フードデリバリー事業のM&Aとは?相場・メリット・注意点をわかりやすく解説
フードデリバリー事業のM&Aについて、業界の現状や売却相場の考え方、買い手・売り手それぞれのメリットと注意点を実務目線で解説。配達事業・ゴーストレストラン・配食サービスの引き継ぎを検討する方に役立つ内容です。
- 02 フードデリバリーのM&Aの相場・売却価格の決まり方
- フードデリバリーM&Aの基本的な価格レンジ
- 売却価格を左右する最大の要素は「継続性」
- プラットフォーム依存度が価格に与える影響
- 配達体制・人材が評価に直結するケース
- ゴーストレストラン・配食事業特有の評価視点
- 赤字でも売却できるケースはある
- 05 フードデリバリーのM&Aの流れ
- STEP1:戦略・目的の整理
- STEP2:案件探し・マッチング
- STEP3:交渉開始・秘密保持契約(NDA)の締結
- STEP4:基本合意の締結
- STEP5:デューデリジェンス(詳細調査)
- STEP6:最終契約締結・クロージング
- STEP7:PMI(引き継ぎ・統合)
- 06 フードデリバリーのM&A成功のポイント
- ① 配達体制の再現性を見極める
- ② プラットフォーム依存度を正しく把握する
- ③ 人手不足を前提にした運営設計を考える
- ④ 高齢者配食・ケータリングなどの拡張性を見る
- ⑤ PMI(引き継ぎ)を重視する
- 07 フードデリバリーのM&Aに際して注意点
- ① プラットフォーム規約・アカウント引き継ぎの可否
- ② 配達員の法的な立場・契約内容
- ③ 配達料・原価構造の変動リスク
- ④ ゴーストレストラン・委託先との契約関係
- ⑤ 法令・安全面の確認
フードデリバリー事業は、コロナ禍による外出制限・自粛をきっかけに急速に普及し、私たちの生活に欠かせないインフラのひとつとなりました。Uber Eatsや出前館といったプラットフォームの拡大に加え、ゴーストレストランや高齢者向け配食サービスなど、多様な形態の事業が生まれています。
一方で、近年は市場の成熟や人手不足、配達料・原価の上昇などを背景に、「事業をどう成長させるか」「この先も続けるべきか」といった経営判断に直面する事業者も増えています。こうした中で注目されているのが、フードデリバリー事業をM&Aによって引き継ぐ、あるいは譲渡するという選択肢です。
フードデリバリーのM&Aは、店舗型ビジネスとは異なり、配送体制や配達員の確保、プラットフォームとの契約関係など、特有の評価ポイントや注意点があります。そのため、単純に売上や利益だけで判断すると、想定外のリスクを抱えることも少なくありません。
本記事では、フードデリバリー業界の現状を踏まえつつ、M&Aの相場感や価格の決まり方、買い手・売り手それぞれのメリットと注意点、実務上押さえておきたいポイントをわかりやすく整理して解説します。
これから事業拡大や事業承継を検討している方にとって、判断材料となる内容をお届けします。
フードデリバリー業界の現状
フードデリバリー業界は、ここ数年で急速に拡大した分野の一つです。
特に大きな転機となったのが、コロナ禍による外出制限や自粛要請でした。飲食店の店内利用が制限される中、「配達」「配送」を前提としたビジネスモデルが一気に社会に浸透し、フードデリバリーは一時的な代替手段ではなく、生活インフラの一部として定着しました。
コロナ禍を契機とした急成長と、その後の変化
2020年以降、Uber Eats、出前館をはじめとするプラットフォームの利用者数・加盟店舗数は急増しました。
飲食店側にとっては、来店客が減少する中で売上を確保する手段としてフードデリバリーが不可欠となり、消費者側にとっても「外出せずに食事を受け取れる」利便性が評価されました。
一方で、外出制限が緩和された現在、業界は「成長期」から「成熟・再編期」へと移行しつつあります。
2023年・2024年の市場規模は依然として大きな水準を維持しているものの、コロナ禍当時のような爆発的成長は落ち着き、収益性・運営効率・事業の持続性が強く問われるフェーズに入っています。
多様化するフードデリバリーモデル
現在のフードデリバリー業界は、単なる飲食店の配達代行にとどまりません。
- ゴーストレストラン(実店舗を持たず、デリバリー専業で運営)
- ケータリングや法人向け配食
- 高齢者向け配食サービス
- FC(フランチャイズ)型のデリバリー専門業態
特に高齢者配食や定期配達型サービスは、少子高齢化や単身世帯の増加といった社会構造の変化と相性が良く、安定した需要を背景に注目されています。
人手不足・配達体制という構造的課題
一方で、業界全体が抱える大きな課題が「人手不足」です。
配達員の確保・定着は容易ではなく、自転車や原動機付自転車を使った配達体制の整備、安全管理、労務管理など、運営負荷は年々高まっています。
国土交通省が公表している「物流を取り巻く動向と物流施策の現状・課題」においても、ラストワンマイル配送を含む人手不足は構造的な問題として指摘されており、フードデリバリー事業も例外ではありません。
配達料の設定や報酬体系、外注・業務委託の活用など、事業者ごとに工夫が求められる状況が続いています。
M&Aが選択肢として浮上する背景
こうした環境の中で、フードデリバリー業界ではM&Aが現実的な選択肢として意識され始めています。
- 単独では収益改善が難しい
- 人材・配達網を自社で維持できない
- プラットフォーム依存からの脱却を図りたい
- エリア拡大や事業多角化を一気に進めたい
特に買い手側から見ると、「すでに稼働している配達体制」「顧客データ」「運営ノウハウ」をまとめて取得できる点は、大きな魅力と言えるでしょう。
フードデリバリーのM&Aの相場・売却価格の決まり方
フードデリバリー事業のM&Aにおける売却価格は、一般的な飲食店や小売業とはやや異なる考え方で評価されます。
理由は明確で、「店舗」よりも「運営体制」や「仕組み」に価値が置かれやすい業態だからです。
フードデリバリーM&Aの基本的な価格レンジ
フードデリバリー事業の売却価格は、規模や形態によって幅がありますが、スモール〜ミドル規模では以下のようなレンジで語られることが多いです。
- 年間営業利益(またはEBITDA)の 1〜3年分
- 月次利益 × 12〜36ヶ月分
- 赤字の場合は「資産+運営価値」を加味した個別評価
特にゴーストレストランや配食サービスなど、設備投資が比較的軽いモデルでは、純粋な利益倍率で評価される傾向が強くなります。
売却価格を左右する最大の要素は「継続性」
買い手が最も重視するのは、「この事業は、引き継いだあとも同じように回り続けるか」という一点です。
そのため、以下のような要素が価格に大きく影響します。
- 売上・利益が特定の時期やイベントに依存していないか
- コロナ禍の一時的需要に偏っていないか
- 配達員・従業員が継続して稼働できる体制か
- 配送エリアや顧客層が安定しているか
2023年・2024年の市場環境では、「コロナ特需後も一定水準を維持できているか」が、価格評価の分かれ目になっています。
プラットフォーム依存度が価格に与える影響
フードデリバリー事業の多くは、Uber Eats、出前館、ロケットナウといった外部プラットフォームに強く依存しています。
この依存度の高さは、売却価格においてプラスにもマイナスにも働く要素です。
- 複数プラットフォームを併用している
- 配達比率や手数料構造を把握・管理できている
こうした事業は、リスク分散ができていると評価されやすくなります。
一方で、
- 特定のプラットフォームへの依存度が極端に高い
- 手数料改定の影響を強く受けている
配達体制・人材が評価に直結するケース
フードデリバリーM&Aでは、配達員・従業員の確保状況が価格に直結するケースも少なくありません。
- 自社雇用か、業務委託か
- 自転車・原動機付自転車の保有・管理状況
- シフト管理や稼働率の安定性
人手不足が慢性化している業界だからこそ、「すでに回っている配達体制」は買い手にとって大きな価値となります。
逆に、オーナー自身が配達の中核を担っている場合は、引き継ぎリスクとして評価が下がりやすくなります。
ゴーストレストラン・配食事業特有の評価視点
ゴーストレストランや高齢者配食などの配食サービスでは、以下の点が特に重視されます。
- 調理・配達オペレーションの標準化
- 原価率と配達料のバランス
- 定期注文・リピート率
単発注文が中心の事業よりも、定期性・継続性のあるモデルの方が、安定収益として高く評価される傾向があります。
赤字でも売却できるケースはある
フードデリバリー事業では、現時点で赤字であってもM&Aが成立するケースがあります。
- エリア展開の足がかりになる
- 配送網や顧客データを取得できる
- 既存事業とのシナジーが見込める
特にFC展開を視野に入れる買い手や、複数事業を束ねる企業にとっては、赤字=不利とは限りません。
フードデリバリーのM&Aのメリット
フードデリバリー事業のM&Aは、「店舗を買うM&A」とは性質が異なります。
場所や内装よりも、オペレーション・人材・仕組み・顧客接点といった無形資産の比重が大きいため、双方にとって独自のメリットがあります。
買い手側のメリット
買い手にとって最大のメリットは、事業立ち上げにかかる時間と試行錯誤を一気に短縮できる点です。
フードデリバリー事業は一見シンプルに見えますが、実際には以下のような地道な調整の積み重ねで成り立っています。
- 需要のあるエリア選定
- 配達動線の最適化
- 配達員や従業員の確保
- プラットフォームごとの運用ノウハウ
M&Aによって既存事業を引き継ぐことで、すでに回っている仕組みをそのまま活用できるのは大きな魅力です。
また、Uber Eatsや出前館、ロケットナウなど複数プラットフォームを横断的に運用している事業であれば、「自社でゼロから試すリスク」を取らずに、市場データや顧客傾向を取り込むことができます。
さらに、以下のような戦略的メリットもあります。
- 既存飲食店・FC事業とのシナジー創出
- ゴーストレストラン展開の足がかり
- 高齢者配食など新分野への参入
- 配送網・人材の内製化によるコスト最適化
特に近年は、人手不足や配達料高騰といった課題があるため、「すでに人とオペレーションがある事業」を買う価値は年々高まっています。
売り手側のメリット
売り手にとっての最大のメリットは、事業を「やめる」ではなく「引き継ぐ」選択ができる点です。
フードデリバリー事業は、24時間稼働・急な欠員対応・クレーム対応など、オーナーの負担が大きくなりがちです。
特に、以下のような理由から、事業の継続に悩むケースは少なくありません。
- 配達員や従業員のマネジメントに疲れた
- コロナ禍後の需要変化に不安がある
- 体力的・時間的な限界を感じている
M&Aを活用すれば、これまで築いてきた顧客基盤や運営ノウハウを、価値として評価してもらった上で次に渡すことができます。
また、黒字・赤字にかかわらず、
- 戦略価値がある
- 仕組みが整理されている
- 引き継ぎ可能な体制がある
さらに、M&A後も一定期間関与する形であれば、
- 従業員・配達員の雇用を守れる
- 取引先や顧客への影響を最小限にできる
- 自身は段階的に事業から離れられる
双方に共通するメリット
フードデリバリーM&Aは、単なる売買ではなく、「既存の仕組みを、より強い運営体制に組み替える」行為とも言えます。
買い手はスピード感を、売り手は納得感を得やすく、条件が合えば、双方にとって合理的な選択肢になりやすいのが、この業態の特徴です。
フードデリバリーのM&Aのデメリット
フードデリバリーのM&Aはスピード感や拡張性が魅力ですが、一方でこの業態特有のリスクも存在します。
ここを理解せずに進めると、「想定と違った」というギャップが生じやすくなります。
買い手側のデメリット
買い手側の最大のデメリットは、収益構造が外部環境に左右されやすい点です。
フードデリバリー事業は、Uber Eatsや出前館といったプラットフォームへの依存度が高く、以下のような要因によって、売上や利益が大きく変動する可能性があります。
- 配達料の改定
- 手数料率の変更
- 表示ロジックの変更
また、配達員や従業員の確保も継続的な課題です。
人手不足が常態化する中で、
- 配達員が定着しない
- 繁忙期に稼働が追いつかない
- 自転車・原動機付自転車の事故リスク
さらに、ゴーストレストランや配食サービスなどは、「場所に縛られない」反面、競合参入が非常に早いという側面もあります。
差別化が不十分な場合、買収後に価格競争へ巻き込まれる可能性も否定できません。
M&A時点で黒字であっても、下記のような要因により、収益性が短期間で悪化するケースもあるため、将来コストを含めた見立てが欠かせません。
- 原材料費の高騰
- 配達料の上昇
- 人件費増
売り手側のデメリット
売り手側のデメリットとして多いのは、事業価値が想定よりも低く評価されやすい点です。
フードデリバリー事業は、設備や不動産といった「目に見える資産」が少なく、評価の中心は次のような無形要素になります。
- 売上の安定性
- 運営ノウハウ
- 人材体制
そのため、下記に該当する場合、引き継ぎリスクが高いと判断され、価格が下がりやすくなります。
- オーナー自身が現場に深く入り込んでいる
- 特定の配達員や従業員に依存している
- 数字が属人的な判断で動いている
また、M&A成立後も一定期間の引き継ぎやサポートを求められることが多く、「売ったらすぐ完全に離れられる」とは限らず、
- 配達ルートや運用の説明
- プラットフォーム管理画面の引き継ぎ
- 従業員・配達員への説明
双方に共通するデメリット
フードデリバリーM&Aは、「数字が合えば成立する」タイプのM&Aではありません。
- 現場が本当に回るのか
- 人が抜けたときに耐えられるか
- 外部環境が変わっても持続できるか
上記のような運営目線での現実的なチェックが欠かせません。
メリットだけでなく、こうしたデメリットを事前に共有し、条件に落とし込めるかどうかが、M&A成功の分かれ道になります。
フードデリバリーのM&Aの流れ
フードデリバリーのM&Aは、飲食店M&Aと共通する部分も多い一方で、配達体制・人員構成・プラットフォーム依存度といった特有の論点があります。
以下では、実務で一般的な流れをSTEP形式で整理します。
STEP1:戦略・目的の整理
最初に行うべきなのは、M&Aを行う目的の明確化です。
買い手側では、下記のような目的によって理想的な案件像が異なります。
- 配達エリアを一気に広げたい
- 配達員や配送ネットワークを確保したい
- ゴーストレストランや高齢者配食など新分野に参入したい
売り手側も、以下のように意向を整理しておくことで、その後の交渉が円滑になります。
- 事業から完全に撤退したい
- 人手不足を解消したい
- FC本部や大手の傘下に入りたい
STEP2:案件探し・マッチング
目的が定まったら、M&Aマッチングプラットフォームや専門家を通じて案件を探します。
フードデリバリー事業は、
- 地域密着型
- 小規模事業者
- 非公開案件
また、Uber Eatsや出前館などの外部プラットフォームを利用している場合、その契約関係も確認しながら検討を進めます。
STEP3:交渉開始・秘密保持契約(NDA)の締結
興味のある案件が見つかったら、まずは秘密保持契約(NDA)を締結します。
フードデリバリーでは、
- 売上構成
- 配達員数
- 配達料の設定
- 取引先や委託先
NDA締結後、具体的な数値や運営体制についての情報開示が行われます。
STEP4:基本合意の締結
一定の条件整理が進んだ段階で、基本合意書(LOI)を締結します。
ここでは、以下のような内容が整理されます。
- 譲渡スキーム(事業譲渡/会社譲渡)
- 概算の譲渡価格
- スケジュール
- 独占交渉期間
フードデリバリーM&Aでは、配達員の引き継ぎ条件や契約形態についても、この段階で方向性を確認しておくことが重要です。
STEP5:デューデリジェンス(詳細調査)
基本合意後に行われるのが、デューデリジェンス(DD)です。
以下のような内容を主に確認していきます。
- 売上の実態(プラットフォーム別)
- 配達員・従業員の雇用関係
- 車両(自転車・原動機付自転車)の管理状況
- 労務リスクや法令遵守状況
特に配達員の契約形態(業務委託・アルバイト等)は、買収後のリスクに直結するため慎重に確認されます。
STEP6:最終契約締結・クロージング
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終条件を確定し最終契約書を締結します。
契約締結後、
- 譲渡代金の決済
- 事業資産や契約の引き渡し
- アカウント・運営権限の移行
STEP7:PMI(引き継ぎ・統合)
クロージング後は、PMI(Post Merger Integration)のフェーズに入ります。 フードデリバリーでは、以下のような対応が特に重要です。
- 配達員への周知
- 運営フローの統一
- 配達品質や対応スピードの維持
ここでの対応次第で、売上の維持・成長が大きく左右されるため、M&Aは「買って終わり」ではないという意識が不可欠です。
フードデリバリーのM&A成功のポイント
フードデリバリーのM&Aを成功させるためには、単に「売上があるか」「黒字かどうか」だけを見るのでは不十分です。
配達というオペレーションを含む事業特性上、人・仕組み・外部環境をどう引き継ぎ、成長につなげるかが成否を分けます。
① 配達体制の再現性を見極める
フードデリバリー事業の価値は、安定した配達体制が再現できるかに大きく左右されます。
- 配達員は十分に確保されているか
- 特定のベテラン配達員に依存していないか
- 自転車・原動機付自転車などの稼働状況や維持管理は適切か
② プラットフォーム依存度を正しく把握する
Uber Eats、出前館、ロケットナウなど、外部プラットフォームへの依存度は慎重に確認すべきポイントです。
- どのプラットフォームに、どれくらい売上を依存しているか
- 配達料や手数料の変動リスク
- アカウントや契約の引き継ぎ可否
これらを整理し、買収後も同条件で運営できるかを確認しておくことで、想定外の売上減少を防ぐことができます。
③ 人手不足を前提にした運営設計を考える
フードデリバリー業界では、慢性的な人手不足が続いています。
そのため、買い手は「今の人員で回っているか」だけでなく、以下のような中長期視点での運営可能性を検討する必要があります。
- 今後人が減った場合でも対応できるか
- 業務委託・アルバイト比率は適切か
- 報酬体系が競争力を保てるか
④ 高齢者配食・ケータリングなどの拡張性を見る
成功している案件ほど、単なるフードデリバリーに留まらない拡張性を持っています。
- 高齢者向け配食サービス
- 企業向けケータリング
- ゴーストレストランとの連携
⑤ PMI(引き継ぎ)を重視する
フードデリバリーM&Aでは、PMIの出来不出来が売上に直結します。
- 配達員への丁寧な説明と不安解消
- 業務フローやルール変更の段階的実施
- サービス品質を落とさない体制づくり
これらを意識することで、買収後の離脱やクレームを防ぎ、事業価値を維持・向上させることができます。
フードデリバリーのM&Aに際して注意点
フードデリバリー事業は、比較的シンプルに見える一方で、M&A後に問題が顕在化しやすい業態でもあります。
成功のポイントとあわせて、以下の注意点を事前に押さえておくことが重要です。
① プラットフォーム規約・アカウント引き継ぎの可否
Uber Eats、出前館、ロケットナウなどのデリバリープラットフォームは、名義変更や事業譲渡に関する規約が厳格な場合があります。
- アカウントが譲渡可能か
- 再審査や再登録が必要か
- 条件変更(手数料率・配達エリア)が発生しないか
これらを事前に確認せずに進めると、M&A後に一時的に受注停止となるリスクがあります。
② 配達員の法的な立場・契約内容
配達員が「従業員」なのか「業務委託」なのかによって、引き継ぎ時の対応は大きく変わります。
- 雇用契約の引き継ぎが必要か
- 社会保険や労務管理の引き継ぎは問題ないか
- 業務委託契約の再締結が必要か
人手不足の業界だからこそ、引き継ぎ時の条件変更が離脱につながりやすい点には注意が必要です。
③ 配達料・原価構造の変動リスク
フードデリバリー事業は、配達料・人件費・燃料費などの影響を強く受けます。
- 配達料は固定か、変動か
- 自転車・原動機付自転車の維持費や保険料
- インフレや最低賃金引き上げの影響
現時点で黒字であっても、コスト構造が脆弱な場合は、買収後に利益が急減する可能性があります。
④ ゴーストレストラン・委託先との契約関係
ゴーストレストランや外部委託先と連携している場合、その契約内容も重要です。
- 契約期間と解約条件
- 事業譲渡時の承諾要否
- 品質管理や責任範囲
これらを把握していないと、M&A後に提携が解消され、売上が落ちるケースもあります。
⑤ 法令・安全面の確認
配達に自転車や原動機付自転車を使用する場合、交通ルールや安全管理の体制も確認が必要です。
- 保険加入状況
- 事故発生時の対応フロー
- 国土交通省が示す物流施策・安全指針への対応
コンプライアンス面の不備は、事業継続リスクそのものにつながります。
フードデリバリーM&Aでは、「売上が立っているか」よりも「同じ条件で続けられるか」「想定外の停止リスクはないか」を丁寧に確認することが、失敗を避ける最大のポイントです。
国土交通省 物流分野における情報セキュリティ確保に係る安全ガイドライン
よくある質問
Q1. フードデリバリー事業は小規模でもM&Aできますか?
はい、可能です。
フードデリバリーは、実店舗を持たないゴーストレストランや小規模な配達体制でも成立するビジネスのため、月商が小さくてもM&Aの対象になりやすい業態です。
特に、特定エリアで安定した注文数がある、特定ジャンルに強みがあるといったケースでは、スモールM&Aとして十分に成立します。
Q2. Uber Eatsや出前館のアカウントは引き継げますか?
事業譲渡の場合、原則として、アカウントそのものの名義引き継ぎはできないケースが多いです。
ただし、以下のような形で実質的な引き継ぎが行われることはあります。
- 店舗情報・運営ノウハウの引き継ぎ
- 新名義での再登録を前提としたサポート
- レビュー・評価を活かすための段階的移行
そのため、M&Aの際にはプラットフォーム規約を必ず確認し、契約条件に織り込むことが重要です。
Q3. 配達員(従業員・業務委託)は引き継げますか?
ケースバイケースですが、引き継げる可能性はあります。
特に業務委託の配達員の場合は、
- 稼働条件
- 報酬体系
- シフトの柔軟性
買収後に条件が大きく変わると離脱リスクが高まるため、事前に合意形成をしておくことが成功のポイントになります。
Q4. ゴーストレストランでも売却できますか?
はい、ゴーストレストランはフードデリバリーM&Aの中でも代表的な対象です。
特に評価されやすいのは、
実店舗がない分、立地リスクが小さく、再現性の高い事業として評価されやすい点が特徴です。
Q5. フードデリバリー事業の売却価格は何を基準に決まりますか?
売却価格は、以下の要素を総合的に見て決まります。
- 月商・営業利益
- 注文数・リピート率
- 配達エリアの強さ
- 人件費・配達料のバランス
- 将来の成長余地(高齢者配食・ケータリング等)
特に買い手は、「今の利益」だけでなく「改善すれば伸びるか」を重視しています。
Q6. コロナ禍が落ち着いた今でも、フードデリバリーは売れますか?
売れます。ただし見られ方は変わっています。
コロナ禍の一時的な需要増ではなく、
- 日常利用として定着しているか
- 高齢者配食・法人向け配食などの需要があるか
- ゴーストレストランなど固定費の低い運営か
Q7. M&A後、すぐに運営を引き継げるものですか?
多くの場合、一定期間の引き継ぎ(PMI)期間を設けるのが一般的です。
レシピ、仕入先、配達オペレーション、プラットフォーム対応など、実務は細かいため、
- 1〜3か月程度の引き継ぎ期間
- 売り手のサポートを条件にした契約
まとめ|フードデリバリーM&Aは「仕組み」と「継続性」を引き継ぐ選択肢
フードデリバリー業界は、コロナ禍による外出制限・自粛を契機に急拡大し、その後もライフスタイルの変化や人手不足、共働き世帯の増加、高齢者向け配食ニーズなどを背景に、安定した需要を持つ市場へと成長しました。
Uber Eatsや出前館といったプラットフォームの普及により、ゴーストレストランや小規模事業者でも参入しやすい環境が整っています。
こうした中で注目されているのが、フードデリバリー事業のM&Aです。
店舗や設備を持たない、あるいは最小限に抑えた事業形態であっても、運営ノウハウ、配達体制、集客チャネル、スタッフや配達員の確保状況といった「仕組み」が評価され、事業として引き継がれるケースが増えています。
買い手にとっては、ゼロから事業を立ち上げるよりも、既存のモデルを引き継ぎ、改善や拡張を図ることで、初期リスクを抑えながら成長を目指せる点が大きな魅力です。
一方、売り手にとっても、事業を閉じるのではなく、次の担い手へ引き継ぐことで、これまで築いてきた価値を活かすことができます。
もっとも、プラットフォーム規約の引き継ぎ、配達員・従業員の扱い、法令対応、契約関係の整理など、フードデリバリー特有の注意点も少なくありません。
そのため、事前の情報整理と、条件を明確にしたうえでの慎重な交渉が、M&A成功の鍵となります。
フードデリバリーM&Aは、もはや一部の大手企業だけのものではありません。
小規模であっても、継続性のある仕組みを持つ事業であれば十分に成立する選択肢です。
自ら次の成長を目指すために、あるいは事業を未来へつなぐために、M&Aという手段を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。