印刷会社のM&Aとは?事業承継・相場・売却/買収の流れと注意点を解説

印刷会社のM&Aとは?事業承継・相場・売却/買収の流れと注意点を解説

印刷会社のM&Aは、市場縮小や後継者不足、設備投資の負担を背景に増えています。印刷設備の評価とリース残債、業態(出版・商業・事務・包装)、取引先・下請け構造、職人の技術といった印刷業ならではの論点に加え、相場・売却/買収の流れ・メリット・デメリットまで、売り手・買い手の双方にわかりやすく解説します。

目次

「印刷の受注が年々減っている」「高額な機械への投資が重い」「会社を継ぐ人がいない」——印刷業界では今、こうした悩みからM&A(事業承継)を選ぶ経営者が増えています。一方で、印刷会社が持つ設備・技術・取引先を引き継いで事業を強化したい・参入したいという買い手も少なくありません。

本記事では、印刷会社のM&A(買収・売却・事業承継)の現状と相場、メリット、そして印刷設備の評価、業態(出版・商業・事務・包装)、取引先・下請け構造、職人の技術といった印刷業ならではの重要論点を、売り手・買い手の双方の視点からわかりやすく解説します。

後継者不在や設備投資の負担に悩む印刷会社の経営者の方も、印刷事業への参入・拡大を考える買い手の方も、ぜひ参考にしてください。M&Aの基礎から知りたい方はM&Aの記事もあわせてご覧ください。

印刷会社でM&Aが増えている背景

まずは、なぜ今これほど印刷会社のM&Aが活発になっているのか、その背景を見ていきましょう。

市場縮小とデジタル化

インターネットやスマートフォンの普及により、新聞折込チラシ・カタログ・パンフレットなど紙媒体の印刷需要は減少が続いています。印刷産業の市場規模は、ピーク時の2010年と比べて近年は約6割の水準まで縮小し、回復が難しい状況にあります。こうした中、単独での生き残りに限界を感じ、M&Aによって規模やノウハウを補おうとする動きが広がっています。

参考:一般社団法人 日本印刷産業連合会

経営者の高齢化・後継者不足と設備投資の負担

印刷業は従業員10人未満の小規模事業者が大半を占め、経営者の高齢化と後継者不足が深刻です。さらに印刷業は高額な印刷機械を必要とする「装置産業」であり、最新設備への投資負担が中小企業の重荷になっています。後継者がいないうえに設備更新も難しいという二重の課題から、廃業ではなくM&Aで事業と雇用を残す選択が増えています。

業界再編と周辺分野への展開

印刷業界では業界再編が進んでいます。大手・中堅による中小印刷会社の買収や、後継者不足を背景とした同規模同士の統合により、事業承継と規模拡大を同時に図るケースが増えています。また、出版印刷に強い企業が包装(パッケージ)印刷の会社を買収するなど、成長分野や周辺業種へ展開するためのM&Aも活発です。印刷会社の持つ設備や顧客基盤は、事業拡大の有力な手段になっています。

印刷会社M&Aの相場・企業価値の考え方

印刷会社を売買する際に気になるのが「いくらで取引されるのか」という相場です。装置産業ならではの価値の決まり方を押さえておきましょう。

基本は「時価純資産+営業権(のれん)」

中小の印刷会社のM&Aでは、「時価純資産+営業権(のれん)」方式で価値を算定するのが一般的です。会社の資産から負債を引いた時価純資産に、将来の収益力を表すのれん(営業権)を上乗せして評価します。営業権は実態の営業利益の数年分(年買法)が目安です。

企業価値 = 時価純資産 +(実態営業利益 × 2〜4年分)※目安

印刷会社は印刷機械などの設備(有形資産)が時価純資産に大きく影響する一方、業界全体が低粗利のため、のれん(営業権)は控えめに評価されやすい傾向があります。最終的な価格は売り手と買い手の交渉で決まります。

印刷会社の価値を左右する要素

同じ規模でも、次のような要素によって評価額は大きく変わります。

  • 設備(印刷機械)の状態:保有する印刷機の種類・新しさ・稼働状況。デジタル印刷など需要のある設備か
  • 取引先・受注の安定性:継続的に発注のある取引先、官公庁・大手企業との取引実績、特定顧客への依存度の低さ
  • 得意分野・特殊技術:小ロット・短納期対応、特殊印刷や加工など、価格競争に巻き込まれにくい強み
  • 業態:出版印刷・商業印刷・事務用印刷・包装印刷など、買い手の狙いと合致する業態か
  • 職人・オペレーター:機械を扱う熟練オペレーターや、品質を支える人材が定着しているか

とくに印刷会社は、「設備」と「安定した取引先」が価値の源泉になりやすい業種です。設備の中身と、誰とどんな取引をしているかが価格を大きく左右します。

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印刷会社をM&Aする売り手・買い手のメリット

印刷会社のM&Aには、売り手・買い手の双方に大きなメリットがあります。それぞれの立場から見ていきましょう。

売り手(譲渡側)のメリット

【後継者問題を解決し、設備と技術を残せる】
後継者がいなくても、M&Aで意欲ある企業へ引き継げば、長年使ってきた設備や培った印刷技術、取引先との関係を次の世代へ残せます。「自分の代で会社を畳むしかない」と諦める前の、前向きな選択肢です。

【従業員の雇用を守れる】
廃業した場合、従業員は職を失いますが、M&Aであれば従業員の雇用を引き継げます。熟練のオペレーターは、買い手にとっても貴重な戦力です。

【売却益・設備処分費の回避】
事業の対価(売却益)を得られるうえ、廃業時にかかる高額な印刷機械の処分費用を回避できます。会社の借入に対する経営者個人の保証を、交渉によって解除できる可能性もあります。

買い手(譲受側)のメリット

【設備・技術をすぐに獲得できる】
印刷事業をゼロから始めるには、高額な印刷機械への投資や技術の習得に多くの時間とコストがかかります。すでに設備・技術・人材がそろった会社を引き継げば、初期投資を抑えてすぐに事業を運営できるのが大きな魅力です。

【取引先・受注基盤を獲得できる】
既存の取引先や継続的な受注をそのまま引き継ぎ、安定した売上基盤を一気に得られます。新規開拓の手間を省き、自社の受注量・稼働率の向上にもつなげられます。

【業態拡大・周辺分野への参入】
商業印刷の会社が包装印刷の会社を買収するなど、新しい業態や成長分野へ参入できます。設備の相互活用や受注の融通といったシナジーも狙え、価格競争から抜け出す一手にもなります。

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印刷会社M&Aのデメリット・注意したい点

メリットの多いM&Aですが、売り手・買い手それぞれにデメリットや注意すべき点もあります。あらかじめ理解しておきましょう。

売り手(譲渡側)のデメリット

まず、必ずしも希望の価格・条件で売れるとは限りません。印刷業は市場縮小と低粗利が続く業界のため、設備が古かったり特定の取引先に依存していたりすると、買い手から評価が伸びにくいことがあります。

また、相手探しから成約までには時間がかかり、その間の手間も生じます。従業員や取引先に対して、いつ・どう伝えるかといった関係者への配慮や調整も必要です。

買い手(譲受側)のデメリット

買い手側で最も注意したいのが、設備の老朽化による追加投資や、印刷機械のリース残債・未払いなど、表に出にくい負担を引き継いでしまうリスクです。また、売上が特定の取引先に依存している場合、その取引が失われると一気に経営が傾くおそれもあります。

さらに、低粗利という業界の体質、熟練オペレーターの離職リスク、買収後の体制統合(PMI)にも一定の手間がかかります。これらのリスクは、後述するデューデリジェンスで丁寧に確認することで抑えられます。

印刷会社M&Aで押さえるべき特有の重要論点

印刷会社のM&Aには、この業種ならではの確認すべきポイントがあります。装置産業ゆえの「設備」まわりが、とくに重要になります。

①印刷設備(機械)の評価とリース・残債の確認

印刷会社の価値を大きく左右するのが、保有する印刷機械などの設備です。M&Aでは、設備の種類・新しさ・稼働状況に加えて、リース契約の残債や借入の状況を必ず確認します。設備が古ければ引き継ぎ後に多額の更新投資が必要になり、リース残債は買い手の負担として残るためです。会社ごと引き継ぐ株式譲渡か、必要な設備・取引先だけを選んで引き継ぐ事業譲渡か、スキームの選択も重要になります。

②業態(出版・商業・事務・包装印刷)の見極め

ひとくちに印刷業といっても、出版印刷・商業印刷・事務用印刷・包装印刷など業態はさまざまで、製作物や取引先、必要な設備が異なります。M&Aでは、自社(または相手)がどの業態かを確認し、シナジーが見込めるか、設備や顧客が補完関係になるかを見極めることが大切です。とくに成長が見込まれる包装(パッケージ)印刷は、買い手の関心が高い分野です。

③取引先・受注構造と下請け依存

印刷業界は、大手が受注して中小へ発注する下請け構造になっている面があります。そのため、特定の元請けや大口取引先に売上を依存していないか、受注が安定的・継続的かを確認することが重要です。下請け中心で価格決定力が弱い場合、収益性が低く評価されやすいため、独自の取引先や得意分野を持つ会社ほど高く評価されます。

④職人・オペレーターの技術(属人性)

印刷の品質は、機械を扱う熟練オペレーターや職人の技術に支えられている面があります。キーパーソンとなる人材がM&Aを機に離職すると、品質の維持や納期対応に支障が出るおそれがあります。中心となる人材の継続意思を確認し、必要に応じて一定期間の引き継ぎ勤務や技術指導を契約に盛り込むなどの対策を取りましょう。

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印刷会社M&Aの流れ

印刷会社のM&Aは、基本的な進め方は他業種と同じですが、設備やリース契約、取引先の整理という印刷業ならではの確認が加わります。全体像を押さえておきましょう。

基本のステップ

印刷会社のM&Aは、おおむね次の流れで進みます。

  1. 準備:譲渡(または買収)の目的・希望条件を整理する
  2. 相手探し・マッチング:M&Aプラットフォームなどで相手を探す
  3. 面談・交渉:事業への想いや条件、設備・取引先の引き継ぎ方をすり合わせる
  4. 基本合意・デューデリジェンス:条件に合意し、買い手が買収監査(DD)を実施する
  5. 最終契約・クロージング:契約を結び、設備・取引先・従業員を引き継ぐ

準備から成約まで、一般に半年〜1年程度が目安です。

印刷業ならではの確認(設備・リース・取引先)

印刷会社のM&Aでは、上記に加えて印刷設備の状態とリース契約、取引先との関係の整理が重要になります。会社ごと引き継ぐ場合は株式譲渡、必要な設備や取引先だけを選んで引き継ぎたい場合は事業譲渡が選ばれます。とくにリース残債や借入を引き継ぎたくない場合は、事業譲渡で対象を絞る選択も有効です。どのスキームが適しているか、早い段階で専門家に相談しておくと安心です。

M&Aの流れを11ステップで徹底解説!準備からPMIまで全手順と成功のポイント
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印刷会社M&Aの注意点・デューデリジェンスのポイント

引き継ぎ後のトラブルを防ぐために、とくに買い手がデューデリジェンス(買収調査)で確認したいポイントを整理します。

設備の状態とリース残債を確認する

印刷機械などの設備の老朽化の度合いを確認し、引き継ぎ後に更新投資が必要かを見極めましょう。あわせて、設備のリース契約の残債や、設備購入に伴う借入の状況も必ず確認します。古い設備や多額のリース残債は、買収後の大きな負担になりかねません。

簿外債務(未払い・買掛など)をチェックする

未払いの費用や買掛金、退職金の引当不足などの簿外債務がないかを、デューデリジェンスで確認することが重要です。決算書に表れにくい負担を見落とすと、引き継いだ後に買い手が背負うことになりかねません。設備のリース残債とあわせて、負債まわりは丁寧に精査しましょう。

取引先の依存度と人材の継続を確認する

売上が特定の元請けや大口取引先に依存していないか、その取引が安定的・継続的かを確認しましょう。依存度が高いと、取引解消が経営に直結するリスクがあります。あわせて、機械を扱う熟練オペレーターや職人が引き継ぎ後も継続して勤務するかも、品質と納期を守るうえで重要な確認ポイントです。

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印刷会社M&Aの活用パターン

実際の印刷会社のM&Aでは、たとえば次のようなケースが見られます。自社の状況に近いパターンをイメージしてみましょう。

後継者不在の印刷会社を同業・大手へ事業承継(売り手)

地方で長年営んできた印刷会社の経営者が高齢となり、後継者もいないことから廃業を検討。しかし、長年使ってきた設備や安定した取引先、熟練のオペレーターを残したいと考え、同業や中堅印刷会社への株式譲渡を選びました。設備と取引先はそのまま引き継がれ、従業員の雇用も維持。買い手は受注量と稼働率を高められ、売り手は廃業時の設備処分費も回避できました。

周辺分野への参入・設備獲得を狙う買収(買い手)

商業印刷を手がける企業が、成長分野である包装(パッケージ)印刷の会社を買収し、新たな業態へ参入したケースがあります。また、広告やWebを手がける企業が、内製化やワンストップ化を狙って印刷会社を取り込む例も見られます。設備や技術、取引先を一度に獲得できる点が、買い手にとっての大きな魅力です。

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印刷会社M&Aに関するよくある質問(FAQ)

印刷会社のM&Aについて、よく寄せられる疑問にお答えします。

赤字の印刷会社でも売却できますか?

はい、赤字でも売却できる可能性は十分にあります。買い手は現在の利益だけでなく、保有する印刷設備、安定した取引先、熟練のオペレーター、特殊技術や得意分野といった「事業の価値」を評価します。とくに需要のある設備や独自の取引先・技術があれば、引き継ぎ手は見つかります。まずは自社の強みを整理してみましょう。

印刷会社M&Aの相場はどれくらいですか?

「時価純資産+営業権(営業利益の数年分)」が目安です。印刷会社は印刷機械などの設備が時価純資産に大きく影響する一方、業界全体が低粗利のため、営業権(のれん)は控えめに評価されやすいのが特徴です。設備の新しさや取引先の安定性によって金額は大きく変わります。最終的な価格は売り手と買い手の交渉で決まります。

出版社のM&Aとは何が違いますか?

同じ「印刷・出版業界」でも、論点は大きく異なります。印刷会社は印刷機などの設備が中心の「装置産業」で、設備の評価やリース残債、下請け構造がポイントになります。一方、出版社は版権・コンテンツ・著者との関係・取次口座といった「無形の資産」が価値の源泉です。出版社のM&Aについては、出版社のM&Aの記事で詳しく解説しています。

M&Aにはどれくらいの期間がかかりますか?

一般に、準備から成約まで半年〜1年が目安です。条件が合えば、より短期間で成約することもあります。期間の内訳や短縮のコツは、M&Aにかかる期間の記事で詳しく解説しています。

まとめ|印刷会社のM&Aは「設備」と「取引先」がカギ

印刷会社のM&Aは、後継者問題の解決や事業の生き残り・拡大の有効な手段として活発になっています。本記事のポイントを振り返ります。

  • 印刷業は市場縮小・低粗利・後継者不足・設備投資の負担が課題で、業界再編・M&Aが活発
  • 相場は「時価純資産+営業権」が目安。設備が時価純資産に効く一方、低粗利でのれんは控えめになりやすい
  • 売り手は後継者解決・設備処分費の回避・売却益、買い手は設備・取引先・技術の即獲得や業態拡大が魅力
  • デメリット・リスクは、設備老朽による追加投資、リース残債・簿外債務、取引先依存、職人の離職
  • 特有論点は「設備・リース残債」「業態(出版・商業・事務・包装)」「取引先・下請け依存」「職人の属人性」。DDで丁寧に確認を

印刷会社のM&Aは、設備と取引先という価値の源泉、そして装置産業ならではの論点を押さえることが成功のカギです。「後継者がいないから廃業するしかない」と諦める前に、M&Aで設備と技術、雇用を残す道を検討してみてください。

印刷会社の事業承継・M&Aを検討するなら、事業承継・M&Aプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』の活用がおすすめです。全国の売り手・買い手が登録しており、成約手数料もかかりません。まずはどんな案件があるか見てみることから始めてみましょう。

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記事監修: 株式会社トランビ 代表取締役CEO 高橋 聡
【プロフィール】
アスクホールディングス株式会社代表取締役社長、中小企業庁中小M&Aガイドライン作成委員。アクセンチュアを経てアスクホールディングス株式会社を先代から事業承継。中小企業におけるM&A活性化の必要性を痛感しトランビを創業。
著書: 「起業するより会社は買いなさい」サラリーマン・中小企業のためのミニM&Aのススメ
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