想定されています。「承継してから考える」のではなく、承継の資金計画に組み込んでおくと選択肢が広がります。
どの立場か|承継の形から使える制度を絞る
同じ事業承継でも、誰がどの立場で資金を必要とするかによって、検討する制度が変わります。承継の形ごとに整理したうえで、最後に一覧で比較します。
親族内承継|後継者が株式を買い取る場合
親族内承継では、贈与や相続で株式が移ることもありますが、後継者が資金を調達して株式を買い取る方法が選択されることもあります。買い取る形にすれば、他の相続人との関係を整理しやすくなる場合があります。
後継者自身が株式を買い取る場合は、後継者個人が資金を調達する方法があります。承継スキームによっては、法人が借り手となる場合もあります。日本政策金融公庫の事業承継向け融資には、経営承継円滑化法の認定を受けた代表者や個人が対象になる区分があります。
従業員承継|EBO・MBOで資金を用意する場合
従業員や役員が株式を買い取って引き継ぐ形です。後継者としての適性はあっても、株式を買い取る資金力が課題になりやすいのが特徴です。
後継者個人が資金を調達する方法のほか、受け皿となる会社を設立し、その会社が資金を調達する方法もあります。従業員承継の進め方は「従業員承継(EBO・MBO)とは?」の記事にまとめています。
第三者承継(M&A)|買い手が買収資金を用意する場合
親族にも従業員にも後継者がいない場合、第三者への譲渡が選択肢になります。この場合、資金を用意するのは買い手側です。
買い手が法人であれば会社として借り入れることになり、個人であれば個人として資金を調達することになります。個人が事業を買う場合に使える制度は、後の章で扱います。
立場ごとの整理
誰が借りるのかを最初にはっきりさせておくと、相談先も検討する制度も定まります。
| 承継の形 | 主に資金を用意する人 | 主な資金使途 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 後継者個人/承継する会社 | 株式の買取資金・納税資金・運転資金 |
| 従業員承継(EBO・MBO) | 後継者個人/受け皿会社 | 株式の買取資金・運転資金 |
| 第三者承継(M&A) | 買い手(法人または個人) | 買収資金・承継後の運転資金 |
| いずれの形でも | 承継される会社 | 運転資金・借換資金・設備資金 |
この表は考え方を整理したものです。実際に誰が借り手になるかは、承継の設計や会社の状況によって変わります。制度ごとに対象者の要件が定められているため、個別の案件では金融機関や専門家に確認してください。
日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」
事業承継で資金を調達するとき、まず検討されることが多いのが日本政策金融公庫の融資です。事業承継やM&Aに取り組む方を対象とした制度が用意されています。
どんな人が対象になるのか
この制度では、対象となる方が複数の区分に分けて定められています。自分がどれに当てはまるかを確認するのが出発点です。
- 中期的な事業承継を計画している方:現経営者が後継者(候補者を含む)とともに事業承継計画を策定している方。融資後おおむね10年以内に承継を実施する見込みがあることが要件です
- 事業の承継・集約を行う方、される方:安定的な経営権の確保などにより、事業の承継や集約を行う側と、承継・集約される側の双方が対象になります
- 経営承継円滑化法の認定を受けた方:同法第12条第1項の規定に基づく認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者、または認定を受けた事業を営んでいない個人の方
- 経営者保証の免除を申し入れて資金調達が困難になった方:事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に、資金調達が難しくなっている方が対象です
- 承継を契機に新たな取組みを図る方:第二創業(経営多角化・事業転換・新市場進出)、新たな取組み、またはPMIの取組みを図る方
4番目の区分は、経営者保証の免除等を申し入れたことを契機に資金調達が難しくなった方についても、利用対象となる区分が設けられているということを示しています。承継の場面で生じやすい行き詰まりに、制度として手当てがされていると言えます。
5番目のPMIの取組みについては、認定経営革新等支援機関の支援を受けてPMI計画を策定し、実施する方が対象とされています。M&A後の統合作業については「PMIとは?」の記事で扱っています。
資金の使いみち|設備資金と運転資金の両方が対象
この制度で押さえておきたいことが、設備資金だけでなく運転資金も対象になっている点です。
事業承継計画を実施するために必要な設備資金と運転資金、事業の承継・集約を行うために必要な設備資金と運転資金、承継・集約を契機として必要になる設備資金と運転資金が、それぞれ対象として定められています。
また、経営者保証の免除を申し入れたことで取引状況が変化した方については、それに伴い必要となる運転資金が対象になります。
買取資金だけでなく、承継の前後に必要な運転資金まで含めて相談できることが、この制度の実務上の意味だと言えます。
融資限度額と返済期間
国民生活事業の場合、融資限度額は別枠で7,200万円と定められています。返済期間は設備資金が20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金が10年以内(うち据置期間5年以内)です。
据置期間があることには意味があります。承継直後に収益や資金繰りが安定しない場合もあるため、元金の返済を待ってもらえる期間を設けられると資金繰りの負担を抑えやすくなります。
利率は「基準利率」「特別利率A」「特別利率B」といった区分が対象者ごとに定められています。適用される利率は金融情勢によって変動するため、具体的な数値は日本政策金融公庫の公式サイトで最新の情報をご確認ください。担保や保証人については、希望を伝えたうえで相談する形になります。
併用できる特例制度
この制度は、いくつかの特例制度と組み合わせて利用できます。経営者保証免除特例制度、創業支援貸付利率特例制度、賃上げ貸付利率特例制度が挙げられています。
とくに経営者保証免除特例制度との組み合わせは、承継の場面で意味が大きいため次章で扱います。
なお、日本政策金融公庫には国民生活事業と中小企業事業があり、規模によって窓口も融資限度額も異なります。どちらに相談すべきかを含めて、最寄りの支店に問い合わせるのが確実です。
経営者保証を外したい場合|経営者保証免除特例制度
事業承継で相談が多いのが、経営者保証をどうするかという問題です。日本政策金融公庫には、経営者の保証を不要とする融資の制度が用意されています。
経営者保証が承継の障害になる理由
会社が金融機関から借り入れる際、経営者個人が連帯保証人になっているケースがあります。この状態で承継すると、後継者が新たに個人保証を求められることがあります。
会社の借入に自分の個人資産まで巻き込まれるとなれば、後継者が二の足を踏むのは自然なことです。承継を進めるうえで、この保証をどう扱うかは避けて通れない論点になります。
事業承継資金の利用者は対象区分に含まれる
経営者保証免除特例制度は、「経営者保証に関するガイドライン」に対応する制度として、経営者の保証を不要とする融資を希望する法人が対象です。
利用できる方の要件はいくつかの区分に分かれていますが、そのひとつに「事業承継・集約・活性化支援資金または生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金を利用される方」が含まれています。
つまり、前章で紹介した事業承継向けの融資を利用する場合にも、一定の要件を満たせば、経営者保証を不要とする融資を利用できる可能性があるということです。承継の資金調達と保証の問題を、同じ枠組みの中で相談できます。
そのほかの対象となる区分
事業承継資金の利用以外にも、対象となる区分が定められています。代表的なものを挙げます。
- 税務申告を2期以上実施している方:法人と代表者の一体性の解消が一定程度図られていることが確認でき、かつ直近の決算で債務超過でないことなどの要件を満たす場合
- 新たに事業を始める方・税務申告を2期終えていない方:法人と代表者の一体性の解消についての要件を満たす場合
- 物的担保の提供がある方:同様に一体性の解消についての要件を満たす場合
- 取引金融機関で代表者保証の免除に協調対応が見込める方:または取引金融機関から代表者保証を免除された借入の残高がある方
ここでいう「法人と代表者の一体性の解消」とは、事業上の必要が認められない法人から経営者への貸付金等がないことを指すとされています。会社と経営者個人との資金のやり取りを適切に整理し、法人と個人の資産・経理を明確に区分しておくことが重要になります。
利率の上乗せがない点も押さえておく
この特例制度では、各種融資制度に定める利率が適用され、保証を免除することによる上乗せ利率はありません。担保の提供の有無は、申込みの際に選択できるとされています。
ただし、一部利用できない融資制度があること、審査の結果として希望に沿えない場合があることは留意点として示されています。制度の詳細と最新の要件は、日本政策金融公庫の公式サイトまたは最寄りの支店でご確認ください。
個人が事業を買う場合に使える制度
個人が事業や会社を買って経営者になる方法も、事業承継や起業の選択肢のひとつです。この場合の資金調達についても、公庫に制度が用意されています。
新規開業・スタートアップ支援資金
新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした制度です。個人がM&Aによって事業を取得して新たに事業を始める場合にも、事業の開始時期や資金使途などの要件を満たせば、この制度を利用できる可能性があります。
この制度のうち中小企業経営力強化関連の区分では、「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用している(または適用する予定の)方であって、自ら事業計画書を策定し、認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている方が対象とされています。
資金使途は、事業を始めるため、または事業開始後に必要となる設備資金および運転資金です。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内(いずれも据置期間5年以内)と定められています。
再チャレンジする場合の取扱い
廃業歴等があり、創業に再チャレンジする方については、前の事業に係る債務を返済するために必要な資金も使途に含められるとされています。運転資金の返済期間も15年以内(うち据置期間5年以内)まで利用できるとされています。
一度事業をたたんだ経験がある方でも、次の挑戦に向けた選択肢があるということです。
個人が事業を買うときに押さえておくこと
利用する区分によっては事業計画書の策定が必要です。「買えそうな案件があるから借りたい」という順番では話が進みません。どの事業を、いくらで、どう運営して返済するのかを示す必要があります。また、中小企業経営力強化関連の区分では、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けることが要件とされています。
商工会議所や中小企業診断士、金融機関などには、認定経営革新等支援機関として認定されている機関があります。個人が会社を買う進め方は以下の記事で扱っています。
信用保証協会の保証を利用した融資・自治体の制度融資
公庫のほかにも、事業承継に活用できる資金調達の手段があります。民間の金融機関を通じたルートを整理します。
信用保証協会の保証を利用した融資
信用保証協会が保証人となることで、民間の金融機関から融資を受けやすくする仕組みです。信用保証協会が信用を補完することで、中小企業者が民間金融機関から資金調達する際の選択肢を広げる役割があります。
信用保証協会には事業承継に活用できる保証制度があり、制度ごとに保証限度額や担保・保証人の条件が定められています。具体的に利用できる金額は、企業の状況や既存の保証利用額などによって異なります。取引のある金融機関か、各都道府県の信用保証協会に相談するのが確実です。
保証を利用する場合、金融機関に支払う利息とは別に信用保証料が必要になります。この負担も資金計画に入れておきます。
自治体の制度融資
都道府県や市区町村が独自に用意している融資制度もあります。自治体が金融機関に資金を預けたり、利子や信用保証料の一部を補助したりすることで、借り手の負担を軽くする仕組みです。
自治体の制度融資は、信用保証協会の保証を利用する形をとることが一般的です。つまり信用保証協会の制度と自治体の制度は、別々のものというより組み合わせて使われる関係にあります。
内容は自治体によって大きく異なるため、事業所の所在地の制度を調べることになります。窓口は自治体の商工担当部署や、地元の商工会議所・商工会です。
民間金融機関のプロパー融資
信用保証協会の保証を付けずに、金融機関が自らのリスクで行う融資です。保証料がかからない一方、保証協会による信用補完がないため、金融機関が会社の財務内容や返済能力などを踏まえて独自に融資判断を行います。
すでに取引実績のある金融機関であれば、承継の相談を早い段階から持ちかけることで、融資以外の面でも協力を得られることがあります。銀行がM&Aで果たす役割はM&Aにおける銀行の役割とは?融資・アドバイザリーの特徴や手数料、注意点を網羅解説で扱っています。
返済負担を抑えたい場合|資本性ローンという選択肢
借入をすると自己資本比率が下がり、その後の資金調達に影響することがあります。それを避けたい場合の選択肢として、資本性ローンがあります。
金融機関の資産査定上、自己資本とみなされる場合がある
日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」は、新規事業や経営改善、企業再建などに取り組む中小企業に資本性の資金を供給する制度です。
会計上は負債ですが、一定の条件のもと、金融機関の資産査定上は自己資本とみなすことができるとされている点が特徴です。そのため、金融機関による財務評価において、通常の借入とは異なる扱いを受けられる場合があります。
返済の仕組みが通常の融資と異なる
返済期間は5年1ヵ月または6年から20年までの各年で、期限一括償還という形をとります。毎月元金を返していくのではなく、期限にまとめて返す仕組みです。
利率は、貸付後1年ごとに直近決算の業績に応じた区分が適用されます。業績が振るわない期間は利率が抑えられる設計になっています。適用される利率は制度の定めによるため、最新の内容は日本政策金融公庫の公式サイトでご確認ください。
担保・保証人は無担保・無保証人とされています。一方で、四半期ごとの経営状況の報告を含む特約の締結や、公庫が適切と認める事業計画書の提出が求められます。
参考:挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)|日本政策金融公庫
検討する際の留意点
取扱額に限りがあるとされており、要望に沿えない場合があることが示されています。また、法的倒産手続きが開始された場合、この制度による債務は他の債務に劣後する扱いになります。
誰でも使える制度ではなく、事業計画と将来性を示せることが前提になります。財務体質を強化しながら承継を進めたい場合の選択肢として、金融機関に相談してみる価値はあります。
融資と補助金・税制の組み合わせ
資金の手当ては融資だけではありません。返さなくてよい資金や、納税の負担を軽くする制度と組み合わせることで、全体の負担を抑えられる場合があります。
事業承継・M&A補助金
事業承継やM&Aに関連するさまざまな費用が支援対象となる補助金です。専門家に支払う費用、承継後の新たな取組みにかかる費用、廃業に伴う費用などが対象になる枠が設けられています。
補助上限額・補助率・対象となる経費は、申請枠や公募回によって異なります。また公募期間も限られているため、検討する場合は最新の公募要領を確認してください。制度の全体像は「事業承継・M&A補助金とは?」の記事にまとめています。
融資と補助金は性質が違う
融資は返済義務がある代わりに、必要なタイミングで資金を確保できます。補助金は返済不要ですが、多くの場合は費用を支払った後に交付される後払いの仕組みです。
つまり補助金を使う場合でも、支払いの時点では手元に資金が必要になります。補助金の入金までに必要となる資金を融資で確保するなど、融資と補助金を組み合わせて資金繰りを設計する方法もあります。ただし、それぞれの制度の資金使途や併用条件を確認する必要があります。
事業承継税制などの制度
株式を贈与・相続で引き継ぐ場合、税負担が課題になることがあります。一定の要件を満たすことで納税が猶予される制度が設けられています。
ただし要件が細かく、猶予が取り消される場合の取扱いもあるため、適用を検討する場合は、税理士などの専門家や関係機関に確認しながら進めることが重要です。買取資金の融資と税制のどちらを軸にするかで、承継の設計そのものが変わります。
申請の流れと相談先
実際に融資を受けるまでの流れと、どこに相談すればよいかを整理します。
まず承継の計画を固める
融資の相談をする前に、承継そのものの計画が必要です。誰に、いつ、どのような形で引き継ぐのか。公庫の事業承継向け融資では、事業承継計画の策定が対象要件になっている区分もあります。
あわせて、株式の評価額や必要な資金の総額を把握します。ここが定まっていないと、いくら借りるべきかが決まりません。
必要になる主な書類
制度や金融機関によって異なりますが、一般的に求められるものを挙げます。
- 事業承継計画書:承継の時期・方法・後継者を示すもの
- 決算書(数期分):会社の財務状況を示すもの
- 資金計画書・返済計画書:何にいくら使い、どう返すか
- 株式の評価に関する資料:買取金額の根拠となるもの
- 認定書:経営承継円滑化法の認定を要件とする制度の場合
公庫の様式は公式サイトからダウンロードできます。認定が必要な制度では、認定手続きに時間がかかることもあるため、逆算して動くことになります。
申請から融資実行までの期間
融資実行までの期間は、金融機関や利用する制度、審査の内容、必要な認定手続きの有無などによって異なります。
事業承継では、計画の策定や認定の取得に準備を要することもあります。クロージングの日程が決まってから動き出すのでは間に合わないことがあるため、余裕を持って相談を始めることが大切です。
相談先の選び方
どこに相談すればよいかは、何を決めたいかによって変わります。
- 日本政策金融公庫の支店:制度の適用可否や必要書類について直接確認できる
- 取引のある金融機関:保証協会付き融資やプロパー融資、既存借入の扱いを含めて相談できる
- 認定経営革新等支援機関:商工会議所、中小企業診断士、税理士など。計画策定の支援を受けられる
- 事業承継・引継ぎ支援センター:各都道府県の公的窓口。承継先探しから相談できる
- 税理士:株式の評価、事業承継税制の適用可否など税務面
なお、契約書の法的な審査は弁護士が担う領域です。M&Aの支援者はそのやりとりを調整する立場になります。
事業承継の融資に関するよくある質問
事業承継の資金調達について、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 個人でも事業承継の融資を受けられますか?
A. 制度によって対象となる場合があります。
公庫の事業承継・集約・活性化支援資金では、経営承継円滑化法の認定を受けた個人である中小企業者や、認定を受けた事業を営んでいない個人の方が対象区分に含まれています。事業を買って始める場合は、新規開業・スタートアップ支援資金が選択肢になることもあります。要件は制度ごとに異なるため、公庫の支店で確認してください。
Q. 現経営者の借入金を借り換える資金は対象になりますか?
A. 制度によっては対象となります。
事業承継に伴う事業用借入金の借換資金を対象とする制度もあります。ただし、債務者が法人なのか経営者個人なのかによって扱いが変わるため、現在の借入がどうなっているかを整理したうえで相談することになります。
Q. 経営者保証を外すことはできますか?
A. 制度として用意されています。
日本政策金融公庫の経営者保証免除特例制度では、事業承継・集約・活性化支援資金を利用する方が対象区分に含まれています。ただし、法人と代表者の一体性の解消が図られていることなどの要件があり、審査の結果として希望に沿えない場合もあります。
Q. 融資の金利は固定ですか、変動ですか?
A. 日本政策金融公庫では固定金利が適用される融資制度があります。
適用される利率は、制度や融資期間、利用条件などによって異なります。また利率は金融情勢によって変動するため、実際に適用される金利は公庫の公式サイトまたは支店でご確認ください。
Q. 補助金と融資は併用できますか?
A. 併用できる場合があります。
補助金の多くは費用を支払った後に交付される後払いの仕組みのため、支払いの時点では手元に資金が必要になります。補助金の入金までに必要となる資金を融資で確保するなど、融資と補助金を組み合わせて資金繰りを設計する方法もあります。ただし、同じ経費に対する重複した支援が認められない場合もあるため、公募要領で確認してください。
Q. 融資を受けられなかった場合、どうすればよいですか?
A. まず否決の理由を確認し、必要に応じて資金計画や承継スキームを見直します。
買取価格の見直し、自己資金の比率を上げる、承継の時期をずらすといった選択肢があります。売り手との合意により代金を分割払いとする方法もありますが、売り手側には代金の未回収リスクが生じるため、支払条件や担保などを慎重に設計する必要があります。ひとつの制度で断られたことが、すべての道が閉ざされたことを意味するわけではありません。
まとめ|資金使途と立場を先に決める
事業承継の資金調達では、まず何に使う資金なのか、誰が借りるのかをはっきりさせることが出発点になります。買取資金なのか運転資金なのか借換えなのか、借り手は後継者個人なのか会社なのか買い手なのか。ここが定まると、検討する制度も相談先も絞られます。
日本政策金融公庫には事業承継やM&Aに取り組む方を対象とした制度があり、設備資金だけでなく運転資金も対象とされています。経営者保証を外したい場合は、事業承継向けの融資を利用する方が対象区分に含まれる特例制度も用意されています。信用保証協会の保証を利用した融資、自治体の制度融資、資本性ローンといった選択肢もあります。
検討を進めるうえで、次の3点を押さえておくと動きやすくなります。
- 買取資金だけでなく、承継後の運転資金まで含めて計画すること
- 制度ごとに対象者の要件が定められているため、自分がどれに当てはまるかを確認すること
- 認定手続きに時間がかかる制度もあるため、余裕を持って相談を始めること
融資の条件や制度の内容は改定されることがあります。具体的な融資限度額・利率・要件は、日本政策金融公庫をはじめとする各機関の公式サイトで最新の情報をご確認ください。
承継先がまだ決まっていない場合は、相手を探すところから始まります。TRANBIには全国の中小企業や個人事業の譲渡案件が掲載されているので、どのような承継の形があるかを知る材料としてご覧になってみてください。
