やりたいことを叶える選択肢|新規開業とM&Aに共通する資格・許認可の話
やりたいことを叶えるために欠かせない資格・許認可の基礎知識を業種別に整理。新規開業とM&Aに共通する注意点や、引き継ぎ可否の考え方を解説します。
「こんな事業をやってみたい」
「この分野で独立したい」
そう思ったとき、まず考えるのはアイデアや資金のことかもしれません。
しかし実際に事業を形にするためには、資格や許認可といった“制度面の準備”が欠かせません。
業種によっては、特定の資格を持つ人がいなければ始められないものや、行政から免許・許可・認可を受けなければ営業できないものもあります。
これらを知らずに準備を進めてしまうと、「やりたいのに始められない」という事態に直面することも少なくありません。
また、事業を始める方法は新規開業だけではありません。
M&Aによって既存の事業を引き継ぐという選択肢もありますが、その場合でも資格や許認可が引き継げるのかどうかは、必ず確認すべき重要なポイントです。
本コラムでは、やりたいことを叶えるために欠かせない資格・免許・許認可・届出の基礎知識を整理し、新規開業とM&Aの両方に共通する注意点や考え方を、業種別にわかりやすく解説していきます。
「始めたい」「引き継ぎたい」と考えたそのときに、最初に立ち返るガイドとして、ぜひ参考にしてみてください。
やりたい事業を実現するための基礎知識
資格とは
資格とは、特定の知識や技能を有していることを証明するものです。
国家資格・などがあり、業種によっては「資格を持った人が在籍していること」が事業要件になります。
資格そのものは「行為を許可するもの」ではなく、業務を行うための前提条件・人材要件として位置づけられることが多いのが特徴です。
なかでも「弁護士」や「税理士」などの「士業」と呼ばれる業種は法律に基づく国家資格を持ち、高い専門知識を持って特定の業務(独占業務)を行います。
例:
- 美容師免許
- 宅地建物取引士
- 介護福祉士 など
免許とは
免許とは、本来は禁止されている行為について、国や自治体が特別に許可するものです。
免許がなければ、その事業や行為自体を行うことはできません。
本来、他人の身体を傷つけることは違法行為ですが、医師免許を有した医師が治療として腹部切開を行うことは認められます。
多くの場合、以下のような特徴があります。
- 取得要件が厳しい
- 更新制度がある
- 第三者への譲渡は不可
例:
- 酒類販売業免許
- 建設業許可
- 宅地建物取引業免許 など
許認可とは
許認可とは、一定の基準を満たした事業者に対し、行政が事業実施を認める制度の総称です。
「許可」「認可」「登録」「指定」などの形があり、業種ごとに名称や管轄が異なります。
事業開始前に取得が必要なものが多く、無許可営業は処罰対象となる点が重要です。
例:
- 飲食店営業許可
- 介護事業者指定
- 警備業認定 など
届出とは
届出とは、一定の事業を開始することを行政へ事前または事後に知らせる手続きです。
許可や免許と異なり、原則として「提出=受理」で足りる点が特徴です。
ただし、以下に該当するの場合には、営業停止や罰則の対象となることがあります。
- 虚偽の届出
- 届出未提出
例:
- 深夜酒類提供飲食店営業開始届出
- 探偵業届出
- インターネット異性紹介事業届出 など
無資格・無免許の場合や、許認可・届出がない場合どうなる?
必要な資格・免許・許認可・届出がないまま営業を行った場合、無許可営業・無免許営業として、以下のリスクがあります。
- 業務停止命令、営業取消
- 罰金や懲役などの刑事罰
- 行政指導や社名公表
- 取引先・顧客からの信用失墜
また、M&Aや事業承継の場面では、稀に「実は許認可が取れていなかった」ことが判明し、取引が白紙になるケースも発生しますので、事前の詳細な確認が必須となります。
株式譲渡と事業譲渡の相違点
事業承継やM&Aを検討するうえで、特に重要なのが「株式譲渡」と「事業譲渡」の違いです。
この違いは、取引後にその事業をスムーズに継続できるかどうかを大きく左右します。
株式譲渡
株式譲渡とは、会社の株主(=会社の所有者)が変わる取引で、会社そのものは存続し、法人格も変わりません。
- 株主(会社の所有者)が変わる取引
- 会社の法人格は変わらず存続する
- 法人名義で取得している許認可は、原則としてそのまま維持されるケースが多い
そのため、許認可を必要とする事業では、事業を止めることなく引き継げる可能性が高い点がもっとも大きなメリットです。
一方で、会社がこれまで抱えてきた契約関係やリスクも含めて引き継ぐため、事前の調査(デューデリジェンス)がより重要になります。
事業譲渡
事業譲渡とは、会社が行っている事業の一部または全部を切り出して譲渡する取引です。
譲受側は、新たな法人または個人として事業を行うことになります。
- 事業の一部または全部を切り出して譲渡する取引
- 会社は別法人(または別の個人)として新たに事業を行う
- 売主名義の許認可・免許・登録は原則として引き継ぐことができず、再取得が必要
この場合、許認可の再取得に時間がかかったり、そもそも要件を満たせずすぐに事業を始められないケースもあります。
特に、人的要件や実績要件がある許認可では注意が必要です。
許認可ビジネスでは「スキーム選択」が重要
このように、許認可を必要とするビジネスでは、「株式譲渡か、事業譲渡か」によって、開業・承継の難易度が大きく変わります。
- 許認可の名義
- 引き継ぎの可否
- 再取得に必要な期間や条件
事業内容だけでなく、上記の内容まで含めて確認したうえで、最適な譲渡スキームを選択することが、失敗しないM&Aの重要なポイントとなります。
業種ごとに必要な資格・免許など
飲食店
【資格・免許】
- 食品衛生責任者の設置が必要(調理師等で代替可)
【許認可・届出】
- 保健所の飲食店営業許可
- 開業届(税務署)
※深夜0時以降に主に酒類を提供する場合
→ 警察署への深夜酒類提供飲食店営業開始届出
※風俗営業に該当する場合
→ 風俗営業許可(警察署)
介護事業
【資格・免許】
- 管理者(介護福祉士等、サービス種別ごとに要件あり)
- サービス提供責任者、看護師等(事業内容により必須)
【許認可・届出】
- 都道府県・市町村への指定(介護保険法に基づく指定)
- 法人設立(株式会社・合同会社・NPO等)
宿泊業
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 旅館業営業許可(都道府県)
※ホテル・旅館・簡易宿所で基準が異なる - 住宅宿泊事業(民泊)の場合
⇒住宅宿泊事業届出(民泊新法)
美容室・理容室
【資格・免許】
- 美容師免許(美容室)
- 理容師免許(理容室)
- 管理美容師/管理理容師(一定規模以上の場合)
【許認可・届出】
- 保健所への開設届出
不動産業
【資格・免許】
- 宅地建物取引士の設置(事務所ごとに1名以上)
【許認可・届出】
- 宅地建物取引業免許(国土交通大臣または都道府県知事)
- 免許更新:5年ごと
リサイクルショップ
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 古物商許可(警察署)
※中古品の買取・販売を行う場合は必須
※法人・個人問わず必要
保育園
【資格・免許】
- 保育士の配置が必要
- 施設長要件あり(自治体基準)
【許認可・届出】
- 認可保育所:自治体の設置認可
- 認可外保育施設:設置届出
クリーニング業
【資格・免許】
- クリーニング師の設置が必要
【許認可・届出】
- 保健所への営業届出
薬局
【資格・免許】
- 薬剤師免許
- 管理薬剤師の設置
【許認可・届出】
- 薬局開設許可(都道府県)
貸金業
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 貸金業登録(財務局または都道府県)
- 日本貸金業協会への加入
建設業
【資格・免許】
- 専任技術者の設置(業種ごとに資格要件あり)
- 経営業務管理責任者
【許認可・届出】
- 建設業許可(国土交通大臣または都道府県知事)
- 許可更新:5年ごと
運送業
【資格・免許】
- 運行管理者
- 整備管理者
【許認可・届出】
- 一般貨物自動車運送事業許可(国土交通省)
警備業
【資格・免許】
- 警備員指導教育責任者
【許認可・届出】
- 警備業認定(公安委員会)
職業紹介業
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 有料職業紹介事業許可(厚生労働省)
人材派遣業
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 労働者派遣事業許可(厚生労働省)
酒類の販売など
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 一般酒類小売業免許(税務署)
- 通信販売酒類小売業免許(EC販売の場合)
※ゾンビ免許
・以前取得したが現在は使われていない酒類販売免許の俗称
・事業承継や再開時に「復活」できる場合があり、M&Aで重要視されることも
酒蔵
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 酒類製造業免許(税務署)
旅行業
【資格・免許】
- 旅行業務取扱管理者の設置
【許認可・届出】
- 旅行業登録(観光庁または都道府県)
保険代理店
【資格・免許】
- 保険募集人資格(生命保険募集人/損害保険募集人)
※保険商品を募集・販売する従業員ごとに取得が必要 - 募集人登録の継続には定期的な研修・更新が必要
【許認可・届出】
- 保険代理店としての登録(金融庁/財務局)
※正式には「保険募集人の所属保険会社等を通じた登録」 - 開業にあたっては、所属保険会社との代理店委託契約が必須
ペットショップ
【資格・免許】
- 動物取扱責任者の設置
【許認可・届出】
- 第一種動物取扱業の登録(自治体)
ガソリンスタンド
【資格・免許】
- 危険物取扱者(乙種第4類)
【許認可・届出】
- 危険物製造所等設置許可(消防署)
倉庫業
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 倉庫業登録(国土交通省)
インターネット異性紹介業
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- インターネット異性紹介事業の届出(警察署)
探偵業
【資格・免許】
- (原則なし)
【許認可・届出】
- 探偵業届出(公安委員会)
事業に必要な行政手続と管轄機関の対応関係一覧
まとめ
事業を始める、あるいは事業を引き継ぐにあたっては、「どの業種か」だけでなく、
資格は「人」に紐づく要件であり、免許・許可・認可・登録・届出は「事業」や「会社」に紐づく手続です。
同じ業種であっても、業態や提供方法、規模によって必要な手続が異なるケースも少なくありません。
また、許認可が関わる事業では、無資格・無許可での営業は重大なリスクを伴うだけでなく、M&Aや事業承継の場面で「引き継げるもの/引き継げないもの」の判断が、取引の可否や条件を大きく左右します。
- 株式譲渡であれば維持できる可能性がある手続
- 事業譲渡では原則として再取得が必要となる手続
本コラムで紹介した業種別の整理や、「事業に必要な行政手続と管轄機関の対応関係一覧」を参考に、開業前・承継前の段階で一度立ち止まり、必要な資格や手続を確認しておくことが重要です。 事業のスタートや引き継ぎをスムーズに進めるためにも、許認可・資格の確認は、最初の一歩として必ず行いましょう。
M&Aを検討し始めた段階では、「この事業は本当に引き継げるのか」「許認可に問題はないのか」と、不安を感じるのはごく自然なことです。
しかし、許認可や資格の有無を一つひとつ整理していくことで、事業の実態やリスクは、必ず“見える化”することができます。
事前に確認すべきポイントを押さえておけば、M&Aは決して難しいものではありません。
まずは気になる事業について、許認可の状況を知ることから始めてみましょう。
それが、納得のいくM&Aへの第一歩になります。