2024-01-30

経験ゼロから農家に挑戦したフリーアナウンサー 兼 子育てママ!農業の魅力と、農園を引き継ぐメリットを聞いてみた

承継者:工藤 桂子さん

<個人の新しい働き方を目指した事業承継事例>

 

大分県でフリーアナウンサーとして活躍している工藤 桂子さんは、3年前に農業に出会い、現在は農家として活躍しながら、継続可能な農業に取り組む仲間を増やすため、積極的に情報発信をしています。

ひょんなことから後継者のいないみかん農園に出会い、経験ゼロで農業の世界に飛び込んだ工藤さん

子育てをしながら片道1時間を掛けて農園に通い続け、売上が上がらないときも「経験」と捉えて前向きに農業に向き合い続けられたのは、農業を通じて出会った仲間の存在が大きかったといいます。

現在は経営スキルも身につけながら、みかんからかぼすへと、扱う農産物をシフトしています。着実に農家としてのステップアップを遂げている工藤さんに、農業の魅力や、既存の農園を引き継ぐメリットなどを伺いました。



【「やる」と決めたことは曲げない性格。27歳のときにアナウンサーの道へ】

- まずは、工藤さんのこれまでのキャリアを教えてください。
カメラの製造会社で1年間検査員の仕事をした後、商業高校で取得した資格を生かして、19歳から27歳まで事務員として働いていました。

27歳のときにアナウンススクールに通い始めて、半年間の基礎コースを受講し、イベントの司会者から下積みを重ねてフリーアナウンサーに。翌年から、OBS大分放送の土曜の朝の番組である『かぼすタイム』のリポーターの仕事がスタートしました。

その後、結婚や出産も経験して、今もフリーアナウンサーとしての仕事を続けていますが、もう一つの仕事である農業と出会って現在で3年目になります。

- 経歴を伺うと、アナウンススクールに入ったことが人生の中で大きな転機だったように映りますが、どんなきっかけから通うことになったのですか。
会社員時代にしんどい時期があって、そんなときにテレビ番組『世界の果てまでイッテQ!』のイモトアヤコさんに元気をもらっていて。

毎週日曜にイモトさんを見て元気をもらっては、月曜から仕事を頑張るサイクルを送る中で、「こんなに人に元気を与えられるなんて、素敵な人だな。そんな人に私もなりたい」と思うようになったんです。

地元の大分県から離れるつもりはなかったので、「大分県でテレビに出て、みんなに元気を与えられるような人になりたい。つらい状況の人を、少しでも励ますことができる存在になりたい」と思ったときに、思いついた選択肢がリポーターになることでした。

リポーターの方の経歴を調べると、アナウンススクール出身の方が多かったので、まずはアナウンススクールに通うことにしました。

実際は、アナウンススクールに通ったからといって、全員が希望通りにテレビやラジオに出演できるわけではなく、いろんな縁や運の巡り合わせによるものでもあるので、夢が叶った私はラッキーだったと思っています。



(アナウンサーをしている工藤さん)

【農家2年目と3年目の売上はイノシシ被害でほぼゼロ。続けられたのは「人」に恵まれたから】

- 農業には、どんなきっかけで出会ったのですか。
もともと野菜ソムリエの資格を持っていて。

2020年からのコロナ禍で、イベントが減ったり、スタジオにいる出演者の間隔を開けなければいけなかったりしたことからフリーアナウンサーの仕事量が減ったときに、「この時間を勉強に費やそう!」と思って、野菜ソムリエの資格を生かしたジュースのプロデュースをしようと思い付いたんです。

市場に出すことのできない規格外の果物を、農家さんから仕入れて活用することができれば、農家さんも喜んでくださるのではと思いました。そのご提案をしようと、ある農家さんのところに足を運んだんです。

しかし、私の提案に対して農家さんから、「農家は作りたくて規格外のものを作ってるんじゃないよ。『規格外のものをください』と言われて、失礼に感じたり、悲しんだりする農家もいるよ」と厳しい意見をいただいて。まったく想定していなかった言葉でした。

また、農家さんは出荷作業に忙しいため、「拾っている時間ももったいないから」と、利益にならない規格外のものは畑に置きっぱなしにして、そのまま肥料などにするケースも多いようです。

「あなたが自分で収穫に来てくれるならいいけれど、こちらから送ったり、保管してあげたりすることは難しいよ」と言われてしまったのです。

そうしたお話を伺って、農家さんの事情を何も知らずに提案してしまった自分を恥ずかしく思ってしまって。同時に、情報発信に携わる者として、農業のことを正しく知った上で発信できるようになりたいと思ったのです。

そんなとき、その農家さんが、「詳しい方がいるから直接話を聞いてみたら?」と、お隣の農家さんを紹介してくださいました。その方は、後継者がいないので今年でみかん農園をやめようと考えている方でした。

そして、私に対して「やり方は教えてあげるし、毎日来なくても大丈夫だから、一回やってみる?」とカジュアルに提案してくださったので、その場で「やってみたいです!」と即答したのです。



(工藤さんが育てたみかん)

- 家庭との両立は大変なように思いますが、ご家族はどのような反応でしたか。
もともと、自分で「やる!」と決めた時点で、周りから反対されても貫き通す性格なので、農業を始めることも夫には事後報告でした。

夫は、私がやりたいと言ったことを否定しない人なので、反対はされませんでした。「仕事や子育てと両立して自分ができる範囲をしっかりと見定めた上で、決断したんだろう」と信頼してくれていたのだと思います。

ただ、やはり両立は大変ではありました。果樹は1ヵ月に4回ほど、たとえ草刈りが忙しい時期でも月8回ほど通えれば大丈夫なので、そこは助かったのですが、とはいえ家から農園までは高速道路を使っても片道2時間掛かるのは大きな負担でした。

当時3歳の息子を朝早く保育園に送って、片道2000円かけて高速に乗って農園に行き、夏は熱中症予防に励みつつ、冬は日が暮れるのが早いので時間に追われながら、可能な限り作業をした上で、延長保育のリミットである19時に子どもを迎えに行くこともありました。

最初は利益を考えず、「経験値を上げるための勉強だ」と捉えていたので、高速道路代などはそれほど気にならなかったものの、息子を預かってくださる保育園の先生の支えや家族の理解があったからこそ、農業と向き合えたと思っています。
 

- みかん農家時代は、どんな契約形態でしたか。
みかん農家を貸してくださった師匠の方が「やってくれるなら、お金はいらない」とのことで。

また、その師匠の本業は水耕のネギ栽培で、その傍らで代々のみかん農家を継いでいたそうなので、「育てたみかんの売上は全部あなたのものにしていいよ」とおっしゃってくださいました。かなり特殊な契約だったと思います。

ただ、売上はほとんど上がりませんでした。1年目は、「農業を学び、楽しむ」ことを大切にしていて、収穫できたみかんは周りの人に配っていたので、売上は10万円ほど。

そして、本格的に取り組もうとした2年目は、イノシシの被害に遭って、ほぼ全滅。その被害で木が弱ってしまったため、3年目も少量しか生産できず、収益は上げられませんでした。

イノシシ対策でネットは張っていたものの、イノシシも賢いので、穴を掘るなどなんとかしてネットを破ってきたようです。毎日農園に足を運んでいるわけではないので、早期に気付かなかったことで被害が大きくなってしまったみたいです。

- 大変な状況でしたが、それでも続けられたモチベーションはどんなところにありましたか。
実は、師匠が農業法人協会の会長でして。私はそんなことを知らずに出会ったわけですが。その農業法人協会で、新しく個人会員制度が作られたので、私も会員になって、農業や経営の勉強のためにセミナーに足を運ぶようになったんです。

そうしたところに足を運んでいると、大分で農業に従事されている仲間に出会うことができて。私が困っているときには「大丈夫?」と畑に駆けつけてくださったり、体調不良で倒れたときには「草を刈りに行こうか?」と声を掛けてくださったりして。

農業に携わっている方は優しい方ばかりで、初心者の私にもすごく親切に接してくださったので、そうした方に少しでも近付きたいという思いがモチベーションになって、頑張り続けることができました



(工藤さんとみかん農家の師匠)

【現在はかぼす農家の後継者に。持続可能な農業ができるよう、農園の経営にも全力投球】

- 3年間みかん農家を続けた後、かぼす農家に転身したのは、どうしてですか。
農業をしつつ、経営の勉強も並行して行う中で、今のスタイルで通いつつ、みかん農園の経営状況を安定させることは難しいと判断しました。

師匠に電話で「事業として継続することが難しい、畑を守ることができなくてごめんなさい」と、悔しくて泣きながら連絡をしました。

すると師匠から「何を育てるのであっても、農業を頑張るのであれば応援するよ」というエールをいただきました。

以前から、無農薬で栽培できるものに携わりたいと思っていたので、無農薬の野菜を販売している八百屋さんに足を運んだときに店主さんに相談してみたところ、「うちの父親が、かぼす農園を経営していて、後継者を探してるから」と紹介してくださって、かぼす農業にチャレンジすることにしました。

- かぼすとみかんを栽培する上での違いは、どんなところにありますか。
みかんの木は、コンテナに乗れば手が届く高さなので収穫がしやすいですが、かぼすの木は5~6メートルあるため、高枝切りバサミを使わなければ収穫ができません。

ずっと上を向いている状態で収穫をするので首は痛みますし、収穫作業に時間が掛かるので、1日の収穫量もみかんの1/3くらいになってしまいます。

また、みかん農園の場合は一面に木が植わっていますが、かぼす農園は何面にも渡って木が植わっていて、傾斜が大きかったりするので、移動もなかなか大変です。同じ柑橘類でも全然違うことを知りました。

ただ、かぼすは農薬散布の必要がない点では楽です。みかん農園では、暑い時期にマスクなどの完全防備をした上で農薬散布をしなければならず、かなり身体に負担が大きかったですね。

- 売上などの状況はいかがですか。
8月後半から10月後半頃までに収穫できる緑色のかぼすと、11月から12月までに収穫できる黄色のかぼすを育てているのですが、去年から関西の大手スーパーさんに黄色のかぼすを毎週100キロ卸すことになったので、11月から12月は月30万円ほどの売上が確実に立つようになりました。

緑色のかぼすの売上と合わせると、売上は年間約200万ほどでしょうか。今は私ひとりで作業をしているので、かぼす農園の利用料である年間3万円くらいしか費用が掛かっていませんが、今後は収穫期に人を雇おうと考えているので、手元に残るのは150万円ほどになるかなと思います。

規格外のかぼすをチョコレートにするなど加工品にも挑戦してみたり、かぼすの収穫期ではない時期に、他のものを育ててみようかとも考えています。



(工藤さんが育てたかぼす)

【「断るのは失礼」と思わず、気軽に農園に足を運んで、農業に挑戦してみてほしい】

- かぼす農園を引き継いでよかったと実感されていますか。
はい。もし一人でイチから始めていたら、「本当にこの育て方でいいんだろうか」と悩んだり、挫折してしまったりしていたと思います。

環境を引き継いで、ノウハウを教えていただいた上で農業に臨むことができて、「これを継続すれば自然に育つ」と思えていたので、不安はありませんでした。

今後は、また別のかぼす農園を引き継ぐことも考えています。

今の園地に新しい苗を植えるという手段もありますが、苗を植えてから収穫できるようになるまでには3~4年掛かりますし、当分は毎日の水やりが必要であるため、後継者を求めている農園を引き継いだ方がメリットが大きいなと。

経験を積んだからこそ、次に引き継ぐときには傾斜がなだらかな場所を選ぶなど、農園の作業を手伝っていただく方にもできるだけ負担を掛けないような園地選びをしたいと思います。

- 農業に携わって、初めて知ったことはありますか。
農業といえば家族経営が当たり前だと思っていましたが、農業法人として野菜を作っている農家さんにも出会って、育てるものや思いは一緒でも、事業規模や農業への向き合い方はさまざまで、働き方や関わり方の自由度が高いことを知りました。

また、「子どもに引き継ぐことができないので、自分の代で農業を終わりにしよう」と思ってらっしゃる農家さんも多くいらっしゃって。

でも、そんな農家さんの中には「頑張ってくれる方なら、どなたにでも引き継ぎたい」という気持ちをお持ちの方もいました。

農業に従事されている方は「困っている方がいたら助けたい」というスタンスの、すごく優しい方が多いですし、技術に対しても一から丁寧に教えてくださるので、チャレンジのハードルも高くないと思います。

自分が経験したことで、かぼすのような育てやすいものであれば、子育て真っ最中の親御さんであっても農業にチャレンジしやすいと気付いたので、今後も農業の魅力や農家としての働き方に関する情報発信に力を入れていきたいです。

- 今後、事業承継などを通じて農業に挑戦しようと考えている方に向けて、アドバイスをお願いします。
責任感のある方は特に、「一度お話を聞いたからには、断っちゃいけない」と思いがちではないでしょうか。

私もそう思っていましたが、みかん農家である師匠から掛けられた「無理だと思ったら、辞めていいからね」の一言で、心が軽くなりました。

まずは自分の中で条件を決めてから、TRANBIで案件を探してみたり、気になる農園に直接足を運んでみたり、県の農業課に相談に行ったりしてみてください。

そして、条件に合えば「ダメでもいいじゃん。やってみることで、何か気付きがあるはず」といった心持ちでチャレンジしてみてほしいと思います。

農業法人協会や、農家を対象とした勉強会に足を運べば、「収穫量がこれくらいの場合、だいたい何年で初期投資を回収できるか」といったことをを一緒に考えてくれて、経営に関する相談ができる人にも出会えるので、安心して農業に飛び込んでいただきたいです。

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■工藤桂子さんのインスタグラムはこちら

「@keido_oita」

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