学習塾M&Aの実務ガイド|売却価格・流れ・注意点をわかりやすく解説
学習塾のM&Aを検討する方向けに、売却価格の考え方や相場、具体的な流れ、注意点を実務目線で解説。少子化・DXが進む学習塾業界における、売り手・買い手双方が押さえるべきポイントをわかりやすくまとめました。
- 01 学習塾業界の現状
- 少子化がもたらす市場構造の変化
- 業態の細分化と競争の激化
- FC本部と加盟教室の関係性の変化
- DX・デジタル化・EdTechの進展
- 教室の賃貸借契約と事業継続性
- 学習塾業界でM&Aが注目される理由
- 02 学習塾のM&Aの相場・売却価格の決まり方
- 学習塾M&Aの基本的な価格レンジ
- 価格算定の基本は「収益力」
- 属人性が価格を大きく左右する
- 業態ごとの評価の違い
- FC加盟教室・FC本部の場合の注意点
- 教室の賃貸借契約が価格に与える影響
- 少子化時代でも価格が伸びる塾の共通点
- 売却価格は「交渉」で決まる
- 05 学習塾のM&Aの流れ
- STEP1:戦略・目的の整理
- STEP2:案件探し・マッチング
- STEP3:交渉開始・秘密保持契約(NDA)
- STEP4:基本合意の締結
- STEP5:デューデリジェンス(詳細調査)
- STEP6:最終契約の締結
- STEP7:クロージング・PMI(引き継ぎ)
- 学習塾M&Aは「引き継ぎ設計」が成功を左右する
- 06 学習塾のM&A成功のポイント
- ① 属人性を可視化し、減らす努力をする
- ② 生徒・講師への伝え方を慎重に設計する
- ③ FC契約・賃貸借契約を早期に確認する
- ④ ICT・EdTech・AIの活用余地を整理する
- ⑤ 「売る・買う」より「引き継ぐ」視点を持つ
- ⑥ 専門家・プラットフォームを適切に活用する
- 学習塾M&A成功の本質は「信頼の承継」
少子化の進行や学習スタイルの多様化、オンライン教育やEdTechの普及などを背景に、学習塾業界は大きな転換期を迎えています。
進学塾・個別指導塾・マンツーマン指導塾といった従来型のビジネスモデルに加え、DXやAIを活用した新しい指導形態も登場し、競争環境は年々激しさを増しています。
こうした中で近年注目されているのが、学習塾のM&A(事業承継・事業売却)という選択肢です。
後継者不足や教室運営の負担、将来への不安を背景に「黒字のうちに次へ引き継ぎたい」と考える売り手が増える一方で、ドミナント戦略やFC展開、規模拡大を目的に塾を買収する動きも活発化しています。
本記事では、学習塾業界の現状を整理したうえで、M&Aの相場や売却価格の考え方、売り手・買い手それぞれのメリット・デメリット、実務上の流れや注意点までをわかりやすく解説します。
これから学習塾の売却や買収を検討している方はもちろん、「将来の選択肢」としてM&Aを知っておきたい方にとっても、実践的なヒントとなる内容をお届けします。
学習塾業界の現状
学習塾業界は、進学塾・個別指導・マンツーマン指導といった多様な業態を抱えながら、日本の教育インフラの一角を長年支えてきました。
中学受験・高校受験を中心とした受験対策ニーズは根強く、保護者の教育投資意欲も一定水準を保っています。
一方で、業界全体を俯瞰すると、構造的な変化と課題が同時進行で進んでいる業界であることも事実です。
少子化がもたらす市場構造の変化
まず避けて通れないのが、少子化の影響です。
総務省統計局の「人口推計」が示す通り、学齢人口は中長期的に減少傾向にあり、特に地方や郊外エリアでは、生徒数の確保自体が年々難しくなっています。
この影響は一様ではありません。
- 人口が集中する都市部
- 中学受験ニーズが強いエリア
- 高校受験における内申対策・定期テスト対策が重視される地域
こうしたエリアでは、依然として塾需要は存在します。一方で、立地や商圏による格差は拡大しており、「どこで、どの業態を展開しているか」が生き残りを左右する時代になっています。
結果として、「新規開業はできるが、長期継続が難しい」という学習塾が増えているのが現状です。
業態の細分化と競争の激化
学習塾と一口に言っても、現在は業態が大きく細分化されています。
- 集団型の進学塾
- 個別指導塾
- 完全マンツーマン指導
- オンライン指導・映像授業
- AIを活用した自学型学習
- FC(フランチャイズ)型教室
それぞれに強みと弱みがあり、万能な業態は存在しません。
例えば、進学塾は合格実績やブランド力が武器になる一方、講師確保やカリキュラム維持の負担が大きくなります。
個別指導やマンツーマン指導は柔軟性が高い反面、人件費率が高く、講師の定着が経営の安定性を左右します。
この結果、学習塾業界では「小規模・個人経営塾」と「多教室展開・法人運営塾」の二極化が進んでいます。
FC本部と加盟教室の関係性の変化
業界を語る上で欠かせないのが、FC本部とFC加盟教室の存在です。
FCモデルは、以下のようなメリットがあります。
- ブランド力を活かせる
- 教材・運営ノウハウを利用できる
- 集客面のサポートがある
その一方で、次のような制約も抱えています。
- 加盟料・ロイヤリティの負担
- 本部方針への依存
- 自由度の制限
近年は、FC加盟教室のM&Aも増加傾向にあります。
オーナーが高齢化したり、後継者が見つからない場合、「閉校」ではなく「第三者への承継」を選ぶケースが増えているためです。
ただし、FC本部の承認が必要になるケースも多く、M&Aの可否や条件が、契約内容に大きく左右される点は注意が必要です。
DX・デジタル化・EdTechの進展
学習塾業界では、近年DX(デジタル化)急速に進んでいます。
- オンライン授業
- 学習管理システム(LMS)
- 成績管理・進捗管理のデジタル化
- AIによる問題出題・学習分析
これらは単なる「便利ツール」ではなく、経営の安定性や引き継ぎやすさに直結する要素になっています。
特にM&Aの視点では、以下のような点は、買い手からの評価に大きく影響します。
- 業務がICTで可視化されているか
- 教室運営が属人化していないか
- オンラインとリアルを組み合わせた運営ができるか
教室の賃貸借契約と事業継続性
意外と見落とされがちですが、教室の賃貸借契約も業界特有の重要ポイントです。
- 契約名義は誰か
- M&A後に契約を引き継げるか
- 家賃水準が市場相場と乖離していないか
これらは、事業そのものの価値に直結します。
特に小規模塾では、「立地=価値」であるケースも少なくありません。
学習塾業界でM&Aが注目される理由
こうした背景から、学習塾業界では近年、M&Aが「特別な選択肢」ではなく、「現実的な経営判断」として捉えられるようになっています。
- 少子化による将来不安
- 教室運営の属人化
- 後継者不在
- DX対応の限界
これらを背景に、「今は黒字だが、この先も続けられるか不安」と感じるオーナーが増えているのです。
一方、買い手側にとっては、「既存の生徒基盤」「教室」「人材」「ノウハウ」を一括で引き継げるM&Aは、新規開業よりもリスクを抑えた参入手段となります。
学習塾業界は今、新規開業・閉校・M&Aが同時に進行する転換期にあります。
この構造変化こそが、学習塾M&Aが注目される最大の理由と言えるでしょう。
学習塾のM&Aの相場・売却価格の決まり方
学習塾のM&Aにおいて、売却価格は「業界平均」や「一律の相場」で決まるものではありません。
同じ売上規模の学習塾であっても、運営体制や業態、将来性によって評価は大きく変わるのが特徴です。
そのため、学習塾M&Aでは「いくらで売れるか」よりも「なぜその価格になるのか」を理解することが重要になります。
学習塾M&Aの基本的な価格レンジ
一般的に、学習塾のM&Aでは以下のような価格帯が多く見られます。
- 小規模・個人経営の学習塾
→ 数十万円〜数百万円 - 1教室〜数教室規模の法人塾
→ 数百万円〜数千万円 - 多教室展開・FC本部・地域有力塾
→ 数千万円〜数億円規模
ただし、これはあくまで目安であり、実際の価格は「数字」だけでなく「中身」によって大きく上下します。
価格算定の基本は「収益力」
学習塾M&Aで最も重視されるのは、安定した収益を生み出せるかどうかです。
具体的には、次のような点が見られます。
- 年間売上
- 営業利益(または実質的な利益)
- 利益の継続性・再現性
売却価格は、「年間利益 × 何年分か」という考え方で算定されるケースが多く、学習塾の場合、1年〜3年分の利益がひとつの目安になることが一般的です。
ただし、これは「教室運営が安定している」ことが前提条件になります。
属人性が価格を大きく左右する
学習塾特有のポイントが、オーナーや特定講師への依存度(属人性)です。
- オーナー自身が授業の中心を担っている
- 人気講師に生徒が集中している
- カリキュラムや指導方針が個人の経験に依存している
こうした場合、買収後にその人が抜けると、生徒数や売上が一気に落ちるリスクがあります。
このリスクが高いほど、売却価格は下がる、もしくは売却自体が難しくなることもあります。
逆に、下記に該当する場合などは、「引き継ぎやすい事業」として評価され、利益規模以上の価格がつくこともあります。
- 講師が複数名在籍し、役割分担ができている
- マニュアルや指導フローが整備されている
- 教室運営がICT・DX化されている
業態ごとの評価の違い
学習塾の業態によっても、評価のされ方は異なります。
【進学塾(集団指導)】
合格実績やブランド力が評価されやすい一方、講師の質やカリキュラム維持が難しく、評価は慎重になりがちです。
【個別指導・マンツーマン指導】
ニーズは高いものの、人件費率が高く、「講師確保が継続できるか」が価格に影響します。
【オンライン・ICT活用型塾】
少子化の影響を受けにくく、商圏が広いため、将来性を評価されやすい傾向があります。
このように、同じ売上でも、業態によって評価の軸が異なる点が学習塾M&Aの特徴です。
FC加盟教室・FC本部の場合の注意点
FC(フランチャイズ)加盟塾の場合、売却価格はFC契約の内容に大きく左右されます。
- 譲渡時に本部承認が必要か
- 加盟料・ロイヤリティの条件
- 契約残存期間
これらによっては、買い手が限定され、価格が抑えられることもあります。
一方、FC本部側が「加盟教室の承継を前向きに支援している」場合は、M&Aがスムーズに進み、価格面でもプラスに働くケースもあります。
教室の賃貸借契約が価格に与える影響
学習塾の価値は、立地と教室環境に大きく依存します。
- 駅近・通学導線上にあるか
- 家賃が適正水準か
- 賃貸借契約を引き継げるか
これらは、買い手が最初に確認する重要ポイントです。
特に、契約名義が個人で、譲渡不可といったケースでは、価格交渉が難航することもあります。
少子化時代でも価格が伸びる塾の共通点
少子化が進む中でも、評価されやすい学習塾には共通点があります。
- 生徒の定着率が高い
- 保護者との信頼関係が築けている
- ICTやEdTechを活用している
- オンラインとリアルを組み合わせている
- ドミナント戦略で地域内に強みを持っている
こうした塾は、「今の利益」だけでなく「将来も利益を生み出せる可能性」が評価され、相場以上の価格がつくことも珍しくありません。
売却価格は「交渉」で決まる
最後に重要なのは、学習塾のM&Aにおいて、売却価格は最初から決まっているものではないという点です。
- どの強みをどう説明できるか
- リスクをどう補完できるか
- 引き継ぎ体制をどう描けるか
これらによって、価格は大きく変わります。
そのため、「相場を知ること」よりも「自分の塾がどう見られるか」を理解することが、納得感のあるM&Aにつながります。
学習塾のM&Aのメリット
学習塾業界は少子化の影響を強く受ける一方で、M&Aが活発に行われている分野でもあります。
その背景には、買い手・売り手それぞれに明確なメリットが存在します。
ここでは、両者の視点から、学習塾M&Aのメリットを整理します。
買い手側のメリット
【① 既存の生徒・売上を引き継げる】
学習塾を新規開業する場合、以下ような多くの工程をゼロから進める必要があります。
- 物件探し
- 講師採用
- 生徒募集
- ブランド構築
一方、M&Aで学習塾を取得すれば、すでに在籍している生徒・売上・運営基盤を引き継ぐことが可能です。
特に進学塾や個別指導塾では、生徒数=売上に直結するため、初年度から一定の収益が見込める点は大きな魅力です。
【② 立地・商圏を一気に獲得できる】
学習塾は「どこにあるか」が非常に重要なビジネスです。
M&Aを活用すれば、
- 駅前
- 学校の通学動線上
- 地域で認知された立地
といった良質な商圏を短期間で獲得できます。
これは、ドミナント戦略を進めたい事業者や、既存エリアを強化したいFC本部にとって、非常に大きなメリットです。
【③ 講師・運営ノウハウをまとめて引き継げる】
学習塾では、人材の確保と育成が常に課題になります。
M&Aでは、「講師」「教室長」「運営スタッフ」といった人材とノウハウを一体で引き継げるため、人材不足リスクを抑えながら事業を拡大できます。
特に、ICTやEdTech、AI教材などを活用している塾は、運営モデルそのものが評価対象となりやすい傾向があります。
【④ 少子化時代でも「勝てるポジション」を作れる】
少子化により、学習塾市場は縮小傾向にありますが、その一方で、「選ばれる塾」「地域で強い塾」への集約が進んでいます。
M&Aによって、競合塾を取り込み、生徒を集約することで、競争力のある教室運営が可能になります。
これは、単なる拡大ではなく、「生き残るための戦略」としてのM&Aと言えるでしょう。
売り手側のメリット
【① 廃業せずに事業を引き継げる】
学習塾のオーナーが抱える悩みとして多いものが、次のような問題です。
- 体力的な限界
- 後継者不在
- 将来への不安
M&Aを選択することで、廃業という選択をせずに、教室を次の担い手へ引き継ぐことができます。
これは、長年通ってくれた生徒や、働いてくれている講師にとっても、大きな安心材料になります。
【② 生徒・講師を守りながら引退できる】
学習塾の廃業では、生徒の転塾や講師の失職といった問題が避けられません。
一方、M&Aであれば、条件次第では生徒・講師の継続を前提に引き継ぎが可能です。
「最後まで責任を持ちたい」と考えるオーナーにとって、精神的なメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
【③ 黒字のうちに価値を現金化できる】
学習塾は、次のような要因により、将来的に収益が不安定になりやすい業態です。
- 生徒数の減少
- 講師確保の難しさ
- ICT投資の必要性
そのため、黒字のうちにM&Aを実行し、事業価値を現金化するという判断は、合理的な選択と言えます。
「今はうまくいっているが、この先が不安」というケースこそ、M&Aが検討されやすい傾向があります。
【④ FC加盟・FC本部の選択肢が広がる】
FC加盟塾の場合、「個人では限界がある」「運営負荷が重い」といった理由から、FC本部や同業者への売却が選ばれることも多くあります。
M&Aによって、「個人経営から組織経営へ」「地域密着型から広域展開へ」とステージを変えることで、教室の価値を最大化できる可能性があります。
学習塾M&Aは「成長」と「承継」を同時に叶える手段
学習塾のM&Aは、単なる「売る・買う」ではありません。
- 買い手にとっては、時間を買う成長戦略
- 売り手にとっては、価値をつなぐ事業承継
という側面を持っています。
少子化という厳しい環境だからこそ、M&Aは学習塾業界において、現実的で前向きな選択肢として活用されているのです。
学習塾のM&Aのデメリット
学習塾のM&Aは、多くのメリットがある一方で、当然ながら注意すべきデメリットやリスクも存在します。
重要なのは、「デメリットがあるからやらない」のではなく、どこにリスクがあり、どう備えるかを理解したうえで進めることです。
ここでは、買い手側・売り手側それぞれの視点から整理します。
買い手側のデメリット
【① 生徒・講師が引き継がれないリスク】
学習塾のM&Aで最も大きなリスクは、引き継ぎ後に生徒や講師が離れてしまうことです。
学習塾は人のサービスであり、「先生が変わるなら辞めたい」「経営者が変わるなら不安」といった心理が働きやすい業態です。
特に、以下のような場合には、生徒数が急減するリスクがあります。
- オーナーが授業の中心だった場合
- 人気講師への依存度が高い場合
この点を軽視すると、「買収直後に売上が大きく落ちる」という事態も起こり得ます。
【② 属人性を過小評価してしまう】
学習塾の価値は、数字だけでは見えにくい部分に支えられていることが多くあります。
- 教室長のマネジメント力
- 講師との信頼関係
- 保護者対応の丁寧さ
これらが属人的であるほど、買収後に同じ成果を再現するのは難しくなります。
「数字は良いが、仕組みがない」という状態を見抜けないままM&Aを進めると、期待していた成果が得られない可能性があります。
【③ 教室の賃貸借契約に制約がある】
学習塾は多くの場合、賃貸物件で教室を運営しています。
そのため、以下のような問題が、M&A後に顕在化するケースもあります。
- 名義変更ができない
- 契約更新が近い
- 家賃条件が不利
賃貸借契約を十分に確認せずに進めると、事業は引き継げたが、場所が使えないというリスクもゼロではありません。
【④ 少子化による長期的な市場リスク】
学習塾業界は、総務省統計局「人口推計」にもある通り、少子化という構造的な課題を抱えています。
短期的には問題がなくても、中長期的には、「生徒数の減少」「価格競争の激化」が進む可能性があります。
買い手は、「今の数字」だけでなく「5年後・10年後」を見据えた戦略を持っていないと、期待通りのリターンを得られない可能性があります。
売り手側のデメリット
【① 希望通りの価格で売れない可能性がある】
学習塾のM&Aでは、オーナーが想定している価格と、市場評価にギャップが生じることも少なくありません。
- 属人性が高い
- 利益が不安定
- 運営体制が未整備
上記に該当する場合などは、「思ったより評価が低い」,/span>と感じるケースもあります。
感情的な価値と、事業としての価値は必ずしも一致しない点は、事前に理解しておく必要があります。
【② 情報開示の負担と心理的ストレス】
M&Aを進める過程では、下記のように多くの情報を開示する必要があります。
- 財務情報
- 生徒数
- 契約内容
- 運営実態
このプロセスは、オーナーにとって精神的な負担になることもあります。
特に個人経営の学習塾では、「経営の裏側を見せること」に抵抗を感じる人も少なくありません。
【③ 売却後も一定期間の関与を求められることがある】
学習塾のM&Aでは、引き継ぎを円滑に進めるため、「数ヶ月〜1年程度の引き継ぎ期間」「教室への一定期間の関与」を求められるケースが多くあります。
「売ったらすぐに完全に手離れできる」とは限らない点は、事前に認識しておくべきポイントです。
【④ 売却後の運営方針に口出しできない】
M&Aが成立した後は、経営権は買い手に移ります。
そのため、次のような改変が起きる可能性もあります。
- 指導方針が変わる
- 講師の体制が変わる
- 教室の雰囲気が変わる
「自分が大切にしてきた塾がどう変わるか」を気にする売り手にとっては、割り切りが必要な点でもあります。
デメリットを理解したうえで進めることが成功の鍵
学習塾のM&Aには、確かにデメリットやリスクがあります。
しかし、それらの多くは、
- 事前の整理
- 丁寧な引き継ぎ設計
- 条件交渉
によって、軽減・回避が可能なものです。
重要なのは、メリットだけを見るのではなく、デメリットも正しく理解したうえで判断すること。
それが、学習塾M&Aを「後悔のない選択」にするための第一歩です。
学習塾のM&Aの流れ
学習塾のM&Aは、一般的な企業M&Aと基本的な流れは共通していますが、「人」「信頼」「教室運営」が重要な業態であるため、各ステップで確認すべきポイントに特徴があります。
ここでは、売り手・買い手双方が理解しておきたい標準的な流れを解説します。
STEP1:戦略・目的の整理
まず最初に行うべきなのが、M&Aの目的を明確にすることです。
売り手の場合は、次のような内容について整理が必要です。
- いつまでに引き継ぎたいのか
- 完全に引退したいのか、一定期間は関与したいのか
- 教室・生徒・講師をどう残したいのか
買い手の場合は、次のような内容を明確にしておくことが重要です。
- 新規出店か、既存教室とのドミナント戦略か
- 個別指導・マンツーマン指導・進学塾など、どの業態を狙うのか
- FC本部なのか、直営教室なのか
この段階での整理が甘いと、後工程で条件がぶれやすくなります。
STEP2:案件探し・マッチング
目的が整理できたら、M&Aマッチングプラットフォームや専門家を活用して案件を探します。
学習塾M&Aでは、立地と商圏の相性が非常に重要です。
- 地域性(学区・通学圏)
- 少子化の影響度
- 競合塾の状況
また、FC加盟校の場合は、早い段階で下記の内容を確認しておく必要があります。
- FC本部の承諾要否
- 加盟料・ロイヤリティ条件
- 契約更新のタイミング
STEP3:交渉開始・秘密保持契約(NDA)
具体的な交渉に入る前に、秘密保持契約(NDA)を締結します。
学習塾の場合、生徒数、成績データ、講師体制、保護者対応の方針など、機密性の高い情報が多く含まれるため、情報管理は特に重要です。
NDA締結後、売り手からより詳細な情報が開示され、条件交渉が本格化します。
STEP4:基本合意の締結
条件面で大枠の合意が取れたら、基本合意書を締結します。
ここでは、次のような事柄などが整理されます。
- 譲渡価格の目安
- スケジュール
- 独占交渉期間
- 引き継ぎ期間の考え方
学習塾M&Aでは特に、下記について、この段階で方向性を共有しておくことが重要です。
- オーナーや教室長の引き継ぎ関与期間
- 講師の継続勤務条件
STEP5:デューデリジェンス(詳細調査)
基本合意後に行われるのが、デューデリジェンス(DD)です。
学習塾では、以下の点が重点的に確認されます。
- 財務状況(利益の安定性、生徒単価)
- 生徒数の推移、退塾率
- 講師の雇用形態・契約内容
- 教室の賃貸借契約
- 特定商取引法やクーリングオフ対応の有無
数字だけでなく、運営の実態がどれだけ再現可能であるかが重要な判断材料になります。
STEP6:最終契約の締結
デューデリジェンスの結果を踏まえ、条件を最終調整したうえで、最終契約書(譲渡契約)を締結します。
契約書には以下のような内容が明文化されます。
- 譲渡対象(教室・契約・ブランド等)
- 表明保証
- 引き継ぎ条件
- 競業避止義務
学習塾M&Aでは、「どこまで引き継ぐのか」を曖昧にしないことが特に重要です。
STEP7:クロージング・PMI(引き継ぎ)
契約締結後、代金決済と事業引き渡しを行い、M&Aはクロージングを迎えます。
ただし、学習塾M&Aはここからが本当のスタートとも言えます。
- 生徒・保護者への説明
- 講師との面談
- 指導方針のすり合わせ
- ICT・EdTech・AIツールの導入検討
上記のようなPMI(統合・引き継ぎ)の出来が、M&Aの成否を大きく左右します。
学習塾M&Aは「引き継ぎ設計」が成功を左右する
学習塾のM&Aは、書類上の手続き以上に、人と信頼をどう引き継ぐかが重要です。
流れを正しく理解し、各STEPで何を確認すべきかを押さえておくことが、成功への近道となります。
学習塾のM&A成功のポイント
学習塾のM&Aは、単に「黒字かどうか」「生徒数が多いか」だけで成功が決まるものではありません。
むしろ、事前準備・引き継ぎ設計・人への配慮ができているかどうかが、結果を大きく左右します。
ここでは、売り手・買い手双方に共通する、学習塾M&Aを成功に導くための重要なポイントを整理します。
① 属人性を可視化し、減らす努力をする
学習塾は、どうしても属人性が高くなりやすい業態です。
- オーナー自身が授業を担当している
- 特定の講師に人気が集中している
- 保護者対応が個人の裁量に依存している
このような状態のままでは、買い手は「引き継いだ後に同じ成果が出るのか」という不安を拭えません。
成功する学習塾M&Aでは、下記を通じて、「誰がやっても一定水準で回る状態」を目指しています。
- 授業・指導方針のマニュアル化
- 教室運営ルールの整理
- 保護者対応フローの明文化
完全に属人性をなくす必要はありませんが、可視化されているかどうかが大きな評価ポイントになります。
② 生徒・講師への伝え方を慎重に設計する
学習塾M&Aにおいて、生徒や講師の離脱は最大のリスクです。
そのため、いつ、誰が、どのようにM&Aの事実を伝えるのか、事前にシナリオを設計しておくことが重要です。
特に意識すべきなのは、「塾がなくなるわけではない」「指導の質は維持・向上する」という安心感を、保護者・生徒・講師にきちんと伝えることです。
伝え方ひとつで、引き継ぎ後の定着率は大きく変わります。
③ FC契約・賃貸借契約を早期に確認する
学習塾のM&Aでは、契約関係の整理が成否を分けるケースも少なくありません。
特に注意が必要なのが、下記の内容です。
- FC本部との契約内容
- 加盟料・ロイヤリティ条件
- 契約更新や解除条件
- 教室の賃貸借契約(名義変更・承諾)
これらは、交渉が進んでから問題になると、スケジュールや条件に大きな影響を及ぼします。
成功しているM&Aでは、初期段階から契約関係を洗い出し、リスクを織り込んだうえで交渉が進められています。
④ ICT・EdTech・AIの活用余地を整理する
近年の学習塾業界では、ICT、EdTech、AI教材の活用が、競争力を左右する要素になっています。
売り手側にとっては、すでに導入している仕組みや今後導入できる余地を整理しておくことで、「成長余地のある塾」\として評価されやすくなります。 買い手側にとっても、デジタル化・オンライン活用による改善余地は、投資判断の重要な材料となります。⑤ 「売る・買う」より「引き継ぐ」視点を持つ
学習塾のM&A成功事例に共通しているのは、短期的な取引ではなく、長期的な引き継ぎを前提にしている点です。
- 売り手は「次の運営者に何を託したいか」
- 買い手は「どう育てていくか」
この視点を共有できると、条件交渉もスムーズに進みやすくなります。
学習塾M&Aは、単なる事業売買ではなく、教育のバトンを渡すプロセスでもあります。
⑥ 専門家・プラットフォームを適切に活用する
学習塾M&Aは、法務・契約・人の引き継ぎといった複数の要素が絡むため、個人だけで進めるのは簡単ではありません。
M&Aマッチングプラットフォームや専門家を活用することで、適切な相手探しや条件の整理、交渉の円滑化が期待できます。
特に初めてのM&Aでは、第三者の視点を入れることが成功率を高めます。
学習塾M&A成功の本質は「信頼の承継」
学習塾の価値は、建物や設備以上に、生徒・保護者・講師との信頼関係にあります。
その信頼をどう引き継ぐかを考え抜くことが、学習塾M&Aを成功させる最大のポイントです。
よくある質問
Q1.生徒数が減少傾向にある学習塾でもM&Aは成立しますか?
はい、成立するケースは十分にあります。
少子化の影響で生徒数が減少している学習塾は多いですが、M&Aでは「現在の生徒数」だけでなく、「引き継ぎ後に回復・改善できる余地があるか」が重視されます。
例えば、地域内での認知度が高い、学校との関係性が築かれている、指導ノウハウが蓄積されている塾であれば、買い手がDXやオンライン指導、ICT・EdTechを導入することで再成長を見込めると判断されることがあります。
Q2.個人経営・小規模な学習塾でも売却できますか?
可能です。
実際、学習塾のM&Aでは個人経営・1教室のみの案件も数多く成立しています。
特に個別指導塾やマンツーマン指導型の塾は、教室数が少なくても、以下の内容が評価されやすく、小規模でも十分にM&Aの対象になります。
- 安定した生徒基盤
- 地域密着の運営
- 指導品質の高さ
Q3.オーナーが授業をしている場合でも売却できますか?
売却は可能ですが、オーナー依存度は必ずチェックされるポイントです。
オーナーが授業の中心を担っている場合、そのままでは評価が下がることがあります。
ただし、
- 引き継ぎ期間を設定する
- 指導マニュアルを整備する
- 講師育成の仕組みを説明できる
といった対応を取ることで、買い手の不安を和らげることができます。
「すぐに抜ける前提」ではなく、「一定期間サポートする前提」を示すことが重要です。
Q4.フランチャイズ(FC)加盟塾でもM&Aはできますか?
可能ですが、FC本部との契約内容の確認が必須です。
FC加盟塾の場合、
・譲渡時に本部の承諾が必要か ・名義変更や再契約が必要か ・加盟料やロイヤリティ条件がどうなるかといった点が、M&Aの成否に大きく影響します。
事前にFC契約書を整理し、買い手に正確に説明できる状態にしておくことが重要です。
Q5.教室の賃貸借契約はそのまま引き継げますか?
ケースバイケースですが、貸主(オーナー)の承諾が必要になることが一般的です。
M&Aでは、賃貸借契約の名義変更が可能か、条件変更(賃料・保証金)が発生しないかといった点を事前に確認します。
立地は学習塾の価値に直結するため、賃貸借契約の扱いはデューデリジェンスでも重点的に見られます。
Q6.オンライン塾やICTを活用した塾もM&Aの対象になりますか?
もちろん対象になります。
近年は、オンライン指導・AI・EdTechを活用した学習塾への関心が高まっており、むしろ評価が上がるケースもあります。
特に、
- 教室に依存しない収益モデル
- 講師の属人性が低い仕組み
- スケールしやすい運営体制
を持つ塾は、買い手にとって魅力的な案件といえるでしょう。
Q7.売却までにどれくらいの期間がかかりますか?
一般的には、3〜6か月程度が一つの目安です。
ただし、条件調整やデューデリジェンス、FC本部・貸主との調整が必要な場合は、半年以上かかることもあります。
「急いで売る」よりも、「準備を整えて売る」ほうが、結果的に条件の良いM&Aにつながりやすい点も押さえておくべきポイントです。
まとめ
学習塾業界は、少子化という構造的な課題を抱えながらも、進学ニーズの高度化や個別指導・マンツーマン指導の需要拡大、ICT・EdTech・AIの活用といった変化を背景に、形を変えながら成長を続けています。
こうした環境の中で、学習塾のM&Aは「撤退の手段」ではなく、「次の成長や承継につなぐ選択肢」として、年々重要性を増しています。
売り手にとってM&Aは、長年積み上げてきた生徒基盤や指導ノウハウ、地域での信頼を次の経営者へ引き継ぐ手段です。
体力的な限界やライフイベント、後継者不在といった理由があっても、黒字のうちに価値を引き継ぐことで、塾・生徒・講師の三方にとって納得感のある形を実現できます。
一方、買い手にとっては、ゼロから教室を立ち上げるよりも、既存の学習塾を引き継ぐことで、立地・生徒・運営体制を一気に獲得できる点が大きな魅力です。
特に、ドミナント戦略によるエリア拡大や、DX・オンライン指導の導入による再成長を見据えたM&Aは、今後さらに広がっていくでしょう。
重要なのは、「規模が小さいから売れない」「個人経営だから難しい」と決めつけないことです。
学習塾のM&Aでは、教室数や売上規模以上に、引き継ぎ後に再現できる運営体制、改善できる余地、成長のストーリーが評価されます。
学習塾の未来を前向きに考えるうえで、M&Aは十分に現実的で、有効な選択肢です。
自分のフェーズや目的に合った形で、専門家やマッチングプラットフォームを活用しながら、納得のいく判断をしていくことが、成功への近道と言えるでしょう。