持分法と全部連結の違いとは?連結財務諸表の意義から解説

持分法と全部連結の違いとは?連結財務諸表の意義から解説

企業グループが連結決算をする際は『連結財務諸表』を用いて、各社の個別財務諸表を合算します。子会社は全部連結の対象となりますが、一部には持分法が用いられます。持分法とはどのような方法なのでしょうか?全部連結との違いや適用範囲を解説します。

連結財務諸表とは?

子会社や関連会社を有する大企業は、『連結決算』を行う必要があります。連結決算とは、親会社・子会社・関係グループ会社を一つの企業と見なして決算書を作成することです。

連結決算で用いる『連結財務諸表』とは、どのような財務諸表なのでしょうか?

連結財務諸表の役割

かつては、親会社のみの決算書によって、企業グループ全体の財務状況や営業成績を判断していました。しかし、グループ内での粉飾決算や損失の『飛ばし』が相次ぎ、会計情報の透明性が求められるようになったのです。

子会社や関連会社を有する大企業は、利害関係者に対し企業グループ全体の財政状況や経営成績を透明かつ公正に報告するため、『連結決算』を行わなければなりません。

『連結財務諸表』は連結決算の際に用いる財務諸表で、以下のようなものから構成されています。

  • 連結貸借対照表
  • 連結損益計算書
  • 連結剰余金計算書
  • 連結キャッシュフロー計算書
  • 連結附属明細表

連結財務諸表は、各社の『個別財務諸表』を作成した後に合算されます。ただし、単純につなぎ合わせるのではなく、グループ内の各社を『連結子会社』『非連結子会社』『関連会社』に区分した上で、それぞれのルールに基づいて合算しなければなりません。

全部連結

連結決算では、親会社との関係性によって、決算の表示方法が変わったり、適用されるルールが異なったりする点に注意が必要です。それぞれのケースで適用されるのは、以下のルールです。

  • 実質的に親会社が意思決定権を持つ子会社:全部連結を適用
  • 全部連結を適用しない非連結子会社:持分法を適用
  • 親会社の影響力が認められる関連会社:持分法を適用

『全部連結』とは、親会社と子会社の財務諸表を100%連結した上で、最後に少数株主の持分を控除する決算方法です。主に以下のような子会社が対象です。

  • 親会社が50%以上の株式を保有している
  • 親会社が40%以上の株式を保有し、親会社の役員または従業員が取締役会の過半数を占める

全部連結を実施した場合、子会社の財務状況や営業状況が直接的に反映されます。全部連結の対象となる子会社を『連結子会社』と呼ぶ点も覚えておきましょう。

持分法とは

親会社の影響力が認められる関連会社や非連結子会社(連結対象ではない子会社)には、『持分法』が適用されます。

持分法とは、投資会社が被投資会社(以下、持分法適用会社)の資本と損益のうち、投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資額を連結決算日ごとに修正する方法です。

連結財務諸表を作成する際は、連結子会社のように個別財務諸表を全て合算する必要はありません。親会社に関連する部分のみを連結し、持分法適用会社の純資産と損益を、親会社の持株比率(議決権比率)に合わせて反映させます。

全部連結にするか持分法を適用するかによって、投資会社の当期純利益に変化が生じるように感じますが、連結方法の違いによって最終的な当期純損益・純資産が変わることはありません。

なお、持分法においては、株式(議決権)を保有する親会社などを『投資会社』と表現する場合があります。

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適切な決算を行う必要性

連結決算では、親会社との関係性によって、適用されるルールが異なります。最終的な当期純損益・純資産に与える影響は同じにもかかわらず、全てを連結する会社と持分法を適用する会社とに区別する理由は何なのでしょうか?

財務状態の判断に大きな影響を及ぼす

収益・費用・利益が記載される損益計算書において、持分法では親会社の持分に応じた収益のみが、最初から収益として計上されます。

一方で全部連結では、子会社の業績を全て加算した後、最後の当期純利益を算出する直前の段階で、少数株主(投資会社)の持分を調節するのが基本です。

仮に、『持株比率の低い会社で、かつ業績が優れた会社(または業績が悪い会社)』までもが全部連結された場合、営業利益や経常利益は、実際の持株比率以上に見栄えがよく(悪く)なってしまうでしょう。

企業の財務分析を行う際は、最終的な結果だけでなく、営業利益や経常利益といった過程で表れる指標を確認する必要があるため、『どのような会社にどの方法が適用されているか』が重要となるのです。

持分法の適用範囲とは

持分法の適用範囲は、会社の意思決定にどれだけ関与しているかによって決まります。企業会計基準第16号『持分法に関する会計基準』によると、適用となるのは『投資会社が議決権の20%以上所有する場合』です。

また、投資会社の議決権比率が『15%以上20%未満の場合』においても、以下に該当する場合は持分法の適用範囲とされます。

  • 代表取締役などの重要な役職にある人物を派遣している
  • 重要な融資を行っている
  • 重要な技術提供を行っている
  • 販売・仕入れ・その他の営業上または事業上の取引を行っている

参考:企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」|企業会計基準委員会:財務会計基準機構

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持分法適用会社の種類

持分法が適用される『持分法適用会社』は、『関連会社』と『非連結子会社』に区別されます。それぞれの定義と親会社とのつながりを把握しましょう。

関連会社

『会社計算規則』では、関連会社は以下のように説明されています。

会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該他の会社等(子会社を除く。)

子会社にあたらない会社のうち、『財務や事業、経営に対して影響力を持つ会社』と定義できるでしょう。関連会社かどうかは、主に親会社が保有する議決権の割合によって決まります。

『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則』を簡単にまとめると、関連会社の条件は以下の通りです。

  • 議決権の20%以上を所有している場合
  • 議決権の15%以上を所有している場合で、一定の要件に該当する場合
  • 特定の者と合わせて議決権の20%以上を所有している場合で、かつ一定の要件に該当する場合

ここでいう『一定の要件』とは、前述の『持分法の適用範囲』で紹介した要件です。

参考:会社計算規則 | e-Gov法令検索

参考:財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則

非連結子会社

子会社のうち、例外的に連結の範囲に含められない子会社は『非連結子会社』と定義されます。

連結計算書類を作成する際は、グループ内の全ての子会社を連結の範囲に含めるのが原則ですが、親会社の支配が一時的な子会社や重要性の低い子会社は、その範囲から除外することが可能です。

ただし、連結から除外したとしても、少なからずグループ全体の業績に影響を与える可能性があるため、議決権所有比率が20%以上50%以下の非連結子会社は『持分法』によって処理をします。

持分法による会計処理

親会社の影響力がある関連会社や非連結子会社には、持分法を用います。どのように会計処理を行うのか、簡単な事例を挙げて説明をしましょう。実際の処理に関しては、持分法や連結法の知識のあるプロへの相談をおすすめします。

持分法適用会社が利益を上げたときに仕訳

持分法適用会社から上がってくる損益は『持分法投資損益』と呼ばれます。持分法適用会社が利益を上げた際に、投資会社では『関連会社の当期純利益×持株比率』を反映させる作業を行います。

投資会社が持分法適用会社の株式を10%保有しているケースにおいて、持分法適用会社が500の当期純利益を獲得したと仮定しましょう。投資会社側では、持分法投資利益として、50(500×10%)が計上されます。

借方 貸方
株式 50 持分法による投資損益 50

営業外収益、営業外損益に反映

本業以外の活動で経常的に得る収益は『営業外収益』、本業以外の活動で生じた収益と費用の差は『営業外損益』と呼ばれます。

例えば、持分法適用会社の営業外収益が500、投資会社の持株比率が10%の場合、投資会社の利益貢献額は50です。連結損益計算書においては、どのような処理を行うのでしょうか?

連結損益計算書(持分法)
売上高 1000
営業利益 0
営業外収益 50
  -持分法による投資利益 50

損益計算書では、『持分法による投資収益』として記載します。もし、赤字であれば、損益計算書の営業外損益に『持分法による投資損失』と記載して、赤字額を計上します。

株式の持分が増加した場合

貸借対照表は、資産・負債・純資産を示したものです。左側が『資産』、右側が『負債』と『純資産』で、『資産』(左側)と、『負債』と『純資産』の和は常に一致しています。

持分法では、持分法適用会社における投資会社の持分が増加した分だけ、投資会社の『株式勘定の価値』を増加させます。

例えば、投資会社が株式取得をしたときの持分法適用会社の純資産を1000とします。業績が上がり、期末の純資産が1500になった場合、投資会社が所有する持分も100(1000×10%)から、150(1500×10%)に増加することになるでしょう。

持分法では資産の部の勘定科目である『子会社株式勘定(有価証券)』を増やした上で、資本勘定も同額だけ増やす処理をします。以下は、増加前と増加後の比較です。

貸借対照表①(持分法)
資産 3000 負債  1000
  (子会社株式 100) 純資産 2000
貸借対照表②(持分法)
資産 3050 負債  1000
  (子会社株式 150) 純資産 2050(※)

※投資会社の純資産2000+持分法適用会社の当期純利益分50

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まとめ

企業グループ全体の経営や財務状況を示した連結財務諸表は、各社の個別財務諸表を合わせることで作成されます。ただし、親会社との関係性や影響力の強さによって、全部連結をするか、持分法を適用するかに区別されます。

スムーズな連結決算のために、企業グループでは日頃から連携をし、会計方針を統一しておくことが重要です。