M&Aで新規事業を始めるには?「時間を買う」メリットと進め方を解説

M&Aで新規事業を始めるには?「時間を買う」メリットと進め方を解説

M&Aで新規事業を始める方法を解説します。ゼロから自社で立ち上げる場合との違い、最大のメリットである「時間を買う」という考え方、異業種への参入と同業種の拡大それぞれの進め方、見落としやすいデメリット、株式譲渡と事業譲渡の選び分けまでをまとめました。

目次

新規事業を立ち上げようと計画を練ってみたものの、人材の採用、設備や店舗の確保、許認可の取得、そして最初の顧客をつかむまでの道のりを考えると、想定していた以上に時間がかかりそうだ。そう感じて手が止まってしまった経営者の方は少なくありません。

本記事では、M&Aで新規事業を始めるという選択肢について、ゼロから立ち上げる場合との違い、最大のメリットである「時間を買う」という考え方、異業種への参入と同業種の拡大それぞれの進め方、見落としやすいデメリット、株式譲渡と事業譲渡の選び分け、実際の流れまでを順に解説します。

新規事業の手段を比較検討している経営者の方、既存事業の次の柱を探している方に向けた内容です。

M&Aで新規事業を始めるとは?ゼロからの立ち上げとの違い

新規事業を始める方法は、ゼロから自社で立ち上げるだけではありません。すでに動いている会社や事業を買い取り、その事業を自社の新しい柱にするという進め方があります。まずは、その基本的な考え方と、自力で立ち上げる場合との違いを整理します。

M&Aで新規事業を始めるとはどういうことか

M&Aで新規事業を始める」とは、他社がすでに運営している会社や事業を買収し、それを自社の新規事業として引き継ぐことを指します。

買収の対象は、会社そのものである場合もあれば、会社の中の特定の事業だけである場合もあります。前者では株式を取得して会社ごと引き継ぎ、後者では事業に必要な資産や契約を個別に引き継ぎます。この違いは後の章で詳しく扱います。

いずれの場合も、引き継ぐのは事業の看板だけではありません。多くの場合、業務のノウハウ、設備や店舗、そこで働く従業員、積み上げてきた取引先との関係といった、事業が動くために必要な要素をまとめて受け取ることになります。M&Aの基本的な仕組みについては、M&Aとは?基本知識から種類やメリット、成功のポイントなどを解説で全体像を確認できます。

ゼロから立ち上げる場合との違い

自社でゼロから新規事業を立ち上げる場合、事業が形になるまでに踏むべき工程がいくつもあります。市場の調査、商品やサービスの設計、人材の採用と教育、仕入先の開拓、必要であれば許認可の取得、そこからようやく販売の開始です。

M&Aで事業を引き継ぐ場合、これらの工程の一部をすでに終えた状態から始められます。商品があり、それを作る人がいて、買ってくれる顧客がいる。つまり「事業が立ち上がるまでの工程」を買っているという見方もできます。もっとも、引き継ぐ内容によっては、人員の補充や許認可の取得、商品やサービスの見直しが必要になることもあります。

一方で、ゼロからの立ち上げには、自社の思い描いたとおりに設計できるという良さがあります。M&Aで引き継ぐ事業には、前の経営者が作った商習慣や社内のルールがすでに存在しており、それを自社の方針に合わせていく作業が必要になります。どちらが優れているという話ではなく、何を優先するかで選び方が変わります。

新規事業の手段としてM&Aが選ばれる背景

かつてM&Aは、大企業が同業を買収して規模を拡大するための手段という印象が強いものでした。近年はその位置づけが広がっています。

要因のひとつは、後継者が見つからないまま事業の引き継ぎ先を探している会社が増えていることです。売り手が増えれば、買い手にとっては選択肢が広がります。この背景については「後継者不足はM&Aで解決できる|事業承継の進め方をわかりやすく解説」の記事で詳しく扱っています。

もうひとつ要因は、数百万円から数千万円規模の小さなM&Aを扱う場が整ってきたことです。以前は仲介会社を通した大型案件が中心でしたが、現在はマッチングプラットフォーム上で中小規模の案件を直接探せるようになりました。数億円の資金を用意しなくても、事業を買うという選択肢を検討できる環境になっています。

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M&Aで新規事業を始める最大のメリットは「時間を買う」こと

M&Aで新規事業に参入する利点は数多く挙げられますが、その中心にあるのは時間です。新規事業において時間が何を意味するのか、3つの角度から見ていきます。

立ち上げにかかる時間を短縮できる

新規事業が売上を立てられる状態になるまでには、業種によって差はあるものの、相応の準備期間が必要です。飲食店であれば物件を探し、内装を整え、保健所への届出を済ませ、スタッフを採用して教育する。製造業であれば設備を導入し、品質を安定させ、取引先の検査に通す。

すでに営業している会社や事業を引き継ぐ場合、この準備期間の多くを省くことができます。買収の手続きが完了した時点で、事業はすでに動いている状態だからです。

もちろん、M&A自体にも相手探しから交渉、契約、引き継ぎまでの期間がかかります。それでも、事業をゼロから軌道に乗せる期間と比べれば短く収まることが多く、ここが「時間を買う」と表現される理由です。

黒字化までの時間を短縮できる

新規事業では、立ち上げから一定期間は赤字が続くことが珍しくありません。設備投資や採用にかかった費用を、売上が上回るまでには時間がかかるためです。この期間をどれだけ耐えられるかが、新規事業の成否を分ける要素のひとつになります。

すでに利益が出ている事業を買収した場合、この赤字期間を抱えずに済む可能性があります。買収した翌月から売上が立ち、そこから利益が残る状態を引き継げるためです。

ただし、これは買収した事業が買収後も同じように利益を出し続けることが前提です。前の経営者の人脈で成り立っていた取引や、経営者本人の技術に依存していた事業では、引き継ぎ後に売上が落ちることもあります。事業の利益がどこから生まれているのかを、買う前に確かめておく必要があります。

実績のある事業を数字で見て判断できる

ゼロから立ち上げる新規事業では、売上の見込みは計画上の数字にとどまります。実際に売れるかどうかは、始めてみないとわかりません。

これに対して、買収を検討する事業には過去の実績があります。何年間、どのくらいの売上と利益を出してきたのか、顧客はどのように推移してきたのか。こうした実績を確認したうえで、参入するかどうかを判断できます。

この確認作業をデューデリジェンス(DD)と呼びます。財務や税務、法務、事業の内容などを調べ、事前に聞いていた話と実態が合っているかを検証する工程です。専門的な調査が必要な部分は、公認会計士や弁護士などの専門家に依頼するのが一般的です。詳しくはデューデリジェンス(DD)とは?M&A買収監査の種類・流れ・費用を解説をご覧ください。

計画書の数字ではなく、実際に動いてきた事業の数字を見て決められる。これも、時間の節約と並ぶM&Aの利点です。

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時間のほかに買収で獲得できる経営資源

M&Aで引き継げるのは、事業が動いているという状態だけではありません。自社で一から用意しようとすると手間のかかる経営資源が、事業とともに移ってきます。

技術やノウハウを持つ従業員

新規事業でつまずきやすいのが人材です。未経験の分野で人を採用しても、戦力になるまでには教育の期間が必要になります。採用そのものが難しい職種も少なくありません。

株式譲渡で会社ごと引き継ぐ場合、従業員の雇用契約は会社との間で結ばれているため、そのまま継続するのが原則です。その分野で経験を積んだ人材に引き続き働いてもらえれば、採用と教育にかかる期間を抑えられます。

一方で、従業員が新しい経営者のもとで働き続けてくれるかどうかは、別の問題です。経営方針や待遇が大きく変われば、退職につながることもあります。M&A後の従業員への向き合い方については、M&Aで従業員はどうなる?メリット・デメリット・待遇・反対・退職への対応で整理しています。

顧客リストや取引先とのつながり

新規事業にとって、最初の顧客をつかむまでが最も苦しい局面になりがちです。実績のない会社が新しい分野で取引を始めるには、信用を積み上げる時間がかかります。

事業を引き継ぐ場合、その事業がすでに持っている顧客や取引先との関係を受け取ることができます。継続的に取引のある顧客がいる状態から始められるのは、ゼロからの立ち上げにはない条件です。

ただし、取引契約の中には、経営権が移った場合に相手方の承諾を必要とする条項が入っていることがあります。承諾が得られなければ契約が終了することもあるため、主要な取引先との契約内容は買収前に確認しておく必要があります。契約書の法的な審査は弁護士が担う領域であり、M&Aの支援者はその確認のためのやりとりを調整する立場になります。

許認可・不動産・特許など取得に時間がかかる資源

業種によっては、事業を始めるために行政の許認可が必要です。建設業の許可、産業廃棄物処理業の許可、旅館業の許可、宅地建物取引業の免許など、取得までに一定の期間と要件を満たす手間がかかるものがあります。

会社ごと引き継ぐ株式譲渡では法人格が変わらないため、会社が持っている許認可も原則として維持されます。ただし、許認可の種類によっては、株主や役員の変更にあわせて届出や手続きが必要になる場合があります。一方、事業譲渡では許認可を引き継げず、買い手が改めて取得し直さなければならないものが多くあります。この違いは、参入する業種によっては手法の選択そのものを左右します。

立地の良い店舗や工場用地のように、市場に出てくること自体が少ない不動産も同様です。特許や商標、独自に開発した仕組みなども、自社で一から生み出すには時間と費用がかかります。こうした資源をまとめて引き継げる点が、買収という手段の特徴です。

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M&Aの買い手の目的は?メリット・デメリットと流れを徹底解説!

M&Aで会社や事業を買う側の目的を解説します。買い手にとってのメリットとデメリット、買収までの流れ、検討時に押さえておきたい注意点まで幅広く紹介します。

異業種へ新規参入する場合の進め方と注意点

いま手がけている事業とは異なる分野に参入する場合、M&Aは有力な選択肢になります。自社に知見のない領域だからこそ、すでに動いている事業を引き継ぐ意味が大きくなるためです。異業種参入ならではの利点と、押さえておきたい点を扱います。

事業の柱を増やして経営の安定性を高める

ひとつの事業だけに依存している状態は、その市場が縮小したときに会社全体が影響を受けます。景気の波、法制度の変更、主要取引先の方針転換といった外部要因は、自社の努力だけでは避けきれません。

異なる分野に事業の柱を持つことで、片方が落ち込んだときにもう片方が支えるという形をつくれます。売上の変動する時期が異なる事業を組み合わせれば、年間を通した資金繰りが安定しやすくなるという考え方もあります。

どの分野に広げるかは、自社の経営課題から逆算して決めることになります。事業ポートフォリオをどう組み立てるかという、経営戦略そのものの話になります。

未経験の業種に入るときに確認しておくこと

異業種への参入では、自社にその分野の判断基準がないことが難しさになります。売上や利益の数字は読めても、その業界で何が普通で何が異常なのかを見分けにくいためです。

買収を検討する段階で確かめておきたい点として、次のようなものが挙げられます。

  • その業界の収益構造:利益がどの工程から生まれているのか
  • 必要な許認可と資格:引き継げるのか、取り直しになるのか
  • 業界特有の商習慣:支払いサイト、繁忙期、値決めの慣行
  • 人材の確保しやすさ:資格者や経験者を採用できる分野か

これらは、買収後に自社で事業を回していけるかどうかを左右します。判断に迷う部分は、その業界の実務に詳しい専門家に意見を求めるという方法もあります。

経営者やキーマンの引き継ぎを設計する

規模の小さい会社ほど、経営者本人が営業や技術の中心を担っていることがあります。その状態で経営者が抜けると、事業が回らなくなる可能性があります。

これを避けるため、売り手の経営者に一定期間そのまま残ってもらい、引き継ぎを進める形をとることがあります。引き継ぎ期間は案件によって異なり、数か月から1年程度の期間を設けるケースもあります。契約の中で役割と期間を取り決めます。

同じように、特定の技術者や営業担当者が事業の要になっている場合には、その人に残ってもらうための条件を交渉の段階で話し合っておくと、引き継ぎ後の混乱を抑えやすくなります。

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同業種・関連事業を買って事業を拡大する場合

すでに手がけている事業と同じ分野、あるいは関連する分野の会社を買う場合は、異業種参入とは狙いが変わります。新しい柱を立てるというより、いまの事業を伸ばすための手段として使う形です。

対象エリアを広げる

同じ業種で別の地域に拠点を持つ会社を買収すれば、その地域の顧客と拠点をまとめて引き継ぐことができます。自社で新しい拠点を出す場合と比べ、その土地での認知や取引関係をゼロから築く必要がありません。

店舗型のビジネスや、地域ごとに取引先が固定されやすい業種では、この進め方が選ばれることがあります。ただし、地域が違えば商習慣や競合の顔ぶれも変わるため、自社のやり方をそのまま持ち込めるとは限らない点には注意が必要です。

仕入れや販売の工程を取り込む

自社の事業の前後にあたる工程を担う会社を買収する形もあります。製造業が原材料の仕入先を買う、卸売業が小売の店舗を持つ、といったケースです。

工程を自社に取り込むことで、外部への支払いが社内の取引に変わり、納期や品質のコントロールもしやすくなります。安定した仕入れ先を確保することが、事業の継続そのものを支える業種では、この狙いが特に大きくなります。

シナジーを見込むときの注意点

同業や関連分野の買収では、両社を組み合わせることで単独のときより大きな成果が生まれることを期待します。これをシナジー効果と呼びます。仕入れをまとめて単価を下げる、互いの顧客に相手の商品を提案する、重複する管理業務を集約するといった形が挙げられます。

シナジーを見込んだ金額を買収価格に上乗せしてしまうことには注意が必要です。期待した効果が出なければ、その分だけ高く買ったことになります。シナジーは買った瞬間に発生するものではなく、買収後の取り組みによって実現していくものだと捉えておくほうが安全です。

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M&Aで新規事業を始めるデメリット・失敗しやすい点

時間を短縮できる一方で、M&Aには自力で立ち上げる場合には生じない難しさがあります。検討を進める前に、どこでつまずきやすいのかを把握しておくことが大切です。

帳簿に表れていない負債を引き継ぐことがある

会社ごと引き継ぐ株式譲渡では、決算書に記載されていない負債まで一緒に引き継ぐことがあります。未払いの残業代、退職金の積み立て不足、他社の借入に対する保証、係争中のトラブルなどがこれにあたり、まとめて簿外債務と呼ばれます。

デューデリジェンスはこれを見つけるための工程ですが、すべてを洗い出せるとは限りません。そのため、契約の中で売り手に事実関係を表明してもらい、後から異なる事実が判明した場合の負担の分け方を定めておく方法がとられます。

買収価格が割高になることがある

買収価格は、決算書の数字だけで機械的に決まるものではありません。売り手にも希望額があり、他に買い手候補がいれば競争にもなります。将来への期待を織り込むほど、金額は上がっていきます。

価格が高くなりすぎると、投資を回収するまでの期間が延びます。新規事業として始めた意味が薄れてしまうため、自社としてここまでなら出せるという上限を、交渉に入る前に決めておくことが歯止めになります。

引き継ぎ後の統合でつまずく

契約を結んで代金を支払えば終わり、ということはありません。買収後に、自社と買った事業を実際に噛み合わせていく作業が待っています。この工程をPMI(Post Merger Integration)と呼びます。

給与や評価の仕組み、会計や勤怠のルール、日々の報告の流れなど、会社が違えばやり方も異なります。これらをどう揃えるかを決めないまま日が過ぎると、現場が混乱し、従業員の離職につながることもあります。詳しくは「PMIとは?M&A統合の100日プラン・テンプレート・チェックリストを解説」の記事をご覧ください。

期待した成果が出ないこともある

買収前に描いた計画どおりに事業が伸びるとは限りません。主要な取引先が離れる、キーマンが退職する、市場環境が変わるといった要因で、想定した利益に届かないことがあります。

これは新規事業である以上、ゼロから立ち上げる場合にも共通するリスクです。ただしM&Aの場合は、先に買収代金という支出が発生している点が異なります。

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株式譲渡と事業譲渡、新規事業への参入ならどちらを選ぶか

中小企業のM&Aで多く使われる手法が、株式譲渡と事業譲渡です。どちらを選ぶかによって、引き継げるものも手続きも変わります。新規事業という目的から見た場合の選び方を整理します。

株式譲渡は「会社ごと」引き継ぐ手法

株式譲渡は、売り手の株主が持つ株式を買い手が取得し、会社の経営権を移す手法です。会社という器はそのまま残り、その持ち主が変わります。

【株式譲渡のメリット】
会社が当事者になっている契約や許認可は、原則としてそのまま継続します(許認可によっては変更の届出が必要です)。従業員の雇用契約も会社との間で結ばれているため、個別に結び直す必要がありません。手続きが比較的シンプルで、事業を止めずに引き継ぎやすい点も特徴です。

【株式譲渡の注意点】
会社をまるごと引き継ぐため、不要な資産や、把握していなかった負債まで一緒に付いてきます。簿外債務のリスクを最も受けやすいのがこの手法です。

事業譲渡は「必要な部分だけ」引き継ぐ手法

事業譲渡は、会社が営む事業の全部または一部を、資産や契約の単位で買い手に売却する手法です。会社そのものは売り手のもとに残ります。

【事業譲渡のメリット】
引き継ぐ対象を選べるため、必要な設備や取引先だけを取得し、不要な資産や負債は対象から外すことができます。買い手が引き受けると決めたもの以外は原則として承継しないため、簿外債務を抱え込むリスクを抑えられます。

【事業譲渡の注意点】
引き継ぐ資産や契約をひとつひとつ移す手続きが必要になります。取引先との契約は個別に結び直すか、相手方の承諾を得ることになります。従業員の労働契約も自動的には移らないため、承継する従業員本人の承諾を得たうえで、買い手側へ労働契約を移す手続きが必要です。許認可も引き継げないものが多く、買い手が改めて取得する必要があります。

新規事業の目的から見た選び方の目安

新規事業として参入する場合、判断の分かれ目になるのは「その事業を動かすために、会社が持っているものがどれだけ必要か」です。許認可や長年の取引契約が事業の土台になっているなら株式譲渡、特定の店舗や設備だけを使いたいなら事業譲渡、という整理ができます。

比較項目 株式譲渡 事業譲渡
引き継ぐ範囲 会社まるごと 選んだ資産・契約のみ
許認可 原則そのまま継続(許認可により届出が必要) 取り直しになるものが多い
従業員 雇用契約はそのまま 本人の承諾を得て個別に承継手続き
簿外債務 引き継ぐ可能性がある 対象外にしやすい
手続きの負担 比較的軽い 移転手続きが個別に必要

この表は一般的な整理の一例です。許認可の扱いは業種ごとの法令によって異なり、契約の承継も個別の契約内容に左右されます。実際の案件では、対象の会社と事業に即して個別に確認することになります。

株式譲渡とは?メリットデメリットから手続きのポイントまで紹介
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株式譲渡とは?メリットデメリットから手続きのポイントまで紹介

株式譲渡は中小企業のM&Aで多く用いられる手法です。手続き後は会社の経営権が買い手側に移りますが、会社自体は存続します。買い手と売り手にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?手続きの流れや譲渡所得税の計算方法も解説します。

事業譲渡とは何か?売り手側のメリット・デメリットや注意点を紹介
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事業譲渡とは何か?売り手側のメリット・デメリットや注意点を紹介

会社の事業を売却するときに利用する『事業譲渡』とは、何なのでしょうか。行う目的や意味を解説します。会社の譲渡と何が異なるのか、事業譲渡特有のメリット・デメリットも知っておきましょう。事業譲渡の流れや、実際の事例も紹介します。

M&Aで新規事業を始めるまでの流れ

相手を探し始めてから事業を引き継ぐまでには、いくつかの段階があります。選ぶ手法によって手続きが変わる部分もあるため、株式譲渡と事業譲渡に分けて押さえておきたい点も併せて説明します。

準備と相手探し

最初にやることは、何のために買うのかを決めることです。どの分野で、どのくらいの規模の事業を、いくらまでなら出せるのか。この条件が定まっていないと、案件を見ても判断ができません。

条件が固まったら、相手を探す段階に入ります。M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーに依頼する方法のほか、マッチングプラットフォームで自ら案件を探す方法があります。中小規模の案件では、後者を使って買い手が直接探すケースも増えています。

交渉から基本合意まで

関心を持った案件があれば、秘密保持契約を結んだうえで詳しい情報の開示を受けます。売り手の経営者と面談し、事業の実態や譲渡の理由を確認したうえで、条件面のすり合わせに進みます。

おおよその条件がまとまった段階で、基本合意書を取り交わします。基本合意書で定めるのは、想定している価格、今後のスケジュール、独占的に交渉できる期間などです。価格は後の調査結果によって変わり得るものとして扱われます。

デューデリジェンスから最終契約・クロージング

基本合意のあと、買い手が対象の会社や事業を調べるデューデリジェンスに入ります。財務や税務、法務、事業の内容などを確認し、これまでに聞いていた内容と実態が合っているかを検証します。ここで見つかった点は、価格や契約条件の交渉材料になります。

調査を踏まえて条件が固まったら、最終契約を結びます。ここから先の手続きは、選んだ手法によって異なります。

  • 株式譲渡の場合:株式譲渡契約を締結し、代金の支払いと株式の引き渡しを行います。譲渡制限のある会社では、株主総会や取締役会での承認手続きが必要です。あわせて株主名簿の書き換えを行い、役員の変更登記など会社側の手続きを進めます
  • 事業譲渡の場合:事業譲渡契約を締結し、対象となる資産や契約を個別に移していきます。不動産があれば登記の移転、取引先の契約は個別の承諾取得や結び直し、従業員については本人の承諾を得て労働契約の承継手続き、許認可は買い手側での取得が必要です。売り手側では株主総会の特別決議が求められる場合があります

手続きが完了し、事業を引き継ぐ日をクロージングと呼びます。事業譲渡では移転手続きに時間がかかることが多く、最終契約からクロージングまでの期間も株式譲渡より長くなる傾向があります。全体の流れは「M&Aの流れを11ステップで徹底解説!準備からPMIまで全手順と成功のポイント」の記事で詳しく確認できます。

引き継ぎ後の統合を進める

クロージングを終えたら、買った事業を自社と噛み合わせていく段階に入ります。従業員への説明、取引先へのあいさつ、業務ルールのすり合わせなどを、優先順位をつけて進めていきます。

なお、交渉の相手である売り手にも、後継者がいない、本業に集中したいといった事情があります。相手が何を大事にしているかを理解しておくと、条件の詰め方や引き継ぎの設計がしやすくなります。

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M&Aの成功へ向けて、各ステップについての注意点や必要期間の目安までを網羅的に解説します。まずはM&Aの全体像を把握し、成功への第一歩を踏み出しましょう。

M&Aで新規事業を始めることに関するよくある質問

M&Aによる新規事業の立ち上げについて、よく寄せられる疑問にお答えします。

Q. どのくらいの資金があれば新規事業をM&Aで始められますか?

A. 案件の規模によって幅があり、一律の目安はありません。
マッチングプラットフォーム上には、数百万円規模の小さな案件から数億円規模のものまで並んでいます。まずは実際の案件情報を見て、自社が出せる金額の範囲でどのような事業があるのかを確認するところから始めるのが現実的です。買収代金のほかに、専門家への依頼費用や引き継ぎ後の運転資金も必要になります。

Q. 未経験の業種でも買収できますか?

A. できます。ただし、事業を回せる体制を用意できるかが前提になります。
売り手の経営者に一定期間残ってもらう、その分野の経験者を引き継ぐ、といった形で運営を支える人を確保できるかどうかが判断の分かれ目です。資格者がいなければ営業できない業種もあるため、許認可と資格の要件は事前に確認しておく必要があります。

Q. 株式譲渡と事業譲渡、新規事業ならどちらを選べばよいですか?

A. その事業を動かすために、会社が持っているものがどれだけ必要かで判断します。
許認可や長期の取引契約が事業の土台になっている場合は、それらを継続できる株式譲渡が向いています。特定の店舗や設備だけを使いたい場合や、承継する負債を限定したい場合は、事業譲渡が選択肢になります。

Q. 買収した事業の従業員は、そのまま働いてくれますか?

A. 契約上はそのまま継続しますが、実際に残るかどうかは別の問題です。
株式譲渡であれば雇用契約は会社との間で継続します。ただし、経営者が変わることへの不安から退職を考える人も出てきます。買収の目的や今後の方針を早い段階で丁寧に説明し、待遇を急に変えないことが、引き止めにつながります。

Q. 個人でも新規事業としてM&Aを使えますか?

A. 使えます。小規模な案件を個人が買うケースは増えています。
会社員が副業や独立の手段として小さな事業を買う例もあります。個人での進め方は「サラリーマンが会社を買うには?個人M&Aのやり方・流れ・リスクをプロが徹底解説」の記事で詳しく扱っています。

Q. 買収してから軌道に乗るまで、どのくらいかかりますか?

A. すでに利益が出ている事業であれば、引き継いだ時点から売上が立ちます。
一方で、自社の方針を反映させ、想定していた成果が出るまでには時間がかかります。従業員や取引先との関係づくり、業務ルールの調整といった統合作業が先に必要になるためです。買った翌日から思いどおりに動かせるものではないと捉えておくほうが、計画を立てやすくなります。

まとめ|M&Aは新規事業の「時間」を買う選択肢

M&Aで新規事業を始める最大の意味は、事業が立ち上がるまでの時間を短縮できることにあります。顧客、許認可、設備といった、自社で用意すれば時間のかかる経営資源を、動いている状態のまま引き継げます。人材については、雇用契約が続いても本人が残るとは限らないため、引き継ぎの設計が必要です。実績のある事業の数字を見て参入を判断できる点も、ゼロからの立ち上げにはない条件です。

一方で、簿外債務を引き継ぐ可能性、価格が割高になるリスク、引き継ぎ後の統合の難しさといった、買収ならではの課題もあります。買ってから事業が思いどおりに動くまでには、相応の手間と時間がかかります。

異業種に新しい柱を立てたいのか、いまの事業をエリアや工程の面で広げたいのか。目的がはっきりすれば、探すべき案件も、選ぶべき手法も定まってきます。判断の軸として、次の3点を押さえておくと検討を進めやすくなります。

  • その事業のどこから利益が生まれているのか
  • 許認可や契約を引き継ぐ必要があるか(手法の選択に直結します)
  • 引き継いだあと、誰がその事業を回すのか

まずはどのような事業が売りに出ているのかを知ることが、検討の出発点になります。TRANBIには全国の中小企業や個人事業の譲渡案件が掲載されており、業種や地域、金額の条件から探すことができます。新規事業の選択肢を広げる材料として、実際の案件をご覧になってみてください。

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記事監修: 株式会社トランビ 代表取締役CEO 高橋 聡
【プロフィール】
アスクホールディングス株式会社代表取締役社長、中小企業庁中小M&Aガイドライン作成委員。アクセンチュアを経てアスクホールディングス株式会社を先代から事業承継。中小企業におけるM&A活性化の必要性を痛感しトランビを創業。
著書: 「起業するより会社は買いなさい」サラリーマン・中小企業のためのミニM&Aのススメ
「会社は、廃業せずに売りなさい」後継者不在の問題は、ネットで解決!