建設業のM&A完全ガイド|相場・流れ・建設業許可・資格・経営事項審査の注意点を解説
建設業のM&Aについて、相場や売却価格の考え方、具体的な進め方の流れをわかりやすく解説。建設業許可や資格要件、経営事項審査、未成工事の扱いなど、建設業特有の実務上の注意点も網羅的に紹介します。
- 02 業種ごとの特徴― 建設業M&Aにおける業種別の評価ポイント
- 建設・土木・建築分野の特徴
- リフォーム・内装工事分野の特徴
- 設備工事・電気工事分野の特徴
- 設計・測量・地質調査分野の特徴
- 業種特性がM&A条件に与える影響
- 03 建設業のM&Aの相場・売却価格の決まり方― 建設業M&Aにおける評価の考え方
- 建設業M&Aの相場感と基本的な考え方
- コストアプローチによる評価
- インカムアプローチによる評価
- マーケットアプローチによる評価
- 建設業ならではの評価ポイント
- 相場を正しく理解するために重要な視点
- 06 建設業のM&Aの流れ― 建設業特有の実務を踏まえた進め方
- STEP1:売却・買収の目的を整理する
- STEP2:案件探し/買い手探し・マッチング
- STEP3:交渉開始・秘密保持契約(NDA)
- STEP4:基本合意
- STEP5:デューデリジェンス(詳細調査)
- STEP6:最終契約の締結
- STEP7:クロージング・引き継ぎ(PMI)
- 07 建設業のM&A成功のポイント― 失敗を防ぎ、価値を最大化するための視点
- 人材と組織の引き継ぎを最優先に考える
- 建設業許可・資格要件を確実に維持する
- 建設DXと働き方改革を成長機会に変える
- PMI(引き継ぎ・統合)を丁寧に進める
- 08 建設業のM&Aに際しての注意点― 許可・法令・制度面で見落としやすいポイント
- 建設業許可の承継に関する注意点
- 経営管理責任者・専任技術者に関する注意点
- 経営事項審査・公共工事への影響
- 未成工事・会計処理に関する注意点
- 制度面を軽視しないことがM&A成功につながる
建設業は、日本の社会インフラを支える重要な産業である一方で、人材不足や経営者の高齢化、2024年問題、資材価格高騰など、複数の課題に直面しています。こうした環境の変化を受け、事業の将来や承継について悩む建設会社の経営者も少なくありません。
近年、これらの課題に対する現実的な選択肢として注目されているのが、建設業のM&A(合併・買収)です。M&Aは、単なる会社売却ではなく、建設業許可や人材、施工実績、取引関係を次の担い手へ引き継ぎ、事業を存続・発展させていくための手段として活用され始めています。
一方で、建設業のM&Aには、一般的な企業M&Aとは異なる注意点が多く存在します。
建設業許可や資格要件、経営事項審査、未成工事の扱いなど、制度や実務を正しく理解していなければ、M&A後に事業継続が難しくなるリスクもあります。そのため、「相場はどのくらいなのか」「どのような流れで進めるのか」「何に注意すべきなのか」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、建設業の現状や業種ごとの特徴を整理したうえで、建設業M&Aの相場や売却価格の考え方、進め方の流れ、メリット・デメリット、そして建設業許可や経営事項審査などの実務上の注意点までを網羅的に解説します。
M&Aを具体的に検討している方はもちろん、将来に備えて情報収集を始めたい経営者の方にも参考にしていただける内容です。
建設業の現状
建設業界の現状と市場環境
建設業は、日本の社会インフラを支える基幹産業として、建設・土木・建築分野を中心に、公共工事・民間工事の双方で重要な役割を担っています。近年では、建設業の現状や将来性に関心を持つ経営者も増えており、建設業 M&Aに関する情報を探す動きも活発になっています。
一方で、建設業界は現在、大きな構造変化の局面にあります。
その代表的な課題が、2024年問題(建設業)です。
働き方改革関連法の適用により、時間外労働の上限規制が導入され、これまでの長時間労働を前提とした事業運営が見直しを迫られています。
この影響により、人材不足がさらに深刻化し、受注があっても施工体制を確保できない、工期調整が難しいといった課題を抱える企業も増えています。特に中小建設会社では、経営者自身が現場を支えてきたケースも多く、経営と施工の両立が限界に近づいている状況が見られます。
建設業におけるデジタル化の遅れと生産性課題
建設業界では長年、デジタル化の遅れが課題として指摘されてきました。工程管理や原価管理、設計・積算業務が紙やExcelに依存しており、業務が属人化しやすい構造となっています。
このような環境は、生産性向上を妨げる要因となり、若手人材の確保や定着にも影響を与えています。
近年は、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が強調されていますが、導入コストやIT人材不足を理由に、対応が進んでいない企業も少なくありません。
具体的に、現場では次のような課題が生じています。
- 工程・原価の進捗をリアルタイムで把握できない
- 見積・積算業務が特定の担当者に依存している
- 現場と事務所間の情報共有に時間がかかる
これらの課題を放置したままでは、今後の競争力維持が難しくなる可能性があります。
資材価格高騰が建設業の収益構造に与える影響
建設業の経営環境を語るうえで欠かせないのが、資材価格高騰の影響です。<原材料費や燃料費の上昇により、工事原価が想定以上に膨らみ、利益率が低下するケースが増えています。
特に請負工事では、価格転嫁が難しい場合、受注時点では黒字見込みであっても、実際には利益が出ないケースもあります。
その結果、未成工事支出の増加やキャッシュフローの悪化につながるリスクが高まっています。
このような状況は、経営の安定性を損ない、将来的な投資や人材確保を難しくする要因にもなっています。
官民需要と今後の成長分野
厳しい経営環境が続く一方で、建設業には中長期的に安定した需要も存在しています。その代表例が、国土強靭化政策に基づくインフラ整備や老朽化対策です。
道路、橋梁、上下水道といった社会インフラは更新期を迎えており、官民を問わず一定の工事需要が見込まれています。
また、近年は再エネ関連工事への関心も高まっています。太陽光発電設備や蓄電池、環境配慮型設備の導入など、新たな工事分野が広がりつつあります。
これらの分野に対応できる技術や人材を有する企業は、将来的にも高い評価を受けやすい傾向にあります。
建設業界でM&Aが注目される理由
こうした複合的な課題を背景に、建設業界では業界再編の動きが徐々に進んでいます。
人材不足、後継者不在、制度対応の難しさといった課題を、単独で解決することが難しくなっているためです。
その解決策の一つとして注目されているのが、建設業のM&Aです。M&Aは、単なる会社売却ではなく、建設業許可や人材、技術、取引関係を次世代へ引き継ぐための手段として活用され始めています。
特に中小建設会社にとっては、M&Aを通じて事業を存続させ、従業員や取引先を守るという選択肢が、現実的かつ前向きな経営判断となりつつあります。
業種ごとの特徴― 建設業M&Aにおける業種別の評価ポイント
建設業のM&Aを検討する際には、業種ごとの事業特性を正しく理解することが欠かせません。
建設業は一括りにされがちですが、実際には業種によって収益構造や人材要件、評価ポイントが大きく異なります。
この章では、建設業M&Aにおいて特に対象となりやすい主要業種について、その特徴とM&A上のポイントを整理します。
建設・土木・建築分野の特徴
建設・土木・建築分野は、建設業の中核を担う領域であり、公共工事と民間工事の双方に関わるケースが多いのが特徴です。特に公共工事を受注する企業では、経営事項審査の点数や過去の施工実績が、事業価値を大きく左右します。
公共工事比率が高い企業は、受注の安定性が評価されやすい一方で、制度対応や書類管理の負担も大きくなります。
M&Aにおいては、これまでの実績だけでなく、今後も安定して受注を継続できる体制が整っているかが重要な判断材料となります。
この分野で特に重視されるポイントとしては、次のような点が挙げられます。
- 経営事項審査の点数とその推移
- 官民工事の受注バランス
- 技術者や現場監督の配置状況
これらが安定している企業は、M&A市場においても比較的評価されやすい傾向にあります。
リフォーム・内装工事分野の特徴
リフォームや内装工事は、主に民間需要を中心とした業種であり、地域密着型の事業モデルが多いのが特徴です。個人住宅や店舗改修など、比較的小規模な工事を数多く手がける企業も少なくありません。
この分野では、公共工事のような制度評価よりも、顧客基盤やブランド力、職人の定着率が事業価値に大きく影響します。リピーターや紹介による受注が多い企業ほど、M&A後も売上が安定しやすい傾向があります。
M&Aにおいて確認すべき主なポイントとしては、次のような点があります。
- 顧客層の広がりとリピート率
- 職人・施工担当者の定着状況
- 営業活動が属人化していないか
特定の経営者や営業担当に依存している場合、その引き継ぎ体制が重要な論点となります。
設備工事・電気工事分野の特徴
設備工事や電気工事分野は、建設業の中でも特に専門性が高く、資格者の存在が事業継続の前提条件となる業種です。
電気工事士や管工事施工管理技士など、有資格者が在籍していなければ、工事を請け負うことができません。
そのため、M&Aにおいては、専任技術者や資格者が誰で、今後も継続して在籍するのかが非常に重要なポイントとなります。資格者が経営者本人のみというケースでは、売却後の体制構築が課題となることもあります。
この分野で特に確認すべき点としては、次のような事項があります。
- 有資格者の人数と配置状況
- 専任技術者・経営管理責任者の要件充足状況
- 特定分野(再エネ関連工事など)への対応力
近年は、再エネ関連工事の需要増加により、対応実績を持つ企業が注目される傾向も見られます。
設計・測量・地質調査分野の特徴
設計、測量、地質調査といった分野は、施工を伴わないケースも多く、技術者の専門性が事業価値の中核を占める業種です。高い技術力や経験が求められるため、業務が属人化しやすい傾向があります。
この分野では、M&A後に技術者が離職してしまうと、事業そのものが成立しなくなるリスクがあります。そのため、キーパーソンの引き継ぎや、技術の共有体制が整っているかどうかが重要な評価ポイントとなります。
具体的には、次のような点を確認する必要があります。
- 技術者の年齢構成と後継人材の有無
- 業務マニュアルやノウハウの共有状況
- 特定顧客や特定案件への依存度
安定した組織体制を築けている企業ほど、M&A後のリスクは低くなります。
業種特性がM&A条件に与える影響
このように、建設業では業種によって、M&Aにおける評価軸やリスクが大きく異なります。
そのため、売り手・買い手双方にとって、自社の業種特性を正しく理解したうえでM&Aを検討することが重要です。
業種特性を踏まえた検討ができていない場合、M&A後に想定外の問題が発生する可能性もあります。
逆に、業種ごとの強みを明確にできれば、より納得感のある条件でのM&Aにつながりやすくなります。
建設業のM&Aの相場・売却価格の決まり方― 建設業M&Aにおける評価の考え方
建設業のM&Aを検討する際、多くの経営者が最も関心を持つのが「いくらで売れるのか」「どのように売却価格が決まるのか」という点です。
ただし、建設業のM&Aにおける売却価格は、単純に売上や利益だけで決まるものではありません。
この章では、建設業M&Aにおける相場感や、売却価格がどのような考え方で算定されるのかについて、実務の視点から整理します。
建設業M&Aの相場感と基本的な考え方
建設業のM&Aでは、IT企業などのように高い成長倍率が付くケースは多くありません。
一方で、安定した受注基盤や人材、許可を持つ企業は、堅実な評価を受ける傾向にあります。
相場を考える際には、次の点を前提として理解しておくことが重要です。
- 利益水準が低めでも、事業継続性が評価される
- 人材・許可・実績といった無形資産の影響が大きい
- 業種や地域によって評価の幅が出やすい
そのため、「建設業だから安くしか売れない」と一概に判断するのではなく、自社の強みをどのように評価してもらうかが重要となります。
コストアプローチによる評価
コストアプローチは、企業が保有する純資産を基準に評価する方法です。
貸借対照表上の資産から負債を差し引いた金額をもとに、事業価値を算定します。
建設業では、コストアプローチが用いられる場面も少なくありません。その理由として、建設機械や車両、土地建物など、目に見える資産を保有している企業が多い点が挙げられます。
コストアプローチを用いる際に特に注意すべきポイントとしては、次の点があります。
- 資産が簿価と実態価値で乖離していないか
- 建設機械や車両の老朽化状況
- 未成工事支出や在庫の評価方法
コストアプローチは分かりやすい一方で、将来の収益力を十分に反映できないという側面もあります。そのため、他の評価手法と組み合わせて用いられることが一般的です。
インカムアプローチによる評価
インカムアプローチは、将来生み出される収益を基準に事業価値を評価する方法です。
建設業M&Aでは、将来のキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて評価します。
この方法では、次のような点が重視されます。
- 安定した受注残高があるか
- 継続的な利益を生み出せる体制が整っているか
- 経営者や特定人材への依存度が高すぎないか
特に、公共工事の実績や長年の取引先を持つ企業は、将来の収益見通しが立てやすく、インカムアプローチで評価されやすい傾向があります。
一方で、資材価格高騰の影響や人件費上昇など、不確定要素も多いため、収益予測は慎重に行う必要があります。
マーケットアプローチによる評価
マーケットアプローチは、過去の類似M&A事例を参考にして、事業価値を算定する方法です。
同じ建設業であっても、業種や規模、地域によって取引条件は大きく異なります。
マーケットアプローチでは、次のような情報が参考にされます。
- 同業種・同規模のM&A事例
- 地域性や受注構造の類似性
- 取引時の市況や業界動向
この手法は、市場感覚に近い評価ができる一方で、完全に同じ条件の事例が存在しないという課題もあります。そのため、あくまで参考値として用いられることが一般的です。
建設業ならではの評価ポイント
建設業のM&Aでは、一般的な企業評価に加えて、業界特有の視点が加味されます。
売却価格に影響を与えやすいポイントとしては、次のようなものがあります。
- 建設業許可の種類と更新状況
- 経営事項審査の点数と推移
- 経営管理責任者・専任技術者の体制
- 官民工事の受注バランス
- 再エネ関連工事など成長分野への対応力
これらの要素は、財務諸表だけでは判断できないため、M&Aにおいて特に丁寧に確認されます。
相場を正しく理解するために重要な視点
建設業のM&Aでは、「相場はいくらか」という問いに明確な正解があるわけではありません。
重要なのは、自社の状況や強みを踏まえたうえで、どのような評価軸で見られるのかを理解することです。
売却価格だけに目を向けてしまうと、条件や相手選びを誤る可能性があります。
事業の継続性や従業員の将来も含めて、総合的に判断することが、納得感のあるM&Aにつながります。
建設業のM&Aのメリット― 業界再編時代におけるM&Aの価値
建設業のM&Aは、「会社を売る・買う」という単純な行為ではありません。
人材不足、後継者不在、制度対応の難しさといった構造的な課題を抱える建設業において、M&Aは事業を存続・成長させるための有効な経営手段となっています。
この章では、建設業M&Aのメリットについて、買い手側・売り手側それぞれの視点から整理します。
買い手側のメリット
【建設業許可・実績・人材を一括で引き継げる】
建設業に新規参入、または事業拡大を行う際の大きな障壁となるのが、建設業許可の取得や人材確保、施工実績の積み上げです。
これらは短期間で用意できるものではなく、時間とコストがかかります。
M&Aを活用することで、以下のような要素を一括で引き継ぐことが可能です。
- 建設業許可(業種・区分)
- 官民工事を含む施工実績
- 現場を支える技術者・職人
これにより、ゼロから事業を立ち上げる場合と比べて、圧倒的にスピーディーな事業展開が可能となります。
【人材不足・2024年問題への対応が可能】
建設業界では、2024年問題による時間外労働規制の影響で、人材不足がより深刻化しています。
採用市場が厳しさを増す中、必要な人材を新たに確保することは容易ではありません。
M&Aによって既存の組織を引き継ぐことで、次のような効果が期待できます。
- 即戦力となる技術者・現場監督の確保
- 組織的な施工体制の構築
- 働き方改革に対応した人員配置
人材を「集める」のではなく「引き継ぐ」点が、建設業M&Aの大きなメリットです。
【事業エリア・業種の拡大ができる】
建設業では、地域性や業種ごとの専門性が非常に重要です。
M&Aを活用することで、自社単独では時間がかかるエリア展開や業種拡大を、短期間で実現することができます。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
- 地方の建設会社を買収し、施工エリアを拡大
- 電気工事・設備工事など周辺業種を取り込む
- 再エネ関連工事など成長分野への参入
このように、M&Aは中長期的な成長戦略の一環としても有効です。
【建設DX推進の基盤づくりにつながる】
建設業界では、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が今後ますます重要になります。
M&Aを通じて、デジタル化が進んでいる企業や若手人材を取り込むことで、自社のDX推進を加速させることも可能です。
業務プロセスや管理体制の見直しをM&A後に行うことで、生産性向上やコスト削減につながるケースもあります。
売り手側のメリット
【後継者問題を解決し、事業を存続できる】
建設業では、経営者の高齢化と後継者不在が深刻な課題となっています。
親族や社内に後継者がいない場合、事業を続けたくても廃業を選択せざるを得ないケースも少なくありません。
M&Aを活用することで、第三者へ事業を引き継ぎ、次の世代へとバトンを渡すことが可能になります。
これにより、長年築いてきた会社や技術、信用を失わずに済みます。
【従業員・取引先を守ることができる】
建設業の廃業は、従業員や協力会社、取引先にも大きな影響を与えます。
M&Aによって事業を承継すれば、雇用や取引関係を維持したまま事業を継続できる可能性が高まります。
特に、次のような点は売り手側にとって大きなメリットです。
- 従業員の雇用継続
- 協力会社・下請企業との関係維持
- 元請・発注者からの信用維持
社会的責任を果たすという意味でも、M&Aは有効な選択肢となります。
【経営者のリタイア・次の人生設計が可能】
M&Aによって会社を売却することで、経営者はリタイア後の生活資金や、次の人生設計に必要な資金を確保することができます。
長年経営に携わってきた建設会社を、適切に評価してもらえる点は大きな魅力です。
また、引き継ぎ期間を経て段階的に退任することで、無理のない形で経営から離れることも可能です。
【経営基盤の強化につながる場合がある】
買い手企業の資本力やノウハウを活用することで、経営基盤が強化されるケースもあります。
これにより、従業員の処遇改善や設備投資、DX推進などに取り組みやすくなります。
結果として、会社そのものがより安定し、事業の持続性が高まる可能性があります。
建設業M&Aが持つ社会的な意義
建設業のM&Aは、買い手・売り手双方だけでなく、地域社会やインフラ維持の観点からも重要な意味を持っています。
建設会社が適切に引き継がれることは、地域の安全や暮らしを守ることにもつながります。
業界全体が変革期を迎える中で、M&Aは建設業の未来を支える重要な選択肢の一つとなっています。
建設業のM&Aのデメリット― 事前に理解しておくべきリスクと課題
建設業のM&Aは、多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットやリスクも存在します。
これらを十分に理解しないまま進めてしまうと、M&A後に「こんなはずではなかった」と後悔する可能性があります。
この章では、建設業M&Aにおけるデメリットについて、買い手側・売り手側それぞれの視点から整理します。
買い手側のデメリット
【人材流出による事業リスク】
建設業は、人に依存する度合いが非常に高い産業です。
そのため、M&A後に技術者や現場監督、職人が離職してしまうと、事業運営に大きな影響を及ぼします。
特に、経営者交代や組織変更に不安を感じた従業員が退職するケースも少なくありません。
人材流出が起きた場合、次のようなリスクが生じる可能性があります。
- 工事の品質や進捗に支障が出る
- 受注している案件を予定通り進められない
- 発注者や元請からの信用が低下する
このため、買い手側には、M&A後の人材定着に向けた丁寧なコミュニケーションが求められます。
【許可・資格要件に関するリスク】
建設業では、建設業許可や資格者の配置が事業継続の前提条件となります。
M&A後に、経営管理責任者や専任技術者が退職してしまうと、許可要件を満たせなくなるリスクがあります。
特に注意すべき点としては、次のような事項があります。
- 許可要件を満たす人材が特定の個人に集中している
- 資格者が高齢で、今後の継続が不透明
- 後継となる技術者が育っていない
これらのリスクを見落とすと、最悪の場合、事業そのものが継続できなくなる可能性があります。
【未成工事・原価管理に関する想定外の負担】
建設業M&Aでは、未成工事支出や原価管理の実態が、想定以上に複雑なケースもあります。
帳簿上は問題がないように見えても、実際には原価超過や追加工事が発生している場合もあります。
このようなケースでは、M&A後に次のような問題が表面化することがあります。
- 想定していた利益が確保できない
- キャッシュフローが悪化する
- 追加の資金投入が必要になる
デューデリジェンスの段階で、工事ごとの原価や進捗を丁寧に確認することが重要です。
売り手側のデメリット
【経営の自由度が低下する可能性】
M&Aによって会社を譲渡すると、経営の最終的な意思決定権は買い手側に移ります。
そのため、これまで経営者自身の判断で行ってきた経営ができなくなる点は、売り手側にとってデメリットとなり得ます。
特に、売却後も一定期間会社に残る場合、次のような点でストレスを感じることもあります。
- 経営方針や価値観の違い
- 意思決定スピードの変化
- 現場への関与度合いの違い
事前に役割や権限の範囲を明確にしておくことが重要です。
【希望条件で売却できない場合がある】
M&Aでは、必ずしも売り手の希望通りの条件で売却できるとは限りません。
建設業の場合、業績の安定性や人材体制、許可要件の充足状況によって、条件が左右されやすくなります。
たとえば、次のようなケースでは、条件調整が必要になることがあります。
- 人材不足が深刻な場合
- 資材価格高騰の影響で利益が不安定な場合
- 特定の取引先に依存している場合
そのため、現実的な条件設定と柔軟な交渉姿勢が求められます。
【従業員や取引先への説明負担】
M&Aは、経営者だけで完結するものではありません。 売り手側には、従業員や協力会社、取引先への説明という大きな役割が伴います。
説明が不十分な場合、次のような問題が生じる可能性があります。
- 従業員の不安による離職
- 協力会社との関係悪化
- 発注者からの信用低下
そのため、説明のタイミングや内容について、事前にしっかりと準備しておくことが重要です。
デメリットを踏まえたうえでM&Aを進める重要性
建設業のM&Aには、買い手・売り手双方にデメリットが存在します。
しかし、これらのデメリットは、事前の準備と適切な相手選びによって軽減できるものが多いのも事実です。
メリットだけでなく、デメリットも正しく理解したうえで検討することが、後悔しないM&Aにつながります。
信頼できる専門家と連携しながら進めることで、リスクを抑えた意思決定が可能となります。
建設業のM&Aの流れ― 建設業特有の実務を踏まえた進め方
建設業のM&Aは、一般的な企業M&Aと基本的な流れは共通していますが、建設業許可や資格者、未成工事の扱いなど、業界特有の確認事項が多い点が特徴です。
ここでは、建設業M&Aの流れをSTEPごとに整理し、実務上のポイントを解説します。
STEP1:売却・買収の目的を整理する
最初に行うべきことは、なぜM&Aを行うのかという目的を明確にすることです。
目的が曖昧なまま進めてしまうと、相手選びや条件交渉の段階で判断軸がぶれてしまいます。
売り手側の場合、M&Aを検討する背景にはさまざまな事情があります。主な目的としては、次のようなものが挙げられます。
- 後継者不在による事業承継問題の解決
- 2024年問題や人材不足への対応
- 経営者自身のリタイアや事業整理
一方、買い手側では、事業拡大や人材確保といった成長戦略が目的となるケースが多く見られます。
STEP2:案件探し/買い手探し・マッチング
目的が整理できたら、次に行うのが案件探し・買い手探し
建設業のM&Aでは、M&A仲介会社やマッチングプラットフォームを通じて相手を探すケースが一般的です。
マッチングにあたっては、建設業特有の条件を整理しておくことが重要です。具体的には、次のような要素が検討材料となります。
- 業種(建設・土木・電気工事・設備工事など)
- 施工エリアや地域性
- 建設業許可の種類や等級
- 経営事項審査の状況
多くの場合、最初は社名を伏せたノンネーム情報で打診が行われ、関心を示した相手と次のステップへ進みます。
STEP3:交渉開始・秘密保持契約(NDA)
具体的な情報開示に進む前に、秘密保持契約(NDA)を締結します。
建設業のM&Aでは、工事原価や取引先情報、人材情報など、外部に漏れると影響の大きい情報が多く含まれます。
NDA締結後に開示される主な情報としては、次のようなものがあります。
- 財務諸表や工事台帳
- 受注残高や未成工事の状況
- 建設業許可や資格者の情報
この段階から、具体的な条件交渉が始まります。
STEP4:基本合意
条件交渉が一定程度進んだ段階で、基本合意書を締結します。
基本合意書は、最終契約に向けた前提条件を整理するための重要な書類です。
基本合意書には、主に次のような内容が記載されます。
- 想定される譲渡価格
- 譲渡スキーム(株式譲渡・事業譲渡など)
- 独占交渉権の付与
- 今後のスケジュール
建設業の場合、この段階で建設業許可や資格者要件が維持できるかを改めて確認しておくことが重要です。
STEP5:デューデリジェンス(詳細調査)
基本合意後に行われるのが、デューデリジェンス(DD)です。
買い手は、売り手企業の実態を詳細に調査し、リスクを洗い出します。
建設業のデューデリジェンスでは、一般的な財務・法務調査に加えて、次のような点が重点的に確認されます。
- 未成工事支出や原価管理の実態
- 建設業許可・経営事項審査の状況
- 経営管理責任者・専任技術者の体制
- 工事トラブルやクレームの有無
この段階で問題が見つかった場合、条件変更や交渉中止となるケースもあります。
STEP6:最終契約の締結
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終条件に合意できた場合、最終契約(譲渡契約)を締結します。
最終契約書には、M&A成立後のトラブルを防ぐため、詳細な条件が盛り込まれます。
主な契約内容としては、次のような項目があります。
- 最終的な譲渡価格と支払条件
- 譲渡日(クロージング日)
- 表明保証や補償条項
- 引き継ぎや競業避止に関する条件
契約内容は、専門家のチェックを受けながら慎重に確認することが重要です。
STEP7:クロージング・引き継ぎ(PMI)
最終契約締結後、譲渡対価の支払いと事業引き継ぎが行われ、クロージングとなります。
その後は、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ばれる統合・引き継ぎ期間に入ります。
建設業のPMIでは、次の点が特に重要となります。
- 従業員や協力会社への説明とフォロー
- 発注者・取引先への挨拶と関係維持
- 許可・資格・管理体制の再確認
この引き継ぎが円滑に進むかどうかが、M&A成功の成否を大きく左右します。
建設業のM&A成功のポイント― 失敗を防ぎ、価値を最大化するための視点
建設業のM&Aを成功させるためには、価格や条件だけで判断するのではなく、人材・許可・現場運営といった建設業特有の要素を総合的に考慮することが重要です。
この章では、実務の現場で特に重視される成功のポイントを整理します。
人材と組織の引き継ぎを最優先に考える
【技術者・現場監督の定着が成否を分ける】
建設業は、設備や資産よりも
どれだけ立派な許可や実績があっても、現場を回せる人材がいなければ事業は成り立ちません。
M&Aを成功させるためには、次のような視点で人材を捉えることが重要です。
- 誰が現場の中心人物なのか
- その人物が抜けた場合の影響度
- 引き継ぎ後も継続勤務する意向があるか
特に、現場監督やベテラン職人の離職は、事業価値を大きく損なう要因となります。
【従業員への説明とコミュニケーション】
M&Aに対して、従業員が不安を抱くのは自然なことです。
説明不足のまま進めてしまうと、不信感から離職につながるリスクが高まります。
そのため、M&A後には、次のような点を意識したコミュニケーションが求められます。
- 雇用や処遇が大きく変わらないことの説明
- 今後の会社の方向性の共有
- 新しい体制への不安を聞く姿勢
丁寧な説明を重ねることで、組織の安定につながります。
建設業許可・資格要件を確実に維持する
【経営管理責任者・専任技術者の確認】
建設業では、経営管理責任者や専任技術者の存在が、許可維持の前提条件となります。
M&A後にこれらの要件を満たせなくなると、事業継続そのものが困難になります。
そのため、次の点を事前に整理しておくことが重要です。
- 許可要件を誰が満たしているのか
- その人物の継続勤務の可否
- 代替人材や育成計画の有無
資格要件の確認は、M&A検討の初期段階から行うべき重要事項です。
【建設業許可・経営事項審査への影響を把握する】
M&Aのスキームや体制変更によって、建設業許可や経営事項審査に影響が出るケースもあります。
特に公共工事を受注している企業では、
M&A後も安定した受注を維持するためには、制度面への影響を事前に確認しておくことが不可欠です。
建設DXと働き方改革を成長機会に変える
【建設DXをM&A後の改善テーマとする】
建設業界では、デジタル化の遅れが長年の課題となってきました。
M&Aは、業務プロセスや管理体制を見直す絶好のタイミングでもあります。
M&A後に取り組みやすいテーマとしては、次のようなものがあります。
- 工程・原価管理のデジタル化
- 情報共有の効率化
- 属人化した業務の標準化
これらに取り組むことで、生産性向上と人材定着の両立が期待できます。
【2024年問題・働き方改革への対応】
2024年問題により、建設業では長時間労働を前提とした体制の見直しが不可避となっています。
M&A後の統合プロセスにおいて、働き方改革を進めることは、中長期的な競争力強化につながります。
労働環境改善に取り組むことで、次のような効果が期待できます。
- 若手人材の採用・定着
- 現場の負担軽減
- 企業イメージの向上
M&Aを単なる事業承継に終わらせず、成長の機会として活用する視点が重要です。
PMI(引き継ぎ・統合)を丁寧に進める
【引き継ぎ期間を十分に確保する】
建設業のM&Aでは、契約締結後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が極めて重要です。
現場運営や取引関係は、一朝一夕で引き継げるものではありません。
そのため、M&A後には、次のような点を意識した引き継ぎが求められます。
- 現場・取引先への段階的な引き継ぎ
- 売り手経営者からのノウハウ共有
- トラブル発生時の対応フロー整備
時間をかけた丁寧な引き継ぎが、M&A成功の鍵となります。
【取引先・発注者との関係を維持する】
建設業では、元請・発注者・協力会社との信頼関係が事業基盤そのものです。
M&A後もこれらの関係を維持するためには、早期の挨拶や情報共有が欠かせません。
関係者に対して、「これまでと変わらず安心して任せられる会社」であることを示すことが、事業安定につながります。
建設業のM&Aに際しての注意点― 許可・法令・制度面で見落としやすいポイント
建設業のM&Aでは、一般的な企業M&A以上に、許可・法令・制度対応の確認が重要となります。
これらを見落としたままM&Aを進めてしまうと、事業の継続ができなくなる、あるいは想定外のコストや手続きが発生する可能性があります。
この章では、建設業M&Aにおいて特に注意すべき制度・法令面のポイントを整理します。
建設業許可の承継に関する注意点
【建設業許可は自動的に引き継がれない】
建設業は、建設業許可を前提として事業が成り立っています。
M&Aを行えば許可もそのまま引き継げると誤解されがちですが、実際にはスキームによって取り扱いが異なります。
特に事業譲渡の場合、原則として建設業許可は引き継がれず、買い手が新たに許可を取得する必要があります。
この点を理解していないと、次のような問題が生じる可能性があります。
- 一定期間、工事を請け負えなくなる
- 既存の契約に影響が出る
- 事業引き継ぎが大幅に遅れる
M&Aの初期段階から、許可承継の可否を必ず確認しておくことが重要です。
【株式譲渡と事業譲渡で異なる対応】
株式譲渡の場合は、法人そのものを承継するため、建設業許可が継続されるケースが一般的です。
一方、事業譲渡では許可の取り直しが必要となることが多く、スケジュールやコストに大きな違いが生じます。
そのため、M&Aスキームを選択する際には、次の点を総合的に検討する必要があります。
- 許可取得にかかる期間
- 行政との事前協議の必要性
- 引き継ぎ期間中の事業運営方法
価格だけでなく、実務への影響を踏まえた判断が求められます。
経営管理責任者・専任技術者に関する注意点
【要件を満たす人材が退職するリスク】
建設業許可の維持には、経営管理責任者や専任技術者といった要件を満たす人材が必要です。
M&A後にこれらの人材が退職してしまうと、許可要件を満たせなくなるリスクがあります。
特に注意すべきなのは、次のようなケースです。
- 経営者本人が要件を満たしている
- 有資格者が1名のみで代替がいない
- 高齢で継続勤務が不透明
こうした場合には、引き継ぎ期間の設定や後継人材の育成計画が不可欠となります。
【体制変更が許可要件に与える影響】
M&A後の組織再編や役職変更によって、許可要件を満たさなくなるケースもあります。
たとえば、管理者の配置変更や兼務体制の見直しが、要件不充足につながることもあります。
そのため、M&A後の組織体制についても、事前に行政や専門家と相談しながら検討することが重要です。
経営事項審査・公共工事への影響
【経営事項審査の点数変動リスク】
公共工事を受注している建設会社では、経営事項審査(経審)の点数が事業に直結します。
M&Aによる体制変更や財務内容の変化が、経審の点数に影響を与える可能性があります。
特に、次のような点は注意が必要です。
- 自己資本比率の変動
- 技術職員数の増減
- 経営状況分析の結果
点数が下がると、入札機会が減少するリスクもあるため、慎重な確認が求められます。
【官民工事の契約関係の整理】
建設業M&Aでは、官民それぞれの契約関係を正確に整理する必要があります。
公共工事では、契約上の地位承継に制限がある場合もあるため、個別契約ごとの確認が不可欠です。
民間工事についても、発注者との合意が必要となるケースがあるため、引き継ぎ方法を事前に検討しておくことが重要です。
未成工事・会計処理に関する注意点
【未成工事支出の実態把握】
建設業M&Aでは、未成工事支出の内容や進捗状況を正確に把握することが欠かせません。
帳簿上の数字と実態が乖離している場合、M&A後に大きな損失が発生する可能性があります。
特に、原価超過や追加工事が発生していないかを、工事ごとに確認することが重要です。
【会計処理・税務上の論点】
未成工事に関する会計処理や収益認識の方法は、建設業特有の論点です。
処理方法によっては、M&A後に税務上の問題が発生する可能性もあります。
専門家と連携しながら、事前に会計・税務面の整理を行うことが、安全なM&Aにつながります。
制度面を軽視しないことがM&A成功につながる
建設業のM&Aでは、制度や法令の確認を後回しにすると、事業継続に致命的な影響を与えかねません。
価格交渉と同じ、あるいはそれ以上に、制度面の確認が重要です。
許可・資格・制度を正しく理解し、専門家と連携しながら進めることが、安心してM&Aを成功させるための鍵となります。
建設業のM&Aに関するよくある質問
建設業のM&Aは、一般的な企業M&Aと比べて、許可・資格・工事契約などの特殊性があるため、経営者から多くの質問が寄せられます。
この章では、実際によくある質問をもとに、建設業M&Aに関する基本的な疑問を整理します。
Q1. 小規模な建設会社でもM&Aは可能ですか?
はい、小規模な建設会社であってもM&Aは十分に可能です。
建設業のM&Aでは、
特に、次のような特徴を持つ会社は、規模に関係なく評価される傾向があります。
- 建設業許可を保有している
- 技術者や職人が安定して在籍している
- 地域での実績や信用がある
「会社が小さいから売れない」と判断する前に、まずは一度、専門家等に相談してみることが重要です。
Q2. 赤字の建設会社でも売却できますか?
赤字であっても、建設会社のM&Aが成立するケースはあります。
M&Aでは、現在の損益だけでなく、将来的な改善余地や事業の継続性も評価対象となるためです。
たとえば、次のような理由で赤字になっている場合には、前向きに検討されることがあります。
- 一時的な人材不足や外注費増加による赤字
- 資材価格高騰の影響を受けている
- 経営管理や原価管理に改善余地がある
赤字の理由を整理し、説明できる状態にしておくことが重要です。
Q3. 建設業許可はM&A後もそのまま使えますか?
建設業許可の扱いは、M&Aのスキームによって異なります。
株式譲渡の場合は、法人が譲渡されるため、許可が継続されるケースが一般的です。
一方で、事業譲渡の場合には、新たに建設業許可を取得する必要があります。
そのため、事前に次の点を確認しておくことが重要です。
- どのスキームでM&Aを行うのか
- 許可取得にかかる期間
- 引き継ぎ期間中の事業運営方法
許可の扱いは、事業継続に直結するため、慎重な確認が欠かせません。
Q4. 経営管理責任者や専任技術者が退職するとどうなりますか?
経営管理責任者や専任技術者が退職し、要件を満たさなくなると、建設業許可を維持できなくなる可能性があります。
これは、建設業M&Aにおいて特に注意すべきポイントの一つです。
そのため、M&Aを進める際には、次のような点を事前に確認しておく必要があります。
- 要件を満たしている人物は誰か
- 継続勤務の意向があるか
- 代替人材や育成計画があるか
引き継ぎ期間を設けることで、リスクを軽減できるケースもあります。
Q5. M&Aにかかる期間はどれくらいですか?
建設業のM&Aにかかる期間は、案件の内容によって異なりますが、おおむね6ヶ月から1年程度が目安となります。
特に、建設業許可や資格要件が関係する場合には、余裕を持ったスケジュールが必要です。
一般的には、次のような流れで進められます。
- 相手探し・マッチング
- 条件交渉・基本合意
- デューデリジェンス・最終契約
- クロージング・引き継ぎ
早めに準備を始めることで、選択肢も広がります。
Q6. 従業員や取引先には、いつM&Aの話を伝えるべきですか?
従業員や取引先への説明タイミングは、非常に重要な判断ポイントです。
一般的には、基本合意後から最終契約前後のタイミングで、段階的に説明するケースが多く見られます。
説明にあたっては、次の点を意識することが重要です。
• 不確定な情報を早く伝えすぎない
• 雇用や取引条件が大きく変わらないことを説明する
• 今後の体制や方針を丁寧に共有する
特に従業員への説明は、離職リスクを抑えるうえで欠かせません。
Q7. 売却後、経営者はすぐに引退できますか?
売却後の経営者の関与期間は、契約内容によって異なります。
建設業では、現場や取引先との関係性を引き継ぐため、一定期間会社に残るケースが一般的です。
多くの場合、次のような理由から引き継ぎ期間が設けられます。
- 不確定な情報を早く伝えすぎない
- 雇用や取引条件が大きく変わらないことを説明する
- 今後の体制や方針を丁寧に共有する
希望する引退時期がある場合は、事前に整理して交渉することが大切です。
Q8. M&Aを検討するタイミングはいつが適切ですか?
建設業のM&Aは、「限界になってから」ではなく、余力があるうちに検討を始めることが理想的です。
経営状況が安定しているタイミングのほうが、条件面でも有利になりやすくなります。
将来を見据えて、次のような準備を進めておくことが有効です。
- 自社の強みや課題を整理する
- 建設業M&Aの相場感を把握する
- 専門家から情報収集を行う
早めの行動が、後悔しない選択につながります。
まとめ
建設業は、社会インフラを支える重要な産業である一方、2024年問題や人材不足、デジタル化の遅れ、資材価格高騰など、複数の課題が同時に押し寄せる転換期を迎えています。こうした環境の中で、従来と同じ経営手法を続けることが難しくなっている企業も少なくありません。
本記事では、建設業の現状や業種ごとの特徴を整理したうえで、M&Aの相場や売却価格の考え方、メリット・デメリット、具体的な進め方、そして許可や制度面での注意点までを解説してきました。建設業のM&Aは、単なる会社売却ではなく、事業承継や成長戦略の一環として活用できる選択肢であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。 特に、後継者不在に悩む経営者にとっては、M&Aは事業を廃業せずに次の世代へ引き継ぐための有効な手段となります。また、買い手側にとっても、人材や建設業許可、施工実績を一括で引き継ぐことで、事業拡大や業界再編に対応するための現実的な選択肢となります。
一方で、建設業のM&Aには、許可や資格要件、未成工事の扱い、経営事項審査への影響など、業界特有の注意点が多く存在します。
そのため、メリットだけで判断するのではなく、リスクやデメリットも正しく理解したうえで進めることが重要です。
建設業界は今後も変化が続くと考えられます。その中で、自社の未来をどのように描くのか、どのような形で事業を次につないでいくのかを考えることは、経営者にとって避けて通れないテーマです。
M&Aは、その答えの一つとして、前向きに検討する価値のある選択肢といえるでしょう。