事業承継の融資はどう借りる?公庫・保証協会・銀行の活用法を解説
事業承継・M&Aに必要な資金をどう調達する?日本政策金融公庫、信用保証協会、銀行融資の違いと選び方、審査に通る申請ポイント、補助金との賢い組み合わせまで解説。
事業承継やM&Aを検討し始めたとき、多くの経営者様が最初に直面するのが大きな資金面の課題です。
それは、「株式の買取や設備の更新にかかる多額の資金を、一体どうやって工面すればよいのか」という資金調達の悩みではないでしょうか。
会社を次世代へスムーズにバトンタッチするためには、自己資金だけで賄おうとせず、日本政策金融公庫や信用保証協会、民間銀行などが用意している「事業承継専用の融資制度」を上手に活用することが、最も確実で安全な解決策となります。
本記事では、初めて融資を検討される方でも理解できるように、主要な融資制度の条件やメリットの違いを丁寧に比較解説します。
さらに、2025年から大幅に拡充される「補助金」と融資を組み合わせた賢い資金調達スキームや、金融機関の審査を通過するための具体的な申請ポイントまで、実務に役立つ情報を網羅的にまとめました。
この記事を読み終える頃には、自社にとって最適な資金調達のルートが明確に見えてくるはずです。資金繰りの不安を解消し、自信を持って次世代への承継やM&Aを成功させるための道筋を、一緒に確認していきましょう。
まずは、なぜ今、事業承継において融資の活用がこれほどまでに重要視されているのか、その全体像からご説明します。
事業承継の融資とは?必要とされている背景・理由
事業承継の融資とは、親族内承継や従業員承継、あるいはM&A(第三者承継)といった、さまざまな事業承継の形に合わせて設計された、公的な支援を含む融資制度のことです。主に日本政策金融公庫や信用保証協会といった公的機関が主体となり、比較的低い金利条件で利用できるケースがあります。
経営者が後継者へと経営権を引き継ぐタイミングでは、想像以上に多額の現金(キャッシュ)が必要になります。例えば、老朽化した工場や機械設備の更新資金、承継後の事業を軌道に乗せるまでの運転資金、そして何より、先代が持つ株式や事業用資産を後継者が買い取るための資金などです。
近年、こうした専用の融資制度が必要とされている背景には、後継者確保の難易度が上がっていることに加え、経営資源を引き継ぐ際の資金ニーズが以前よりも増加傾向にあるという事情があります。親族内承継であっても、多額の贈与税・相続税への対策として、後継者が会社や金融機関から資金を借り入れて株式を買い取るケース(売買による承継)が増えています。
また、M&Aであれば、会社を売却する側は老後の資金確保などを目的に現金を求めますし、買収する側はその対価を支払うための調達資金が必須となります。さらに、従業員が会社を買い取るEBO(エンプロイー・バイアウト)のようなケースでは、従業員個人には十分な資金力がないことが一般的であるため、組織的な資金支援がなければ承継自体が成り立ちません。
このように、どのような形態の承継であっても、目の前に立ちはだかる「資金の壁」を乗り越え、事業を存続させるために、事業承継専用の融資制度は必要不可欠なライフラインとなっているのです。
事業承継で融資を活用するメリット
事業承継の場面で、あえて外部からの融資を活用することには、単に「足りないお金を借りる」以上の大きな意味があります。
自己資金のみに頼るリスクを回避し、承継プロセス全体を安定させ、その後の企業の成長を加速させるために、以下の5つのメリットを詳しく見ていきましょう。
メリット①:買収資金の確保により承継を円滑に進められる
融資を活用する最大のメリットは、株式や事業資産の取得に必要なまとまった資金を、必要なタイミングで確実に準備できる点にあります。もし買い手側の自己資金が不足している状態で交渉に臨むと、「本当に支払えるのか?」という疑念から価格交渉が難航したり、最悪の場合は交渉自体が頓挫してしまったりするリスクがあります。
しかし、融資によって確かな資金の裏付け(コミットメント)があれば、売り手側も安心して交渉に応じることができます。お互いの信頼関係が保たれるため、承継プロセス全体を当初の計画通り、スムーズに進めやすくなるのです。結果として、無用なトラブルや時間の浪費を避け、円満なバトンタッチが可能になります。
メリット②:運転資金の確保で経営の安定性を高められる
事業承継の直後は、経営者が変わることによる組織体制の変更や、取引先との関係再構築などで、一時的に売上が不安定になるリスクがどうしてもつきまといます。そんな時、融資によって十分な運転資金(手元で自由に使える現金)を確保しておけば、多少の売上変動があっても動じることなく対応できます。
仕入れ代金の支払いや従業員への給与支払いなど、事業を継続する上で絶対に止めてはならないコストを確実にカバーできるからです。「資金繰りが苦しい」という不安が解消されれば、新経営者は目先のお金に追われることなく、冷静な経営判断を下し、本業の立て直しや成長戦略に集中することができるでしょう。
メリット③:長期返済により資金繰りの負担が軽減される
事業承継向けの融資制度は、一般的な銀行融資と比べて返済期間が長めに設定されているケースが多い点が特徴です。数年で慌てて返す必要がなく、10年、20年といった長期間にわたって少しずつ分割返済ができるため、月々の返済額を低く抑えることができます。
毎月の返済負担が軽ければ、キャッシュフロー(現金の流れ)が圧迫されず、会社経営に余裕が生まれます。その浮いた資金を将来のための再投資に回したり、内部留保として積み増したりすることも可能です。また、承継後に予期せぬトラブルが起きたとしても、毎月の出金が少なければ落ち着いて対処でき、長期的な視点で安定した資金計画を立てやすくなります。
メリット④:承継後の設備投資や成長施策を実行しやすい
経営トップが若返るタイミングは、老朽化した設備を一新したり、新しいビジネスモデルに挑戦したりする「第二創業」の絶好の機会でもあります。融資によって、承継資金だけでなく成長投資のための資金もセットで確保できれば、新規事業の立ち上げや販路拡大といった「攻めの施策」を、承継直後の最も勢いのある時期に迅速に実行できます。
設備の近代化やDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めて生産性を向上させれば、それはそのまま企業の収益力強化につながり、引いては借入金の返済原資を生み出すことにもなります。
経営基盤を盤石にし、事業価値そのものを向上させるためにも、融資による「未来への投資資金」の確保は非常に有効な戦略です。
メリット⑤:外部資金を使うことで手元資金を温存できる
「借金は怖いから、できるだけ自己資金で」と考える経営者様もいらっしゃいますが、あえて銀行などからの外部資金を活用することで、会社がこれまで蓄積してきた大切な内部留保(手元資金)を温存できるというメリットは見逃せません。もし自己資金をすべて承継資金に充ててしまい、会社の金庫が空っぽになってしまうと、突発的な支出や不測の事態(災害や急激な不況など)が発生した際に、打てる手がなくなってしまいます。
手元に十分な現金を残しておけば、それが万が一の際のリスクヘッジになるだけでなく、絶好のビジネスチャンスが来たときの即応資金としても機能します。「借りられる信用があるうちに借りておく」ことで、大切な余剰資金を成長投資や緊急時の命綱として優先的に確保できるのです。
主要な事業承継の融資制度の比較:公庫・保証協会・銀行
事業承継の融資は、主に日本政策金融公庫、信用保証協会付き融資、地方自治体の制度融資の3つに分けられます。
それぞれに「低金利」「銀行との関係強化」「地域密着の支援」といった異なる強みがあります。
自社の置かれた状況や優先したい事項に合わせて、最適な資金調達ルートを選ぶことが重要です。一つずつ詳しく見ていきましょう。
政府系金融機関(日本政策金融公庫)
日本政策金融公庫(略して「公庫」)の「事業承継・集約・活性化支援資金」は、政府系金融機関ならではの好条件が魅力の制度です。営利を第一目的としないため、中小企業支援の観点から非常に使いやすい設計になっています。主な融資対象は、3年以内に事業承継を予定している中小企業や、承継に伴って経営継続に支障が出ている企業、あるいは株式を集約しようとする持株会社などが該当します。
この制度の特長の一つは、補助上限は800万〜1,000万円、補助率は費用の1/2〜2/3と、比較的大きな融資枠が設定されている点です。これにより、中~小型のM&Aには十分対応可能です。
金利は、公庫の基準利率・特別利率が適用される固定金利で、一般のプロパー融資より低めに設定されています。また、返済期間は設備資金で最長20年、運転資金で最長10年と長く、さらに元金の返済を一定期間待ってもらえる「据置期間」も設定できるため、承継直後の資金繰りを安定させやすいのが特徴です。
この制度は、親族内承継や従業員承継はもちろん、M&A後の経営統合(PMI)など幅広いシーンで活用できます。
「まずは低金利で、長期安定的な資金を調達したい」「企業買収のような大規模な資金需要がある」という場合には、最初に検討すべき最有力候補と言えるでしょう。
信用保証協会付き融資(民間銀行経由)
信用保証協会付き融資は、公的な保証機関である「信用保証協会」が借金の保証人になる(債務保証を行う)ことで、民間銀行から融資を受けやすくする仕組みです。対象となるのは、しっかりとした事業承継計画書を作成して融資を申し込む中小企業や、都道府県知事の認定を受けた事業承継実施企業などです。
この制度では、融資限度額は最大2億8,000万円となっており、そのうち8,000万円までは「無担保枠」として利用できる点が大きなメリットです。
融資期間は最長15年(据置期間を含む)で、事業資金や承継に必要な資金、さらには既存の借入金の借換資金としても利用可能です。
この制度を活用する最大の利点は、普段取引のある地元の民間銀行を経由して融資を受けるため、銀行との取引実績を作り、関係(リレーションシップ)を強化できる点にあります。また、担保力が弱くプロパー融資が難しい中小企業であっても、協会の無担保枠を活用することで資金調達のハードルを下げることができます。
「普段付き合いのある銀行との関係を大事にしたい」「担保が少なくて不安」という方におすすめです。
地方自治体制度(保証協会型・利子補給型などを含む独自制度)
各都道府県や市区町村が独自に設けている制度融資は、その地域の中小企業を支援し、地域経済を活性化させることを目的としています。
内容は自治体ごとに異なりますが、多くの場合、信用保証協会や民間銀行と連携して提供されるパッケージプランのようなものです。
この制度の大きな特徴は、自治体が支払利息の一部を代わりに負担してくれる「利子補給」や、保証協会に支払う保証料を補助してくれる仕組みがあるケースが多いことです。これにより、実質的な金利負担やコストを非常に低く抑えられる可能性があります。地域ごとの産業特性や課題に合わせて条件がカスタマイズされているため、要件に合致すれば非常に有利な条件で借り入れが可能です。
また、市区町村の補助金と組み合わせて活用することで、資金調達効果を最大化できるのも魅力です。地元の金融機関や商工会議所などが窓口となることが多く、地域の事情に精通した担当者からきめ細かなサポートを受けられるという安心感もあります。
まずは自社の所在する自治体にどのような制度があるか、確認してみる価値は十分にあります。
事業承継の融資と補助金の組み合わせ戦略
これからの事業承継において見逃せないのが、「融資」と「補助金」のハイブリッド活用です。
特に2025年からは「事業承継・M&A補助金」がさらに拡充され、両者を巧みに組み合わせることで、資金負担を劇的に軽減できる環境が整ってきました。融資でまとまった「今すぐ必要な資金」を確保しつつ、補助金で専門家への報酬や設備投資の一部を「後から補填」するという複合的な戦略が、成功のスタンダードになりつつあります。
事業承継・M&A補助金の4つの支援枠
この補助金には、目的や対象に応じた4つの主要な支援枠が用意されています。
ご自身の状況に合うものがないか確認してみましょう。
- 事業承継促進枠
親族内承継や従業員承継を予定している事業者が行う、新しい取り組みや設備投資などを支援する枠です。補助上限額や補助率は公募回ごとに異なるため、最新の公募要領の確認が必要です。承継を機に設備を一新したい場合に最適です。 - 専門家活用枠
M&Aを行う際に依頼する仲介業者やFA(フィナンシャル・アドバイザー)などの専門家費用や、デューデリジェンス(企業調査)費用を補助します。補助上限は通常600万円ですが、大規模案件などの特定条件下では最大2,000万円まで拡大されるため、M&Aを検討する企業にとっては非常に強力な支援となります。 - PMI推進枠(2025年新設)
M&Aが成立した後に行う経営統合プロセス(PMI)にかかる費用を補助する、注目の新設枠です。システムの統合や従業員の融和にかかる研修費用などが対象となり、M&A後の成功率を高めるために活用できます。 - 廃業・再チャレンジ枠
M&Aが叶わずに廃業を選択する場合の費用や、廃業後に新しい事業へ挑戦するための費用を最大150万円まで補助します。撤退戦を支援し、再起を促すためのセーフティネットと言えます。
融資と補助金の最適な組み合わせ
実務においては、融資と補助金を組み合わせて、資金計画全体を設計することが重要です。
例えば、M&Aの買収資金として公庫の融資を活用しつつ、買収前のデューデリジェンス(DD)や仲介手数料にかかる数百万円の費用は、補助金の「専門家活用枠」でカバーするといった使い方が賢い戦略です。
また、親族内承継の場合であれば、融資で2億8,000万円を調達して後継者が自社株を買い取り、同時に補助金の「事業承継促進枠」で1,000万円の補助を受けて新規設備を導入し、生産性を向上させるといったストーリーも描けます。さらに、承継後の統合作業(PMI)に補助金を充てることで、統合に伴う現場の混乱やリスクを最小限に抑えることも可能です。
ただし、入金タイミングには注意が必要です。
補助金は基本的に「後払い」です。先に経費を支払い、後から国から入金される仕組みのため、その間のつなぎ資金が必要になることがあります。補助金の公募締切や採択発表の時期(例:2026年1月上旬など)を逆算し、融資の実行タイミングと補助金の入金タイミングのズレを考慮して、資金ショートしないような計画を立てましょう。
事業承継の融資の申請手続きと必要書類
事業承継の融資をスムーズに受けるためには、金融機関の担当者が納得し、稟議を通しやすい材料を揃える「事前の段取り」が何よりも大切です。申請には、事業承継計画書や決算書をはじめ、将来の返済能力を証明するための財務予測など、多くの書類が必要となります。
金融機関によって求められるものが微妙に異なるため、早めの確認と準備を心がけましょう。
申請前の準備段階
まず着手すべきは、融資審査で重視される「事業承継計画書」の作成です。
ここには、後継者の経歴やスキル、熱意ある経営ビジョンに加え、現経営者からいつ・どのように権限を委譲するかという具体的なスケジュールを明記します。さらに、後継者体制での今後5年程度の中期経営計画と財務予測を立て、数字で「この会社は成長し、確実に返済できる」という説得力を持たせることが不可欠です。
提出書類としては、直近3期分の決算書や試算表、定款、商業登記簿謄本などが基本セットとなります。親族内承継の場合は、相続税や贈与税の試算書、自社株の評価額がわかる資料なども必要になるでしょう。
また、具体的にいくら必要なのかという「資金需要」を明確にすることも重要です。「なんとなく多めに借りたい」では通りません。設備投資に〇〇万円、運転資金に〇〇万円、株式取得に〇〇万円と内訳をきっちりと整理し、それが事業計画上、返済可能な範囲内であることをキャッシュフロー予測で示す必要があります。
申請から融資実行までのステップ
- 金融機関への事前相談:最初のステップは、金融機関の窓口への相談です。公庫の支店や、取引のある銀行、信用保証協会などを訪れ、「事業承継融資を利用したい」と伝え、利用可能な制度の要件や必要書類を確認します。この段階で担当者の感触を掴んでおくのも良いでしょう。
- 融資申し込み・書類提出:準備した書類を揃えて、正式に「融資申し込み」を行います。この際、商工会議所や税理士などの「認定支援機関」のサポートを受け、書類のチェックを受けておくと、書類の不備が減り、信頼性が高まるため審査がスムーズに進みます。
- 審査と面接:申請後は、金融機関による厳正な審査が行われます。書類審査だけでなく、経営者や後継者との面接も実施されます。ここでは書類の内容だけでなく、経営者の人柄、熱意、事業計画の実現可能性などが厳しくチェックされます。「自分の言葉」でビジョンを語れるように準備しておきましょう。
- 融資承認・実行:審査を無事通過すれば、「融資承認」の連絡が来ます。契約手続き(金銭消費貸借契約など)を経て、指定口座に資金が振り込まれます。その後は、計画に基づいた返済がスタートします。
事業承継の融資活用時の注意点と成功ポイント
融資は「借りて終わり」ではなく、そこからが本当の経営のスタートです。
失敗しないためには、入り口の確認から、返済能力のシビアな検証、さらには税務・法務面のリスク対策まで、多角的な視点を持つことが求められます。
融資申請前の確認事項
まず、自社が「融資対象者の要件」を確実に満たしているかを確認しましょう。
日本政策金融公庫の一部制度では「おおむね3年以内に事業承継を予定していること」が要件とされています。保証協会の制度を利用するには事前に県知事の認定が必要な場合もあります。持株会社スキームを使う場合は特有の要件があるため、細部まで規定を読み込む必要があります。
次に、「融資限度額と返済能力」のバランスを冷静に検証します。
必要な金額が制度の上限に収まっているかはもちろん、5年後、10年後のキャッシュフローをシミュレーションし、無理なく返済できる計画になっているかが最重要です。承継直後の不安定な時期を乗り切るために、元金の支払いを猶予してもらえる「据置期間」を最大限活用することも検討しましょう。
担保や保証についても戦略が必要です。不動産などの担保が不足している場合は、制度によっては無担保で利用できる融資枠を検討します。経営者保証(連帯保証)については、事業承継を機に外せるケースもあるため(「経営者保証ガイドライン」の活用など)、金融機関と交渉する価値は十分にあります。
申請時の留意点
融資の可否を分けるのは、なんといっても「事業承継計画書の質」です。
後継者がなぜその事業を継ぐのか、どのようなビジョンで成長させるのかを、客観的な根拠とともに熱量を持って伝える必要があります。市場環境や競合状況を踏まえた具体的な行動計画を示すことで、審査担当者の評価が高まりやすくなります。
複数の融資制度を併用する場合は、「重複利用のルール」に注意が必要です。
公庫と保証協会付き融資は基本的に併用可能ですが、それぞれの役割分担や返済スケジュールを調整し、全体として最適な資金調達構造(デット・ミックス)を作ることが大切です。
また、税理士などの「専門家との連携」も欠かせません。
事業承継税制を活用して税負担を減らしたり、株価評価を適切に行ったりすることは、融資額の適正化にも直結します。融資実行後も見据えて、会計処理や資金管理の体制を整えておくようアドバイスをもらいましょう。
融資実行後の管理
資金が入金された後は、「返済計画の確実な実行」が求められます。
月々の返済が滞らないよう資金繰り表を更新し続け、計画と実績にズレが生じたら即座に原因を分析して対策を打ちます。
「事業承継の進捗管理」も忘れてはいけません。
予定通りに権限委譲が進んでいるか、後継者が組織を掌握できているかを定期的にチェックします。融資金の使途が計画から逸脱していないかを監視することも、経営管理の観点から重要です。
最後に、金融機関に対する「経営の透明性」を維持することです。試算表や決算書を定期的に提出し、経営状況を包み隠さず報告することで、金融機関との信頼関係(リレーションシップ)が深まります。この信頼があれば、将来追加融資が必要になった際にも相談に乗ってもらいやすくなるでしょう。
事業承継の融資で失敗しないための専門家活用ガイド
事業承継融資の成功率は、誰をパートナーに選ぶかで大きく変わります。
計画書の作成から税務対策、法務チェックまで、専門領域ごとに適切なプロフェッショナルの力を借りることで、審査通過の確率は格段に高まります。
認定支援機関(商工会議所・中小企業診断士)の活用
地元の商工会議所や、認定支援機関に登録されている中小企業診断士は、公的なサポートの窓口として非常に頼れる存在です。
彼らは事業承継計画書の作成支援やブラッシュアップを得意としており、金融機関が何を重視しているかを熟知しています。また、行政の支援スキームを活用するため、相談費用が無料または低額で済むケースが多いのも大きなメリットです。必要に応じて金融機関への紹介状を書いてもらえることもあります。
税理士・会計士の活用
お金と税金のプロフェッショナルである税理士や公認会計士は、財務面の信頼性を担保するために不可欠です。
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決算書や試算表の整備はもちろん、相続税や贈与税のシミュレーションを行い、税引き後のキャッシュフローに基づいた精緻な返済計画を作成してくれます。特に「事業承継税制」の適用を受ける場合など、複雑な税務手続きにおいては彼らのサポートなしには進められません。顧問税理士がいる場合は、早めに相談してみましょう。
M&A仲介業者・事業承継コンサルの活用
M&Aによる承継を目指す場合は、M&A仲介会社や専門コンサルタントの出番です。彼らはマッチングだけでなく、企業価値評価(バリュエーション)の算定やデューデリジェンスの支援を行い、適正な買収価格や融資額を導き出してくれます。
また、M&A後の統合プロセス(PMI)まで見据えたアドバイスをもらえるため、承継後の事業失敗リスクを下げることができます。
金融機関窓口での事前相談
実際に融資を行う金融機関の担当者と、早い段階からコミュニケーションをとっておくことも、立派な専門家活用の一つです。窓口で「どのような案件なら融資しやすいか」「どのような書類が必要か」を直接ヒアリングすることで、無駄な作業を省き、審査のツボを押さえた申請が可能になります。
彼らのアドバイスを真摯に受け止め、計画に反映させる姿勢を見せることで、担当者の心証も良くなり、強力な味方になってくれるはずです。
事業承継の融資に関するよくある質問
ここでは、事業承継の融資を検討する際によく寄せられる疑問に対し、Q&A形式で丁寧にお答えします。
Q1:個人で事業承継を行う場合、融資は受けられますか?
はい、受けられます。
法人だけでなく、個人事業主が親族などに事業を引き継ぐ場合でも融資の対象となります。しっかりとした事業承継計画書を作成し、都道府県知事の認定を受けることで、制度によっては数億円規模の融資枠を利用できる可能性があります。
ただし、法人と比較して個人の信用力や返済能力がより厳密に審査される傾向があるため、より綿密な準備が必要です。
Q2:現経営者の借入金がある場合の借換融資は対象になりますか?
対象となります。
事業承継に伴い、現経営者が抱えていた借入金を後継者(または承継後の会社)が借り換えるための資金も、融資の使い道として認められています。これにより、高金利の借入を低金利の制度融資に一本化したり、返済期間を延ばして月々の負担を軽くしたりする(リファイナンス)効果が期待できます。
ただし、あくまで事業用資金の借り換えに限られ、経営者個人の借金などは対象外ですのでご注意ください。
Q3:M&A補助金との併用時、融資額に制限はありませんか?
基本的に融資と補助金は併用可能であり、融資額そのものに直接的な制限がかかるわけではありません。
しかし、補助金が出る部分は「自己負担が減る」とみなされるため、必要な融資額がその分減少すると判断される可能性があります。また、前述の通り補助金は「後払い」が原則であるため、一時的に融資で全額を立て替えるつなぎ資金が必要になるケースもあります。両者の入金タイミングを考慮した資金計画を立てましょう。
Q4:事業承継の融資の金利は固定ですか?変動ですか?
日本政策金融公庫の融資は、原則として「固定金利」が適用されます。
融資実行時の金利が完済まで続くため、将来の金利上昇リスクを避けられるという大きなメリットがあります。利率は融資期間や企業の信用格付けによって決定されますが、経営状況によっては基準利率よりも低い「特別利率」が適用されることもあります。
一方、民間銀行の場合は「変動金利」が提案されることも多いため、それぞれのメリット・デメリットを比較検討する必要があります。
Q5:事業承継の融資の申請から融資実行まで、どの程度の期間がかかりますか?
一般的には、申請書類を提出してから融資実行まで「1〜2ヶ月程度」かかると見ておくのが安全です。
ただし、事業承継計画書の策定や、自治体の認定取得に時間がかかる場合もあるため、それらの準備期間を含めると半年以上の期間が必要になることも珍しくありません。
特に補助金と併用する場合は、採択通知の時期なども絡んでくるため、ギリギリではなく余裕を持ったスケジュールを組むことが成功の鉄則です。
まとめ
本記事では、事業承継を成功に導くための「融資」活用法について、基礎から実践まで詳しく解説してきました。
多額の資金が必要となる事業承継において、日本政策金融公庫や信用保証協会、民間銀行の融資制度は、経営者の皆様にとって強力な武器となります。低金利や長期返済といったメリットを最大限に活かしつつ、2025年からさらに使いやすくなる「事業承継・M&A補助金」と組み合わせることで、資金負担を最小限に抑えた賢い承継が可能になります。
重要なのは、自社の状況(親族内承継かM&Aか、担保余力はあるか等)に合わせて最適な制度を選び、熱意と根拠のある「事業承継計画書」を持って金融機関と交渉することです。一人で抱え込まず、専門家の力も借りながら、早めの準備と対策を進めてください。
円滑な資金調達は、後継者が安心して経営のスタートラインに立つための、現経営者からの最初のプレゼントです。
ぜひ本記事を参考に、自社の未来を拓く第一歩を踏み出してください。