M&AのFA(ファイナンシャル・アドバイザー)とは?仲介との違い・費用・選び方を解説
M&AのFA(ファイナンシャル・アドバイザー)とは何かを、M&A仲介との違い10項目の比較表で整理しました。片手取引と両手取引の構造、中小M&Aガイドラインが仲介に課した規律、費用相場と報酬基準額4種類、最低手数料の落とし穴、失敗しない選び方まで解説します。
「M&Aを進めたいけれど、FAと仲介のどちらに頼めばいいのかわからない」「そもそも何が違うのか、説明を聞いてもピンとこない」。相談先を探し始めた経営者の多くが、この入口でつまずきます。
実はこの迷いは、あなたの勉強不足ではありません。中小企業庁は、登録されたFAや仲介業者のサービスをめぐって「仲介とFAの違いや手数料について十分な説明を受けなかった」というトラブルが実際に起きていることを認め、中小企業からの情報提供を受け付ける窓口まで設置しています。違いがわかりにくいのは、業界側の構造的な問題でもあるのです。
この記事では、FAの定義と業務範囲から、M&A仲介との違いを10項目で比較した一覧、国が仲介・FAに何を求めているか、そして「自社はどちらに依頼すべきか」の判断軸まで、順を追って整理します。費用相場と選び方のチェックポイントも扱いますので、最初の無料相談に行く前の準備としてお読みください。
M&AにおけるFA(ファイナンシャル・アドバイザー)とは
FAは、M&Aを検討する企業に対して、戦略の立案から交渉、クロージングまでを一貫して支援する専門家です。まずは定義と業務の範囲、そして実際に誰がFAを務めているのかを確認していきます。
FAとは?「片側の代理人」という立ち位置
FAとは「Financial Adviser(ファイナンシャル・アドバイザー)」の略称で、日本語では財務アドバイザーと訳されます。ただしM&Aの実務における役割は、財務の助言だけにとどまりません。
FAの最大の特徴は、売り手か買い手のどちらか一方とだけ契約し、その依頼者の代理人として動くという点にあります。この「片側だけにつく」という立ち位置が、後述するM&A仲介との決定的な違いを生みます。
依頼者の利益を最大化することがFAの職務であるため、交渉の場では相手方に対して踏み込んだ主張を行います。売り手側のFAであれば譲渡価格の引き上げを、買い手側のFAであれば買収条件の見直しを、それぞれ依頼者の立場から追求していきます。
FAの業務範囲|戦略立案からクロージングまで
FAの業務は、相手を紹介して終わりではありません。案件全体の進行を管理する「主幹事」に近い立場で、次のような役割を担います。
- M&A戦略の立案:何を目的に、どの範囲を、いつまでに譲渡・譲受するのかを整理します
- 企業価値の算定:財務データをもとに、交渉の土台となる価格の水準を出します
- 候補先の選定と打診:条件に合う相手をリスト化し、依頼者の意向に沿って接触します
- スキームの設計:株式譲渡か事業譲渡かなど、税務・法務の影響を踏まえて手法を決めます
- 条件交渉の代理:価格だけでなく、従業員の雇用や役員の処遇まで含めて交渉します
- デューデリジェンス(DD)の実施・実施支援:スケジュールを管理し、法務・税務は外部の専門家に委託します
- 契約とクロージングの実行管理:契約書の内容確認から決済までの段取りを組みます
ここで押さえておきたいのが、バリュエーション(企業価値評価)とDDについては、仲介者だけに制限がかかっているという点です。中小M&Aガイドラインは仲介者に対して、確定的なバリュエーションを実施すべきでないこと、そしてDDを自ら実施せず、DD報告書の内容に係る結論を決定すべきでないことを求めています。どちらも一方の当事者の意向が反映されやすい工程であるため、双方から受任している立場では踏み込めない、という理由です。
FAは一方の代理人であるため、この制限の対象になっていません。依頼者の立場に立った評価や見立てを示し、それを交渉の材料として使うところまで関与できます。ただし譲渡価格を最終的に決めるのは当事者同士の合意であり、法務DD・税務DDについては、FAであっても弁護士・税理士といった外部の専門家に委託するのが通常です。
なお、成約後の統合作業であるPMIまで支援するかどうかは、FAや契約内容によって異なります。ここは契約前に必ず確認しておきたいポイントです。
FAの主な担い手と得意分野
FA業務を担う組織は多様で、得意とする案件規模や分野が大きく異なります。「FAに相談する」といっても、どこに相談するかで受けられる支援の性質は変わります。
| 担い手 | 得意な案件規模 | 強み | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 証券会社・投資銀行 | 大型・上場企業 | 複雑なスキーム設計と海外ネットワーク | 中小規模の案件は受託対象外となることが多い |
| メガバンク・地方銀行 | 中規模 | 融資先ネットワークを活かした相手探し | 対応が営業エリア内に限られやすい |
| M&A専門会社・ブティック | 中小規模 | 特定業界に精通し、小回りが利く | 会社ごとに実力差と得意分野の差が大きい |
| 会計事務所・法律事務所 | 小規模〜中規模 | 財務・税務・法務の専門性が高い | 相手探し(マッチング)の機能は弱い場合がある |
FAというと大型案件を扱う証券会社や投資銀行のイメージが強いかもしれませんが、中小企業向けにFA業務を提供する専門会社も存在します。中小企業のM&Aでは、こうしたM&A専門会社や会計事務所系のFAが現実的な選択肢になります。銀行や証券会社のFA部門についてはM&Aにおける銀行の役割、独立系の専門会社についてはM&Aブティックの記事でそれぞれ詳しく解説しています。
FAとM&A仲介の違い|片手取引と両手取引
M&Aを支援する専門家は、大きく「FA」と「M&A仲介」の2つに分かれます。名前も業務内容も似ていますが、依頼者から見た意味はまったく異なります。ここでは両者の違いを構造から整理します。
立ち位置の違い|「代理人」と「調整役」
FAは依頼者の代理人として、一方の利益のために交渉します。これに対してM&A仲介は、売り手と買い手の間に立ち、双方の条件を調整して合意を目指す役割を担います。
この違いは、交渉が難所に差しかかったときに表れます。譲渡価格や表明保証の範囲で意見が割れたとき、FAは依頼者の主張を通そうとしますが、仲介は双方が折り合える着地点を探そうとします。どちらが正しいということではなく、担っている役割が違うのです。
報酬の出どころの違い
立ち位置の違いは、報酬の出どころの違いから生まれています。
FAは契約した一方からのみ報酬を受け取ります。これを「片手取引」と呼びます。一方、M&A仲介は売り手と買い手の双方から報酬を受け取ることが一般的で、こちらは「両手取引」と呼ばれます。手数料の仕組みそのものはM&Aの仲介手数料の記事で詳しく解説しています。
誰からお金を受け取っているかは、その専門家が誰の利益のために動くかに直結します。ここを理解しておくと、提案を受けたときの受け止め方が変わります。
FAとM&A仲介の違いを10項目で比較
両者の違いを、依頼を検討する側の視点から10の項目で整理しました。
| 比較する項目 | FA(ファイナンシャル・アドバイザー) | M&A仲介 |
|---|---|---|
| 契約する相手 | 売り手か買い手のいずれか一方 | 売り手と買い手の双方 |
| 立ち位置 | 依頼者の代理人として交渉に臨む | 双方の間に立つ調整役 |
| 報酬の出どころ | 契約した一方からのみ受け取る | 双方から受け取る(両手取引) |
| 最優先する利益 | 依頼者の利益 | 双方が合意できる着地点 |
| 構造的な利益相反 | 報酬の出どころが一方なので生じにくい | 双方から報酬を得るため生じ得る。国が規律を設けている |
| 価格・条件の交渉 | 依頼者に有利な条件を強く主張する | 双方の譲歩を引き出して調整する |
| 成約までの期間 | 主張が強いと長期化しやすい | 合意形成を優先するため比較的短くなりやすい |
| 向いている規模 | 大型案件・上場企業・クロスボーダー | 中小企業の事業承継 |
| 費用の発生の仕方 | 着手金やリテイナーフィーが発生しやすい | 成功報酬を中心に設計されることが多い |
| 相手探しの力 | 依頼者の意向に沿って個別に打診する | 保有するマッチングネットワークが強み |
表のとおり、FAと仲介は優劣ではなく設計思想の違いです。「条件を徹底的に追求したいのか」「確実に、円満にまとめたいのか」という自社の優先順位が、そのまま選ぶべき相手を決めます。
なぜ「両手取引」が問題視されるのか
M&A仲介の両手取引は、それ自体が違法なわけではありません。中小企業のM&Aでは、双方の間に立つ調整役がいることでまとまる案件が数多くあります。
問題視されるのは、売り手の利益と買い手の利益が正面から対立する場面で、双方から報酬を得ている立場では一方に寄り切れないという構造です。たとえば譲渡価格は、売り手にとって高いほどよく、買い手にとって安いほどよいという関係にあります。この対立を調整する立場の人が、両方から報酬を受け取っているわけです。
さらに、成約しなければ成功報酬が発生しないという設計上、成約そのものを優先する動機が働く可能性もあります。仲介を利用する場合は、この構造を理解したうえで、提案の背景を冷静に見る姿勢が必要になります。
ただし、これは仲介を避けるべきという意味ではありません。国内のM&A、とりわけ中小企業の事業承継では、件数のうえでは仲介が担う案件のほうが多くを占めています。双方の事情を同時に把握できる立場だからこそ、お互いが受け入れられる着地点を早く見つけられるという強みがあるためです。
売り手と買い手がそれぞれ代理人を立てて主張をぶつけ合えば、条件は詰められても時間と費用はかさみます。譲渡価格だけでなく、従業員の処遇、取引先との関係、引き継ぎの期間といった論点まで含めて、関係者全員が納得できる形にまとめるのが仲介の役割です。両手取引という構造を理解したうえで選ぶのであれば、仲介は中小企業にとって十分に合理的な選択肢になります。
国は仲介・FAに何を求めているか|中小M&Aガイドライン
ここまで見てきた利益相反の問題は、国も課題として認識しています。中小企業庁は中小M&Aガイドラインを策定し、仲介者・FAが守るべき行動指針を示しています。依頼する側にとっては、これが「何を確認すべきか」のチェックリストになります。
「違いがわからない」のは利用者側の問題ではない
中小企業庁は、登録された仲介業者・FAのサービスをめぐって、仲介とFAの違いや手数料について十分な説明を受けなかったというトラブルが発生していることを明らかにしています。そのうえで、中小企業からの情報提供を受け付ける窓口を設置し、ガイドライン違反が認められた場合には登録の取消しも可能とする運用を行っています。
つまり「違いがよくわからない」という状態は、説明されるべきことが説明されていない結果でもあります。相談の場で違いが曖昧なままであれば、それ自体が判断材料になると考えてよいでしょう。
契約前の重要事項説明と手数料の開示
ガイドラインは、仲介契約・FA契約を結ぶ前に、書面を交付して重要事項を説明することを仲介者・FAに求めています。2024年8月に策定された第3版では、提供する業務の内容や質と、その対価である手数料の額について、中小企業側が確認すべき事項が解説され、仲介者・FAに求められる説明が追記されました。あわせて、営業・広告に関する規律の明記と、仲介者において禁止される利益相反事項の具体化も図られています。
手数料についても踏み込んだ指摘があります。仲介者・FAの報酬はレーマン方式によるものが多いものの、計算の土台となる「基準となる価額」には複数の考え方があり、どの考え方を採用するかによって報酬額が大きく変動し得るため、その考え方と金額の目安を事前に確認しておくことが重要だとされています。最低手数料を設定する事業者が多い点にも触れられています。
契約前に確認すべき6つのポイント
ガイドラインの内容を、依頼する側の実務に落とし込むと次のようになります。契約書にサインする前に、この6点が明確になっているかを確認してください。
| 契約前に確認すること | どこで確認できるか | 確認しないと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 仲介かFAか、どちらの立場で支援するのか | 契約前の重要事項説明・契約書の条項 | 中立だと思っていた相手が、実は買い手とも契約していた |
| 手数料の算定基準(報酬基準額の種類) | 契約前の書面説明/登録制度のデータベース | 同じ譲渡価格でも、報酬額が想定より大きく膨らむ |
| 最低手数料の水準 | 登録制度のデータベース | 小規模な案件で、報酬が割高になってしまう |
| 相手方の手数料 | 契約前の書面説明(仲介の場合) | 取引全体でいくら支払われているのかが見えない |
| 専任か非専任か・契約期間・中途解約の条件 | 仲介契約・FA契約の条項 | 進みが悪くても、他社に相談できないまま時間が過ぎる |
| テール条項(契約終了後の成約でも手数料が発生する定め) | 仲介契約・FA契約の条項 | 対象が「紹介された相手」に限定されず、自力で見つけた相手との成約にも手数料が発生する |
| 業務の範囲(どこまで対応してくれるのか) | 契約前の重要事項説明 | DDや契約書の作成が別料金だと後から判明する |
契約期間とテール条項については、ガイドラインが具体的な目安を示しています。専任条項を定める場合の契約期間は最長でも6か月から1年以内、テール期間は最長でも2年から3年以内が目安とされ、依頼者が任意の時点で中途解約できる条項を設けることが望ましいとされています。
テール条項でより重要なのは、期間よりも対象範囲です。ガイドラインは、テール条項の対象をその仲介者・FAが関与・接触し、実際に紹介した相手とのM&Aに限定すべきとしています。ここが限定されていれば、契約終了後に自分で見つけた相手や、別の専門家に依頼して進めた案件は対象外になります。提示された契約書がこの範囲を超えていないかは、必ず確認しておきたいところです。
これらは口約束で済ませず、書面で残すことが大切です。中小企業庁は「仲介契約・FA契約締結時のチェックリスト」と「重要事項説明書サンプル」を公開しています。後者は17の項目で構成されており、そのまま「何を説明してもらうべきか」の一覧として使えます。面談の前にダウンロードして手元に置いておくと、質問しやすくなります。
契約そのものの中身については「M&Aのアドバイザリー契約とは?」の記事で詳しく扱っています。
参考:中小M&Aガイドライン 参考資料6「仲介契約・FA契約締結時のチェックリスト」(PDF)|中小企業庁
参考:中小M&Aガイドライン 参考資料11「M&A仲介契約/FA契約 重要事項説明書サンプル」(PDF)|中小企業庁
M&A支援機関登録制度で自分で調べられること
相談前の下調べに使えるのが、中小企業庁のM&A支援機関登録制度のデータベースです。ここでは登録された仲介業者・FAについて、支援機関の種類(専門業者か金融機関かなど)、M&A支援業務を開始した時期、専従者の人数、所在地、そして手数料の算定基準を確認・検索できます。
特に有用なのが、最低手数料の水準や報酬基準額の種類で検索できる点です。面談の場で聞き出す前に、候補となる会社の費用感を自分で把握しておけます。また、この制度に登録された支援機関を活用することは事業承継・M&A補助金(専門家活用型)の要件にもなっているため、費用負担の軽減という実利もあります。
FAとM&A仲介、どちらに依頼すべきか
ここまでの整理を、実際の意思決定に落とし込みます。結論から言えば、どちらが優れているかではなく自社が何を最優先するかで決まります。まずはそれぞれが向いているケースを見ていきましょう。
FAが向いているケース
FAの強みは、依頼者の利益だけを追求できることです。この特性が活きるのは次のような場面です。
【FAが向いているケース】
- 譲渡額が数億円以上で、価格や条件を1円でも有利にしたい
- 買い手として複数の候補を比較し、条件を厳しく精査したい
- クロスボーダーM&Aのように、法制度や税務が国をまたぐ複雑な案件
- すでに相手候補に心当たりがあり、相手探しよりも交渉と契約の支援がほしい
- 上場企業や、複数の株主・関係者の調整が必要な案件
共通していることは、条件面で譲れない一線があり、そこを代弁してくれる存在が必要な場面だという点です。交渉が長引く可能性はありますが、その分だけ条件を追求できます。
M&A仲介が向いているケース
一方、M&A仲介が力を発揮するのは、相手探しから合意形成までを一気に進めたい場面です。
【M&A仲介が向いているケース】
- 後継者が不在で、事業を引き継いでくれる相手をこれから探す
- 譲渡額が中小規模で、費用を成功報酬中心に抑えたい
- 従業員や取引先への影響を考え、円満にまとめたい
- 交渉に割ける時間や人手が限られており、進行を任せたい
仲介の本領は、双方の調整役として交渉を円滑に進めるところにあります。売り手と買い手のどちらの事情も把握しているため、条件が折り合わない場面でも「ここを譲れば前に進む」という具体的な提案ができます。当事者同士では感情的になりやすい論点も、間に立つ存在がいることで冷静に整理されていきます。
中小企業の事業承継では、そもそも相手が見つかるかどうかが最大の関門です。マッチングのネットワークを持つ仲介が実務上の第一候補になるのは、この理由によります。どの仲介会社を選ぶかについては、大手M&A仲介会社ランキングの記事も参考になります。
状況別の選び分け早見表
自社の状況から逆引きできるよう、代表的なケースを整理しました。
| 自社の状況 | 向いているのは | その理由 |
|---|---|---|
| 譲渡額が数千万円から1億円程度の小規模 | M&A仲介、またはM&Aプラットフォーム | FAは受託の下限に届かないことが多く、受けてもらえても最低手数料で実質の負担率が跳ね上がります |
| 譲渡額が数億円以上で、価格を少しでも高くしたい | FA | 片側の代理人として、価格や条件を強く押し込めます |
| 後継者不在で、円満かつ確実に引き継ぎたい | M&A仲介 | 双方の合意形成を優先するため、成約までの確実性とスピードで有利です |
| 相手が海外企業(クロスボーダー) | FA | 法制度・税務・言語をまたぐ設計力と海外ネットワークが必要になります |
| 買い手側で、複数の候補を比較して買収したい | FA | 買い手の利益に立って、候補ごとの条件を精査できます |
| すでに相手候補に心当たりがある | FA | 相手探しが不要なので、交渉と契約の支援に集中してもらえます |
| 従業員の雇用維持を何より優先したい | どちらでも対応可能 | 立場よりも、その要望を契約条件に落とし込めるかどうかが分かれ目になります |
小規模な案件では、FAに依頼したくても受託の下限に届かない場合があります。ただし前述のとおり中小企業向けにFA業務を提供する専門会社もあるため、規模を理由に最初から候補を外す必要はありません。仲介やプラットフォームと並行して検討しながら、実際に相談して確かめるのが確実です。
売り手と買い手で判断は変わるか
結論としては、売り手と買い手で判断は変わります。
売り手は多くの場合、M&Aが一生に一度の経験です。相手探しと進行管理を含めて任せられる相手が必要になるため、仲介が選ばれやすくなります。一方で買い手は、M&Aを繰り返し行う企業も少なくありません。買収の目的と基準が自社の中で固まっている場合は、その基準に沿って候補を精査してくれるFAのほうが噛み合います。
ただし売り手であっても、譲渡額が大きい場合や、価格以外に譲れない条件(雇用の維持、屋号の存続、取引先との関係など)がある場合は、FAを立てる意味が出てきます。立場だけで機械的に決めず、優先順位を先に言葉にしてから相談先を選ぶ順序が大切です。
FAの費用相場と報酬体系
費用は、依頼先を決める最後の判断材料になります。ここでは内訳と発生タイミング、そして同じ譲渡価格でも総額が大きく変わる仕組みを順に見ていきます。
費用の内訳と発生タイミング
仲介・FAの報酬は、複数の費用項目を組み合わせて設計されています。中小M&Aガイドラインの重要事項説明書でも、着手金・月額報酬・中間金・成功報酬・最低手数料をそれぞれ記載する様式になっています。
| 費用項目 | 支払うタイミング | 目安と注意点 |
|---|---|---|
| 相談料 | 初回相談時 | 無料としている会社が多い。有料の場合は金額と回数を先に確認 |
| 着手金 | 仲介契約・FA契約の締結時 | 数十万円から数百万円程度。成約しなくても返還されないことが通常 |
| 月額報酬(リテイナーフィー) | 契約期間中、毎月 | 案件が長引くほど総額が膨らみます。期間の見通しとあわせて確認します |
| 中間金 | 基本合意書の締結時 | 成功報酬の一部を前払いする形が多く、不成立でも戻らないことがある |
| 成功報酬 | 最終契約の締結後からクロージング後 | レーマン方式で算定される。標準的な料率は5%~1%の5段階 |
| 最低手数料 | 成功報酬に代えて適用 | 500万円から2,500万円程度が一般的で、小規模案件では実質ここが上限 |
ここで押さえておきたいのは、成約しなかった場合に返ってこないお金がどれだけあるかという点です。着手金・月額報酬・中間金は、M&Aが成立しなくても返還されない旨が合意されるケースがあります。契約前に返還の条件を確認しておきましょう。費用項目ごとの詳しい相場はM&A手数料・成功報酬の相場の記事で扱っています。
レーマン方式と料率の考え方
成功報酬の算定には、ほとんどの会社がレーマン方式を採用しています。譲渡価格を階層に区切り、階層ごとに異なる料率をかけて積み上げる方式です。標準的には5%から1%の5段階が使われ、金額が大きくなるほど料率が下がっていきます。
ここで見落としやすいのが、料率が同じでも、料率をかける土台が違えば報酬額は変わるという点です。計算方法そのものについてはレーマン方式の記事で詳しく解説しています。
「報酬基準額」で総額が変わる
料率をかける土台のことを報酬基準額と呼びます。中小M&Aガイドラインの重要事項説明書サンプルでは、報酬基準額の選択肢として次の4つが示されています。
| 報酬基準額の種類 | 計算に含まれるもの | 依頼者への影響 |
|---|---|---|
| 株式価額 | 株式の譲渡対価のみ | 4つの中で基準額が最も小さく、報酬を抑えやすくなる |
| オーナー受取額 | 株式価額+役員借入金 | 役員借入金が多い会社ほど基準額が膨らむ |
| 企業価値 | 株式価額+ネット有利子負債(有利子負債から現預金等を控除) | 借入が現預金を上回る会社では基準額が大きくなる |
| 移動総資産 | 株式価額+有利子負債+その他の負債 | 負債をすべて足すため、4つの中で基準額が最も大きくなりやすい |
同じ譲渡価格でも、株式価額を基準にするか移動総資産を基準にするかで、成功報酬は大きく変わります。借入金や買掛金が多い会社であればなおさらです。中小企業庁も、基準となる価額には複数の考え方があり、どれを採用するかで報酬額が大きく変動し得るため、事前に考え方と金額の目安を確認しておくことが重要だと指摘しています。
相談の場では「レーマン方式です」という説明で止まってしまうことがあります。そこで一歩踏み込んで、「基準額は4つのうちどれですか」と聞けるかどうかが分かれ目になります。
参考:中小M&Aガイドライン 参考資料11「M&A仲介契約/FA契約 重要事項説明書サンプル」(PDF)|中小企業庁
最低手数料が小規模案件では効いてくる
レーマン方式と並んで設定されているのが最低手数料です。取引金額が小さい場合でも一定の報酬を確保するための仕組みで、多くの会社が採用しています。
これが小規模案件では決定的に働きます。たとえば料率5%という数字だけを見ていると、譲渡額1億円であれば500万円という計算になります。しかし最低手数料が2,000万円に設定されていれば、実際に支払う金額は2,000万円です。譲渡額が小さいほど、実質的な負担率は料率表から大きく離れていきます。
したがって小規模なM&Aを考えている場合、確認すべきは料率ではなく最低手数料の絶対額です。ここを最初に聞いておけば、費用の見通しは大きく外れません。
FAは仲介より高いのか
「片側からしか報酬を取らないFAのほうが安いのではないか」と考える方もいますが、依頼者から見た負担はそう単純ではありません。
仲介は双方から報酬を受け取るため、売り手・買い手それぞれが支払う金額は片側分です。一方のFAは、着手金や月額報酬が発生しやすく、案件が長引けばその分だけ積み上がります。成功報酬の料率が同水準でも、成約までの期間が延びればFAのほうが総額が大きくなることもあります。
逆に、FAの交渉によって譲渡価格が上がれば、増えた手数料を差し引いても手元に残る金額が増える可能性もあります。費用は金額の絶対値ではなく、支払った費用に対してどれだけ条件が改善したかで見るのが本質です。なお、専門家に支払う手数料の一部は事業承継・M&A補助金(専門家活用型)の対象になり得ます。
FA・M&A仲介に依頼するときのデメリットと注意点
どちらを選んでも、構造上避けられない弱点があります。事前に知っておけば対処できるものばかりなので、あらかじめ押さえておきましょう。
FAに依頼するデメリット
【FAのデメリット】
- 着手金や月額報酬が発生しやすく、成約しなくても費用が出ていく
- 依頼者の主張を通そうとするため、交渉が長引きやすい
- 条件が折り合わず、交渉自体が決裂する可能性がある
- 小規模な案件は受託してもらえないことがある
- 相手探しのネットワークは仲介より弱い場合がある
特に注意したいのが、3つ目の決裂リスクです。依頼者に有利な条件を追求することは、成約しない可能性を受け入れることと表裏一体です。「時間をかけてもよいから条件を通したい」のか「多少譲っても確実にまとめたい」のか、依頼の前に自分の中で決めておく必要があります。
M&A仲介に依頼するデメリット
【M&A仲介のデメリット】
- 双方の合意を優先するため、条件面で妥協を求められることがある
- 双方から報酬を受け取る構造上、利益相反が生じ得る
- 確定的な企業価値評価やDDの結論を出せないため、別途専門家が必要になる
- 成約を優先する動機が働く可能性がある
3つ目は、前半で見たガイドラインの規律から生じる制約です。仲介に依頼する場合は、企業価値の妥当性やDDの結果について、公認会計士や税理士などに別途意見を求める前提で予算を組むと安全です。セカンドオピニオンを求めることは、ガイドラインでも許容されるべきものとされています。
もっとも、ここに挙げたものは仲介を避けるべき理由ではありません。あらかじめ知って確認すべきことを確認しておけば、多くは事前に防げます。中小企業の事業承継で仲介が広く使われているのは、相手探しから合意形成までを一貫して任せられる価値が、それだけ大きいからです。
中小企業がつまずきやすい2つの落とし穴
ここまでの内容を踏まえて、中小企業のM&Aで実際に起きやすい行き違いを2つ挙げておきます。
1つ目は、規模が小さくて引き受けてもらえないケースです。譲渡額が数千万円規模の場合、FAだけでなく大手の仲介会社でも取り扱いの対象外になることがあります。この場合は、スモールM&Aを専門に扱う会社やM&Aプラットフォームを軸に考えるほうが現実的です。
2つ目は、費用の見積もりが甘くなるケースです。料率だけを見て契約し、最低手数料や報酬基準額の設定に気づかないまま進むと、想定と実際の支払額が大きく食い違います。譲渡額が小さいほどこの差は開きます。
どちらも、最初の相談の段階で「最低手数料はいくらか」「報酬基準額はどれか」「小規模でも受けてもらえるか」の3つを聞いておくことで回避することができます。M&Aで起きやすい失敗の全体像についてはM&Aはなぜ失敗するのかの記事もあわせてご覧ください。
信頼できるFAを選ぶ5つのチェックポイント
依頼先の候補が絞れたら、最後は個々の相手を見極める段階です。会社の看板ではなく、担当者と契約条件を見るのが実務的なコツになります。
1. M&A支援機関に登録されているか
まず確認したいのが、M&A支援機関登録制度への登録の有無です。登録機関は中小M&Aガイドラインの遵守を宣言しており、違反が認められた場合には登録の取消しもあり得ます。公的なデータベース上で手数料の算定基準まで確認できるため、面談前の下調べにも使えます。
あわせて、専門家に支払う費用の一部が事業承継・M&A補助金(専門家活用型)の対象になり得る点も見逃せません。この補助金は登録機関の活用が要件になっているため、登録の有無は費用面にも直接響きます。
2. 自社の規模と業種の実績があるか
M&Aの実務は、規模と業種によって難所が変わります。年商1億円の会社の譲渡と、年商50億円の会社の譲渡では、論点も相手候補もまったく別物です。
そこで聞くべきは「実績は豊富ですか」ではなく、「自社と同じくらいの規模で、同じ業種の案件を直近で何件手がけましたか」という具体的な質問です。答えが曖昧であれば、自社の規模が主戦場ではない可能性があります。
3. 費用の全体像を先に示してくれるか
ここまで見てきたとおり、費用は料率だけでは決まりません。着手金・月額報酬・中間金・成功報酬・最低手数料・報酬基準額、そして成約しなかった場合の扱いまで、依頼者が聞く前に一覧で示してくれるかどうかが信頼性の分かれ目になります。
逆に「まずは企業価値を算定してみましょう」と費用の説明を後回しにする相手は、慎重に見たほうがよいでしょう。
4. 実務を担当するのは誰か
見落とされがちですが重要な点です。最初の面談に来た人と、実際に案件を回す人が違うケースは珍しくありません。
確認しておきたいのは、担当者の氏名と経験、案件を担当する人数、そして途中で担当者が変わる可能性があるかです。M&Aは半年から1年以上かかることもある長い付き合いになります。相談しにくい相手だと、判断に必要な情報が上がってこなくなります。
5. セカンドオピニオンを認めてくれるか
提示された企業価値や契約条件について、別の専門家の意見を聞きたくなる場面は必ず来ます。中小M&Aガイドラインでも、依頼者がセカンドオピニオンを求めることは許容されるべきものとされています。
他の専門家に相談することを嫌がる相手は、それ自体が警戒すべきサインです。特に仲介に依頼する場合は、企業価値やDDの結論について別途専門家の意見を得る前提で進めるほうが安全です。相談先の種類ごとの特徴は、以下の記事でも整理しています。
費用を抑えるならM&Aプラットフォームと専門家の併用
ここまで読んで「うちの規模だと、FAにも大手の仲介にも頼みづらい」と感じた方もいるかもしれません。実際、譲渡額が数千万円規模の案件では、最低手数料が重くのしかかります。そこで現実的な選択肢が、プラットフォームと専門家の使い分けです。
相手探しと専門的な支援を分けて考える
仲介やFAに支払う費用の大きな部分は、実は相手を探して引き合わせる工程に対する対価です。ここをM&Aプラットフォームを用いて自力で行えば、費用構造は大きく変わります。
そのうえで、企業価値の検討や契約書のチェック、DDといった専門性が必要な工程だけを、公認会計士・税理士・弁護士にスポットで依頼する。この組み立てなら、必要な専門性は確保しながら総額を抑えられます。小規模案件の進め方はスモールM&Aの記事でも詳しく解説しています。
TRANBIでできること
TRANBIは、事業を譲りたい方と譲り受けたい方が直接つながることができるM&A・事業承継プラットフォームです。売り手は掲載から成約まで手数料無料で利用でき、案件を掲載して反響を見ながら進められます。
買い手側も、業種・地域・価格帯から候補を絞って探せます。譲渡希望価格が数百万円台の案件も掲載されているため、仲介やFAの最低手数料では成立しない規模のM&Aが現実的に動くのが特徴です。まずはどんな案件が出ているかを見てみるところから始められます。
また、買い手は案件への交渉に月額プランの加入が必要ですが、成約手数料等の追加費用が発生しないため、出費が想定を上回ることが発生しません。
それでも専門家に頼るべき場面
プラットフォームを使う場合でも、次の場面では専門家の力を借りることをおすすめします。
- 譲渡価格の妥当性を判断したいとき(公認会計士・税理士)
- 最終契約書の内容を確認するとき(弁護士)
- 譲渡益の課税や、株式の評価が絡むとき(税理士)
- 簿外債務や許認可の引き継ぎに不安があるとき(弁護士・税理士)
大切なのは、すべてを丸ごと任せるか、まったく使わないかの二択で考えないことです。必要な工程だけを切り出して依頼すれば、費用は抑えつつ安全性を確保できます。契約書まわりで確認すべき点はM&Aのアドバイザリー契約の記事も参考にしてください。
FAに関するよくある質問
最後に、FAについて相談の場でよく聞かれる質問をまとめました。
Q1. 初めての事業承継です。FAと仲介、どちらに相談すべきですか?
A. 初めてのM&Aで相手探しからはじめたい場合であれば、まずはM&A仲介やM&Aプラットフォームが現実的です。FAは相手探しよりも交渉と条件設計に強みがあるため、譲渡額が大きい場合や、価格以外に譲れない条件がある場合に検討する流れが自然です。
Q2. FAになるための資格や、公的な登録制度はありますか?
A. FAを名乗るために必須の資格はありません。ただし中小企業庁のM&A支援機関登録制度があり、登録された事業者はガイドラインの遵守を宣言しています。あわせて中小M&A専門人材(個人)向けのスキルマップも策定されています。資格の有無ではなく、登録の有無と実績で見極めるのが実務的です。
Q3. 依頼したあと、途中で解約できますか?
A. 契約内容によります。中小M&Aガイドラインは、専任条項を定める場合であっても依頼者が任意の時点で中途解約できる条項を設けることが望ましいとしています。契約前に解約の条件と、解約後のテール期間・その対象範囲を必ず確認してください。
Q4. 銀行に相談するのと、専門のFAに相談するのは何が違いますか?
A. 銀行は融資先のネットワークを持っているため、相手探しの間口が広い点が強みです。一方で対応が営業エリア内に限られやすく、案件の規模によって取り扱いが分かれることもあります。詳しくはM&Aにおける銀行の役割の記事で解説しています。
Q5. FAと仲介を同時に使うことはできますか?
A. 専任条項がなければ複数に相談すること自体は可能です。ただし専任契約を結んでいる場合は、契約違反になるおそれがあります。まずは手元の契約書で専任かどうかを確認してください。
Q6. 譲渡額が1,000万円以下でも、FAに依頼できますか?
A. 受託してもらえないことが多いのが実情です。受けてもらえた場合も最低手数料が適用され、譲渡額に対する負担率が非常に高くなります。この規模であれば、M&Aプラットフォームで相手を探し、必要な工程だけ専門家に依頼する形が現実的です。
まとめ|FAと仲介は「優劣」ではなく「何を最優先するか」で選ぶ
FAは、売り手か買い手のどちらか一方の代理人として動く専門家です。M&A仲介が双方の間に立って合意形成を目指すのに対して、FAは依頼者の利益だけを追求します。この立ち位置の違いが、報酬の出どころ、交渉の進め方、そして任せられる業務の範囲まで決めています。
どちらが優れているという話ではありません。条件を徹底的に追求したいならFA、相手探しから円満な合意までを任せたいなら仲介、というように自社が何を最優先するかで答えが変わります。そして譲渡額が小規模であれば、そもそもFAの受託範囲に入らないことも珍しくありません。
相談に行く前に押さえておきたいのは、次の3点です。
- 仲介かFAか、どちらの立場で支援するのかを書面で確認する
- 最低手数料の絶対額と、報酬基準額が4つのうちどれかを聞く
- 専任条項とテール条項の期間、そしてテールの対象範囲を確認する
この3つを聞けるかどうかで、相談の質は大きく変わります。「仲介とFAの違いの説明が不十分だった」というトラブルが国に届けられているのは、逆に言えば依頼者側が問いを持って臨めば防げる問題が多いということでもあります。
そして、自社の規模ではどんなM&Aが成立しているのかを知ることが、判断の土台になります。TRANBIには数百万円規模から数億円規模まで、さまざまな案件が掲載されています。相談先を決める前に、まずは実際の案件を眺めて相場感をつかんでみてください。登録も掲載も無料で始められます。
