事業をたたむ・会社をたたむ|廃業・休眠・譲渡の違いと選び方を解説
「たたむ」には、事業だけをやめる・会社ごと消滅させる・いったん休ませる・誰かに譲るという4つの意味があります。たたむ対象が事業か会社かで選べる道は変わります。廃業で失われる雇用・許認可・設備・取引先を整理し、譲るという選択肢まで解説します。
「もう続けられないかもしれない」。売上の落ち込み、後継者の不在、自身の体調。理由はさまざまですが、事業をたたむことを考え始めた経営者の方が、まず調べるのは手続きや費用ではないでしょうか。
ただ、その前に確認しておきたいことがあります。「たたむ」という言葉には、まったく違う4つの意味が含まれているということです。事業だけをやめるのか、会社そのものを消すのか、いったん休ませるのか、それとも誰かに譲るのか。ここを整理しないまま手続きを調べ始めると、本来選べたはずの道を知らないまま進んでしまうことがあります。
この記事では、手続きの詳細ではなく「何をたたむのか」を決めるところに絞って整理します。たたむ対象が事業なのか会社なのかで、選べる道も、手元に残るものも変わります。具体的な手続きや費用については、それぞれの専門記事へご案内します。
「事業をたたむ」には4つの意味がある
まず言葉の整理から始めます。「たたむ」は法律用語ではありません。日常の言葉なので、使う人によって指しているものが違います。
同じ「たたむ」でも、起きることはまったく違う
相談の場で「会社をたたもうと思っている」と伝えても、相手がどの意味で受け取るかはわかりません。税理士は清算の話を始めるかもしれませんし、金融機関は返済の話をするかもしれません。
実際に「たたむ」が指しているのは、次の4つのいずれかです。
| 「たたむ」の中身 | 何が起きるか | 法人格 | 主な手続き |
|---|---|---|---|
| 事業をたたむ(一部の事業をやめる) | 特定の事業だけを終わらせます。会社は今までどおり続きます | 残ります | 許認可があれば廃止の届出。取引先や従業員への対応 |
| 会社をたたむ(廃業・解散する) | 会社そのものを消滅させます | 消えます | 解散登記、清算手続き、清算結了登記 |
| 会社を休ませる(休眠させる) | 活動を止めますが、会社は残したままにします | 残ります | 税務署や自治体への異動届出書の提出 |
| 事業や会社を譲る(譲渡する) | 別の会社や人に引き継ぎます。事業は続きます | 譲渡の方法によります | 事業譲渡契約または株式譲渡契約 |
表を見ると、法人格が残るものと消えるものがあることがわかります。そして4つ目の「譲る」だけは、事業そのものが終わらずに続いていきます。従業員の雇用や取引先との関係、積み上げてきた技術も、引き継げる可能性があります。
「たたむ」と口にするとき、多くの方が想定しているのは2つ目の廃業・解散だと思います。しかし実際に必要なのは1つ目や3つ目、あるいは4つ目だったというケースは少なくありません。
「廃業」「解散」「清算」の関係も整理しておく
会社をたたむ場面では、似た言葉がいくつも出てきます。混乱しやすいので、関係を押さえておきましょう。
【言葉の関係】
- 廃業:事業をやめること全般を指す言葉です。法律で定義された用語ではありません
- 解散:会社が営業活動をやめて、清算の手続きに入ることです。この時点ではまだ法人格は残っています
- 清算:解散した会社の財産を整理し、債務を返済して残余財産を分配する手続きです
- 清算結了:清算が終わり、法人格が完全に消滅した状態です
つまり会社をたたむとは、解散して清算し、清算結了に至るまでの一連の流れを指します。「廃業しよう」と決めてから実際に法人格が消えるまでには、相応の時間がかかります。
廃業そのものの意味やメリット・デメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。
たたみたいのは「事業」か「会社」か
「たたむ」対象が最初の分岐点です。この問いに答えが出れば、進むべき道は自然に絞られます。逆にここが曖昧なまま手続きを調べても、自分に当てはまらない情報ばかり集めることになります。
分岐点は「会社を残すかどうか」
判断の軸はシンプルです。会社そのものを残したいのか、それとも会社ごと終わらせたいのか。
複数の事業を手がけていて、そのうちのひとつだけがうまくいっていないのであれば、たたむ対象は事業です。会社は残るので、解散も清算も必要ありません。
一方、事業がひとつしかなく、それをやめれば会社を維持する意味がなくなるのであれば、たたむ対象は会社になります。この場合は解散と清算の手続きが視野に入ります。
ただし「会社をやめたい」と「事業をなくしたい」は、必ずしも同じではありません。経営から退きたいだけであれば、会社ごと誰かに譲るという道があります。事業は続き、従業員の雇用も守られ、経営者は退けます。
状況から逆引きする
いまの状況に近いものを探してみてください。
| 心情や現状 | たたむ対象 | 検討する道 |
|---|---|---|
| 複数の事業のうち、赤字の事業だけをやめたい | 事業 | 赤字事業を廃止する/赤字事業だけを譲渡する |
| 本業は続けたいが、店舗や部門を減らしたい | 事業 | その拠点を閉じる、または店舗ごと譲渡する |
| 経営から退きたいが、事業は続いてほしい | 会社 | 会社ごと第三者に譲渡する |
| 借入も含めて、すべて清算してしまいたい | 会社 | 廃業・解散して清算する |
| 体調やタイミングの問題で、一時的に止めたい | 会社 | 休眠させて、再開できる状態で残す |
この表で確認したい点は、右端の列に「譲渡する」が3回出てくることです。たたむと決める前に、その事業や会社を必要としている相手がいないかを確かめる価値があるということです。
ひとつの事業だけを切り出して譲る場合は事業譲渡、会社ごと譲る場合は株式譲渡という方法があります。どちらも、たたんでしまえば手元に何も残らないところを、対価を受け取ったうえで事業を存続させられる選択肢です。
迷ったときは「何を守りたいか」から考える
対象が事業か会社かを決めきれない場合などは、守りたいものは何かを先に言葉にしてみましょう。
【守りたいものから考える】
- 従業員の雇用を守りたい:会社を廃業すれば、原則として全員との雇用関係が終了します。譲渡であれば雇用ごと引き継げる可能性があります
- 取引先に迷惑をかけたくない:廃業は取引の打ち切りを意味します。譲渡なら取引が続く場合があります
- 手元に資金を残したい:廃業には費用がかかります。譲渡なら対価を受け取れる可能性があります
- いったん活動を止めたい:休眠なら比較的短い手続きで済みます
- 完全に終わらせたい:廃業・清算は数か月以上かかりますが、区切りがつきます
- 会社を残しておきたい:休眠なら再開できる状態で維持できます
優先順位が見えると、選ぶべき道もはっきりします。すべてを同時に満たす方法はないので、何を諦めるかを決めることが実質的な判断になります。
次の章からは、たたむ対象別に具体的な選択肢を見ていきます。
事業だけをたたむ場合の選択肢
会社は残したまま、特定の事業だけを終わらせたい場合です。この場合、解散や清算の手続きは必要ありません。選択肢は大きく2つです。
その事業を廃止する
もっとも単純な方法です。取引を終了し、その事業に使っていた設備を処分し、必要であれば許認可の廃止を届け出ます。
気をつけたいことは、事業をやめても費用は発生するという点です。リース契約が残っていれば中途解約金がかかりますし、店舗を借りていれば原状回復の費用が必要になります。在庫が残っていれば処分の費用も見込まなければなりません。
従業員がその事業の専任だった場合は、配置転換ができるかどうかも論点になります。会社は続くので、雇用をどう扱うかは慎重に検討する必要があります。
その事業だけを譲渡する
もうひとつの道が事業譲渡です。会社の一部である事業を切り出して、別の会社や個人に引き継いでもらいます。
自社では採算が合わない事業でも、別の会社にとっては価値があることは珍しくありません。同じ業界で規模を広げたい会社、その地域に進出したい会社、あるいは技術や顧客基盤を求めている会社にとっては、ゼロから立ち上げるより手っ取り早い選択肢になります。
譲渡が成立すれば、廃止した場合には出ていくだけだった費用が、逆に対価として入ってくる可能性があります。設備や店舗を譲渡の対象に含められれば、処分費用や原状回復の費用を抑えられる場合もあります。従業員も、譲渡先で働き続けられる可能性があります。
ただし事業譲渡では、許認可は自動的には引き継がれません。譲受側が改めて取得する必要があるため、許認可が事業の前提になっている業種では、その手続きの見通しが立つかどうかが成立の条件になります。
廃止と譲渡、どちらを先に検討するか
結論から言えば、先に譲渡の可能性を確かめるほうが合理的です。
理由は単純で、譲渡は買い手が見つからなければ成立しませんが、廃止はいつでもできるからです。順番を逆にすると、廃止の手続きを進めてしまった後で「実は欲しい相手がいた」と気づいても、もう戻れません。
設備を処分し、従業員が離れ、取引先との関係が切れた後では、譲渡できる中身がほとんど残っていません。事業の価値は、動いているうちがもっとも高いということです。
事業譲渡の進め方や注意点は、以下の記事で詳しく解説しています。
会社ごとたたむ場合の選択肢
会社そのものを続けられない、あるいは続ける意味がなくなった場合です。ここでも道は3つあります。
廃業・解散して清算する
会社を消滅させる方法です。株主総会で解散を決議し、清算人を選び、債権者への公告を経て、財産を処分して債務を返済します。最後に清算結了の登記をして法人格が消えます。
ここで押さえておきたい点は、手続きが終わるまでに一般に数か月を要するということです。官報での公告には最低限必要な期間が定められており、税務申告も複数回発生します。財産や債務の状況によっては、さらに長期化することもあります。「決めたらすぐ終わる」ものではありません。
また、費用も発生します。登記にかかる費用、官報公告の掲載料、司法書士や税理士への報酬などです。手続きの具体的な流れと費用の内訳については、会社の廃業手続きの記事で解説しています。会社法上の解散の要件や必要書類については会社の解散手続きをご覧ください。
休眠させる
会社を残したまま、活動だけを止める方法です。実務では「休眠」と呼ばれますが、これは会社法上の正式な手続きの名称ではありません。税務署や自治体に異動届出書を提出し、事業を行っていない状態にすることを指します。
解散・清算に比べると手続きも費用も軽く済みます。そして事業を再開したくなったときに、改めて会社を設立し直す必要がありません。体調を崩した、家庭の事情がある、市況が悪いので様子を見たい、といった「やめたいのではなく、いったん止めたい」場面に向いています。
注意点もあります。自治体によっては、活動していなくても法人住民税の均等割が発生することがあります。また、休眠中も申告が必要になる場合があります。完全に負担がゼロになるわけではないので、事前に税理士や自治体に確認してください。
なお、長期間登記をしないまま放置すると、法務局の職権で解散したものとみなされる制度もあります。休眠させる場合も、登記の管理は続ける必要があります。
会社ごと譲渡する
株式を第三者に譲渡して、会社ごと引き継いでもらう方法です。経営者は退けますが、会社は残り、事業も従業員の雇用も続きます。
「うちのような会社を買う人がいるのか」と思われるかもしれません。しかし買い手が見ているのは、必ずしも直近の利益ではありません。顧客基盤、技術、資格を持った従業員、立地、許認可といった、ゼロから作るには時間がかかるものに価値を見出します。
株式譲渡では会社そのものが変わらないため、許認可も取引先との契約も、原則としてそのまま存続します。「引き継ぐ」というより、契約関係がそのまま続くという整理です。事業譲渡と違って個別の手続きが少なく済むのは、この方式の大きな利点です。
ただし許認可の種類によっては、株主や役員の変更にともなう届出や審査が必要になります。また契約書に支配権の変更を理由に解除できる条項が入っていることもあるため、主要な取引先との契約内容は事前に確認しておいてください。
廃業とM&Aを金銭面や社会的な影響から比較した内容は、廃業とM&Aの比較の記事で詳しく扱っています。
3つの選択肢を比較する
それぞれの向き不向きを整理しました。
| 選択肢 | 向いている状況 | 費用と手元に残るもの |
|---|---|---|
| 廃業・解散して清算する | 債務も含めて整理し、完全に終わらせたい | 登記費用や専門家報酬などの費用が出ていきます。債務を返済して残った財産があれば分配されます |
| 休眠させる | 体調やタイミングの問題で、いったん止めたいだけ | 手続きの費用は小さく済みますが、自治体によっては均等割の負担や申告が残る場合があります |
| 会社ごと譲渡する | 事業は続いてほしい。経営から退きたい | 譲渡対価を受け取れる可能性があります。相手が見つかるまで時間はかかります |
迷ったときは、会社を残す可能性があるかどうかで分けてみてください。完全に終わらせたいなら清算、可能性を残したいなら休眠、事業を続けてほしいなら譲渡です。
たたむ前に確認したい5つのこと
たたむと決める前に、たたむことで何が失われるのかを具体的に確認しておきましょう。ここを飛ばすと、後から「あれも失われたのか」と気づくことになります。
1. 従業員の雇用はどうなるか
会社を廃業して雇用を終了する場合、従業員は職を失うことになります。解雇にあたっては、原則として30日前までの解雇予告か、不足する日数分の解雇予告手当の支払いが必要です。
金銭的な負担もさることながら、長年一緒に働いてきた人たちの再就職先をどうするかという問題が残ります。地方では同業の求人が限られていることも多く、転居を伴う転職になる場合もあります。
一方で譲渡であれば、雇用ごと引き継いでもらえる可能性があります。買い手にとっても、経験のある従業員が残ることは価値です。
2. 許認可は失われないか
取得に時間や要件を要した許認可を持っている場合、廃業すればその許認可は失われます。再取得の扱いは許認可の種類によって異なりますが、新規の取得と同じ手続きが必要になるものも多く、条件が変わっていれば同じものを取り直せるとは限りません。
建設業許可、運送業の許可、飲食店の営業許可、酒類販売の免許など、業種によってはその許認可自体が事業の価値になっていることがあります。株式譲渡であれば許認可はそのまま存続します。一方事業譲渡では原則として引き継げないため、譲受側が新たに取得できる見通しが立つかどうかが交渉の前提になります。
3. 設備・在庫・不動産はいくらで処分できるか
機械や車両、什器、在庫を処分する場合、帳簿の価額どおりには売れません。買い取り業者に引き取ってもらう場合、処分価格は想定よりかなり低くなることが一般的です。
それどころか、処分に費用がかかるケースもあります。産業廃棄物として処理が必要な設備、撤去に工事を要する機械、テナントの原状回復などです。
譲渡であれば、これらは事業の一部として評価の対象になります。処分費用が出ていくのか、対価として入ってくるのかは、選択次第で正反対になります。
4. 取引先との関係はどうなるか
廃業は取引の終了を意味します。長く続けてきた取引先にとっては、仕入先や販売先を新たに探す必要が生じます。
とくに自社が特定の取引先にとって代替の効かない存在だった場合、その影響は小さくありません。地域の中で果たしてきた役割がある事業ほど、たたむ影響は事業の外に広がります。
譲渡であれば取引が続く可能性があり、取引先に迷惑をかけずに退くという選択ができます。
5. 借入と個人保証はどう処理されるか
借入が残っている場合、会社を清算するには原則として返済が必要です。会社の財産で返しきれず、経営者が個人保証をしている場合には、保証債務の履行を求められる可能性があります。保証の範囲や条件は契約によって異なるため、契約書の内容を確認してください。
ここは廃業を検討する際にもっとも重い論点です。会社をたたんでも個人の債務が残るのであれば、たたむこと自体が解決にならない場合があります。
譲渡の場合は、金融機関の同意を前提に個人保証を解除できる可能性があります。手残りの金額や個人保証の扱いを廃業と比べた内容は、廃業とM&Aの比較の記事で詳しく扱っています。
いずれにしても借入と保証の状況は、たたむ方法を決めるうえで最初に確認しておきたい項目です。
たたむと消えるもの、譲れば残るもの
ここまでの5点を一覧にしました。
| 項目 | 廃業した場合 | 譲渡した場合 |
|---|---|---|
| 従業員の雇用 | 全員が職を失います。解雇予告手当などの支払いも必要になります | 雇用ごと引き継げる可能性があります |
| 許認可 | 消滅します。再取得は新規と同じ扱いです | 株式譲渡なら継続します。事業譲渡の場合は取り直しが必要です |
| 設備・在庫 | 処分価格でしか回収できません。処分費用がかかることもあります | 事業の一部として評価の対象になります |
| 取引先との関係 | 取引が終わります | 継続する可能性があります |
| 屋号・のれん・技術 | 失われます | 譲渡の対象に含めれば引き継げます |
| 手元の資金 | 費用が出ていきます | 譲渡対価を受け取れる可能性があります |
この表で伝えたい点は「譲渡が常に正しい」ということではありません。相手が見つからなければ譲渡は成立しませんし、時間もかかります。債務の状況によっては、清算するほうが適切な場合もあります。
ただ、たたむと決める前に、譲れる可能性があるかどうかだけは確かめておく価値があると思います。確かめるだけなら、失うものはありません。
「売る」という選択肢を確かめる
ここまで何度か触れてきた譲渡について、もう少し具体的に見ておきます。「うちのような会社に買い手がつくはずがない」と思い込んで、確かめないまま廃業を選ぶケースが少なくないためです。
赤字でも買い手がつくことがある
直近の決算が赤字だと、譲渡は無理だと考えてしまいがちです。しかし買い手が見ているのは、いまの利益だけではありません。
赤字の原因が経営者の高齢化による営業活動の縮小であれば、新しい経営者が通常の体制に戻すだけで改善する見込みが立ちます。設備投資を先送りしてきた結果であれば、資金力のある買い手であれば解決できます。人手不足で受注を断っていたのなら、人を回せる会社にとっては伸びしろです。
実際、譲渡された会社の中には、承継後に業績が回復した例が数多くあります。赤字であること自体が、譲渡できない理由にはなりません。債務超過の場合にどう考えるかを含め、廃業と比べた判断材料は廃業とM&Aの比較の記事で整理しています。
買い手は何を見ているのか
では、買い手は何に価値を感じるのでしょうか。よく挙がるのは次のようなものです。
【買い手が評価するもの】
- 顧客基盤:継続して取引のあるお客様は、ゼロから開拓するには時間がかかります
- 資格を持った従業員:採用が難しい職種であるほど、既にいることが価値になります
- 許認可:取得に時間や要件を要するものほど、株式譲渡などで維持できることが価値になります
- 立地:その地域で営業したい会社にとって、既存の拠点は魅力です
- 技術やノウハウ:長年蓄積したものは、お金を出しても買えないことがあります
- 取引先とのつながり:新規参入では入り込めない関係があります
これらはいずれも、廃業すれば跡形もなく消えるものです。決算書の数字には表れないのに、買い手にとっては価値がある。ここに気づかないまま廃業を選ぶのは、もったいないと思います。
まず何をすればいいか
「売れるかどうか確かめたい」と思ったとき、いきなり専門家に相談して費用が発生するのは不安かもしれません。
最初の一歩としておすすめしたいのが、実際に売り出されている案件を眺めてみることです。同じ業種、同じくらいの規模、同じような地域の案件がどのくらいの価格で出ているかを見れば、自社がどのあたりに位置するのかの感覚がつかめます。
「こんな小さな会社でも売りに出ているのか」と気づくことも多いはずです。数百万円規模の案件も動いていますし、赤字の会社が引き継がれる例もあります。まずは相場感をつかむところから始めてみてください。
事業をたたむことに関するよくある質問
最後に、事業をたたむことを考え始めた方からよく寄せられる質問をまとめました。
Q1.「たたむ」「廃業」「解散」は何が違いますか?
A.「たたむ」は日常の言葉で、法律用語ではありません。事業をやめること全般を指す場合もあれば、会社を消滅させることを指す場合もあります。「廃業」も同様に、事業をやめること全般を指す言葉です。これに対して「解散」は会社法上の手続きで、会社が営業をやめて清算に入ることを意味します。解散した時点ではまだ法人格は残っており、清算が終わって清算結了の登記をして初めて会社は消滅します。
Q2.「会社をたたむ」と言われました。従業員はどうなりますか?
A. 会社が廃業する場合、従業員は解雇されることになります。会社には少なくとも30日前の解雇予告か、予告に代わる手当の支払いが義務づけられています。未払いの賃金がある場合は請求できますし、会社に支払い能力がないときは国が一部を立て替える制度もあります。また、会社都合による離職となるため、一般に自己都合退職とは失業給付の扱いが異なります。給付制限や所定給付日数は個別の条件によって変わるので、ハローワークで確認が必要です。まずは会社に対して、退職日と条件を書面で確認しておきましょう。
Q3.「事業をたたむ」の言い換えにはどんな表現がありますか?
A. 場面によって使い分けられます。取引先や社外に伝える場面では「廃業する」「事業を終了する」「営業を終了する」といった表現が一般的です。書面や法的な文脈では「解散」「清算」「事業の廃止」が使われます。一部の事業だけをやめる場合は「撤退する」「事業を整理する」という言い方もあります。なお譲渡する場合は「たたむ」ではなく「事業を承継する」「譲り渡す」という表現になり、受け取られ方も大きく変わります。
Q4. 個人事業主が仕事や店をたたむ場合も同じですか?
A. 法人と比べると手続きは簡素です。法人の解散・清算登記は不要で、税務署への廃業の届出が基本になります。青色申告をしている場合や消費税の課税事業者である場合は、それぞれ別の届出も必要です。ただし従業員を雇っている、許認可を持っている、社会保険に加入しているといった場合は、それぞれに応じた手続きが加わります。なお「事業を譲渡できる」という点は法人と同じです。店舗や設備、顧客、技術を引き継いでもらえる相手がいれば、廃業せずに譲るという選択肢があります。個人事業の譲渡も実際に数多く成立しています。
Q5. 借入や債務超過があっても譲渡できますか?
A. できる場合があります。株式譲渡では借入の債務者である会社そのものが変わらないため、借入は会社に残り、譲渡後も会社が返済を続けます。買い手にとっては負担を抱えた会社を引き受けることになりますが、事業に返済できるだけの力があると判断されれば成立します。また事業譲渡であれば、引き継ぐ範囲を限定できるため、債務を残したまま事業だけを譲るという設計も可能です。ただし債権者との調整が必要になるので、早い段階で金融機関と専門家に相談してください。
Q6. 相談はどこにすればよいですか?
A. たたむ方向で固まっているなら、司法書士や税理士が手続きの窓口になります。まだ迷っている段階であれば、まず譲渡の可能性を確かめるのがおすすめです。M&Aプラットフォームで実際の案件を見る、事業承継・引継ぎ支援センターに相談する、取引のある金融機関に聞いてみる、といった方法があります。いずれも廃業を決めてしまう前でなければ意味がありません。
まとめ|たたむ前に、譲れるかどうかだけは確かめる
「たたむ」という言葉には、事業だけをやめる、会社ごと消滅させる、いったん休ませる、誰かに譲るという4つの意味があります。まず自分がたたみたいのは事業なのか会社なのかを決めることで、進むべき道が絞られます。
そして、たたむことで失われるものは決算書には表れません。従業員の雇用、取得に時間のかかった許認可、設備、取引先との関係、長年培った技術。これらは廃業すれば跡形もなく消えますが、譲渡できれば次の担い手に引き継がれます。
もちろん譲渡は万能ではありません。相手が見つからなければ成立しませんし、時間もかかります。債務の状況によっては清算するほうが適切な場合もあります。ただ確かめもしないまま廃業を選ぶのは、選択肢を一つ捨てているのと同じです。
動き出す前に、次の3点を整理してみてください。
- たたみたいのは「事業」か「会社」か
- いちばん守りたいものは何か(雇用・取引先・資金・時間)
- 借入と個人保証が、たたんだ後にどう残るか
そのうえで、実際にどのような案件が動いているかを見てみてください。TRANBIには業種も規模もさまざまな案件が掲載されており、数百万円規模のものも、赤字の会社も引き継がれています。確かめるだけなら、失うものは何もありません。登録も掲載も無料で始められます。
