ECサイトのM&A完全ガイド|相場・流れ・成功のポイントを徹底解説
ECサイトのM&Aについて、売却相場・価格の決まり方・譲渡の流れ・高く売る準備までを解説します。TRANBIで成約した258件のデータをもとにした規模別の価格や、モール型・自社EC型・D2Cで変わる引き継ぎの注意点も掲載しています。
- 01 ECサイトのM&Aとは|eコマース・通販事業の売買が広がっている
- ECサイト・eコマース・通販・ネットショップ|呼び方と対象範囲
- EC市場の拡大とM&Aが増えている背景
- 事業承継の手段としても使われている
- 06 ECサイトM&Aの流れ|7つのステップ
- STEP1|目的と条件を決める
- STEP2|案件を探す・掲載する
- STEP3|秘密保持契約を結んで情報を開示する
- STEP4|条件を交渉し、基本合意を結ぶ
- STEP5|デューデリジェンス
- STEP6|最終契約を締結する
- STEP7|引き渡しと引き継ぎ
- 07 高く売るために整えておくこと
- 売上と利益を「説明できる状態」にする
- 集客チャネルの偏りをなくす
- オーナー依存を下げる
- 顧客基盤とリピート率を整える
- 物流と在庫まわりを仕組み化する
- 契約とアカウントを棚卸しする
- いつから準備を始めるか
- 08 TRANBIを活用したECサイトM&Aの事例
- 事業への愛情を言語化したことで実現した、納得のM&A事例
- 短期間でも価値は伝えられる。ネットショップ売却の成功事例
- 既存ビジネスに掛け合わせる発想が生んだ、成功する事業買収
ECサイトは、M&Aの対象として売買しやすい事業のひとつです。店舗も在庫も持たずに運営できるものから、独自ブランドを抱えるものまで幅があり、数十万円から数億円まで、さまざまな規模の案件が動いています。
一方で、決算書だけでは実態がつかみにくいという特徴もあります。売上の裏づけとなるアクセスや広告費のデータ、モールのアカウントを引き継げるかどうか。実店舗の事業とは見るべきポイントが違います。
この記事では、ECサイトのM&Aとは何か、価格の決まり方、モール型と自社EC型で変わる点、譲渡の流れ、そして売り手が事前に整えておくことまでを、実務目線で解説します。
ECサイトのM&Aとは|eコマース・通販事業の売買が広がっている
まず、この記事が扱う範囲と、EC事業のM&Aが増えている背景を整理します。
ECサイト・eコマース・通販・ネットショップ|呼び方と対象範囲
同じ事業を指す言葉が複数あるため、最初に整理しておきます。
- ECサイト:インターネット上で商品を販売するサイト全般。いちばん一般的な呼び方
- eコマース(電子商取引):ネット上での商取引そのものを指す言葉。「イーコマース」とカタカナで書くこともあります
- 通販:もともとはカタログや電話注文を含む言葉ですが、いまはネット通販を指して使われることが多くなっています
- ネットショップ:小規模なECサイトを指す言い方。個人が運営するサイトによく使われます
呼び方によって指す範囲は少しずつ違います。この記事では便宜上、ネット上で商品を販売する事業をまとめて「ECサイト」と呼びます。
売買の対象になるのは、サイトそのものだけではありません。商品の仕入れルート、顧客リスト、モールのアカウント、物流の委託先など、事業を成り立たせている要素をまとめて引き継ぐことになります。
EC市場の拡大とM&Aが増えている背景
経済産業省の調査では、日本国内のBtoC-EC市場規模は拡大を続けています。店舗を持たずに始められるため、参入する事業者も増えました。
一方で、始めることは簡単でも、続けることは難しいという声も増えています。広告費の上昇、モール内の競争、物流コストの上昇。ひとりで回してきた事業ほど、この局面で判断を迫られます。
その結果として、伸ばしきれない事業を、伸ばせる人に譲るという形が定着してきました。ゼロから立ち上げるより早く、育てた側は次に進める。この需要と供給がかみ合っているのが、いまのEC事業のM&Aです。
事業承継の手段としても使われている
EC事業のM&Aは、成長のための買収だけではありません。
通販事業を長年続けてきた事業者が、後継者がいないために第三者へ譲るケースもあります。商品も顧客もあるのに続ける人がいないため、後継者不在の受け皿としてM&Aが選ばれます。
この場合、譲る側にとっては取引先や顧客との関係を途切れさせずに引き継げることに意味があります。事業売却の方法の記事もあわせてご覧ください。
ECサイトの売却相場|価格はどう決まるか
まず気になるのが価格です。計算の基本と、実際の価格帯を順に見ていきます。
基本は「営業利益 × 一定の倍率」
小規模なECサイトの取引では、年間の営業利益に一定の倍率をかけて価格を出すという考え方がよく使われます。
倍率は事業の状態によって変わりますが、年間営業利益の1〜3年分程度が目安になることが多くあります。TRANBIで成約したECサイト・通販の案件のうち、年間の営業利益が100万円以上あった116件では、成約価格が営業利益の1〜3年分に収まったものが約6割(中央値は1.9年分)でした。安定して利益が出ていて、引き継ぎやすい事業ほど倍率は上がります。
なお実務では、営業利益をそのまま使うのではなく、オーナーの役員報酬を戻した利益や在庫・純資産を加味して調整することもあります。
規模が大きくなると、将来のキャッシュフローから逆算する方法や、類似する取引事例と比べる方法も使われます。算定の考え方はバリュエーションの記事で解説しています。
ただし、計算で出た数字がそのまま売買価格になるわけではありません。算定した金額は交渉の出発点で、最終的な価格は当事者の合意で決まります。
TRANBIの成約実績で見る規模別の価格
実際にどのくらいの金額で動いているのか、TRANBIで成約したECサイト・通販の案件を集計しました。
| 月商の規模 | 成約件数 | 成約価格の中央値 (中央にくる半分の範囲) |
買い手 |
|---|---|---|---|
| 月商100万円未満 | 195件 | 150万円(48万〜300万円) | 個人と法人がほぼ半々 |
| 月商100万〜500万円 | 57件 | 690万円(350万〜1,200万円) | 約8割が法人 |
| 月商500万円以上 | 6件 | 4,100万円(2,075万〜6,875万円) | すべて法人 |
集計したのは、2022年1月から2026年8月までにTRANBIで成約した「ECサイト・通販」カテゴリの案件のうち、財務情報が登録されていて成約価格が10万円以上だった258件です。月商は直近期の年商を12で割った数値、「中央にくる半分」は下から25%〜75%にあたる範囲を指します。
同じ月商でも、利益率・在庫の有無・仕入れルートの独自性によって価格は大きく変わります。上の表は分布の目安として見てください。
過去の実績だけでなく「将来の再現性」が価格を左右する
買い手が見ているのは、引き継いだあとも同じように売上が立つかどうかです。
去年の売上が大きくても、その理由が一度きりの広告出稿や一時的な流行であれば、評価は上がりません。逆に売上が小さくても、検索やリピーターから安定して注文が入っているなら、将来の見通しが立つぶん評価されます。
つまり価格を左右するのは、金額そのものより売上が生まれている仕組みの再現性です。この点は、次の章で扱うタイプの違いとも関わってきます。
モール型・自社EC型・D2C|タイプで変わる評価と引き継ぎ
ECサイトとひと口に言っても、どこで売っているかによって、評価のされ方も引き継ぎの手間も大きく違います。ここがEC事業のM&Aで見落とされやすい部分です。
3つのタイプの違い
売り場と売り方の違いで、おおまかに3つに分けて見ると整理しやすくなります。なおD2Cは売り場の分類ではなく、中間流通を通さずに消費者へ直接売るというビジネスモデルの呼び方です。自社ECを中心にしつつモールを併用するD2Cブランドもあります。
| モール型 | 自社EC型 | D2C型 | |
|---|---|---|---|
| 売り場 | Amazon・楽天などに出店 | 独自ドメインの自社サイト | 自社ECを中心に消費者へ直接販売 |
| 集客 | モール内の検索と広告 | 検索・広告・SNS | SNSとファン |
| 強み | 出店直後から人が来る | 手数料が低く利益率が高い | 価格競争に巻き込まれにくい |
| 弱み | 手数料と規約に左右される | 集客を自力で作る必要がある | 担当者の発信力に依存しやすい |
| 引き継ぎ | 規約に応じた名義変更・審査・新規出店 | ドメインとシステムの移管 | SNSアカウントの扱いが論点 |
同じ月商でも、タイプが違えば買い手の見方も、引き継ぎでやることも変わりますため、案件を見るときはまずどのタイプかを確認してください。
モール型|アカウントを引き継げるかが最大の論点
AmazonやYahoo!ショッピング、楽天市場などに出店しているタイプです。モールに来ている人がそのまま見込み客になるという強みがあります。
一方で、M&Aで大きな論点になるのが出店アカウントを引き継げるかどうかです。
モールの規約では、出店者が変わる場合の扱いがモールごとに決まっています。運営会社の審査や手続きが必要なケース、そもそも譲渡が認められておらず買い手が新規に出店し直すケースもあります。
アカウントを引き継げない場合、積み上げてきたレビューや販売実績がゼロに戻ることになります。契約前に必ずモールの規約を確認し、必要な手続きを洗い出しておきましょう。
法人ごと買う株式譲渡では、契約主体である出店者そのものが変わりません。そのため事業譲渡に比べて、出店契約を引き継ぐ問題は起きにくくなります。ただし代表者や実質的支配者の変更にともなう届出・審査を求められる場合はあります。
一方、事業だけを買う事業譲渡では、出店契約が当然に買い手へ引き継がれるわけではありません。モールの規約に沿って名義変更の手続きを取るか、認められない場合は買い手が新規に出店し直すことになります。目的に合わせたM&Aの種類や選び方については「M&Aの種類・選び方」の記事をご参照ください。
自社EC型・D2C型|ドメインとシステムの移管が中心
独自ドメインで運営しているタイプでは、ドメインとサイトのシステムが引き継ぎの中心になります。
- ドメイン:登録者の変更手続き。更新期限も確認しておきます
- カート・EC構築システム:利用しているサービスごとに、ストアの所有権やアカウント、契約上の地位を移せるかと、必要な手続きを確認します。独自システムならサーバーの移管も必要です
- 決済サービス:M&Aの方法と各社の規約によって、契約情報の変更・再審査・新規契約が必要になることがあります。事前に決済事業者へ確認します
- SNSアカウント:発信の中心になっているアカウントを譲渡対象に含めるかを、契約で明記しておきます
- 顧客データ:氏名・住所・購入履歴などは個人情報にあたります。事業承継にともなって引き継ぐ場合も、個人情報保護法上の取り扱いと利用目的、プライバシーポリシーを確認し、扱いを契約に明記します
D2C型では、ブランドと人が結びついていることが論点になります。前オーナーが顔を出して発信していた場合、譲渡後に同じ関係を保てるとは限りません。引き継ぎ期間をどう設計するかを、価格の交渉と同時に決めておく必要があります。
取引先やシステム会社との契約に、経営権の変更を理由に解除できる条項(チェンジオブコントロール条項)が入っていないかも確認しましょう。
ECサイトM&Aのメリット|買い手・売り手それぞれの視点
EC事業がM&Aで選ばれる理由を、買う側と売る側の両方から整理します。
買い手のメリット
買い手にとっての最大の利点は、立ち上げの期間を買えることです。
- ゼロから作る手間がない:サイト、商品、顧客リスト、仕入れルートがそろった状態から始められます
- 必要な資金が小さい:小規模な案件なら数十万円から。実店舗の事業に比べて初期費用を抑えられます
- 場所に縛られない:店舗も在庫拠点も持たない形なら、本業を続けながら運営できます
- 自社の商品を売る販路が増える:既存事業の商品ラインや顧客層を広げる手段になります
とくにメーカーや卸売の事業者は、ECサイトを買うことで販路と顧客データを同時に得られます。単独で運営するより効果が大きくなるケースです。
売り手のメリット
売る側にとっては、育てた事業を現金化しつつ、続けてもらえるという点が大きな意味を持ちます。
- 廃止せずに価値に換えられる:閉じてしまえばゼロですが、譲れば数百万円単位の対価になることがあります
- 商品と顧客を残せる:ブランドも顧客も、引き継いだ人のもとで続きます
- 次の事業に資金と時間を回せる:複数の事業を抱えている場合、主力に集中するための整理になります
- 事業承継の受け皿になる:後継者がいない通販事業を、第三者に引き継いでもらえます
業績が落ちてから売却を判断すると、選択肢は狭まります。そのため、「まだ早い」と思う段階で相談を始める人も少なくありません。
ECサイトM&Aのデメリットと注意点
一方で、EC事業ならではのリスクもあります。事前に知っておけば対処できるものを挙げます。
買い手が注意すること
よくあるのが、開示された数字と実態が違っていたというケースです。
- 売上の中身:一時的な広告出稿やセールで作られた数字ではないか
- 本当の利益:広告費・モール手数料・送料を引いたあとにいくら残るのか
- 在庫の実態:計上されている在庫が、実際に売れる状態にあるか
- 顧客リストの質:解約が続いていないか、休眠顧客が多くないか
アクセス解析や広告アカウントの管理画面は、売り手の説明を聞くだけでなく、画面を共有してもらって直接見ることをおすすめします。数字の裏づけを自分の目で確認できる、EC事業ならではの調べ方です。
調査の進め方はデューデリジェンスの記事で解説しています。
売り手が注意すること
売る側で気をつけたいのは、情報をどこまで、いつ出すかです。
ECサイトは公開された情報から中身を推測しやすいため、URLや商品名が分かった時点で、外部から売上規模を言い当てられることがあります。交渉が成立しなかった相手に手の内を見せることになるので、秘密保持契約を結んでから開示する情報を段階的に増やしてください。
もうひとつが競業避止義務です。譲渡後も同じ商品を扱わないという約束を求められることがあります。次の事業の構想がある場合は、制限される範囲と期間を契約前に確認しておく必要があります。
ECサイトM&Aの流れ|7つのステップ
相手探しから引き継ぎまでの流れを、EC事業に固有の論点を挟みながら見ていきます。全体で3か月から半年程度かかることが多くあります。
STEP1|目的と条件を決める
最初にやるのは、自分の条件をはっきりさせることです。
買い手なら出せる金額の上限と、扱いたい商品ジャンル。売り手なら価格の下限と、引き継いでほしい相手の条件、譲渡後にどこまで関わるか。ここが曖昧なままだと、案件を見ても判断できません。
STEP2|案件を探す・掲載する
EC事業のM&Aでは、マッチングプラットフォームを使う方法が一般的です。売り手が案件を掲載し、興味を持った買い手が交渉を申し込みます。
売り手が掲載時に書くべきなのは、数字と、なぜ譲りたいのかという理由です。数字だけを並べた案件より、背景が伝わる案件のほうが問い合わせは集まります。
サービスごとの違いはM&Aマッチングサービスの記事で比較できます。
STEP3|秘密保持契約を結んで情報を開示する
交渉相手が決まったら秘密保持契約(NDA)を結び、詳しい情報を共有します。
EC事業でこの段階で開示するのは、売上と利益の推移、アクセス解析のデータ、広告費と獲得単価、仕入れ先と原価あたりです。管理画面を画面共有で見せる形が実務では多く使われます。
STEP4|条件を交渉し、基本合意を結ぶ
価格、譲渡の範囲、引き継ぎ期間、競業避止の条件などを詰めます。合意した内容は基本合意書にまとめます。
EC特有の論点として、モールのアカウントを引き継げるか、ドメインを移管できるか、SNSアカウントを譲渡対象に含めるかを、この段階で確認しておいてください。あとから「引き継げない」と分かると、価格の前提が崩れます。
STEP5|デューデリジェンス
買い手が対象事業を調べる工程です。EC事業では、数字の裏づけと、運営の実態が中心になります。
- 売上・利益の根拠(管理画面と決算書の突き合わせ)
- 在庫の数量と、そのうち実際に動いている商品の割合
- 集客の内訳(検索・広告・モール・SNSのどこから来ているか)
- 契約・アカウントの一覧と、引き継ぎの可否
売り手にとっては、ここでの対応の速さがそのまま印象になります。事前に資料をそろえておくと、調査が短く済み、買い手の不安も小さくなります。
STEP6|最終契約を締結する
調査の結果を踏まえて条件を確定し、最終契約を結びます。契約書の名前は選んだ方法で変わり、株式譲渡あれば株式譲渡契約書、事業譲渡の場合には事業譲渡契約書になります。どちらも表明保証が盛り込まれるのが一般的です。
EC事業では、引き継ぐアカウントと引き継がないアカウントの区別、在庫の数量と評価額、顧客データの取り扱いといった点を、契約に落とし込んでおきます。
STEP7|引き渡しと引き継ぎ
事業譲渡では、代金の決済と同時にドメイン・システム・アカウント・在庫の引き渡しを行います。株式譲渡の場合は、株式の譲渡と株主名簿の名義書換えによって、これらを持っている会社ごと引き継ぐ形になります。この一連の手続きがクロージングです。
EC事業では、引き渡し後も一定期間の引き継ぎサポートが必要になることがあります。仕入れ先への紹介、運用しているツールの使い方、広告アカウントの設定意図。書面に残っていない情報が多いので、サポートの期間と範囲を契約で決めておいてください。
M&A全体の手順はM&Aの流れ、引き継ぎ後の進め方はPMIの記事で確認できます。
高く売るために整えておくこと
同じ規模のECサイトでも、準備ができているかどうかで価格と成約スピードは変わります。売却を考え始めた段階から手をつけられることを整理します。
売上と利益を「説明できる状態」にする
大切なのは、数字が良いことよりもなぜその数字になっているのかを説明できることです。
どの商品がどれだけ売れているか、どの集客経路から来ているか、一時的な要因と続く要因は何か。これを買い手に言葉で説明できるかどうかが、信頼の分かれ目になります。
広告費やモール手数料、送料を引いたあとの利益がいくら残るのか。売上ではなく手元に残る金額を、月別に整理しておいてください。
集客チャネルの偏りをなくす
ひとつの経路に売上が集中している事業は、買い手から慎重に見られます。
広告を止めた瞬間に注文が止まる構造、モールの検索順位が落ちたら終わる構造のどちらも引き継いだあとに同じ結果を出せる保証がないためです。
検索からの自然流入、リピーターからの注文、SNS経由。売上の柱を複数持ち、ひとつの経路への依存度を下げることができれば、集客面のリスクは抑えやすくなります。
オーナー依存を下げる
EC事業が売れにくくなる大きな要因のひとつが、運営がオーナーの頭のなかにしかない状態です。
- 仕入れ先の選び方や交渉の勘所
- 商品ページの作り方と、売れる見せ方の判断
- 問い合わせやクレームへの対応
- 広告の運用と、止めどきの判断
これらを手順として書き出す、または外注に切り出しておくと、買い手は引き継ぎ後の絵を描けます。外注やスタッフに任せられている部分が多いほど評価は上がります。
顧客基盤とリピート率を整える
一度買った人がまた買ってくれるかどうかは、EC事業の価値そのものです。
リピーター比率、客単価、返品やクレームの発生率。これらは買い手が引き継ぎ後の売上を見積もる材料になりますため、数字として出せる状態にしておいてください。
休眠している顧客が多い場合は、掘り起こしの施策を打って動く顧客の数を増やしておくことも、譲渡前にできる準備のひとつです。
物流と在庫まわりを仕組み化する
発送と在庫管理をどう回しているかは、引き継ぎのしやすさに直結します。
自宅で梱包して発送しているのか、倉庫に委託しているのか。前者は、買い手がその作業を引き受けられるかが論点になります。後者の場合は、委託先との契約内容と、引き継げるかどうかを整理しておきます。
在庫についても、実際に動いている商品と、長く売れ残っている商品を分けておくと、価格の交渉がスムーズになります。
契約とアカウントを棚卸しする
成約直前でつまずく原因の多くが、契約とアカウントの引き継ぎです。
- モールの出店契約(名義変更の可否と手続き)
- ドメインの登録者情報と更新期限
- カートシステム・決済サービスの契約条件
- 物流・運営の委託契約
- SNS・広告アカウントの所有者
これを一覧にして、引き継げるもの・手続きが要るもの・引き継げないものを整理しておいてください。契約前に分かっていれば手を打てますが、契約の直前に発覚すると価格や条件の再交渉につながり、契約後であれば契約の内容に応じて補償などの問題になります。
いつから準備を始めるか
ここまで挙げたことは、売ると決めてからすぐにできるわけではありません。
数字の整理は1か月あればできますが、オーナー依存を下げることと、仕組み化には年単位の時間がかかります。集客チャネルを増やすのも、リピーターを育てるのも同じです。
売ると決める前から、余裕をもって少しずつ整えておくのが理想的な順番です。準備が整っていれば、買い手が現れたときにすぐ動けます。
TRANBIを活用したECサイトM&Aの事例
事業への愛情を言語化したことで実現した、納得のM&A事例
ペット用品のECサイトを運営していたAさんは、個人で立ち上げた事業として一定の手応えを感じていたものの、売上の伸び悩みや今後注力したい別事業が明確になったことをきっかけに、事業売却を検討し始めました。大切に育ててきたサイトだからこそ、「単に高く売る」のではなく、ペットや事業に愛情を持って引き継いでくれる人に託したいという想いを重視。そこでTRANBIを活用し、希望条件や想いを丁寧に記載したうえで、30万円という現実的な価格で掲載しました。
その結果、掲載後は約35件もの問い合わせが集まり、複数の候補者とオンライン面談を実施。条件面だけでなく、事業への考え方や今後の展望を重視して検討を進め、最終的には愛犬家で熱意のある買い手とマッチングしました。譲渡までは約2週間と非常にスピーディーで、引き継ぎも円滑に完了。
想いを言語化し、相手選びを丁寧に行ったことが、納得感のある成約につながった好例となりました。
◆成約インタビュー:ペット商品を扱うECサイトを売却!選定条件は“ビジネスへの情熱がある愛犬家”
短期間でも価値は伝えられる。ネットショップ売却の成功事例
個人で造花アレンジメントのネットショップを立ち上げたAさんは、運営4ヶ月目に別のキャリアを目指して新しい挑戦をしたいと考え、事業売却を検討。過去に別のネットショップを売却した経験があり、この経験を活かしてTRANBIでの売却にチャレンジしました。
掲載時には現状やアピールポイント、今後の施策などを丁寧に長文で記載して事業の魅力を伝えたことが、興味を引くポイントに。掲載後は3件の問い合わせがすぐに寄せられ、なんと翌日には売却が成立しました。譲渡先は、すでに類似のネットショップを運営している企業で、シナジーが見込めることからAさんの希望にも合致。売却までの速さや、相性の良い買い手とのマッチングは、掲載内容の充実と買い手側の戦略的な視点が影響したといえます。
引き継ぎ段階では、あらかじめサポート期間と対応範囲を明確に提示していたためスムーズに進行。数日間の対面とオンラインでの引き継ぎが行われ、その後も適宜サポートが提供されました。
Aさんは、今回の売却を通じて「M&Aは新たな挑戦を後押ししてくれる大きな選択肢になる」と語っています。事業を始めたばかりでも、きちんと価値を伝えられれば短期間で成約に至る可能性があるという好例です。
◆成約インタビュー:TRANBI掲載翌日に造花ネットショップが事業売却成立!「初期投資は回収できるから、不安なく新しいことに挑戦できる」
既存ビジネスに掛け合わせる発想が生んだ、成功する事業買収
Aさんは、既存のミリタリー商品を扱うEC事業の売上が伸び悩む中、新たな収益源をつくるためM&Aによる事業買収を検討していました。そこで目を付けたのがニッチなカメラ機材を扱うEC事業。既存の顧客層とターゲットが重なっており、相乗効果が見込めると判断したのです。出品されていたカメラ機材EC事業は独自の商品ラインと顧客リストを持ち、Amazonでも評価が高かったため魅力を感じ、売り手提示の約480万円で買収を決断しました。
交渉はスムーズに進み、買収後の引き継ぎも大きなトラブルなく完了。買収後2〜3週間で、Amazonでは毎日2〜3個の売上、自社サイトでも定期的な購入が見られるなど、手応えを感じています。Aさんは今後、既存の顧客基盤やメルマガを活用しつつ、販促を強化してさらなる成長を図る計画です。
また、Aさんが語る成功のポイントとして、「数字や提示された情報をそのまま鵜呑みにせず、買い手がお得感を感じられる価格設定や慎重なデータ確認」が挙げられています。売り手は買い手がお得感を持てる価格を提示し、買い手は開示された数字を自分で確かめてから判断する。この両方がそろったことが、双方にとって納得感のあるM&A成立につながったという実例です。
◆成約インタビュー:「売上や利益は8掛けや6掛けで考える」カメラ機器のECを買収したM&A経験者のアドバイス
ECサイトM&Aでよくある質問(FAQ)
ECサイトのM&Aについて、よく寄せられる疑問にお答えします。
赤字のECサイトでも売れますか?
売れる場合があります。買い手が見ているのは現在の利益だけではないからです。
商品やブランドの独自性、リピーターの存在、仕入れルートといった要素は、赤字でも価値になります。自社の商品ラインを広げたい事業者にとっては、顧客リストだけでも買う理由になります。
ただし、赤字の理由は説明できるようにしておいてください。改善の見込みが示せるかどうかで評価が変わります。
Amazonや楽天に出店している事業も売却できますか?
売却されています。ただし出店アカウントを引き継げるかどうかを、必ず事前に確認してください。
モールごとに規約が違い、審査や手続きが必要なケース、買い手が新規に出店し直すケースがあります。引き継げない場合はレビューや販売実績がリセットされるため、価格の前提が変わります。
法人ごと引き継ぐ株式譲渡では出店者そのものが変わらないため、モールの名義に関する手続きに限れば、事業だけを買う事業譲渡より負担は小さくなります。ただし代表者や実質的支配者の変更にともなう届出・審査が必要になる場合はあるので、モールの規約を確認してください。
個人が運営しているECサイトでも売れますか?
売れます。むしろ数十万円から数百万円の小規模な案件が中心です。TRANBIで2022年1月以降に成約したECサイト・通販の案件のうち、売り手が個人だった105件では成約価格の中央値が100万円で、96%が1,000万円未満でした。
個人が運営していることは、それ自体がマイナスではありません。問題になるのは運営が本人に依存しすぎている場合です。仕入れも接客も広告も本人しかできない状態だと、引き継ぎが難しくなります。
手順を書き出しておく、一部を外注しておく。これから始める準備だけでも、評価は変わります。
売却後、どこまで関わる必要がありますか?
契約でどう取り決めるかで決まります。EC事業では、1か月から3か月程度の引き継ぎ期間を設けるケースが多くあります。
仕入れ先への紹介、ツールの使い方の共有、広告設定の説明。書面に残っていない情報の受け渡しに時間がかかりますため、期間と範囲を契約に書いておいてください。
あわせて確認したいのが競業避止義務です。譲渡後に同じジャンルの事業をやらない約束をするのか、その範囲と期間はどうかを、あいまいにしないでおきましょう。
トラブルになりやすいのはどんな点ですか?
EC事業で多いのは、次の3つです。
- 引き継げると思っていたものが引き継げない:モールのアカウントやドメインが、想定どおりに移せなかった
- 数字の前提が違った:開示された売上に一時的な要因が含まれていて、引き継ぎ後に落ちた
- 在庫の評価が食い違った:長く売れていない商品が在庫に含まれていた
いずれも契約前に確認しておけば、リスクを抑えられるものです。契約前に一覧にして、引き継げるもの・引き継げないものを両者で確認しておいてください。
マッチングプラットフォームは使うべきですか?
小規模なEC事業では、プラットフォームを使う方法が現実的です。
仲介会社に依頼すると、成功報酬に最低手数料が設定されていることが多いため、数十万円から数百万円の取引では費用の比率が高くなります。プラットフォームなら着手金なしで案件を掲載・閲覧できるサービスが多くあります。
一方で、交渉や契約の手続きを当事者が主体になって進める場面が多いという面もあります。専門家の紹介や書式を用意しているサービスもありますが、契約書の作成やレビューだけは専門家に依頼することをおすすめします。
どのくらいの期間で売却できますか?
案件によって差が大きいのですが、掲載から成約まで数か月程度が一つの目安です。
小規模で条件が明快な案件では、掲載から2週間程度で成約に至るケースもあります。逆に、価格の希望が相場から離れている場合や、引き継ぎの条件が複雑な場合は長引きます。
準備が整っている事業ほど、交渉に入ってからの期間は短くなります。数字も契約も整理されていれば、買い手の判断が速くなります。
まとめ|ECサイトのM&Aは「仕組みごと引き継ぐ」取引
ECサイトのM&Aは、サイトという入れ物だけを売買するものではありません。商品、顧客、集客の経路、仕入れ先、運営の手順をまとめて引き継ぐ取引です。
本記事のポイントを整理します。
- ECサイト・eコマース・通販・ネットショップは指す範囲が少しずつ違う。
※本記事ではネット上で商品を売る事業をまとめて「ECサイト」として解説した - 価格の基本は営業利益 × 1〜3年程度の倍率。ただし決め手になるのは過去の実績だけでなく将来の再現性
- モール型・自社EC型・D2C型で、評価も引き継ぎの手間も変わる。とくにモールのアカウントを引き継げるかは契約前に確認する
- 買い手が警戒するのは数字の裏づけと在庫の実態。管理画面を直接見せられる状態にしておく
- 高く売るために整えるのは数字の説明・集客の分散・オーナー依存の低下・顧客基盤・物流の仕組み化・契約とアカウントの棚卸し
- 準備には年単位かかるものもある。売ると決める前から少しずつ進めておく
自社のECサイトがいくらで売れそうか、どんな案件が動いているのかは、実際の掲載案件を見るのが早道です。国内最大級のM&A・事業承継マッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」では、無料の会員登録でEC・ネットショップの案件一覧を確認できます。
