警備会社のM&Aとは?相場・認定の継承・売却/買収の流れと注意点を解説
警備会社のM&Aは、後継者不足や人手不足の解決策として増えています。警備業ならではの認定(許認可)の継承、警備員指導教育責任者、欠格事由といった重要論点に加え、相場・売却/買収の流れ・メリット・注意点まで、売り手・買い手の双方にわかりやすく解説します。
「警備員の高齢化が止まらない」「会社を継いでくれる人がいない」——警備業界では今、こうした悩みからM&Aを選ぶ経営者が増えています。警備業は警備業法上の「認定」が必要な許認可ビジネスであり、M&Aには他業種にはない独自の論点があります。
本記事では、警備会社・警備業のM&A(買収・売却・事業承継)の現状と相場、メリット、そして認定の継承・警備員指導教育責任者・欠格事由といった警備業ならではの重要論点を、売り手・買い手の双方の視点からわかりやすく解説します。
後継者不在で会社の将来に悩む警備会社の経営者の方も、警備業への参入・拡大を考える買い手の方も、ぜひ参考にしてください。M&Aの基礎から知りたい方はM&Aの記事もあわせてご覧ください。
警備業でM&Aが増えている背景
まずは、なぜ今これほど警備業のM&Aが活発になっているのか、その背景を見ていきましょう。
警備員の高齢化と深刻な人手不足
警備業界が抱える最大の課題が、警備員の高齢化と人手不足です。警備員の平均年齢は51.6歳と高く、60歳以上が全体の4割を超えているとされ、若手人材の確保が追いついていません。需要は高いのに担い手が増えない構造的な問題が、業界全体に重くのしかかっています。
こうした中、自社単独での人材確保に限界を感じ、より体力のある企業グループに加わることで雇用と事業を守ろうとする経営者が増えています。
参考:警備業の概況|警察庁
経営者の高齢化・後継者不在と業界再編
中小企業全体と同じく、警備業でも経営者の高齢化と後継者不在が深刻です。とくに地方の中小警備会社では後継者問題が顕著で、承継がうまくいかなければ地域の安全を支えてきた企業の廃業につながりかねません。
その有効な選択肢として、M&Aによる第三者承継を選ぶ経営者が増加しています。また、機械警備の導入には多額の投資が必要なことから、規模の拡大を狙う大手・中堅による業界再編も進行中です。同業だけでなく、ビルメンテナンスや介護など異業種からの参入・買収も見られます。
警備ニーズの高まりとDX
一方で、警備の需要自体は底堅く伸びています。インバウンドの回復による空港・商業施設・イベント会場の警備ニーズに加え、防災意識の高まりもあり、警備サービスの市場は拡大基調です。さらに、人手不足を補うためAIカメラやドローン、顔認証システムなどを活用した警備のDX(省人化・効率化)も進んでおり、こうしたノウハウや設備を狙ったM&Aも増えています。
警備会社M&Aの相場・企業価値の考え方
警備会社を売買する際、気になるのが「いくらで取引されるのか」という相場です。警備業ならではの価値の決まり方を押さえておきましょう。
基本は「時価純資産+営業権(のれん)」
中小の警備会社のM&Aでは、「時価純資産+営業権(のれん)」方式で価値を算定するのが一般的です。会社が保有する資産から負債を引いた時価純資産に、将来の収益力を表すのれん(営業権)を上乗せして評価します。営業権は、実態の営業利益の数年分(年買法)を目安にすることが多いです。
あくまで目安であり、最終的な価格は売り手と買い手の交渉で決まります。
警備会社の価値を左右する要素
同じ規模でも、次のような要素によって評価額は大きく変わります。
- 契約の安定性・形態:施設警備(1号)の年間契約のように安定した継続収益があるほど高評価。交通誘導(2号)のスポット契約中心だと変動リスクが見られやすい
- 有資格者・人材:警備員指導教育責任者などの有資格者や、定着した警備員を抱えているか
- 顧客基盤:官公庁・大手企業との取引実績、特定顧客への依存度の低さ
- 機械警備の設備・ノウハウ:機械警備やDX対応の仕組みがあると、買い手にとっての魅力が増す
とくに警備業は「人」と「契約」が価値の源泉です。設備よりも、誰がどんな顧客とどんな契約を結んでいるかが、価格を大きく左右します。
警備会社をM&Aする売り手・買い手のメリット
警備会社のM&Aには、売り手・買い手の双方に大きなメリットがあります。それぞれの立場から見ていきましょう。
売り手(譲渡側)のメリット
後継者問題を解決し、廃業を回避できる
後継者がいなくても、M&Aで意欲ある第三者へ引き継げば、会社を残し、長年築いた顧客や信頼を次の世代へつなげます。地域の安全を支えてきた事業を絶やさずに済みます。
従業員の雇用と取引先を守れる
廃業すれば警備員は職を失いますが、M&Aであれば従業員の雇用を引き継げます。人材確保が難しい警備業では、買い手にとっても既存の警備員は貴重な戦力です。
売却益・個人保証からの解放
事業の対価(創業者利益)を得られるうえ、会社の借入に対する経営者個人の保証を、交渉によって解除できる可能性もあります。引退後の生活資金や次の挑戦の原資にもなります。
買い手(譲受側)のメリット
認定取得済みの事業をすぐに運営できる
警備業を新規に始めるには認定の取得や人材育成に時間がかかります。すでに認定・実績・警備員を持つ会社を引き継げば、すぐに事業を運営できるのが最大の魅力です。
人材・有資格者をまとめて確保できる
人手不足が深刻な警備業では、警備員や警備員指導教育責任者などの有資格者を一度に確保できることは大きな価値があります。採用コスト・育成期間を大幅に短縮できます。
顧客基盤・エリアを獲得し、事業を拡大できる
既存の顧客契約や営業エリアをそのまま獲得でき、自社エリアの深耕や新規エリアへの進出を一気に進められます。ビルメンテナンスや介護など、シナジーを狙った異業種からの参入先としても警備業は注目されています。
警備業M&Aで必ず押さえるべき特有の重要論点
警備業は警備業法に基づく許認可ビジネスのため、他業種にはない独自の確認事項があり、許認可の引継ぎ可否や有資格者の有無が、大きなポイントとなる特徴があります。これらを見落とすと、M&A後に「事業が続けられない」という事態にもなりかねません。
①認定(許認可)の継承——スキームで扱いが変わる
警備業を営むには、事業所を管轄する都道府県公安委員会の「認定」が必要です。この認定をどう引き継ぐかが、M&Aのスキーム選びを左右します。
・株式譲渡:法人格が維持されるため、認定は原則そのまま継続(ただし役員変更の届出・欠格事由の確認は必要)
・事業譲渡:認定は引き継げない。譲受側が自社で認定を保有しているか、新たに取得する必要がある(取得には時間がかかる)
認定の引継ぎに起因して、警備会社のM&Aでは株式譲渡が選ばれることが多い傾向にあります。事業譲渡を選ぶ場合は、買い手がすでに認定を持っているか、認定取得までの空白期間をどうするかを事前に検討しておく必要があります。
②警備員指導教育責任者の確保(キーマンリスク)
警備業では、各営業所に「警備員指導教育責任者」という国家資格者の選任が義務付けられています。この有資格者がいなければ、その営業所は警備業務を続けられません。
そのため、M&A後も有資格者が継続して勤務してくれるかは、極めて重要な論点です。もしキーパーソンがM&Aを機に退職してしまうと、事業の継続そのものが危うくなります。買い手は、有資格者の在籍状況と継続意思を必ず確認し、必要に応じて契約に継続勤務の条件(キーマン条項)を盛り込むなどの対策を取りましょう。機械警備業務管理者など、特定業務に必要な専任資格者についても同様です。
③欠格事由・行政処分歴のチェック
警備業の認定には「欠格事由」が定められており、一定の事由(過去の重大な法令違反や暴力団との関係など)に該当すると認定を受けられません。これは法人の役員にも適用されるため、株式譲渡で経営に加わる買い手側の役員に欠格事由がないかも確認が必要です。
また売り手側についても、過去に行政指導や処分を受けていないか、許認可が適切に更新されているかといったコンプライアンス履歴が、デューデリジェンス(DD)で必ず精査されます。法令違反の履歴は企業の信頼性を大きく損ない、買い手がつかない原因にもなります。日頃から適正な運営を心がけておくことが、いざという時の円滑な承継につながります。
警備会社M&Aの流れ
警備会社のM&Aは、基本的な進め方は他業種と同じですが、許認可の確認という警備業ならではのステップが加わります。全体像を押さえておきましょう。
基本のステップ
警備会社のM&Aは、おおむね次の流れで進みます。
- 準備:譲渡(または買収)の目的・希望条件を整理する
- 相手探し・マッチング:M&Aプラットフォームや支援機関で相手を探す
- 交渉・面談:トップ面談で事業への想いや条件をすり合わせる
- 基本合意・デューデリジェンス:条件に合意し、買い手が買収監査(DD)を実施する
- 最終契約・クロージング:契約を結び、事業と従業員を引き継ぐ
準備から成約まで、一般に半年〜1年程度が目安です。
警備業ならではの手続き(認定の確認・届出)
警備会社のM&Aでは、上記に加えて認定にまつわる手続きが重要になります。株式譲渡の場合は認定がそのまま継続しますが、役員が変わるため公安委員会への変更届出が必要です。事業譲渡の場合は、譲受側が認定を新たに取得する必要があり、その取得期間を見込んでスケジュールを組まなければなりません。どちらのスキームを選ぶかで手続きとスケジュールが変わるため、早い段階で専門家に相談しておくと安心です。
警備業M&Aの注意点・デューデリジェンスのポイント
警備業のM&Aを成功させるために、とくに買い手が注意すべき点と、デューデリジェンス(買収調査)で確認したいポイントを整理します。
有資格者が継続して勤務するかを確認する
前述のとおり、警備員指導教育責任者などの有資格者は事業運営に不可欠です。キーパーソンがM&A後に退職してしまうと、営業所の業務が続けられなくなるおそれがあります。在籍する有資格者の人数・年齢・継続意思を必ず確認し、必要に応じて契約に継続勤務の条件を盛り込みましょう。
労務リスク(未払い残業代など)をチェックする
警備業はシフト勤務や夜勤、長時間労働が多く、未払い残業代などの労務リスクが潜みやすい業種です。こうした簿外債務は、買収後に買い手が負担することになりかねません。労働時間の管理状況や残業代の支払い実態を、デューデリジェンスでしっかり確認することが重要です。
顧客依存度・契約形態を確認する
特定の大口顧客に売上の大半を依存している場合、その顧客との契約が解消されると一気に経営が傾くリスクがあります。顧客の分散状況や、契約が施設警備(1号)の年間契約か、交通誘導(2号)のスポット契約かといった収益の安定性を見極めましょう。安定した継続契約を多く持つ会社ほど、買い手にとって魅力的です。
警備業M&Aの活用パターン
実際の警備業のM&Aでは、たとえば次のようなケースが見られます。自社の状況に近いパターンをイメージしてみましょう。
後継者不在の警備会社を同業へ譲渡(売り手)
地方で施設警備を手がけてきた警備会社の経営者が高齢となり、後継者もいないことから廃業を検討。しかし長年の取引先と警備員の雇用を守りたいと考え、同じエリアで事業拡大を狙う同業の警備会社へ株式譲渡を選択しました。株式譲渡のため認定はそのまま継続し、警備員の雇用も維持。経営者は売却益を得て引退し、事業は新しいオーナーのもとで存続しています。
異業種が警備会社を買収しシナジー(買い手)
ビルメンテナンス業を営む企業が、施設管理と警備をワンストップで提供したいと考え、認定と警備員を持つ警備会社を買収。ゼロから警備業の認定取得や人材育成を行う手間を省き、すぐにサービスを拡充できました。既存のビル管理顧客に警備サービスを提案できるようになり、相互送客のシナジーも生まれています。
警備業M&Aに関するよくある質問(FAQ)
警備会社のM&Aについて、よく寄せられる疑問にお答えします。
警備会社の認定は、M&Aで引き継げますか?
スキームによって異なります。株式譲渡の場合は法人格が維持されるため、認定は原則そのまま継続します(役員変更の届出は必要)。一方、事業譲渡の場合は認定を引き継げないため、譲受側が自社で認定を保有しているか、新たに取得する必要があります。認定を確実に引き継ぎたい場合は、株式譲渡が選ばれることが多いです。
警備員指導教育責任者が辞めたらどうなりますか?
その営業所では警備業務を続けられなくなるおそれがあります。警備員指導教育責任者は各営業所への選任が義務付けられた資格者だからです。M&Aの前に在籍状況と継続して勤務する意思を必ず確認し、契約に継続勤務の条件を盛り込むなどの対策を取っておくことが重要です。
赤字の警備会社でも売却できますか?
はい、赤字でも売却できる可能性は十分にあります。買い手は現在の利益だけでなく、有資格者や警備員、安定した継続契約、顧客基盤、営業エリアといった「事業の価値」を評価します。人手不足が深刻な警備業では、人材や認定を持つ会社そのものに価値があります。まずは自社の強みを整理してみましょう。
警備会社M&Aの相場はどれくらいですか?
「時価純資産+営業権(営業利益の数年分)」がひとつの目安です。ただし警備業では、有資格者や警備員といった「人」と、施設警備の年間契約のような「契約の安定性」が価値の源泉になります。設備よりも、誰がどんな顧客とどんな契約を結んでいるかが価格を大きく左右します。最終的な金額は売り手と買い手の交渉で決まります。
M&Aにはどれくらいの期間がかかりますか?
一般に、準備から成約まで半年〜1年が目安です。小規模な案件で条件が合えば、より短期間で成約することもあります。期間の内訳や短縮のコツは、M&Aにかかる期間の記事で詳しく解説しています。
まとめ|警備業のM&Aは「許認可」と「人」がカギ
警備業のM&Aは、後継者問題の解決や事業拡大の有効な手段として活発になっています。本記事のポイントを振り返ります。
- 警備業は人手不足・高齢化・後継者不在を背景にM&Aが活発化。業界再編や異業種参入も進む
- 相場は「時価純資産+営業権」が目安。価値の源泉は有資格者などの「人」と「契約の安定性」
- 売り手は後継者解決・雇用維持・売却益、買い手は認定取得済み事業の即運営・人材確保が魅力
- 最重要の特有論点は「認定の継承(スキームで扱いが違う)」「警備員指導教育責任者の確保」「欠格事由」
- DDでは有資格者の継続勤務・労務リスク(簿外債務)・顧客依存度を必ず確認する
警備業のM&Aは、許認可(認定)と人材という業種特有の論点を押さえることが成功のカギです。「後継者がいないから廃業するしかない」と諦める前に、M&Aで会社や雇用を残す道を検討してみてください。
警備会社の事業承継・M&Aを検討するなら、事業承継・M&Aプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』の活用がおすすめです。全国の売り手・買い手が登録しており、成約手数料もかかりません。まずはどんな案件があるか見てみることから始めてみましょう。
