M&Aによる事業承継とは?メリット・デメリットと成功のポイントや流れを解説
後継者不足で黒字廃業を避けたい経営者へ。M&Aによる事業承継のメリット・デメリット、進め方(流れ)や成功のポイント、相談先まで分かりやすく解説します。
- 02 M&Aによる事業承継のメリット
- メリット①:後継者不足を解消して事業を存続できる
- メリット②:売却益を得て経営者の資金計画に役立つ
- メリット③:従業員の雇用を維持しやすくなる
- メリット④:取引先や顧客との関係を引き継ぎやすい
- メリット⑤:規模拡大により企業価値を高めやすい
- 03 M&Aによる事業承継のデメリット
- デメリット①:自社の意向が完全には反映されない可能性
- デメリット②:従業員が不安を抱きやすい
- デメリット③:買い手との条件交渉に時間がかかる
- デメリット④:秘密保持が難しい場合がある
- デメリット⑤:統合後のシナジーが期待通り出ない場合がある
- 05 M&Aによる事業承継の流れ
- STEP1:準備・計画段階
- STEP2:相手先探索・マッチング
- STEP3:企業価値評価・デューデリジェンス
- STEP4:最終合意・契約締結
- STEP5:クロージング
- STEP6:経営統合(PMI)
- 06 M&Aによる事業承継を成功させるポイント
- ポイント①:ブランド力・技術力の評価
- ポイント②:シナジー効果の事前検証
- ポイント③:経営統合(PMI)計画の策定
- ポイント④:継続的なコミュニケーション
- ポイント⑤:専門家による支援の活用
- 07 M&Aによる事業承継で相談すべき専門家・支援機関
- M&A支援業者|案件紹介と条件調整
- 税理士|財務・税務面でのサポート
- 弁護士|契約書作成と法務リスク評価
- 中小企業診断士|事業計画策定と経営統合支援
- 商工会議所|制度案内と地域マッチング
- 09 TRANBIを活用したM&Aによる事業承継の事例
- 事例1:【製造業】後継者白紙の危機を脱却。技術力が結んだ「企業の結婚」
- 事例2:【温泉施設】譲渡額0円でもメリット大。廃業寸前の温泉を再生させた英断
- 事例3:【清掃業】赤字・債務超過からの逆転。会社を救った「見えざる資産」
後継者不足に悩み、手塩にかけて育てた愛着ある会社をどう存続させるべきか、解決策が見つからずお悩みではないですか。
「親族に継ぐ意思がない」「従業員には荷が重い」といった理由で、黒字廃業を余儀なくされる経営者は少なくありません。
結論から言えば、M&Aによる事業承継は、親族や社内に適任者が不在でも従業員の雇用を守り、創業者利益も確保できる、現代における最有力な選択肢です。かつては「身売り」といったネガティブなイメージもありましたが、現在では「企業の友好的なバトンタッチ」として広く定着しています。
本記事では、事業承継におけるM&Aの役割から、具体的なメリット・デメリット、失敗しないための詳細な手順や専門家活用まで分かりやすく解説します。これを読めば、漠然とした不安が解消され、あなたの会社が次のステージへ進み、ご自身も豊かなセカンドライフを送るための具体的な道筋が明確に見えてくるはずです。
会社の未来と従業員の生活を守るため、まずは正しい知識を身につけて、納得のいく承継への第一歩を踏み出しましょう。
事業承継の3つの選択肢とM&A(第三者承継)の役割
事業承継とは、単に経営者の地位を交代するだけでなく、会社の株式(経営権)に加え、資産や負債、知的財産、そして長年培ってきた技術・ノウハウや顧客基盤といった「有形無形の経営資源」をすべて次世代へ引き継ぐことです。
承継の方法は、後継者が誰かによって主に以下の3つに分類されます。
- 親族内承継:子息や親族に継がせる
- 社内承継:役員や従業員に継がせる
- 第三者承継(M&A):株式譲渡などを通じて社外の第三者に引き継ぐ
この中で、近年特に重要性を増しているのが3つ目の「第三者承継(M&A)」です。
これは親族や社内に適任者がいない場合に、社外へバトンを渡す手法です。
かつては「身売り」といったネガティブなイメージもありましたが、現在は廃業を回避して雇用を守り、買い手企業の力を借りてさらなる成長を目指す「前向きな戦略」として広く定着しています。
M&Aによる事業承継のメリット
M&Aを活用した事業承継には、単なる後継者問題の解決にとどまらず、経営者・従業員・会社それぞれに多大な恩恵をもたらす可能性があります。
ここでは、具体的にどのようなメリットが得られるのか、主要な5つのポイントに絞って丁寧に解説します。
メリット①:後継者不足を解消して事業を存続できる
M&A最大のメリットは、親族や社内に適任者がいなくても、外部から広く後継者候補を探し出し、事業を存続させられる点にあります。日本国内には、優れた技術や顧客基盤を持ちながらも、後継者不在を理由に廃業を選択してしまう企業が多く存在しますが、これは地域経済にとっても大きな損失です。
自社の強みや将来性を評価してくれる買い手企業を見つけることができれば、創業者の想いやDNAを次世代へ確実につなぐことができます。
廃業を回避することは、長年支えてくれた取引先への供給責任を果たし、地域社会の活力を維持することにもつながる社会的意義のある決断です。
メリット②:売却益を得て経営者の資金計画に役立つ
自社株式や事業を譲渡することで、創業者はその対価としてまとまった売却益(創業者利益)を獲得することができます。
中小企業のオーナー経営者は、退職金積立が十分でないケースも多いですが、この資金は引退後のゆとりある老後資金として大きな助けとなります。
また、会社の価値が適正に評価されれば、長年経営者を縛り付けてきた借入金の個人保証から解放されるケースも多くあります。税務面においても、退職金としての受け取りと株式譲渡益を適切に組み合わせることで、手取り額を増やす方法を検討することも可能です。
メリット③:従業員の雇用を維持しやすくなる
M&Aによる事業承継は、会社を畳む廃業とは異なり、手法(スキーム)によっては、従業員の雇用を継続しやすい点が特徴です。大手企業や資本力のある企業の傘下に入れば、福利厚生の充実や給与体系の見直しが行われ、以前よりも待遇が改善することさえあります。
従業員にとっても、慣れ親しんだ職場環境や業務内容のままで働き続けられることは、生活を守る上での大きな安心材料となります。
経営者が変わっても大切な従業員の雇用を守るためには、M&A交渉の初期段階から、従業員の処遇維持(雇用の継続や労働条件の維持)を絶対条件として定めておくことが重要です。
ただし、スキームによって雇用契約の取り扱いが異なるため、具体的なスキーム設計や手続きについては専門家に相談しながら進めることが重要です。
メリット④:取引先や顧客との関係を引き継ぎやすい
既存の取引先や顧客との取引関係を維持しながら事業承継できる点も、M&Aの大きなメリットです。
もし廃業を選択してしまえば、取引先は新たな供給元を一から探さなければならず、サプライチェーン全体に多大な迷惑や混乱を招くことになります。
M&Aであれば、これまでの信頼関係を維持したまま、スムーズにサービスや商品の提供を継続できるため、取引先にとってもメリットがあります。顧客離れを防ぐためには、承継のタイミングで新旧経営者が揃って丁寧な挨拶や説明を行い、「今後も変わらぬ品質とサービスを提供する」と約束する引き継ぎの工夫が求められます。
ただし、どのスキームを選ぶかによって契約関係の扱いが大きく変わるため、取引先との関係性や負担を踏まえて専門家と相談しながら最適な方法を検討することが大切です。
メリット⑤:規模拡大により企業価値を高めやすい
買い手企業が持つ豊富な資金力、広範な販売ネットワーク、最新の設備などを活用することで、自社単独では難しかった事業拡大が一気に可能になります。いわゆる「シナジー効果(相乗効果)」により、共同仕入れによるコスト削減や、お互いの顧客へ商品を紹介し合うなど、経営効率が飛躍的に向上するケースも珍しくありません。
また、人材交流によって新しい技術や管理ノウハウが流入し、組織全体の活性化やスキルアップが期待できます。
単なる事業の存続にとどまらず、M&Aをきっかけとして企業がより強い体質へと進化し、市場での価値を高めていくことができるのです。
M&Aによる事業承継のデメリット
多くのメリットがある一方で、M&Aには特有のリスクやデメリットも存在するため、良い面ばかりでなく注意点も事前に把握しておくことが不可欠です。
ここでは、経営者や従業員が直面する可能性のある5つの懸念点について解説します。
デメリット①:自社の意向が完全には反映されない可能性
会社が買い手企業の所有となる以上、経営方針や事業戦略は、原則として新しい親会社の意向に合わせて変更されることになります。これまで創業者が大切にしてきた独自の理念、意思決定のスタイル、あるいは社内行事などの慣習が、合理的判断のもとに変更・廃止されるリスクは避けられません。
意思決定のスピードや方向性が変わることで、現場の従業員に戸惑いやストレスが生じることもあります。完全に自社の色を残すことは難しいため、どうしても譲れない条件(屋号の維持や特定の取引継続など)がある場合は、契約前の交渉段階で明確に合意形成を図る必要があります。
デメリット②:従業員が不安を抱きやすい
「会社が売却された」という事実は、詳細な説明がない限り、従業員に「自分たちはリストラされるのではないか」「給料が下がるのではないか」という強い不安を与えます。実際には雇用が守られる場合でも、雇用条件の変更や配置転換の可能性がゼロではないため、不信感からモチベーションが低下するリスクがあります。
情報不足や噂レベルの話が先行することは、優秀な人材の離職を招く最大の要因となります。
発表のタイミングを慎重に見極めつつ、誠意ある事前説明と対話の場を設けるコミュニケーションを行うことが、組織崩壊を防ぐカギとなります。
デメリット③:買い手との条件交渉に時間がかかる
M&Aは相手がある取引であり、希望通りの条件ですぐに成約できるとは限らず、半年から1年以上という長い交渉期間を要することがあります。企業価値評価(価格)や条件面での折り合いがつかず、何度も交渉を重ねるうちに精神的に疲弊してしまう経営者も少なくありません。
また、「デューデリジェンス(買収監査)」と呼ばれる詳細な調査の過程で問題が見つかり、話が白紙に戻るリスクもあります。
成約までの期間が読みにくいため、余裕を持ったスケジュール管理と、一つひとつの課題に向き合う粘り強い交渉姿勢が求められます。
デメリット④:秘密保持が難しい場合がある
M&Aを検討しているという情報が、成約前にうっかり社内や取引先、金融機関に漏れてしまうと、信用不安を引き起こす危険性があります。「あの会社は危ないのではないか」という憶測が飛び交い、従業員の動揺や取引停止、競合他社による引き抜き工作など、経営に深刻なダメージを与える可能性があります。
情報の取り扱いには細心の注意を払い、社内でも限られたメンバーだけで極秘裏にプロジェクトを進める必要があります。
秘密保持契約(NDA)の締結はもちろん、データの管理方法や打ち合わせ場所の選定など、情報管理体制を徹底することが不可欠です。
デメリット⑤:統合後のシナジーが期待通り出ない場合がある
理論上はシナジー効果が見込めても、企業文化や社風の違いが目に見えない障壁となり、現場レベルでの融合がうまくいかないことがあります。業務システムの統合や人事制度の統一に予想以上の時間とコストがかかり、業務効率がかえって悪化するケースも残念ながら存在します。
期待した効果が出ないリスクを減らすためには、M&A前の調査だけでなく、統合後のプロセス(PMI:PostMergerIntegration)を何より重視する必要があります。文化的な摩擦をあらかじめ想定し、時間をかけて丁寧に融合を図る計画性とリーダーシップが成功の分かれ道となります。
M&Aと親族内承継・社内承継の比較
事業承継にはM&A以外にも選択肢があり、自社の状況に合わせて最適な方法を選ぶ必要があります。
ここでは、親族内承継・社内承継との比較を通じて、M&Aの位置づけを整理します。
親族内承継との比較
親族内承継は、心情的に従業員や取引先から受け入れられやすく、経営方針や企業理念の継続性が保たれやすいのが最大の利点です。
また、相続や贈与を活用することで、株式・資産の承継が比較的スムーズに行える制度上のメリットもあります。
一方、後継者候補に経営能力や意欲が不足している場合、企業の成長が鈍化するリスクがあります。また、複数の相続人がいる場合、株式が分散してしまい、将来的に経営権争いの火種になる可能性も否定できません。
社内承継との比較
社内承継は、長年業務に従事してきた役員や従業員の中から、実力のある人材を見極めて後継者に据えることができる点が強みです。
業務内容を熟知しており、従業員からの信頼も厚いため、経営方針の一貫性を保ちやすいメリットがあります。
ただし、後継者に株式を買い取るだけの資金力がないケースが多く、借入金の個人保証の引き継ぎも大きなハードルとなります。また、同僚だった人物が社長になることで、社内の人間関係や人事評価に軋轢が生じるリスクも考慮する必要があります。
M&Aの位置付け
M&Aは、親族や社内に適任者がいない場合や、業界再編の流れを踏まえて短期間で事業成長を目指す場合の有効な選択肢です。
買い手企業とのシナジー効果が得られれば、単独ではなし得なかった企業の飛躍的な発展も期待できます。
| 選択肢 | 後継者確保 | 経営継続性 | 企業成長 | 実行期間 | コスト |
|---|---|---|---|---|---|
| 親族内承継 | △ | ◎ | △ | 長期 | 低 |
| 社内承継 | ◎ | ◎ | △ | 中期 | 低 |
| M&A | ◎ | △ | ◎ | 短期 | 高 |
※注:◎は相対的に有利、△は課題があることを示す。
それぞれの特徴を理解し、「誰に継がせるのが会社と従業員にとって最善か」という視点で検討することが大切です。
M&Aによる事業承継の流れ
M&Aをスムーズに進めるためには、全体の手順を理解し、各段階で適切なアクションを起こすことが重要です。ここでは、準備から経営統合までを6つのステップに分けて、具体的に何を行うべきかを解説します。
STEP1:準備・計画段階
M&Aを進める際は、まず自社の経営状況を把握し、目的や戦略を明確にすることから始めます。
目的が「後継者不在による売却」なのか、「成長のための提携」なのかで、探す相手や条件が大きく変わります。
この段階では、M&A支援業者や中小企業診断士などの専門家に相談し、自社の企業価値評価(バリュエーション)を試算してもらうことが大切です。
自社が客観的にどの程度の価格で評価されるかを知り、引退後の資金計画や会社の将来像を具体的に立案していきます。
STEP2:相手先探索・マッチング
戦略が固まったら、ノンネームシート(企業名を伏せた概要書)を用いて、具体的な買い手・売り手企業のマッチングを進めていきます。
M&A支援業者が保有するネットワークから案件の紹介を受けたり、マッチングサイトに登録して全国から候補を探したりします。
興味を示した企業と秘密保持契約を結んだ後、詳細情報を開示してトップ面談を行います。
ここでは条件調整だけでなく、経営者同士の相性や理念の共有が最重要です。
企業文化や経営方針が合うか、どのようなシナジー効果が生まれるかを総合的に評価し、最終的な交渉相手を絞り込んでいきます。
STEP3:企業価値評価・デューデリジェンス
基本合意に至った後、買い手企業による詳細な企業調査、いわゆる「デューデリジェンス(買収監査)」が実施されます。
財務諸表や税務申告書、法務リスク、労務環境、顧客契約などについて、専門家が多角的に調査します。
ここでは税理士や弁護士などが重要な役割を果たし、売り手側も大量の資料開示やヒアリングに協力する必要があります。訴訟リスクや未払い残業代など不都合な事実があっても、隠さず開示することが重要です。後で発覚すると信頼関係が崩れ、破談の原因となります。
STEP4:最終合意・契約締結
デューデリジェンスの結果、大きな問題がなく、価格などの条件面での最終調整がつけば、最終合意契約書(譲渡契約書)を締結します。
この段階では、最終的な株式譲渡価格、支払い条件、譲渡後の経営体制、役員の退任時期、従業員の処遇などが法的な拘束力を持って決定されます。
トラブルを防ぐため、契約書は必ず弁護士のリーガルチェックを受けるべきです。表明保証条項(開示した内容が真実であることを保証する条項)など、売り手側が負う責任についても十分に理解した上で調印を行う必要があります。
STEP5:クロージング
契約締結後、実際に株式や事業の引き渡しと対価の決済を行う手続きを「クロージング」と呼びます。
具体的には、譲渡代金の銀行振り込み確認、株主名簿の書き換え、役員の変更登記、会社実印や通帳、重要書類の引き渡しなどを実施します。
この手続きにより会社の所有権が移転し、M&Aが法律上成立します。不備があると無効になる恐れもあるため、司法書士などの専門家と連携し、必要書類を完璧に準備しておくことが求められます。
STEP6:経営統合(PMI)
M&A成立後は、速やかに経営戦略や業務内容、企業文化を融合させるPMI(PostMergerIntegration)の段階に入ります。
M&Aの成否は、このPMIの進め方に大きく左右されます。うまく進まないと従業員の離職や業績悪化を招くからです。
新しい人事制度の導入やシステム統合、継続的なコミュニケーションを通じて、時間をかけて組織の一体感を醸成していきます。
売り手側の元経営者も、顧問や相談役などの立場で一定期間会社に残り、取引先への引き継ぎや社内融和のサポートを行うケースが多く見られます。
M&Aによる事業承継を成功させるポイント
M&Aは成約がゴールではなく、その後の事業成長こそが真の目的です。
ここでは、事業承継としてのM&Aを成功に導くために不可欠な5つの重要要素を解説します。
ポイント①:ブランド力・技術力の評価
M&Aを選択すべきか、また高く評価されるかの判断基準の一つは、自社独自のブランド力や技術力を持っているかどうかです。特定のニッチ市場での高いシェア、他社が真似できない職人技術、あるいは地域での圧倒的な知名度は、買い手企業にとって喉から手が出るほど欲しい資産となります。
売り手側のこれら「見えざる資産(知的資産)」は、事業の競争優位性の源泉として、承継後も安定的な利益をもたらします。
自社の強みを客観的に棚卸しし、それを正当に評価してくれる相手(その価値を理解できる同業者や関連業者)を見つけることが成功への第一歩です。
ポイント②:シナジー効果の事前検証
M&A後に「1+1」が2以上になるようなシナジー効果が生まれるかを、事前に厳密に検証することが重要です。
例えば、「自社の製品を買い手の販路に乗せれば売上が倍増する」「買い手のIT技術を導入すればコストが半減する」といった具体的な相乗効果をイメージします。
シナジーの根拠が明確になるほど、交渉で有利な譲渡価格を提示してもらいやすくなります。
単なる救済合併ではなく、お互いの成長につながる「Win-Win」の戦略的な提携を目指す視点が必要です。
ポイント③:経営統合(PMI)計画の策定
M&A成立後の現場の混乱を避けるためには、経営統合に向けた詳細な計画(PMI計画)を事前に立案しておくことが成功のカギです。
どのタイミングで会計システムを統合するか、人事評価制度をいつ統一するかなど、具体的なロードマップを描いておきます。
特に企業文化の融合は感情的な問題も絡むため時間がかかります。焦ってすべてを変えるのではなく、段階的に進める計画性が求められます。成約前から買い手企業とPMIの方針について議論を重ね、認識をすり合わせておくことが、後のトラブル回避につながります。
ポイント④:継続的なコミュニケーション
M&Aの検討段階から実行後にかけて、経営層だけでなく、従業員・顧客・取引先との継続的かつ丁寧なコミュニケーションが欠かせません。人間は変化を恐れる生き物です。「何が変わり、何が変わらないのか」を透明性をもって伝えることで、関係者の不安を払拭することができます。
特に従業員に対しては、全体説明会だけでなく個別の面談を行うなどして懸念事項を聞き出し、真摯に対応する姿勢を見せることが大切です。
信頼関係を維持することで、統合後のモチベーション低下や、不安による顧客離れといった環境悪化を最小限に抑えられます。
ポイント⑤:専門家による支援の活用
M&Aには法務・税務・財務・労務といった高度かつ多岐にわたる専門知識が必要であり、自社だけで進めるのはリスクが高すぎます。デューデリジェンスや契約交渉、バリュエーションの各段階で、M&A支援業者や税理士、弁護士などの専門家のサポートを受けることが重要です。
専門家による客観的な視点が入ることで、感情的な対立を防ぎ、合理的で質の高い意思決定が可能になります。
後々のトラブルを未然に防ぎ、リスクを最小化するためにも、実績豊富で信頼できるパートナー選びは成功の必須条件と言えます。
M&Aによる事業承継で相談すべき専門家・支援機関
M&Aを成功させるには、それぞれのフェーズに適した専門家の力を借りることが不可欠です。
ここでは、主要な支援機関や専門家の役割と、選ぶ際のポイントについて解説します。
M&A支援業者|案件紹介と条件調整
M&A支援業者(仲介会社やFA:ファイナンシャルアドバイザー)は、豊富なネットワークを活かして買い手・売り手のマッチングを支援する中心的な存在です。企業評価(バリュエーション)の算定から、相手先との条件交渉、契約書作成のサポート、クロージングまでを一貫して伴走します。
業者によって「製造業に強い」「小規模案件が得意」など特徴が異なるため、自社の業種や規模に合った業者を選ぶことが大切です。選定の際は、業界での経験年数や成約実績、そして手数料体系(着手金の有無など)が明確かどうかをしっかりと比較検討しましょう。
税理士|財務・税務面でのサポート
税理士は、M&Aの基礎資料となる決算書や試算表を整備し、財務状況を正確に把握するためのサポートを行います。
また、株式譲渡にかかる税金(譲渡所得税など)や、退職金を活用した節税効果の試算など、手取り額を最大化するためのアドバイスも提供します。
M&A前だけでなく、譲渡後の税務申告や資産運用についても相談できる、経営者に最も身近なパートナーです。ただし、顧問税理士がM&Aに詳しくない場合は、セカンドオピニオンとしてM&A専門の税理士に相談することも検討すべきです。
弁護士|契約書作成と法務リスク評価
弁護士は、M&Aにおける契約書の作成やレビュー、法務デューデリジェンスを担当し、法的リスクを洗い出します。
株式譲渡か事業譲渡かといったスキームの選択から、労働法規制への対応、偶発債務(将来発生するかもしれない債務)のリスクヘッジまで、法律の専門家として助言します。
後々の訴訟トラブルを防ぐためには、契約内容の細部まで弁護士によるリーガルチェックを受けることが不可欠です。M&A実務に精通しており、法的な正しさだけでなくビジネス視点も持ち合わせた弁護士を選ぶことが推奨されます。
中小企業診断士|事業計画策定と経営統合支援
中小企業診断士は、経営コンサルタントとして、M&A前の経営診断(デューデリジェンスの簡易版など)や磨き上げ、M&A後の統合計画策定などを支援します。自社の強みや弱みを客観的に分析し、買い手企業に対してアピールするための資料(企業概要書など)作成をサポートしてくれます。
また、事業承継補助金などの行政支援制度に詳しく、複雑な申請書の作成支援を行うケースも多くあります。経営戦略全体を見渡したアドバイスが欲しい場合に、非常に頼りになる存在です。
商工会議所|制度案内と地域マッチング
商工会議所や、そこに設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」は、公的な支援機関として、地域密着型のサポートを提供しています。事業承継・M&Aに関する補助金の案内や、地元の企業同士をつなぐマッチング支援を中立的な立場で行っており、信頼性が高いのが特徴です。
「まず相談したいが、営業を受けるのは不安」という段階であれば、無料相談窓口を活用して初期的なアドバイスを受けるのが良いでしょう。地域の事情に精通しているため、地元での承継や存続を希望する場合に特に強みを発揮します。
M&Aプラットフォームを活用した事業承継もおすすめ
相手先探しには、インターネット上の「プラットフォーム」の活用と、プロが介在する「仲介会社」への相談という2つの主要ルートがあります。それぞれの特徴を理解し、使い分けることで効率的なM&Aが可能になります。
M&Aプラットフォームの活用メリット
プラットフォームを活用する最大のメリットは、仲介会社を介さずにWeb上で全国の買い手・売り手候補と直接やり取りできる点です。
特に国内最大級のユーザー数を誇るTRANBIであれば、仲介手数料や着手金を大幅に削減できるため、コストを抑えながら小規模な案件でもM&Aを成立させやすい環境が整っています。また、実名を伏せて情報を掲載できるため、取引先や従業員への情報漏洩リスクをコントロールしながら、広く市場の反応を確認できる点も大きな魅力です。
プラットフォーム選択のポイント
サイトによって得意な業種や規模、登録ユーザー層が異なります。選定にあたっては、掲載案件数の多さだけでなく、成約実績、手数料体系、サポート体制などを比較検討することが重要です。
国内最大級のユーザー数を誇るTRANBIには、個人から上場企業まで多様な買い手が登録しており、豊富な成約実績があります。手数料は売り手側は無料で買い手側は月額利用料のみ、仲介手数料は発生しないので、コストを大幅に抑えることが可能です。
また、TRANBIでは専門家への相談機能や学習コンテンツが充実しており、初めての方でも安心して利用できます。
これら実績・コスト・サポートのバランスが取れたTRANBIは、最初に登録すべきプラットフォームとして最適です。
TRANBIを活用したM&Aによる事業承継の事例
後継者不在や赤字、譲渡額0円など、一見困難な状況でもTRANBIを活用して事業承継に成功した事例は多数あります。
ここでは、製造業、清掃業、温泉施設の3つの実例から、M&A成功の秘訣をご紹介します。
事例1:【製造業】後継者白紙の危機を脱却。技術力が結んだ「企業の結婚」
創業50年、大手メーカーとの取引実績を持つプラスチック成型業のA社。
84歳となる社長は、予定していた親族への承継が白紙となり、黒字経営ながらも後継者不在という深刻な課題に直面していました。
従業員や技術を守るため、金融機関の支援を得てM&Aによる第三者承継を決断。その高い技術力と堅実な経営が評価され、同業のグループ企業とのマッチングに見事成功しました。
決め手となったのは、交渉中に買い手から仕事の発注があり、実利的なシナジーを実感できたこと。M&A後は雇用が維持されただけでなく、新たな受注により売上が拡大し、工場には活気が溢れています。
「相手探しは結婚と同じ」と語るA社長の言葉通り、タイミングと縁が重要です。自社の強み(技術や取引先)を正しく評価してくれる相手に出会えれば、高齢や後継者不在の悩みは、企業のさらなる飛躍へと変わります。
◆成約インタビュー:創業50年の製作所、一度は後継者が白紙になるも金融機関が「これなら相手が見つかる」と確信した2つの理由とは?
事例2:【温泉施設】譲渡額0円でもメリット大。廃業寸前の温泉を再生させた英断
地元住民や観光客に愛される、源泉掛け流し温泉を家族で運営していたA社。運営の中心だった高齢の祖父が体調を崩し、遠方に住む代表も引き継ぐことが難しく、事業継続の危機に瀕していました。
「地域の宝である温泉を残したい」とTRANBIに掲載したところ、わずか2ヶ月で多数の問い合わせが殺到。施設の老朽化を考慮し「譲渡額0円」と設定したものの、その潔さが熱意ある投資家とのスピーディーな出会いを引き寄せました。
買い手は「外国人富裕層向けにリニューアルする」という明確なビジョンを提示し、即決。代表は賃貸借契約による家賃収入を得ながら、愛する温泉が以前よりも魅力的に生まれ変わる夢を託すことができました。
金額への拘りよりも「誰に託すか」を優先し、結果的に資産活用に成功した好事例です。
TRANBIなら、地方のニッチな案件であっても、遠方の意外な買い手と繋がり、事業に新たな命を吹き込むことができます。
◆成約インタビュー:0円で家族経営の温泉を売却!「町の温泉から観光客を呼ぶ施設へ」買い手様に託した夢
事例3:【清掃業】赤字・債務超過からの逆転。会社を救った「見えざる資産」
創業50年の清掃業A社は、先代の急逝後、3期連続の赤字と債務超過に苦しみ、廃業を覚悟していました。
しかし、顧問税理士とコンサルタントの助言で「大手上場企業との取引口座」という、他社が喉から手が出るほど欲しい強みに気づきます。
TRANBIを活用して買い手を募った結果、わずか2週間で20件近くものオファーを獲得。財務の数字ではなく、長年培った「信用」と「強固な顧客基盤」を高く評価してくれる同業者とのマッチングが実現しました。
懸念されたベテラン従業員の雇用も守られ、社長は廃業の手続きや心理的重圧から解放されました。買い手企業にとっても、優良顧客との接点獲得は大きな成長機会となり、双方にとって理想的な結末となりました。
「赤字だから廃業しかない」という思い込みは、大きな機会損失かもしれません。
あなたにとっては当たり前の取引や実績も、プラットフォームを通じて広く問いかけることで、想像以上の価値として評価される可能性があります。
◆成約インタビュー:継続赤字で廃業目前の老舗清掃事業者が無事に事業承継へ。会社を救った大きな“強み”とは?
M&Aによる事業承継に関するよくある質問
M&Aによる事業承継を検討し始めると、多くの疑問や不安が湧いてくるものです。ここでは、現場でよく聞かれる実務的な疑問に対し、Q&A形式で丁寧にお答えします。
Q:後継者がいない場合、本当にM&Aは有効な選択肢なのか?
A:はい、M&Aは後継者不在の企業にとって、廃業を避けるための極めて有効な手段です。
会社を存続させながら経営権を譲渡できるため、従業員の雇用確保、技術・ノウハウの継承、顧客基盤の保全が実現できます。
ただし、経営方針の変更や企業文化が変わる可能性が存在するため、単に条件が良いだけでなく、理念を共有できる買い手企業の選定が重要です。
Q:M&A実施時の資金調達方法は何があるのか?
A:M&A実行にあたっては、銀行からの融資、日本政策金融公庫の事業承継関連融資、そして事業承継・M&A補助金などの活用が考えられます。
売り手企業が資金を調達する必要がある場合(借入金返済など)と、買い手が買収資金を調達する場合で手段が異なります。
最適な資金構成は財務状況によって異なるため、早めに金融機関や専門家に相談し、無理のない計画を立てることが重要です。
Q:企業文化の統合に失敗した場合、どのような影響が生じるのか?
A:企業文化の統合に失敗すると、従業員のモチベーション低下、優秀な人材の流出、顧客離反、そして最終的な業績悪化などが生じる可能性があります。
現場の反発を招かないよう、M&A前から買い手企業との経営理念や文化についてのすり合わせを行うことが不可欠です。
また、M&A後も一度に変えるのではなく、段階的な統合計画を策定し、対話を重ねながら進めることが重要です。
Q:M&Aにはどのような期間を想定すべきなのか?
A:M&Aの実行期間は、相手先探索やクロージングまで、通常6ヶ月から1年程度、長い場合は2年程度を要することが一般的です。
一般的に、株式譲渡よりも事業譲渡の方が手続きが煩雑で、期間が長くなる傾向があります。
相手が見つかるまでの期間は読みにくいため、後継者不在が深刻化する前に準備を始めることが、円滑な進行につながります。
Q:小規模企業でもM&Aは可能なのか?
A:もちろん可能です。
M&Aは大企業だけのものではなく、近年は中小企業・小規模企業での事例が急増しています。年商数千万円規模や個人事業主であっても、独自の技術や顧客基盤があれば買い手が見つかるケースは多々あります。
低額案件を扱うマッチングサイトなども増加しており、仲介手数料を抑えながら自社で買い手を探すという選択肢も広がっています。
まとめ
M&Aによる事業承継は、後継者不足に直面する中小企業にとって、会社を次世代へつなぐための極めて有効な解決策です。
企業文化の統合課題や経営方針の変更リスクなど、注意すべき点はありますが、会社の存続や従業員の雇用確保、経営資源の保全といった大きなメリットが期待できます。
成功のカギは、以下の3点に集約されます。
- 自社の強みを客観視し、シナジー効果を生む相手を選ぶこと
- 経営統合(PMI)を見据えた計画とコミュニケーションを徹底すること
- 税理士やM&A支援業者など、信頼できる専門家のサポートを得ること
事業承継・M&A補助金や地域の支援制度も拡充が進んでおり、事業承継を取り巻く環境は整いつつあります。
まずは情報収集から始め、早期の準備に着手することで、あなたと会社の双方にとって最良のM&Aを実現させてください。