2024-04-16

家事代行事業を4500万円でM&A!買い手として譲れない『3つの条件』とは

買い手(法人):株式会社D

<中小企業の新規事業を目的としたM&A・買収事例>

 

後継者不在を理由に事業売却に踏み切った、15年間の実績を持つ家事代行事業。購入したのは、不動産事業を手掛けるD社でした。

これまでも、複数のM&A経験があったD社。「黒字である」「オペレーションがすでに確立している」「サービス業である」といった購入の条件に当てはまったことや、代表取締役のSさんがもともと家事代行事業に興味を持っていたことからすぐに手を挙げ、コンペの末に4500万円でM&Aが成立しました。

現在は、「引き継いだ従業員とも密にコミュニケーションを取りながら、10倍の事業拡大を目指してさまざまな改善に取り組んでいる最中」というSさんに、M&Aについての考えや経営者としての事業への向き合い方も含めて、今回のM&A経験を伺いました。
 

【焼肉屋や人材派遣会社など、過去にも多様なM&Aを実施】

まずは

- まずは、会社の事業内容とSさんのキャリアについて教えてください。
会社は、不動産賃貸業をメインにしています。東京と神奈川で5棟ほどを所有していて、全国で200室以上の不動産管理を行っています。

ただ、私の本業は産婦人科医で、クリニックも開業しており、日々出産に立ち会ったり、手術も担当しています。

開業したクリニックは、ある電鉄会社から「この街は平均年齢が低く、これから出産を控えている人も多い。『快適におしゃれに産みたい』というニーズを満たせるクリニックを作ってほしい」とリクエストを受けてのもの。

駅近という立地で出産ができる点でも、多くの方に支持されています。

こうした相談が電鉄会社から私の元に来たのも、勤務医の時代から不動産賃貸業を手掛けていて、経営の手腕が信頼できると思ってくださったからです。

総事業費が10億円以上掛かっていますし、「一人の医者」であるだけでは、なかなか銀行も融資をしてくれませんから。

もともと個人事業でスタートした不動産事業を2018年に法人化して、信頼を獲得していたことも大きかったと思います。

- M&Aは今回が初めてですか。
いえ。昨年1件成立していて、先月も事業譲渡で1件購入しました。諸般の理由で成約しなかったものまで含めると、M&Aは何度も検討しています。

というのも、自分自身が会社と医療法人を設立した経験から、事業や会社を起こすことがどれだけ大変かを知っているので、立ち上げの苦労や手間を省くためにもM&Aは有効であると考えているからです。ちなみに、焼肉屋を買収した経験もあります。

- 焼肉屋はどんな経緯で買収したのですか。
もともと、一人の客として毎月のように通っていた焼肉屋で、通う中でお店の人とも知り合いになったんです。

5年ほど前、いつものように足を運んだときに、店に閉店を知らせる貼り紙が貼られていたんです。聞いたところ、「後継者もいないし、辞める」と。

ただ、そこは昭和37年から続いているお店だし、常連の私としても無くしたくなかったので、「僕が、従業員も取引先も全部責任を持って引き継ぎます」と宣言して、300万円で買いました。今は店舗を拡大移転して、営業を続けています。

購入した当時も赤字でしたし、今もほとんど儲かっていないので、私も焼肉屋の事業からは1円も給料が出ていません

ただ、儲けるために買ったわけではないですし、クリニックや不動産といった柱があるからこそ、趣味のような感覚で続けているという感じです。もちろん、引き継ぐにあたって焼肉屋経営のことはものすごく勉強しました。

- 他にはどんな事業を買収したのですか。
昨年購入したのは、大企業の工場に外国人労働者を派遣する事業を手掛けている、茨城県にある人材派遣会社です。

これは、今回のTRANBIの案件の交渉も担っていただいた、親交のあるM&Aアドバイザーの方に紹介していただいたものです。私はもともとご縁を大事にしていることもあって、「これも何かの縁だ」と思い、買うことを決めました。

売り手であったオーナーご夫婦は、現在も会社に残ってくれています。

私が経営のトップになり、社労士や税理士を一本化して業務効率化を図ったところ、これまで事務作業に割いていた時間を営業活動に費やせるようになるといった良い変化も生まれています。

この2月には妊婦さん向けのアパレル事業も買収しました。業界では3億、4億の売上を誇り、マタニティジャンルでは日本で大きなシェアを占める会社でした。

従業員が3名もいるにも関わらず、ほぼ在庫の金額と同等という譲渡価格で譲っていただきました。

少子化で妊婦自体の数が少なくなり、75万人という小規模のマーケットなので、なかなか会社が売れないという状況でしたが、私は産婦人科医院を運営しているので、組み合わせがピッタリだったという点が大きかったですね。



(※イメージです)

【家事代行業者のユーザーとして、事業の可能性を感じていた】

- 「ご縁」を大事にされている中でも、M&Aを行う際に重視されていることはありますか。
赤字再生は引き受けないと決めています。おそらく手掛けられるとは思いますが、時間やマンパワーを多く割く必要があるので、私がドクターとしての業務と並行して行うことは現実的ではないなと。

だからこそ、経営状況が黒字で、すでにオペレーションがしっかり出来上がっている案件に限定しています。もちろん、その条件に当てはまるものとなると、高額になることは覚悟の上です。

もう一つの条件は、融資が出ることです。たとえば茨城県の人材派遣会社の譲渡価格は1億円を超えていますが、こうした大型案件のM&Aにおいて、融資は欠かせません。銀行から融資をしていただける案件であるか、というところも重要になります。

業種は、サービス業に限定しています。私個人としては製造業にも興味があるのですが、信頼しているM&Aアドバイザーからは「やめておいた方がいい」と止められていて。

というのも、製造業は熟練の職人さん頼みの部分も多いからこそ、その方が抜けるとなったときに替えがきかなくなるケースもあるみたいなんです。

一方、サービス業であれば、ある程度マニュアル化や研修の枠組みの整備さえ行えば、業務の標準化を実現できるからです。

- 今回の案件には、どんなきっかけで目を留めましたか。
譲渡希望価格が8000万円という、TRANBIに掲載されている中では大型の案件でしたが、15年間事業を続けてきたという経験値や、売上が約6000万円というところにも安心感を持ちました。

もともと家事代行会社を経営してみたいという思いがあったので、ぴったりだなと。すぐにM&Aアドバイザーに連絡を入れて、交渉を託しました。

- なぜ、家事代行事業に興味を持っていたのですか。
私自身、現在2社の家事代行業者を利用しているユーザーなのですが、サービスを利用する中で不満もあって。

実際にうちに来て家事をしてくださるスタッフさんは優秀ですが、本部の担当者は問い合わせに応じなかったり、キャンセル料が発生するギリギリのタイミングで代打のスタッフさんの案内を送ってきたりと、いちユーザーとして「それはどうかな…」と思うことがあるんです。

こうした経験を経て、自分が活用している2社の良いところを集めたり、「こうなればもっといいのに」というアイデアを取り入れれば、いい会社が作れそうだと感じました。家事代行事業は、利益率も高いですから。



(※イメージです)

【先方の希望金額8000万円に対して、4500万円を提示。信頼性でコンペを勝ち抜く】

- 改めて、今回M&Aを行った、家事代行事業の案件の概要を教えてください。
東京と神奈川および関西圏で、15年以上家事代行事業を続けている案件です。スポットの依頼には対応せず、継続契約のお客様のみと契約しています。

サービスの質にこだわっており、解約率も非常に低く、お客様の平均継続利用年数は4~5年です。

メインターゲットは、富裕層やダブルインカムのご夫婦と子育て世代で、集客はインターネットや既存顧客からの紹介の他に、自治体や業務提携先からの紹介もあります。

スタッフ1人で対応する場合、1時間当たりのサービス単価は3000円~4000円で、現場で働くスタッフの方はすべて引き継ぎ可能という条件でした。

- 交渉はどのように進みましたか。
ライバルもいて、4社ほどのコンペでした。選ばれた理由の一つは、M&Aアドバイザーとタッグを組んで交渉を進められたことかなと。

売り手様とのトップ面談にも2人で伺ったのですが、M&Aアドバイザーが僕の経営者や医師としての実績や資金力を説明してくださって。

私からは「契約書の作成やM&Aの進め方についての、プロ中のプロです」とM&Aアドバイザーのことをご紹介したことで、売り手様には安心していただき、信頼を獲得できたのだと思います。

また、契約が成立した後、引き継ぎのためにお会いする中では、「御社を選んだ一番の理由は、あなたのお人柄です」とおっしゃってくださいました。

その言葉の根源には、不動産やクリニックという商売で培ってきた交渉力や人としての信頼感があるのかなと。

実は、入札額はうちがトップではなかったようなんです。ただ、「一緒に働いてきた、大事な社員を引き継ぐ」と考えると、信頼できる私に託していただいたようで。M&Aは価格勝負ではないと、改めて実感しました。

- 譲渡価格はどのように決定しましたか。
先方の希望金額は8000万円でしたが、最終的には4500万円で譲渡していただきました。

もともと、「財務諸表等から判断しても、5000万円以上を出さなければならないなら手を引いた方がいいと思う」というブレーキが、M&Aアドバイザーから掛かっていました。

デューデリジェンスを行う前から、修正EBITDAの3~5倍程度の譲渡金額を相場にしていたため、そうした条件から加味しても4500万円が妥当だと考えました。

【事業を拡大したいなら、一時的な赤字覚悟で思い切った資金投下が必要】

- M&Aを通じて、難しかったことはどんなことですか。
M&Aアドバイザーのおかげもあって、M&Aのプロセスで苦労したことは特にありませんが、M&Aにあたっての融資を受けることは難しいと感じました。

銀行として、無担保のものにお金を出すことが難しいのは当然ですし、「もし来月スタッフが全員辞めたらどうなるの?」という風に思われるのだと思います。

私ががっつりオペレーションに入るわけではなく、実働はスタッフに任せて、経営指導だけ行うのだから、そう思われても仕方ないですよね。

その他に、融資エリアの問題もありますし、前回のM&Aから期間が空いてなかったこともあって、渋られた部分もありました。

結果的に、取り引きのある銀行の内、融資をしてくれる可能性がありそうな2~3行に依頼して、そのうちの1行から4000万円の融資を受けられました。

ただ、それも当社の不動産資産やクリニックの経営実績があったからこそ、先方の役員の方がプッシュしてくれたおかげでした。こうした後ろ盾が無ければ、融資を受けることは難しかったと思います。

- 事業とともに従業員の方も引き継ぐということで、従業員の方に戸惑いはありませんでしたか。
契約を締結した後に、本部の従業員の方のもとに伺って、挨拶をさせていただきました。

前社長である売り手様が残ってくれないことに、従業員の方は不安もあったようですが、その場で売り手様が「4社のコンペだったけれど、D社ならこの事業を大切にしてくれると思ったし、事業譲渡をすることで会社がさらに成長すると思ったから、D社に託そうと決めた」とはっきり説明をしてくださって。社員さんも納得してくれました。

- 事業を引き継いで、どのような改善を行ってきましたか。
事業を拡大するためには、一時的に赤字になったとしても資金を投下することが必要だと考えて、あらゆる投資をしています。

たとえば備品や事務用機械を買い揃えたり、情報管理体制を強固にしたり、採用を強化したりといったことです。

また、スタッフとの親睦を深める機会も積極的に設けています。家事代行事業スタッフは自宅からそのまま派遣先のお家に出勤して、業務が完了したら帰宅をするという流れなので、本部のメンバーや派遣スタッフ仲間に会う機会がありません。

そこで、昨年の年末には、私が経営している焼肉屋に本部の従業員と参加希望のスタッフを招待して、忘年会を開きました。

スタッフは、「本部の人や経営者の顔が見えてうれしい」「家事代行の仕事をしている中では、なかなか人と話す機会が無いので、同じ仕事に就いている同年代の人たちと話せてよかった」と喜んでいました。

本部の従業員とは新年会も開催しましたし、毎週ミーティングも実施していて。コミュニケーションを密に取ることで、一致団結して頑張ろうという機運が高まっています。

家事代行というジャンル全体に共通するのかもしれませんが、基本的には需要過多で、常にスタッフが足りないという悩みを抱えています。

スタッフ採用のためには「ここなら安心して働けそう」と思っていただけるような信頼性も重要なので、150万円ほどを掛けてHPもリニューアル中です。また、近々名古屋支店もオープンする予定です。

今の売り上げや利益を維持するだけなら、改善を行う必要はありません。ただ、私は今よりも10倍の事業成長を果たすことを目標としているからこそ、今はしっかりと将来のための投資をしていきたいと考えて行動に移しています。



(※イメージです)

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■今回D社が買収した案件はこちら

「家事代行事業15年の実績」

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