個人M&Aが失敗する原因とは?事例から学ぶリスク回避と成功のポイント
個人M&Aが失敗する原因を、実例とともに徹底解説。デューデリ不足・資金繰り・人の引継ぎなどの落とし穴と、リスク回避策、成功の具体手順がわかります。
- 01 個人M&Aが失敗しやすい主な原因
- ①個人のデューデリジェンスが甘い
- ②経営者思考や現場経験が不足
- ③融資条件が厳しく資金繰り悪化
- ④従業員や取引先との信頼構築の失敗
- ⑤企業優先で個人は不利な立場
- 04 個人M&Aを成功させるポイント
- 専門家の活用と現地確認で「実態」を把握する
- 最悪の事態を想定した「資金計画」を立てる
- 業界知識を深め、前経営者の協力を仰ぐ
- 従業員・取引先との「信頼関係」を最優先にする
- 明確な「ビジョン」と着実な実行計画を示す
- 08 個人M&Aの成功事例|失敗を乗り越えた実践例
- 事例1:専門家でも陥った「数字の罠」。飲食未経験から売上2倍へV字回復した逆転劇
- 事例2:賃貸契約白紙の危機!コロナ禍でも「想い」で繋いだアパレル×カフェ事業
- 事例3:インフラ引き継ぎの落とし穴。「赤字」を「コスト削減」に変えた賢い買収戦略
「長年培った会社員としての経験を活かして、一国一城の主になりたい」「将来の資産形成のために、自分の事業を持ちたい」と考え、個人M&Aを検討されている方は多いのではないでしょうか。一方で、「多額の借金を背負って失敗したらどうしよう」と不安を感じる方も多いでしょう。
実際に、個人M&Aには特有の難しさがあり、準備不足のまま進めると、大きな失敗につながる可能性があります。しかし、失敗の多くは「事前の準備不足」や「デューデリジェンス(買収監査)の甘さ」、「経営者としての覚悟の欠如」といった、特定のパターンに起因しています。つまり、これらの「失敗の法則」を事前に正しく理解し、対策を講じておくことで、リスクは大幅に低減可能なのです。
本記事では、個人M&Aが失敗してしまう主要な原因や、実際に起きた失敗事例、そして万が一失敗した場合の深刻な影響から、プロが実践する具体的な回避策までを網羅的に、かつ丁寧に解説します。
この記事を読むことで、個人M&Aに潜む落とし穴を事前に察知できるようになります。そして、安全かつ確実に事業承継を成功させ、理想の経営者ライフを実現するための具体的なロードマップを描けるようになるでしょう。人生を左右する重要な決断を成功に導くために、ぜひ最後まで目を通し、戦略的なM&Aの第一歩を踏み出してください。
個人M&Aが失敗しやすい主な原因
個人M&Aにおいて失敗に至るケースには、明確な共通点が存在します。多くの買い手候補は、案件の表面的な魅力(売上規模やブランドイメージなど)や、仲介会社からのポジティブな説明だけを鵜呑みにしてしまい、その裏側に潜んでいるリスクを見落としがちです。
ここでは、特に個人が陥りやすい失敗の要因を5つの観点から詳しく解説します。
これらを事前に知っておくことが、安全な買収への第一歩となります。
①個人のデューデリジェンスが甘い
個人M&Aで最も致命的かつ頻繁に見られる失敗原因が、買収対象企業の調査(デューデリジェンス)が不十分なことです。
企業がM&Aを行う場合は、会計士や弁護士などの専門家チームを組成して徹底的な調査を行いますが、個人の場合は費用を節約しようとしたり、自身の知識を過信したりして、専門家を入れずに自己判断だけで進めてしまうケースがあります。
その結果、決算書に載っていない簿外債務(未払い残業代や社会保険料の未納など)や、買収後に必要となる設備投資(老朽化した機械の入替費用など)を見落とす可能性があります。
表面上の損益計算書だけで「黒字だから大丈夫」と判断し、実際のお金の流れであるキャッシュフローの実態や、資金繰りの厳しさまで精査できていないことが多々あります。
専門家の客観的な視点を入れずに契約を進めた結果、買収後に予期せぬリスクが次々と顕在化し、経営があっという間に行き詰まる事例が後を絶ちません。自分ひとりの判断に頼らず、コストをかけてでもリスクを徹底的に洗い出す姿勢が不可欠です。
②経営者思考や現場経験が不足
会社員時代にどれほど優秀な成績を収めていたとしても、それがそのまま経営者としての成功に直結するわけではありません。
「与えられた業務を遂行するスキル」と「会社全体の責任を負って意思決定するスキル」は全く別物だからです。会社員時代の感覚のままでは、資金繰りや人事対応など、最終責任者としての判断に大きな負担を感じる可能性があります。
また、未経験の業種に参入する場合、その業界特有の商習慣やリスクを理解しないまま、理想論だけで安易な方針転換を行ってしまうことも大きな失敗要因です。
「前の会社ではこうだったから」と現場の空気を読まない改革を断行すれば、従業員の反発を招き、組織が崩壊しかねません。
さらに、人材マネジメントや数字管理の実務経験が不足していると、組織を統率することが難しくなります。経営者には、全体を俯瞰する広い視野と同時に、泥臭い現場業務も厭わず先頭に立つ覚悟が求められます。
③融資条件が厳しく資金繰り悪化
個人がM&A資金を調達する場合、実績のある企業に比べて信用力が低く見られるため、どうしても融資条件が厳しくなる傾向があります。日本政策金融公庫などの公的融資枠を超えた分については、高金利のビジネスローンやノンバンクを利用せざるを得ないケースもあり、そうなると毎月の返済負担が重くのしかかり、企業の利益を圧迫してしまいます。
また、買収費用(株式譲渡代金)の確保にばかり意識が向き、その後の運転資金や設備投資、さらには不測の事態に備えるための手元資金など、追加資金を見込んでいないことも深刻な問題です。経営開始後に予期せぬ出費が発生した際、手元資金が枯渇して支払いができなくなり、利益は出ているのに倒産する「黒字倒産」に陥るリスクがあります。
当初の事業計画通りに売上が右肩上がりで伸びれば良いのですが、現実はそう甘くありません。売上が停滞した場合、余裕のないギリギリの返済計画ではすぐに破綻してしまいます。資金計画には十分なバッファを持たせ、最悪の事態を想定した堅実な資金繰りを組む必要があります。
④従業員や取引先との信頼構築の失敗
M&Aは「会社を買って終わり」ではなく、契約完了後の統合プロセス(PMI)こそが本番です。
しかし、この段階で失敗するケースが非常に多いのが現実です。買収直後に、新しいオーナーが性急な方針変更を行ったり、従業員への説明が不十分だったりすると、既存従業員に強い不安と不信感を与えてしまいます。
給与体系や勤務時間などの待遇、あるいは仕事の進め方を急激に変えようとすれば、従業員の不満や反発を招きやすくなります。さらには、キーマンとなる優秀な従業員の離職や、組織全体のモチベーション低下を引き起こします。中小企業において「人」は最大の資産であり、人が去ってしまえば事業の継続自体が困難になり、企業価値は大きく毀損します。
同様に、取引先に対しても細心の配慮が必要です。挨拶もなく担当者を変えたり、取引条件の見直しを一方的に進めたりすれば、長年の信頼関係が一瞬で崩れ、契約を打ち切られる可能性があります。
⑤企業優先で個人は不利な立場
M&A市場の構造的な問題として、優良な案件は資金力と信用力のある「法人買い手」に優先的に紹介される傾向があります。金融機関や仲介会社にとって、成約の確度が高く、より高額な手数料収入が見込める法人案件の方を優先するのはビジネスの理屈として自然だからです。
その結果、個人に紹介される案件には、法人が見送った案件が含まれることがあり、課題を抱えているケースもあります。
「なぜこの案件が自分に回ってきたのか?」「法人が買わなかった理由は何か?」を冷静に見極める視点が必要です。
また、売り手と買い手の間には情報の非対称性が存在します。売り手企業側に有利な情報しか開示されず、必要な追加投資の必要性や、潜在的な訴訟リスクなどのネガティブ情報が意図的に、あるいは無意識に伏せられていることもあります。個人は情報量や交渉力において不利な立場にあることを自覚した上で、慎重に交渉に臨むべきです。
個人M&Aの失敗による影響
個人M&Aの失敗は、単に「投資した資金を失って終わり」ではありません。
事業に関わる全てのステークホルダー(関係者)、そして買い手自身の人生そのものに、長期間にわたって深刻なダメージを与える可能性があります。
ここでは、M&Aが破綻した場合に具体的にどのような影響が及ぶのか、その現実的なリスクについて解説します。
①買収した会社や事業が倒産する
経営のかじ取りに失敗すれば、当然ながら会社の存続そのものが危ぶまれます。売上が減少に転じれば、家賃や人件費といった固定費、そして買収時の融資返済の支払いが滞り、資金繰りが急速に悪化することになります。 赤字が常態化すれば債務超過に陥り、金融機関からの追加融資や支援も受けられず、最終的には法的清算(倒産)や廃業を選択せざるを得なくなります。事業の再建が不可能となれば、長年地域で愛されてきた会社そのものが消滅してしまいます。
また、倒産を回避するための延命措置として、不動産や機械などの重要な資産を切り売りすれば、事業継続に必要なリソースすら失ってしまいます。一度傾いた経営を立て直すのは、ゼロから起業するよりも、あるいは買収時以上に困難な道のりとなります。
②従業員の雇用が失われる可能性
会社の倒産や事業の大幅な縮小は、そこで働く従業員とその家族の生活を直撃します。解雇や雇止めが発生すれば、従業員は突然収入を失い、生活に大きな不安を抱えることになります。
特に地方の中小企業では、同条件での再就職先を見つけることが難しく、家計への負担は計り知れません。住宅ローンを抱えている従業員や、これから子供の教育費がかかる世代にとって、失業は人生設計を根本から狂わせる出来事です。
買収者は、単に「株主」になるだけでなく、従業員とその家族の人生を預かっているという責任の重さを、骨の髄まで認識しなければなりません。安易な気持ちでの買収と失敗は、多くの人の生活を脅かす結果を招くのです。
③取引先や地域経済への悪影響
一企業の倒産は、その会社単体の問題にとどまらず、サプライチェーン全体、そして地域経済へと波及します。買収した会社が倒産すれば、仕入先への買掛金が支払われず、取引先の資金繰りも悪化させてしまいます。
取引先の規模が小さければ、最悪の場合、売掛金未回収による連鎖倒産を引き起こし、地域社会に大きな打撃を与えることになります。特に地域密着型の企業や、特定の産業集積地にある企業であれば、その影響は甚大です。
また、雇用の喪失は地域の消費を冷え込ませ、地域経済全体の停滞を招く要因にもなります。本来、事業承継は地域経済を守り、活性化させるための行為であるはずですが、失敗すればその逆の結果を生んでしまうのです。
④買い手本人が多額の負債を抱える
個人M&Aでは、買い手自身が金融機関からの融資に対して「連帯保証人」となるケースが一般的です。事業が失敗し、会社が返済不能になれば、会社の負債を個人が肩代わりして返済しなければなりません。
その額は数千万円から時には億単位になることもあり、一般的な給与所得だけで返済することは現実的に不可能です。自宅や預貯金、有価証券など、個人の資産をすべて処分しても返済しきれない場合が多々あります。
最終的には自己破産を検討せざるを得なくなり、社会的信用やこれまでの生活基盤を失うことになります。個人M&Aには、失敗すれば自分だけでなく家族の人生をも巻き込み、破綻させるほどのリスクが潜んでいることを忘れてはいけません。
⑤精神的なストレスで健康を損なう
経営不振によるプレッシャーは、買い手の心身を激しく消耗させます。
「来月の支払いはどうしよう」「従業員になんて説明しよう」といった資金繰りの悩みや人間関係のトラブルで、不眠や食欲不振、激しい動悸といった体調不良が現れ始めます。
さらに、「自分のせいで従業員を路頭に迷わせてしまった」「家族に迷惑をかけた」という自責の念や罪悪感から、精神的な負担が大きくなるケースもあります。精神的な健康を損なえば、冷静な判断ができなくなり、誤った判断を重ねて事態をさらに悪化させる悪循環に陥ります。
また、失敗への恥ずかしさから周囲との連絡を絶ち、人間関係を避けて引きこもりがちになり、社会的に孤立してしまうこともあります。金銭的な損失以上に、一度損なわれた心身の健康や自信を回復するには、非常に長い時間を要します。
個人M&Aの失敗事例
失敗を避ける最良の方法は、先人たちの失敗事例から学ぶことです。
「自分は大丈夫」「自分ならうまくやれる」と思っていても、状況が変われば誰もが同じ落とし穴に落ちる可能性があります。
ここでは、TRANBIとは関係のない所でのM&Aではありますが、買収者の方のご好意でインタビューにご協力いただいた事例をご紹介いたします。ぜひ参考にしてください。
【失敗事例】情熱が仇に…「会社を買いたい病」で借金4,000万円を背負った元IT社長の悔恨
「いつか故郷に戻り、地域に貢献したい」「斜陽産業でも、自分のノウハウがあれば再生できるはずだ」。
東京でITコンサルティング会社を経営していたA氏は、そんな熱い志を抱き、地元のものづくり企業であるB社の買収を決意しました。
売上高は2億円超、表面上の借入も少なく、一見すると優良な老舗企業に見えました。顧問税理士からは「買うほどの会社ではない」と冷静な忠告を受けましたが、当時のA氏は「会社を買いたい」という熱病に侵されており、その声は耳に届きませんでした。
買収後、A氏は「現場を知らない自分が口を出すべきではない」と遠慮し、前社長に経営の実権をそのまま委ねてしまいました。A氏の営業努力で受注は1.5倍に急増しましたが、なぜか資金繰りは火の車となり、キャッシュフローは悪化の一途をたどります。
不審に思い現場の実態を調査したA氏は、担当者の言葉に耳を疑いました。「この案件の粗利率は15%です。前社長がこれでいいと言うので……」。
業界水準の半分程度しかない利益率に加え、実は以前から自転車操業で、決算書は見栄え良く調整されていたことが発覚しました。A氏は「数字を読めないまま、雰囲気だけで会社を買ってしまった。経営者として何もできていなかった」と、自身の甘さを痛感し愕然とします。
一度狂った歯車は戻らず、買収からわずか2年半後、B社は1億5,000万円の負債を抱えて民事再生を申請するに至りました。会社を失っただけでなく、連帯保証人となっていたA氏個人にも、4,000万円もの巨額の借金が重くのしかかることになったのです。
この事例は、M&Aにおける「デューデリジェンス(買収監査)」と「PMI(統合プロセス)」の欠如が招いた悲劇です。情熱は大切ですが、それだけでは会社経営はできません。
「自分なら必ず成功できる」という思い込みを手放し、石橋を叩いて渡る慎重さを持つことこそが、あなたの資産と未来を守る唯一の盾となります。
【失敗事例に学ぶ・前編】個人M&Aでものづくり企業の社長になるも、2年半で1億円以上の負債を抱えて民事再生に至るまで
個人M&Aを成功させるポイント
個人M&Aには多くのリスクが伴いますが、リスクを適切に管理しつつ、攻めの姿勢で事業価値を高めていくことで成功確率は飛躍的に高まります。
ここでは、失敗を防ぎ、買収後の成長を実現するために押さえておくべき5つの重要ポイントを解説します。
専門家の活用と現地確認で「実態」を把握する
買収前のデューデリジェンス(買収監査)は、将来の安全を買うための投資です。決算書などの書類情報はあくまで過去の結果に過ぎません。公認会計士や弁護士などの専門家に依頼し、簿外債務や法務リスク、契約書の不備などを徹底的に洗い出しましょう。専門家の客観的な評価は、高値掴みを防ぐ材料にもなります。
また、必ず自分自身で「現場」に足を運ぶことが重要です。
従業員の働きぶり、工場の整理整頓、設備の稼働状況など、書類には表れない「事業のありのままの姿」を肌で感じることで、数字の裏付けを取り、潜在的な課題やリスクを早期に発見できます。
最悪の事態を想定した「資金計画」を立てる
資金計画は「売上が伸びる」という楽観論ではなく、「売上が下がったらどうするか」という最も保守的なシナリオをベースに策定します。借入金の返済負担を抑え、事業から生み出されるキャッシュフローの範囲内で確実に返済できる構造を作ることが重要です。
また、買収費用だけでなく、運転資金(3〜6ヶ月分)や統合コスト、予備費を含めた十分な手元資金(キャッシュ)を確保しましょう。金融機関との交渉では、返済期間を長くしたり、元金据置期間(当初は利息のみ支払い)を設けたりして、創業初期の資金繰りを安定させることが、心の余裕と正しい経営判断につながります。
業界知識を深め、前経営者の協力を仰ぐ
買収対象の業界については、市場動向や競合、法規制などを徹底的にリサーチし、経営に必要な基礎能力(財務、労務管理など)を養っておく必要があります。
その上で、買収後一定期間(数ヶ月〜1年程度)は、前経営者に顧問として残ってもらうのが理想的です。実務ノウハウや業界特有の商慣習、人脈を引き継ぐ期間を設けることで、スムーズな経営移行が可能になり、経験不足を補うことができます。
従業員・取引先との「信頼関係」を最優先にする
M&Aの成否は「人」で決まります。特に「最初の100日」における行動が重要です。従業員に対しては、早期に説明会や個別面談を行い、「雇用と待遇を守る」ことを明確に伝えて不安を解消します。一方的に方針を押し付けるのではなく、彼らのこれまでの貢献を認め、話に耳を傾ける姿勢が信頼獲得の第一歩です。
取引先に対しても、前社長と共に足を運び、「これまで以上の関係を築きたい」と誠意を持って伝えることが大切です。ステークホルダーとの強固な信頼関係こそが、事業継続の最大の基盤となります。
明確な「ビジョン」と着実な実行計画を示す
会社を引き継いだ後、事業をどう成長させるのか、明確なビジョンと具体的なロードマップ(成長戦略)を示す必要があります。「3年後にこうなる」という未来像や、それを実現するための数値目標・行動計画を共有することで、従業員のモチベーションと組織の一体感を高めます。
ただし、いきなり大きな改革を行うのではなく、優先順位をつけて一つひとつ着実に改善を進めることが肝要です。
小さな成功体験を積み重ね、成果を賞与などで還元しながら、徐々に大きな成長戦略へとシフトしていくのが成功への近道です。
個人M&Aの実行フロー
個人M&Aは、思いつきで進められるものではありません。正しい手順を踏んで、一つひとつのステップを着実にクリアしていくことが成功への最短ルートです。
ここでは、準備から統合まで、M&Aを成功させるための標準的なフローを紹介します。
STEP1:事前学習と自己分析
まずはM&Aに関する基礎知識(プロセス、法務、税務など)を習得し、自分自身を客観的に見つめ直すことから始めます。
自分の資金力はどのくらいか、どんなスキルや経験が活かせるか、なぜ買収したいのか、といった「軸」を明確にします。
これにより、どのような業種・規模の会社を買収すべきかというターゲット像が定まります。
STEP2:案件情報収集
ターゲットが定まったら、M&Aマッチングサイト(トランビ、バトンズなど)に登録したり、仲介会社に相談したりして案件を探します。また、地元の商工会議所や、身近な税理士、知人経営者など、独自のネットワークを活用することも有効です。非公開の優良案件に出会える可能性があります。
STEP3:本格的なデューデリジェンス
興味のある案件が見つかり、売り手と「基本合意契約」を締結したら、いよいよ詳細な調査(デューデリジェンス)を行います。財務諸表の分析、簿外債務の確認、設備の老朽化具合、労務環境のチェックなどを、専門家と共に徹底的に実施します。ここで遠慮は無用です。
STEP4:交渉・条件調整
調査結果に基づき、最終的な買収価格や支払い条件、従業員の処遇、引継ぎ期間などについて売り手側と交渉します。
もしデューデリジェンスでリスクが見つかれば、価格の減額を申し入れたり、リスクへの対策を契約書に盛り込むよう要求します。また、経営者との面談を重ねて相互理解を深めるとともに、可能であればキーマンとなる従業員との事前面談も行います。
STEP5:買収実行と統合フェーズ
全ての条件が合意に至れば、「最終譲渡契約」を締結し、買収代金の決済を行います(クロージング)。
これで法的には経営権が移りますが、ここからが本当のスタートです。
経営陣の交代の挨拶、組織の統合(PMI)、業務の引継ぎなどを計画的に進め、新体制での経営を軌道に乗せていきます。
個人M&Aの失敗からの回復・リスク対策
万が一、M&Aが思い通りにいかなかった場合でも、被害を最小限に抑えるための策はあります。過度に楽観視せず、あらかじめ備えておくことが、事業を守るうえで重要な備えになります。
ここでは、事後対応と事前予防の両面からリスク対策を解説します。
失敗時の対処方法
事業の継続が困難と判断した場合、傷口が広がる前に「損切り(撤退)」を決断する勇気も必要です。
赤字が続いた状態で無理に事業を継続するよりも、早期に第三者への事業譲渡や廃業を検討することで、負債の拡大を防げる場合があります。
その際、最優先すべきは従業員の雇用の確保と、顧客・取引先への誠実な対応です。自分だけで抱え込まず、再生実務に詳しい弁護士や税理士などの専門家に早急に相談し、民事再生や任意整理といった法的整理も含めた最適な解決策を模索しましょう。
未然防止としての事前対策
リスクをヘッジするための手段として、「M&A保険(表明保証保険)」を活用する方法もあります。
表明保証保険は、買収後に簿外債務などが見つかった場合の損害を補償する保険です。近年は中小規模案件向けの安価な保険商品も登場しています。
また、仲介会社を選定する際は、単にマッチングするだけでなく、買収後のPMIサポート体制が充実している会社を選ぶことも重要です。専門家の継続的な支援を受けることで、経営の異変にいち早く気づき、軌道修正を早期に行うことができます。
個人M&A支援サービスの選び方
M&Aの成否は、誰をパートナー(アドバイザー)に選ぶかに大きく左右されます。数ある仲介会社やプラットフォームの中から、自分に合ったサービスを見極めることが大切です。
ここでは、信頼できる支援サービスを選ぶためのポイントを解説します。
M&A仲介会社の選定基準
まず、個人案件の実績が豊富かどうかを確認しましょう。大手仲介会社は報酬の高い法人案件が中心のため、個人の事情に精通した小規模・中規模案件に強い会社(ブティック型仲介会社など)を選ぶのが賢明です。
また、着手金や中間金、成功報酬などの手数料体系が明確であることや、デューデリジェンスのサポート体制が整っているかも重要な判断基準です。
担当者との相性も大切ですので、実際に面談をして、「この人なら信頼できる」「親身になってくれる」と思える人物かを見極めましょう。
M&Aプラットフォーム活用時の注意点
M&Aプラットフォームは、スマホ一つで手軽に案件を探せる点が特徴です。一方で、交渉や契約手続きは基本的に自分で行う必要があります。利用する際は、プラットフォームごとの特徴(掲載案件の傾向、手数料など)を理解し、自分のレベルに合ったサービスを選びましょう。
国内最大級の事業承継・M&Aプラットフォームである「TRANBI(トランビ)」は、ユーザー数が20万者を超える規模の国内最大級の事業承継・M&Aプラットフォームで、常時数千件の案件が掲載されています。
大きな魅力は、売り手側は基本無料で、買い手側も月額料金のみで利用でき、成約手数料がかからないためコストを抑えやすい点や、幅広い規模の案件に出会える点です。
しかし、手軽に利用できる反面、交渉や契約手続きの主導権を自分で握る必要があります。売り手との直接交渉では、感情的な対立や条件面の認識齟齬が起きやすいため、注意が必要です。TRANBIでは、こうしたリスクを軽減するために「M&A専門家紹介サービス」や、M&Aを学べる学習コンテンツも提供しています。これらを有効活用し、自信がない部分はプロに頼る姿勢が、サイト経由でのM&Aを成功させる鍵となります。
専門家(税理士・弁護士)の活用タイミング
専門家への相談は早ければ早いほど良いですが、費用との兼ね合いもあります。少なくとも、基本合意契約を結ぶ前後の「デューデリジェンス段階」では必ず関与してもらいましょう。
また、最終契約書のリーガルチェックも、弁護士の目がなければ極めて危険です。
また、買収完了後の税務申告や社会保険の手続き、許認可の変更申請など、実務面でのサポートも必要になります。M&Aの実務に詳しい専門家をあらかじめ確保しておくことが、スムーズな引継ぎと経営スタートにつながります。
個人M&Aの成功事例|失敗を乗り越えた実践例
実際に個人M&Aを成功させた事例を知ることで、成功へのイメージがより具体的になります。
ここでは、様々なパターンでの成功事例を紹介します。
事例1:専門家でも陥った「数字の罠」。飲食未経験から売上2倍へV字回復した逆転劇
「数字には強いはずだったのに、現場のリアルを見落としていた」。投資ファンド出身でM&AのプロであるA氏らでさえ、個人M&A特有の落とし穴にはまりました。
TRANBIで出会ったのは、好立地の飲食店。決算書上は利益が出ており、オペレーションもマニュアル化されている優良案件に見えました。
しかし、買収後に蓋を開けてみると、想定していた集客はなく赤字転落。「1ヶ月くらい店に通って、レシートや客数を自分の目で確認するデューデリジェンス(買収監査)をやるべきでした」とA氏は振り返ります。
データ上の数字は正しくても、その売上が「再現性のあるものか」は、現場に立たなければ分かりません。さらにコロナ禍が追い打ちをかけましたが、彼らは諦めませんでした。
「ただの飲食店ではなく、特定の目的を持った人が集まる場所にしよう」。マーケティングの知見を活かし、デジタル人材が集まるコミュニティのような店へとコンセプトを一新。
ターゲット層に刺さるメニュー開発やSNS発信を泥臭く続け、結果として売上は買収時の2倍超へと成長しました。TRANBIには多様な業種の案件があり、自分の得意分野(今回はマーケティング)を活かせる事業を選べたことが、苦境を打破する鍵となりました。
帳簿上の数字だけでなく、必ず現場に足を運び、レシートや客数などを自分の目で確認することが失敗回避の第一歩です。また、予期せぬトラブルが起きても、自身の強みやスキルを掛け合わせることで、事業価値を劇的に高められる可能性があります。
【飲食店M&Aから3年】赤字転落から売上2倍超へとV字回復!競合には真似できない最強の集客戦略とは?
事例2:賃貸契約白紙の危機!コロナ禍でも「想い」で繋いだアパレル×カフェ事業
「衣・食・住をつなげる事業がしたい」。そんな夢を抱いていた会社員のB氏は、TRANBIで「キッズ向けヴィンテージ服とカフェ」という、まさに理想的な案件に出会いました。
アパレルと飲食の経験があり、300万円という予算内でスピーディーに交渉を開始。しかし、順調に見えた矢先、大きな壁が立ちはだかります。
店舗の賃貸契約が引き継げず、大家さんから「待った」がかかってしまったのです。M&Aでは、事業は譲渡できても、物件の契約は新規扱いとなり条件が変わるリスクが常にあります。
さらにコロナ禍が重なり、撤退も頭をよぎりました。それでもB氏を突き動かしたのは、売り手オーナーとの「共感」でした。
「リスクを恐れて何もしなければ、サラリーマンのまま。売り手さんの作ったこの世界観を残したい」。売り手の想いに寄り添い、粘り強く大家さんと交渉した結果、無事に契約を締結。
「この売り手さんでなければ引き継がなかった」と語るほど、価値観の一致が成約の決め手となりました。ニッチな業態でも、全国の案件から自分の感性に合う運命の相手と出会えるのがTRANBIの魅力です。
店舗型ビジネスのM&Aでは、賃貸借契約の名義変更や再契約が最大のハードルになることがあります。大家への確認は早めに行い、保証人の有無や契約条件が変わらないかもあわせて確認しておきましょう。
また、条件面だけでなく、売り手の「想い」や「価値観」に共感できるかどうかが、予期せぬトラブルを乗り越える原動力になります。
コロナ禍の個人M&A「リスクも受け入れることが私の覚悟」 ~夢である“衣食住”を融合させた事業をつくる
事例3:インフラ引き継ぎの落とし穴。「赤字」を「コスト削減」に変えた賢い買収戦略
「赤字事業=価値がない」と思い込んでいませんか?会社員のC氏は、TRANBIで赤字の自習室をあえて格安で買収し、自身の課題解決に繋げました。
C氏の狙いは、自習室の黒字化だけでなく、自身の「事務所家賃の削減」でした。「収益が出なくても、自分の事務所として使えれば経費削減になる」。この柔軟な発想で、赤字事業を「コスト解消の手段」として捉え直したのです。
しかし、実務面では思わぬ失敗も経験しました。インターネット回線や警備システムの契約名義変更ができず、一時的にサービスが停止する危機に直面したのです。
個人M&Aでは、法人契約のようにスムーズにインフラが引き継げないことが多々あります。C氏は売り手と協力し、一時的に売り手名義の契約を継続してもらうことでこの危機を回避しました。
「売り手さんの事業を残したいという想いを尊重し、運営方法もそのまま引き継ぎました」。その誠実な対応が信頼を生み、トラブル時の協力体制につながりました。
現在はプロモーションを強化し、黒字化への挑戦も続けています。小規模な赤字案件でも、使い方次第で「宝の山」になる可能性があることを教えてくれる事例です。
ネット回線や警備システム、コピー機などのリース契約といった「インフラ引き継ぎ」は、盲点になりやすい重要ポイントです。事前に名義変更の可否と必要な手続き、切り替えにかかる期間を確認し、引き継ぎスケジュールに余裕を持たせましょう。
また、M&Aは「利益を生む」だけでなく、「既存のコストを消す」という視点を持つことで、検討できる案件の幅が大きく広がります。
「生み出す」ではなく「コスト解消」のM&A!赤字自習室を格安で買収し、オフィス費用を解消
2025年の個人M&A市場動向
今後、個人M&Aを取り巻く環境はどう変化していくのでしょうか。
社会的な課題である「2025年問題」を背景とした市場のトレンドについて解説します。
後継者不在企業の増加による事業承継需要
経営者の高齢化が進み、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に達するとされています(いわゆる2025年問題)。そのうち約半数は後継者が未定とされており、黒字であっても廃業リスクを抱えています。
国もこの状況を危惧し、事業承継税制や事業承継・M&A補助金などの制度を通じて、親族内承継だけでなく第三者への承継も推進しています。これは買い手となる個人にとっては千載一遇のチャンスです。長年地域で信頼を積み重ねてきた優良な事業を、比較的有利な条件で引き継げる可能性が高まっています。
地域や業種によっては、後継者不在のため早期の承継を望む売り手が増えており、条件交渉の余地が広がっている案件も見られます。そのため、意欲ある個人が歓迎される場面も増えています。
スモールM&A(小規模企業買収)の台頭
これまではM&Aといえば数億円規模の話が中心でしたが、近年は数百万円から数千万円程度で取引される「スモールM&A」が急増しています。
これは、個人の新しいキャリアの選択肢として、あるいは副業や脱サラの手段として、リスクを抑えながら事業を持つスタイルが定着しつつあることを示しています。
また、事業承継・M&A補助金(旧:事業承継・引継ぎ補助金)など、M&Aにかかる専門家費用や設備投資の一部を国が補助する制度も設けられています。公募の有無や条件は年度ごとに変わるため、最新情報を確認しながら活用を検討するとよいでしょう。
近年は、個人による小規模買収が活発になり、会社員の副業や独立の一つの選択肢として認知が広がっています。今後もこうした動きは続くと見込まれます。
個人M&Aの失敗に関するよくある質問
最後に、個人M&Aを検討している方からよく寄せられる疑問について、一問一答形式で回答します。
個人M&Aの実際の失敗率は?
正確な公的統計はありません。業種や規模、買い手の経験によって結果は大きく異なるため、一律の失敗率を示すことはできません。
ただ、準備不足のまま挑んだ場合や、PMI(統合プロセス)がうまくいかなかった場合に、期待通りの成果が出ないケースが多いといわれています。
しかし、これまで述べてきたような適切なデューデリジェンスとPMIを丁寧に行えば、そのリスクは大幅に下げることができます。「リスクがあるからやめる」のではなく「失敗しないやり方で挑む」ことが重要です。
仲介会社を使わずに失敗を防ぐことは可能か?
理論上は可能ですが、現実的には非常にリスクが高まります。契約書の作成や条件交渉には、高度な法務・財務・税務の専門知識が不可欠だからです。もし仲介会社を使わない場合でも、少なくとも契約書のチェックやデューデリジェンスの段階では、スポット契約で弁護士や公認会計士などの専門家の支援を受けることを強く推奨します。
買収後に簿外債務が発覚した場合の対応方法は?
最終譲渡契約書に「表明保証条項(売り手が財務内容に嘘がないことを保証する条項)」が入っていれば、契約違反として売り手に損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、相手に支払い能力がなければ回収できないリスクもあります。発覚した時点で直ちに弁護士へ相談し、法的措置を含めた対応を検討してください。
20代や若年層でも個人M&Aは成功できるか?
十分に可能です。M&Aの成功に年齢は関係ありません。むしろ、体力があり、新しい技術やトレンドに敏感な若年層のほうが、旧態依然とした業界に革新をもたらし、事業を再生させた成功事例が多数あります。重要なのは年齢ではなく、事前の準備量と熱意、そして素直に学ぶ姿勢です。
個人事業主から法人化して買収する場合の有利性は?
法人化(株式会社などを設立)して買収主体となることで、取引先や金融機関からの信用を得やすくなり、融資の検討対象になりやすい傾向があります。
また、役員報酬を経費にできるなど、税制面のメリットもあります。ただし、法人格があるからといって必ず融資が受けられるわけではない点には注意が必要です。
買収規模や将来の事業展開によっては、最初から法人化(または買収後に法人化)を検討すべきでしょう。
「後継者のいない会社を買う」場合の特有のリスクは?
創業社長のカリスマ性や個人的な人脈で持っていた会社の場合、社長交代とともに顧客が離れてしまうリスクがあります。これを防ぐためには、引継ぎ期間を長めに設け、前社長と一緒に顧客を回って信頼を繋ぐ作業が不可欠です。従業員や顧客との信頼関係をどう引き継ぐかが最大の課題となります。
まとめ
個人M&Aは、あなたの人生を劇的に変える大きなチャンスである一方で、一歩間違えれば甚大なダメージを負うリスクも伴う挑戦です。
しかし、本記事で繰り返し解説した通り、失敗の原因は「準備不足」「調査不足」「慢心」といった、予測可能で回避可能な要素に集約されます。
成功への鍵は、以下の3点に集約されます。
- 徹底的なデューデリジェンス:コストを惜しまず専門家の目を入れ、見えないリスクを洗い出し、事実に基づいて判断すること。
- 誠実な信頼関係構築:従業員や取引先、そして売り手経営者をリスペクトし、丁寧な対話を通じて信頼のバトンを受け取ること。
- 客観的な自己分析と学習:自身の経営能力や資金力を冷静に見極め、不足している部分を専門家の活用や学習で補う努力を怠らないこと。
これらを着実に実行すれば、個人M&Aは決してイチかバチかの博打ではありません。
正しい知識と信頼できるパートナーを持ち、慎重かつ大胆に挑戦することで、ぜひ理想の事業承継を実現してください。あなたの勇気ある一歩が、地域経済を支え、あなた自身の未来を切り拓くことにつながります。
そうした挑戦をする方を、心から応援しています。