実は買い手は待っている。売り手はもっとオファーを送るべき、地域×業種ニーズで見る成約チャンス(2025年12月データ)
実は買い手は待っています。TRANBIの買いニーズデータから、業種・地域ごとに広がる成約チャンスを分析。売り手がオファーを送ることで交渉が増える理由や、買い手がニーズ登録で得られる具体的なメリットを、実データをもとにわかりやすく解説します。
「この事業、本当に買い手がいるのだろうか」
M&Aや事業売却を検討する売り手の多くが、最初に抱く不安です。
特に、都市部以外のエリアやニッチな業種、個人経営に近い事業であればあるほど、「うちみたいな会社に興味を持つ人なんているはずがない」と感じてしまうのは、決して不自然なことではありません。
しかし、TRANBIに蓄積された買い手の“買いニーズ”データを見ると、この認識は大きく変わります。
実は今、「買いたい」と考えている個人・法人の買い手は、想像以上に具体的で、想像以上に多いという実態が、数字としてはっきり表れているのです。
本コラムでは、
- 買い手がどんな業種を求めているのか
- どの地域に関心が集まっているのか
- どの価格帯・規模感で検討されているのか
- そして、なぜ売り手が“もっとオファーを送るべき”なのか
を、買いニーズのデータをもとに読み解いていきます。
買いニーズとは何か?──「買いたい」が可視化された情報
TRANBIの「買いニーズ」とは、買い手があらかじめ、希望する業種や地域、売上・利益、譲渡希望価格の上限・下限などを登録する機能です。
つまりこれは、「いつか買えたらいいな」という漠然とした希望ではなく、「条件が合えば具体的に検討したい」という意思表示です。
売り手側は、この買いニーズを閲覧し、「自分の案件と条件が近い」と感じた買い手に対して、自らオファーを送信することができます。
ここが重要なポイントです。
M&Aの交渉は買い手の申し込みにより開始されますが、「待っていれば買い手が現れる」ものではなく、売り手側からもアクションを起こすことで、より活発な交渉が生まれる市場でもあるのです。
業種別に見る買いニーズ──「想像以上に幅広い需要」
TRANBIに登録されている買いニーズを業種別に見ると、まず浮かび上がるのが、いわゆる“王道”の業種に対する強い需要です。
卸売・小売、生活関連サービス、製造業、情報通信といった業種は、買いニーズ全体の約5割以上を占めており、多くの買い手がこれらの分野で事業承継やM&Aを検討していることが分かります。
一方で注目したいのは、王道業種だけでなく、専門性や許認可が求められる業種にも、一定のニーズが存在している点です。
不動産、ホテル・旅館、病院・クリニック、金融・保険といった分野は、資格や免許、業法対応が必要になることから、参入ハードルが高いと見られがちです。
しかし実際には、こうした業種も全体の約2割弱を占めており、明確に希望条件として登録している買い手が継続的に存在しています。
つまり以下のような構造が見えてきます。
- 王道業種は「裾野が広く、買い手層が厚い」
- 許認可業種は「数は多くないが、狙っている買い手が明確」
「この業種は難しそうだから売れない」と判断するのではなく、どの業種にもそれを探している買い手が一定数いるという前提で動くことが、成約チャンスを広げる第一歩と言えるでしょう。
【買いニーズに登録されている買収希望業種分布】
地域別に見る買いニーズ──地方にも確実に“買い手はいる”
買いニーズを地域別に見ると、関東圏に希望が集中しているのは事実です。
実際、関東・甲信越エリアは全体の約3割強を占めており、依然として最大のボリュームゾーンとなっています。
しかし注目すべきは、それ以外の地域です。
近畿・中部・九州・中国四国・東北といったエリアを合計すると、全体の約6割近くにのぼり、「都市部以外のエリアには買い手がいない」というイメージが、必ずしも実態と一致していないことが分かります。 特に近年は、以下のような理由で地域を限定して案件を探す買い手も増えています。
- 地元での事業承継を希望する買い手
- Iターン・Uターンを視野に入れた個人
- ローカルエリア展開を狙う法人
つまり、都市部以外のエリアの案件であっても、「買い手がいない」のではなく、「まだ出会えていない」だけのケースが多いということです。
地域を理由に可能性を狭めてしまうのではなく、積極的にオファーを送ることで、思いがけない交渉機会が生まれる可能性は十分にあると言えるでしょう。
【買いニーズに登録されている買収希望エリア分布】
価格・規模感のリアル──“小さすぎる”は誤解
売上・利益・譲渡希望価格についても、買いニーズのデータから興味深い傾向が見えてきます。
平均値だけを見ると、かなり幅広いレンジが設定されているように感じますが、中央値を見ると、実態はもっと現実的です。
- 譲渡希望価格は「1,000万円前後」を上限・下限に設定しているケースが多い
- 売上・利益についても、ゼロから数千万円規模まで幅広く検討されている
つまり、「ある程度小さな規模でも、十分に検討対象になっている」ということです。
「うちは大企業じゃないから無理」
「財務が完璧じゃないから売れない」
そう感じている売り手ほど、実は買いニーズとの“すれ違い”が起きている可能性があります。
売り手に伝えたいこと──「待つだけのM&A」から「動くM&A」へ
通常、M&Aの交渉は案件を見た買い手からの申し込みにより始まります。
申し込みが少ないと感じる場合、「買い手がいない」のではなく「まだ出会えていない」だけかもしれません。
その出会いを生むための行動が、買いニーズを見て、オファーを送ることである可能性も十分に考えられます。
- 業種が合っている
- 地域が近い、または希望と一致している
- 規模感に大きな乖離がない
完璧に一致していなくても構いません。
オファーをあくまで「きっかけ」として利用し、交渉の中で条件をすり合わせを行い、双方が納得するケースは、決して珍しくありません。
売り手側からもアクションを起こし、めぐり逢いの確率をあげていくことも手段のひとつとなりえます。
買い手に伝えたいこと──買いニーズは“受け身の武器”
一方、買い手側にとっても、買いニーズの登録は極めて重要です。
M&A交渉は買い手から申込を行い開始されますが、買いニーズは、自分から営業しなくても売り手に見つけてもらえる仕組みです。
- 希望業種を広めに設定する
- 地域条件を柔軟に考える
- 売上・価格レンジを現実的に書く
こうした工夫をするだけで、オファーの受信数は大きく変わります。
自身で検索する以外にも、オファーを受信した案件への交渉の申し込みという手段も生まれます。
「いい案件が出てこない」と感じている買い手ほど、一度買いニーズを見直してみる価値があります。
まとめ
本コラムのタイトルにもある通り、実は買い手は待っている場合も多く見られます。
しかも、業種も地域も規模も想像以上に幅広く、現実的な条件で。
M&Aは、情報が届いた人から動き出します。
買い手側から交渉を申し込む以外にも、売り手が一歩踏み出し、買い手が意思を明確にすることで、「交渉」という次のフェーズがへ進むケースも非常に多く見られます。
「売れないかもしれない」ではなく、「まだ声をかけていないだけかもしれない」。
そんな視点で、買いニーズとオファー送信を、もう一度見直してみてはいかがでしょうか。